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シンデレラstory恋愛教科書  作者: 甘井 美環
3/10

第3話 取り扱い注意

あゆ…


「なんで、あゆが…うちに?」



「里沙!買ってきたよー」

恭子だ。




「こんばんは」


「こ、こんばんは」

さっきテレビに出ていた服と同じままだ。


「あの、里沙さん。先ほどは不躾に失礼しました」


「何で私の名前を?」

「何で私のうちまで?」

いろいろ聞きたいことがあったが、

彼女に先手を打たれた形になった。



「浜本あゆと申します」

馬鹿に丁寧な挨拶をする彼女にあの歌姫の影はない。


「先程、あの交差点でのこと誰にも話してないですよね?」


「えっ?ま、まぁ…」

相手にされなかったが、恭子には話してしまった。


「はーっ、良かった」

安堵の表情に変わった。



恭子が玄関のドアをあけた。


「あら、お客さん?」

「じゃぁ、私、先にお邪魔してるね」


あゆの横をすり抜けるように靴を脱ぎ玄関に上がったとき、

彼女の視界に見慣れた人の顔が映った。


「あれ?あ、あゆじゃない?」


「はい、浜本あゆです。はじめまして」


「わっ!本物だよね?里沙?」

普通に挨拶を交わす彼女に対し、

恭子はあまりのことに気が動転している。


「な、なんで、ここにいるの?」

「さっきの事はホントだったんだ!」




「さっきの?」

あゆの表情が曇った。




「私も解らない…」


「もしかして、本を返してくれとか?」

「いいわよ」

玄関の彼女に向けて言葉を返した。



「違うの、ここではなんだから外へ…」

また、神妙な面持ちに変わった。


「夜なので困ります」

リビングにいる母親を見ながら答えた。


「あ、でも私の部屋で良かったら」


「いいのかしら?」


「恭子も一緒でいいですよね」

少しためらう様子を見せたが、頷いた。


「お上がり下さい」

私は二階へと案内した。




「お話って何ですか?」

部屋へ入るなり私は切り出した。


「あゆさん、歌うのやめちゃうんですか?」恭子が横からはいる。


「あ、ニュース見たのね」

「実はその本と関係があるの」

私が手にしている、

さっきの本を指さした



「あなた達があの店にいたのは知ってたわ」


「あの時、私は考えていたの」


「そしてこの本が答えをくれたの」

"歌うのをやめろ"って



「えーっ、それでそんな簡単に発表したんですか?」

恭子が驚きを隠せないでいた。



「そうよ。その本は絶対なの」

「従っていれば必ず幸せになれるのよ」



「すっごーい!里沙」

「さっき、いらないって言ったよね?」

「いらないなら私にちょうだい!」


「う、うん…」

私も少しは興味を持っていたのかもしれない。


「ダメなのよ。私が里沙さんに決めたから、里沙さんが決めないと…」

あゆが言った。



「じゃぁ里沙ー、私に譲ってよー」


「あなたが今譲ってもいいのよ」

「でも、それが本心でないと、またあなたへ戻ってきてしまうの」

あゆの説明には説得力がある。



「えーなによ、私には譲れないって事なの?」

いつも私より大人びている恭子が、今はだだっ子に見える。




「それで、話というのは何ですか?」

彼女が何のためにうちまで来たのか早く聞きたくなった。


彼女がゆっくりと語り始めた。

「本の事を他人に知られると、幸せの裏返しで不幸が襲ってくるらしいの」


「えっ!?」

私は驚いた。

それ以上に、恭子は驚いているのかもしれない。


「理沙ーごめん、。私、聞いちゃったよ…」




「でも、一つだけ回避する方法があるの」



「そうなんですか!?」

「それ、教えてください!」



「私も試したことはないんだけど…一番大切なものを捨てることだとか…」

彼女の言葉が小さくなった。



「一番…大切なもの…」


「でも、大丈夫よ」

「その時が来たら、本に記されるらしいから」


「間に合えばと思って来たけど、結局は間に合わなかったわね」

「本当に、ごめんなさい」


「いえ、わざわざありがとうございました」

私は、深々と頭を下げた。


「じゃぁ、私はこれで失礼するわね」


「本当に歌うの辞めちゃうんですか?」

恭子が今にも泣きそうな顔で聞いた。


「ごめんね、いろいろ事情があってね」



あゆを見送るときに彼女が見せた作り笑顔で、私はその事に気づいた。



彼女も誰かに本の事を知られてしまったと・・・

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