第二章 この世界について
「記憶の混濁が見られるな」
「いや本当なんですけど」
建物に入ってすぐに乗った長い長いエスカレーターに乗りながらレイジは現状の説明をハクトに包み隠さず話した。が、頭を打った程度の認識しかしてもらえなかった。
「広い宇宙だもの。ありえない、なんてことこそありえないのだろうけど・・・まずは一般常識すらないのは問題よね。私たちもどこから教えたらいいかわからないわ。」
そこが最大の問題だった。
ひとまずは共に行動し、差異点があればそこを教えるということにはなった。
「ひとまずは生き方から教えてほしいわ。私たち、ほんとに無一文なのよ。」
ウツキの言葉にシルフも承諾し、うなずく。
戸籍などがあれば宇宙作業に従事する、社会の歯車となって働く等の手段があるそうなのだが、レイジたちの状況を考えると安全性に欠くものの開拓業、傭兵業、輸送業界のいずれかが日々の糧を得る手段になるようだ。
どれもそれぞれのギルドがあり、重複して登録することができる。というか大体が兼任しているので同時に登録することになる。
が何れかの規約に反すれば除名される。
例えば不法占拠を行えば開拓から除名
民間人や輸送船を襲えば傭兵から除名
禁止品の密輸など行えば輸送から除名
つまりどれかから除名されていればなんらかの違法行為を働いており、登録していないなら海賊認定されて傭兵や軍に襲われる可能性もあるそうだ。
ちなみにハクトたちは登録していない。
「え、それまずいんじゃ」
「事情があるんだ事情が」
アキラの言葉を流すハクト
「だから君たちを助ける代わりに君たちに俺たちの代わりに表立って動いてほしいんだ。もちろんアドバイスはさせてもらう」
「食事でもしながら近くのギルドのある星系にいきましょう。予備のスーツもあるし、着替えもしてね」
「星系、となると移動に何年もかかるとか?」
アキラがそう聞くと思わずシルフは笑いだした。
「あはは、そこもなのね。ドライブもジャンプゲートもあるから数日もかからないわ。」
この世界の航行方法は通常推進で動く通常航行、タキオン粒子を纏い光の速さを超える速度で移動するワープドライブ、異なる次元の出入り口となり、ゲート同士を繋ぐジャンプゲート。大まかに言えばこの3つだそうだ。
星系内では重力場の関係でワープドライブできるのは星系の外に出てからではあるが加速の時間が必要とはいえ通常航行ですら惑星間を数時間で、衛星なら数十分で到達するほどだそうだ。
とはいえ流石に性能に左右されるが
「俺たちが所有する船だとだいたい3日くらいか。」
エスカレーターの終わりが近づき、降りながらハクトは指差す。
コンテナに色々貼り付けたような船がそこにはいた。
「あれが俺たちの船だ。乗ったら俺は発進準備をするから姉さん、色々頼んだ。」
一同が乗り込み、ハクトは別れていった。
レイジたちはシルフの案内で食堂で待機していた。
そしてシルフが食堂の奥から持ってきたのはハンバーガーだった。
「あれ、意外と普通・・・変な塊だったり液体じゃないんですね。」
「なによそれ。大昔はそうだったらしいけど歴史学の中で触れられる程度のことよ?あー、でもある意味では間違ってはないのかもしれないわね。これ液状化して圧縮したものをプリントアウトしてるのよ」
晶の言葉に答えたシルフによると、色々成分を合成したものを3Dプリンターのようなもので微粒子レベルからその形にしているらしい。いわば合成食品だ。
決して安いものではないのだが、晶が想像したものだと精神的にも胃腸の健康のためにもあまりよくないそうだ。
「使わないと顎も内臓も劣化していくからね。・・・ところでレイジ君とウツキちゃん、さっきから静かね」
「たぶん抑えているだと思います。失礼になると思って」
「?」
エスカレーターを降りるにつれ、船を見たら尚の事、黙ってしまった二人。
「この二人、未来に夢見るオタクなので。宇宙戦艦とか人型ロボットとか大好きなので」
「あら、ではその辺の話しましょうか。宇宙に出たら遭遇するでしょうし」
「「まじですか!?」」
ものすごい食いつく二人だった。
いうなれば兵種の話である。
船の一般的な分類は7種
戦艦
航宙母艦
巡洋艦
駆逐艦
フリゲート艦
輸送艦
民間船
さらに装甲戦艦やら巡洋戦艦やら軽巡洋艦など細かく分類すればまだあるし、工作艦やらシールド艦のような特殊な船もあるのだが一般的ではないらしい。
ちなみに今乗っている船は輸送艦を改造した輸送母艦とでもいうべきものらしく、艦には武装そのものはないが艦載機も3機ほどあるそうだ。
それを聞いたウツキの目が輝いた。
艦載機に関しては大きく分けて2種
作業用のパワードスーツを祖とするパワードコンバット。通称PC
艦船を一人乗り専用に小型化したコルベット
運用の順軟性多機能性、四肢を用いた体勢入れ替えによる運動性に秀でたパワードコンバット
整備性の良さと直線での加速性、火力の集中力に秀でたコルベット
「俺、戦艦欲しい」
「パワードコンバット、欲しい」
うっとりとした口調で口走る二人にアキラはため息をついていた。
「どちらにせよ、多額の資金が必要よ。当然艦載機のほうが安いけど」
話しながら用意していた紅茶を飲むシルフ
「このあたりの国なら拡張性の高いアストロメリア産か、特殊装甲積んでるメランチウム産、技術大国トリメニアね。型落ちの払い下げ品が多いアストロメリアが入手しやすいかしら。」
「もしかしてアストロメリアって国が近いのです?」
「近いも何も、アストロメリアの保有する星系の一つよ。ここ。」
レイジ「このあとまともな服を頂きました。ワイシャツにジャケットだけど耐熱性とかすごいらしい」
ウツキ「私はミニスカスパッツ!」
アキラ「ボクはショートパンツ」