一本取った!
それから更に月日が流れた。
基礎の修行以外は全て老子との稽古に時間を割き、俺は地獄のような修業を毎日毎日、飽きることなく続けていた。
最初は絶望的な戦力差にストレスが溜まり、中々寝付けない夜が続いたが、それもだいぶ慣れてきたのは、数十年が経過してようやくだ。
何合か打ち合えるようになるのに百年近くかかり、それでも差は相当あって、埋める為に日々努力と工夫を重ねて行った。
そんな日々がいつ終わるともなく続いたある日。
空中で俺と老子が激突する。
それだけで辺りに衝撃波が起こって周囲を震撼させ、地上に剣を振り下ろせばクレーターが出来上がった。
ぶつかり合うほどに広がっていく被害。
ここが何もない空間で本当に良かった。
もしこれが都心であったなら、瞬時に大災害が引き起こされた後のような爪痕が刻まれていることだろう。
一体どれだけ戦ったのだろうか?
ここは食事も睡眠も極論必要がない。
だから、もうずっと食事も睡眠も取っていない。
ただ、ひたすらに老子と戦っている。
「凍れ!」
莫大な質量の氷が辺りを覆い、小さな老子一人に突き進む。
老子はそれを一太刀で切り裂いてしまう。
次に老子の放った雷撃を、俺は自分の雷撃で迎え撃った。
激しい閃光が辺りを包み、白い空間の地面を穿つ。
再び激突!
瞬時に何千合も切り結んだ俺達は再び距離を取って魔法を放ち続ける。
もうこんなことを一体いつまで続けるのだろうか?
だが、集中力を切らせるわけにはいかない。
その瞬間に俺はまた殺されてしまう。
老子との間合いを詰めると、また切り結び、なんとか隙を伺う。
俺は上空に、風の刃を出現させると、それを老子に向けて放った。
幾重にも連なるその刃を老子はまるですり抜けるように避けていく。
だが、これは計算の内。
その間に後ろに回り込んで更に一閃。
これも老子は受ける。
だが、まだだ!
老子の足元を凍らせて、動きを止めさせると、俺は一歩前に出た。
だが、これで油断をした俺に老子は下からの突き上げを食らわし、足を斬られた。
「ぐぅ」
足が斬り飛ばされるが、もうこれも慣れたもので、ここまでが計算の内。
俺は、老子が振り上げてガラ空きとなった脇に剣を差し込んだ。
ザシュっという音がして、老子の脇を確かに俺は斬った。
「やった!」
やったぞ。
初めて老子を斬った。
老子はここで刀を下した。
「やめ」の合図だ。
俺も刀を下ろす。
「ほっ、遂にやられたか」
老子は斬られた脇を見るが、そこにはもう傷跡はなかった。
斬ったけどまったくダメージを与えていなかったらしい。
ちょっと悔しい。
「ふむ。十年ちょっと戦い続けていたかの」
「え、そんなに戦ってました?」
「うむ。集中していたから分からなかったじゃろうがな」
まさか、そんな長い年月を戦っていたとは。
食事も睡眠も必要なかったとしても凄い時間である。
「さて、君がここに来て千と八年か。少しオーバーしたがまあ良いじゃろう。君を晴れて免許皆伝とし、ここを去ることを許す」
去る。
この白い空間から出て行く。
それを聞いた時、ぽっかりと心に穴が空いたような気がした。
だって、そうだろう。
千年。
千年間ずっとこの空間にいたのだ。
もう、昔住んでいた日本の家など全く思い出せない。
この白い空間こそが俺の家なのだ。
それを出て行けという。
実家から上京するのとはわけが違う。
解っている。
俺は異世界に行く為にここで修業をしたのだ。
修業が終われば出て行かなければならないことは解っているし、遂にその時が来たのだと理解はしていた。
しかし、心がここを去ることにとてつもない寂しさを覚えていたのだ。
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