神様に殺された
「ふー、面白かった。次の更新いつかな?」
俺は読んでいたネット小説をスクロールしつつ呟いた。
読了後、部屋を見渡してみると、そこには漫画、ラノベ、ゲームが散らばっている。
全て俺が集めたものだ。
「さて、と。次は何をしようかな?」
俺は目移りしながら我がコレクションを見回す。
オタクの心を満たしてくれる物品は世の中にあふれており、日々発売され続けている。
今の時代は暇を潰すアイテムに溢れているのだ。
俺には時間だけはタップリとある。
そう、俺は引きこもりのニートなのだから。
大学受験に失敗し、浪人する程の根性のなかった俺は、家に引きこもった。
いや、最初の受験は一生懸命頑張ったのだ。
B判定だって取ったし、いけるという予感はあった。
だが、受験当日に交通事故に合い、試験を受けられなかったのだ。
俺は自らの不幸を呪い、その瞬間に何もかもが嫌になり、こうして今、部屋から一歩も出ることなく、オタク趣味に没頭している。
ベットの隅に転がっていたラノベに手を伸ばす。
確か、しばらく前にネットで注文した奴で、異世界転生モノだったはずだけど、まだ読んでなかったな。
「次はこれにするか。まあ、二日もあればさらっと読めちゃうね」
頑張れば一日で読めちゃうだろうけど、そんな集中しなくてもいいだろ。
時間はあるんだし、逆にあり過ぎるから一気に読むのももったいないから、ダラダラやっていきましょうか。
親に小遣いをせびっても渋い顔をされるしね。
「ふむふむ、導入は? わー、やっぱトラックかー」
やはりこの主人公もトラックに撥ねられて異世界に転生する流れの様である。
ほんと、なんで皆トラックに撥ねられるのかね?
パラパラと読み進め、暫く読んだところでぱたんと一度本を閉じる。
「異世界転生か・・・」
いいな、異世界転生。
俺、ファンタジー系が好きなタイプのオタクだからやっぱり憧れちゃう。
異世界に転生してチート能力を手に入れて無双。そしてハーレム。
気分いいだろうな。
ノンストレスで人生をお気楽に暮らしていくなんて、最高じゃないか。
「少なくとも、ここにいるよりはいいよな」
時間はいくらでも潰せるが、こんな何の張り合いもないダラダラと過ごすだけの毎日よりもずっといい。
親は、働け働けって五月蠅いし。
こんな所よりも異世界を漫遊する方がずっと楽しいに決まってる。
「はー、俺も死んだら異世界に転生させてくださいよ、神様」
俺がヘラヘラ笑いながら、再び本を開こうとしたその時。
「よかろう。その願い、叶えてやろうではないか」
は?
今の声、何?
俺は起き上がって、ドアの方を見たが、そこには誰もおらず、部屋に侵入した人間は何処にもいない。
では、今の声は一体何だったのだろうか?
空耳?
いや、確かにハッキリと聞こえたんだけど。
視線を彷徨わせていると、窓の外から飛んでもないものが飛び込んでくるのが目に入った。
トラックだ。
トラックが宙を飛んで俺の部屋目掛けて突っ込んでくる!
ガシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「ぐはあああああ!!」
俺はトラックに激突し、壁に叩きつけられ、その壁も破壊される。
とんでもない衝撃が襲ってきた。
「がはっ。なんで、どうして、トラックが、飛んで・・・」
混乱している中で、俺はこの疑問を解消すべく頭を回す。
そうか。
俺の家の前は急勾配の坂になっており、ちょうどカーブになっている。
もしかして、このトラック、カーブを曲がり損ねてそのまま落ちてきたんじゃないだろうか?
そして、そのまま俺の部屋に突っ込んだ。
「痛い、痛いよ・・・」
手が、変な角度で曲がってる。
呼吸も苦しい。
内臓がやられているのが一発で解る。
「俺、死ぬのか・・・?」
本当に死ぬ。
俺が異世界転生したいなんて馬鹿な事考えたから、バチが当たったのか?
それも即死じゃなくてこんな苦しみながら。
「・・・嫌だ。こんな最後は、嫌だ」
誰か、誰か助けてくれ。
誰、か・・・。
*********
気が付くと、俺は真っ白な空間にいた。
起き上がって、周りを見渡してみる。
本当に何もない、ただ真っ白な風景が続いている。
こんな何もなくて真っ白な光景がこの世にあるなんて思わなかったな。
「あ、ここってこの世じゃない、のか?」
最後の記憶が蘇る。
そうだ、俺ってトラックに突っ込まれて死んだんだ。
じゃあ、ここって死後の世界?
