第8話 バイトがばれた
仕事とはいっても所詮はバイト。
毎朝、学校へ行く事は変わらない
その朝も、いつものように恭子が迎えに来てくれた。
「理沙ーおはよー」
恭子は玄関からリビングに上がってきた。
勝手知ったる他人の我が家だ。
「おばさん、おはようございます」
まだ朝食中の私を無視して、早速お母さんと話し出している。
「恭子ちゃん、その荷物すごいわねぇ」
「はい、カメラ機材が入ってます!」
「まぁ、すっかりカメラマンじゃないの」
恭子は少し照れた様子だが、まんざらでもなさそうだ。
「それに比べて理沙はね〜」
「あら、おばさん、聞いてないんですか?」
「恭子!」
彼女を制すように声を上げた。
「理沙、私のスタジオでモデルのアルバイトしてるんですよ」
「あら!そうなの?」
お母さんは、あまり驚いた様子はなかった。
「そんなに困ってらっしゃるの?」
「そうじゃなくて、理沙の魅力が気に入られて…」
彼女がそう言い掛けると、
「そうなの?」
「あんたいつからやってるの?」
少し言葉に棘{とげ}がある。
「まぁ、そんな生やさしいものじゃないからどうせすぐに辞めるんでしょ」
「あんた飽き症だからね」
「おばさん!」
「理沙、最近綺麗になったと思わない?」
恭子が一生懸命に言ってくれているが、
母は、
「そうかしら…」と
そっけない。
「そう言えば、あんたちょっと痩せた?」
お母さんは私の体をジロジロ見ながらそう返してきた。
「うん。なんだか3キロくらい痩せたみたい」
「変な病気じゃないでしょうね」
そう来たか…
「おばさん、大丈夫だよ」
「モデルさんって見られるとどんどん綺麗になっていくの」
「理沙にはその才能があるって先生も言ってた。」
「へーこの子がねー」
「私に似てそんなに器量は良くないと思ってたのにね」
「おばさんは、綺麗ですよ」
彼女は年配キラーだ。
この手のほめ言葉は、カメラマン向けなのかもしれない。
「恭子ちゃんまた旨いわね〜」
「さすが、カメラマン」
「じゃぁ私も撮ってもらおうかしら」
「おかーさん!」
調子に乗るお母さんに少し呆れていた。
「いいですよ」
「駆け出しカメラマンでよろしければ」
「なんだったら、ヌードでもokですよ」
「恭子!」
「調子に乗りすぎ!」
「あら、そうなの?」
お母さんは、平然と答えた。
「でも、ヌードは死んだお父さんに叱られちゃうからヤメとくわ」
ハハハ
「もーっ!お母さんったら〜」
本気かと思った私がバカみたいだった。
「じゃぁ、もう行くね」
「はい、いってらっしゃい」
「今日も部活遅いの?」
「あ、部活辞めたの」
しまったと思った。
「じゃぁ今まで遅かったのは、そのバイトだったの!?」
「あんたいつからそんな不良になったのよ!」
「お母さんを騙すなんて!」
怒られていると思って下を向いていると、
「さーて、何買って貰おうかしら?」
「おばさん、ナイス!」
恭子の合いの手だ。
「もーっ、お母さんったら…」
父が亡くなってから、私は叱られたことはない。
それだけに、心配もお金もかけたくなかったし
なにより、信頼してもらえている実感があった。
早く楽をさせてあげたい。
いつもそう思っていた。
「いってきまーすっ!」