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安楽死カフェ

作者: 西園寺金時


最初に断っておくが

これは小説ではない。

日本政府ならびに日本国民に対する

ひとりの最下層労働者からの提言である。


日本の年間自殺者数

30000人超


米国の2倍、英国の3倍

(人口10万人当たり)


絶望に覆われたディストピア

自殺大国日本において

今、国民が政府に求めるものは

積極的自殺推進政策である。


将棋やチェスなどで「詰む」と云う用語があるが人生にもそれがあるとはっきりと悟ったのは40歳を過ぎてからだ。


何をどうすれば良いのか解らない。


未来への展望も希望もなく

唯々、時間のみが残酷に過ぎてゆく。


前にも後ろにも進むべき道はなく

ただ絶望のみが精神を覆い尽くす。


百年の孤独、千年の孤独。


人生にはそんな時があるもので

今の私も日々そんな状況にある。


残された最後の希望こそが人生のリセットボタン、すなわち「自殺」なのでは?

そんなことを常々考えるようになってしまった。


医療化学の進歩により

苦痛のない安楽死薬は既に存在するが

残念ながらそれらはドラッグストアやネット通販では入手できない。


高所からの飛び降り自殺、

鉄道等への飛び込み自殺、

首吊り自殺、練炭自殺…


それらはすべて恐怖と苦痛を伴う。

そして確実性も100%ではない。

他者への迷惑も甚だ大きい。


電車に轢かれても死ねずに

五体不満足になってしまったら?


高所から飛び降りて、半身不随で

生き延びてしまったら?


首吊りに失敗してフランク永井みたいになるかもしれない。


なぜ我々には恐怖と苦痛を伴う不確実な自殺手段しか選択肢がないのか?


それは国家が公には自殺を認めていないからである(自殺者を減らす積極的な政策を打つこともないが)。


自殺はすべての人に認められる

公平な権利であるべきだと思うし

人生の最期の選択肢が恐怖と苦痛を

伴う道しか選べないのも理不尽だ。


自殺する(自殺した)人間についても第三者が、その善悪を判断するべきではない。


人はそれぞれが

それぞれの宇宙を持つ。


前置きが長くなったが

私は「安楽死カフェ構想」を大真面目に提案したいと思う。


「安楽死カフェ構想」概要


まず施設が必要だが、これは新たに建設する必要は全くない。


日本全国に544箇所も存在する

無用の長物「公共職業安定所(ハローワーク)

これらをすべて「安楽死カフェ」へと改装する。


人生が順風満帆な人には縁のない場所だが

一度でも行った事がある人なら誰でも知っている。

こんなところに行っても、まともな仕事なんてほとんど無いってことを。


設置してあるPC端末で各自が仕事を検索するシステムになっているが「人がすぐに辞めてしまう職場」「人が全然集まらない職場」のデータがどんどん出てくるだけである。


要するに「誰もやりたくない仕事」のデータベースをポチポチと検索するだけ。


「アットホームな雰囲気で笑顔の絶えない職場です」


そんなに素敵な職場なら

なぜ人を募集しているんだろう?

欺瞞に満ちている。


公共黒職業安定所(ハローブラックワーク)」それが、正式名称だと思う。


この無用の長物を「安楽死カフェ」に改装することでどれだけ多くの魂が救済されることだろう。


物的資源の有効活用とは、まさにこの事。


管轄も厚生労働省なので問題ない。


まず入口は二重の頑丈な扉に改装する。

扉は内側からは決して開かない。


これは死ぬ覚悟のない人間、冷やかしや野次馬を防ぐ効果がある。


二重になっているのはガソリンや灯油などの危険物を持ち込み焼身自殺を図る馬鹿がいるかもしれないからだ。


また凶器などの持ち込みも勿論、御法度である。


武装保安員によるボディチェックの後、二つ目の扉が開かれる。


役に立たない老人警備員は採用しない。


安楽死カフェは真剣に死にたい人間の為の神聖な施設であるべきだ。


他には施設裏に従業員用の出入口と遺体を運び出す通称「裏門」がある。


施設利用者はいかなる理由があろうとも施設から生きて出ることは許されない。


例外は認められない。


二つ目の扉の先に受付がある。

受付には必ず清潔感のある女性が配置されている。


人生最後の会話が無愛想な汚いおっさんや「チー牛」だったら誰だって嫌だろうから。


受付で簡単な手続を済ませ

致死性100%の安楽死薬のカプセルとドリンクを受け取る。


ドリンクは豊富なメニューの中から好きな物を選べる、お酒もある。


ただし食事の提供は一切ない。


喫煙席と禁煙席を選べる。


愛用の煙草を忘れて来たうっかりさんの為に国内、国外のほぼ全ての銘柄が取揃えてあるので安心してほしい。


コメダ珈琲店のような、ゆったりとしたソファ席に案内される。


後は自分の好きなタイミングで薬を飲むだけだ。


全席、バックヤードのモニターで

遺体回収班に常時監視されており

死亡したと思われるお客様(仏様)の元に

まず医師が駆けつけ死亡を確認する。


死亡確認後、速やかに遺体回収班によって裏門より仏様は搬出される。


カフェは原則、年中無休24時間営業としてもらいたいと願う。


人間、いつ死にたくなるかは解らないからだ。


お客様は仏様です。


後は実際に営業を続けてゆく中で発生する諸問題を都度改善することで素晴らしい施設になるだろう。


最近、成人年齢が18歳に引下げられたが

当施設の利用は最低20歳からにしたい。


学校でのイジメや家庭内での虐待を理由とした若年層の自殺も大きな社会問題ではあるが、それはまた別のテーマとして安楽死以外の解決方法があると私は信じたい。


ここまで書いてきて「カフェ」には

本当にメリットしかないなと思った。


例えば私の暮らす「小田急江ノ島線」沿線には貧困層が多く暮らしており

3日に1度の頻度で飛び込み自殺が発生し電車が遅れる。


貧困率と自殺率は常にセットだ。

先ず、それが激減するだろう。


また安楽死薬の服用をカフェ内に限定することで薬を殺人などに悪用されることもない。


独り暮らしの人間が自室で自殺し

発見が遅れ、遺体が腐敗するケースも

激減するだろう。


私がこの様な妄言とも取れる大真面目な提言を記したのは私自身が既に終わってしまった人間だと気づいたから。


私は弱い人間なので

要は痛みを伴う自殺をする勇気がないのだ。


死ぬのは怖いが

生きることはそれ以上にしんどい。

人間は皆、そんなに強くない。


いつでも、だれでも公平に

自殺できる場所が社会にある。


それは本当に素晴らしいことだ。

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