「地獄には見えないけど、天国ってわけでもなさそうじゃね? この景色」
いや、案外天国なんてこんなもんなのかもしれないぞ。
でも、周りに誰もいないのはどういうわけだろう? 同じく天国の住人がいても不思議じゃないんだけど。
「いーや、ここは天国でも地獄でもないよ」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
いきなり背後から声が聞こえ、俺は飛び上がった。
ビ、ビビった。
誰もいないと思ったら、いきなり声が聞こえるんだもん。
後ろを振り返ってみると、そこには一人の老人が立っていた。
真っ白な髭を首の辺りまで蓄え、頭皮つるつるのその老人は、見た目的には好々爺といった風情でニコニコと笑いながら俺を見つめている。
「えっと、あの・・・。いきなり大声出してごめんなさい。それで、ここが天国でも地獄でもないっていうのは? というか、あなたは誰?」
俺がキョどりながら訪ねても、老人はニコニコした顔を崩さずに、髭をいじくっている。
「ふむ。高梨勢馬君」
「は、はい」
この人、何で俺の名前を?
「ここをどこだと聞いたな? ここはわしの創り出した空間じゃよ。まあ、どこまで行ってもなーんもない広いだけの空間じゃがな」
「空間を、創りだした?」
創ったって簡単に言うけど、そんなこと人間にできるわけがない。
ちょっと待て、つまりこの人は?
「そう。君の想像通り。神じゃよ」
「か、神様」
本当に、本当に神様なのか?
神様に会えるなんて、大統領に会うよりもレアじゃね?
ゆ、夢じゃないよな。
とりあえず、ほっぺをつねってみたけど痛い。
「そして、君を殺したのもわしじゃ」
「・・・・・・は?」
今この人なんて言った?
俺を殺した?
「ど、どど、どういうことだよ!?」
俺を殺した?
なんで? どうしてだ? 俺は死ぬようなことをしたっていうのかよ!
「君、言っとったじゃろ。異世界転生したいとな。じゃからさせてやろうと思っての」
「いや、言ったけど! 言ったけどさ、本気じゃなかったっていうか。そんなの真に受けて本気で殺すってどうなの!」
「なんじゃ、してみなくないのかね。異世界転生」
「そりゃ、ちょっとは興味ありますけど・・・」
「じゃろう?」
そう言って神様はまたにこやかに笑う。
この人、俺を殺したんだよな。
だっていうのに、なんでこんなに穏やかに笑ってられるんだよ。
サイコパスか?
「・・・因みに、もう元の世界には戻れないんですよね?」
「無理じゃな。君の肉体はもうボロボロじゃよ」
そう言われると、やはりショックはでかい。
俺はもう、死んで、どうにもならないってことか。
でもせめて異世界に転生できることを喜ぶべき、か?
「わしなぁ、君みたいな若者が気に入らんのよ」
「は?」
いきなりディスられたんですが、何故に?
「怠惰に、自堕落にダラダラ生きておるくせに不満だけは一丁前。そんな君を気にかけて心配してくれる両親に対しても、鬱陶し気に扱う始末。そんな者にはちーと活を入れてやらねばならんと思っての。だから、死ぬ時も即死ではなく、苦痛を覚える死を与えた。どうじゃ、気楽に『死んだら異世界転生しねぇかなー』とか思っとた自分が滑稽に見えるじゃろ」
こ、この神様、性格が悪い。
好々爺の仮面を被った陰険じじいじゃないか!
そりゃあ、そう言われたらぐうの音も出ない正論なんだけどさ・・・。
「じゃが、異世界転生は約束するぞ。喜ぶといい。君は異世界で新たな人生を歩むことが出来る」
「おお~」
死んじゃって、正直未だにショックを引きずっているけれど、それでも『異世界』って単語はテンションが上がるな。
そうか、異世界かー、うわー、どんな所なんだろう。
俺は今まで読み上げた数多の異世界モノを思い返し、想像の翼を広げて期待に胸を膨らませた。
と、そうだ。
となれば忘れちゃいけない。
異世界を謳歌するために必要不可欠な物。
「じゃ、じゃあ、どんな能力をくれるんですか?」
「能力?」
俺はコクリと勢いよく頷くと、ソワソワしながら訪ねた。
「チート能力ですよ。なんか転生得点でくれるんでしょう? こう、転生したばっかりの俺が無双出来るようなすっげえ能力を!」
俺みたいな日本人でも簡単に強くなれるお手軽で強力なチート能力。
それさえあれば、皆が俺をちやほやしてくれて、今までの人生で彼女いない歴がそのまま年齢だった俺にも、きゃーきゃー黄色い声を上げてくれる女性達がたくさんいる筈だ。
神様は得心がいったというように、大きく頷いた。
「おお、なるほどの。あるぞ、君に相応しいとっておきの能力が」
「おお、一体どんな能力ですか!」
思わず心臓が跳ねてしまった。
一体どんな能力を。