表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラstory恋愛教科書  作者: 甘井 美環
6/10

第6話 あげる

うちに帰ると部屋には、まだあの本が置いてある。





私はふと思いついた!




恭子に知られたのなら、恭子にあげればいい。


恭子さえ誰にも言わなければ、

彼女は幸せになれるのだ。


どうせ持ってても私は不幸になるなら…




さっそく恭子に電話をかけて呼び出した。


「恭子?」

「この前の話だけど、"あの本"恭子にあげるよ」


「どうしたの?急に?」

ビックリした声だ。



「いいから、訳はあとで話すからとかく取りに来て」

そういって受話器を置くと

なんだか気が抜けてきた。





何分も経たないうちに


「こんにちはー」

外から恭子の声がした。


「恭子ちゃん来たわよー」

1階からはお母さんの声だ。



私は階段を駆け降りて、玄関の恭子の迎えに出た。



「いらっしゃい、悪いねいつも来てもらって」


「良いって事よ!」

恭子はいつも元気がいい。



「お母さん!、麦茶とお煎餅お願いね!」

リビングに向かって叫んだ。


「いいよ、理沙、お母さん忙しいんでしょ?」


「おばさん、おじゃましまーす!」




「平気、平気」


そう言って2人で2階へ駆け上がった。




「理沙、今日学校休んだからてっきり熱でも出したかと思ったよ」

「あの本のこと、まだ悩んでるの?」


「うん、それがね…」


今日学校を休んでテレビ局に行ったこと、

あゆに会って話しをしたこと、

彼女が心配なことなど全てを恭子に話した。



「解った!」

「もらってあげる」


「でも、私ばっかり幸せになるのは嫌だよ」




「えっ?どういうこと?」




「私にいい考えがあるの!」

恭子の考えとはなんだろう?

この子は、ちょっと違う意味で頭が働くから、

きっと名案に違いない。


「ホントにこの本私に譲って後悔しない?」

「返せったって返さないからね…」

意地悪そうに言ってはいるが、どことなく気を使っている。




「私の夢は女流写真家だから…」


「ん〜〜夢はふくらむな〜〜」

「絶対誰にもしゃべらないもん」

ヘヘヘー

彼女は念願の本が手に入ってか、上機嫌だ。




「じゃぁ、暗くなってきたから私帰るね」

恭子が本を手にして玄関を出て行ったときは

後悔よりも、安堵の気持ちでいっぱいだった。



(これで、不幸にならずにすむ)


普通の生活が送れるんだ。





― ジリッリリーーン ―


1階に置いてある電話のベルが鳴っている。


「おかーさーん?いないの?」

「トイレかなぁ?」

「しょうがないなぁ」


自分の部屋から1階に降りるのはかなり億劫だ。


2階にも電話をつけるか、

携帯電話でも持たせてもらえれば楽なのに…




「はい、もしもし?」


電話の声は、恭子だ。


「あ、理沙!ちょうど良かった!」


「どうしたの?」


「今ね、何が起きたと思う?」

かなり慌てている様子だ。



「そんなの分からないよ、なに?」

「まさか?本のこと?」


「違うよ、まだ本は開けてないっ」

「この前、写真展に出した作品が入選したって電話が来たの!」


「すっごいジャン!」


「でしょー」

「やったーって感じ!」

「もしかして、本なんかいらないかも、なーんてね。」


実はこの本の効果には持っているだけでも、

徐々に運気が上がってくるらしい。


逆に、持ち主でない者がこの本を持っていると

幸運が吸い取られていくというからまた不思議だ。



「実はこの報告まで…じゃぁね、おやすみ」


「うん。おめでとう。おやすみ」


本当に良かったと思った。

親友にあげたことで、彼女の夢が叶う。



私はそれだけでかなり満足な、普通の女子高生なのだ。



あれっきり、あゆはテレビにも出ないし

まして我が家にも現れない。


私があの本を手放したと知ったら、

どんな顔をするのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