第2話 だから言ったでしょ
息を切らせて
恭子がやっと追いついた。
ハーっハーっ
「急にどこ行っちゃうのよ」
「あゆが…」
「あゆって、お魚の?」
「ちがうよー」
「えっ?まさか、あの歌姫の?」
「あゆがどうしたの?」
「いたの?ここに?」
「どこどこ?」
彼女が辺りを見回したが、人混みの中からあゆを見つけることなどできなかった。
「ホントにいたの?」
「うん」
彼女は、私の手の中にある物に気づいたようだ。
「それより何、その本?」
恭子が手にとって開いたが、
「何も書いてないじゃん」
「どうしたのこれ?」
「あゆから貰った…」
「なんで、里沙があゆからこんな汚い本貰うのよ〜」
「しかも、こんな場所で?」
「里沙やっぱ今日おかしいよ」
「早く帰って休もうね」
恭子が気を使って家まで送ってくれた。
「ありがとう、恭子」
「元気出してよ」
「じゃぁね、バイバイ!」
雨が降り出しそうだった。
部屋に入るとすぐにテレビをつけた。
テレビで浜本あゆが映し出された。
やっぱりさっきの人、似ている…
芸能ニュースでは何か騒ぎになっているようだったが、
あの本の事が気になってテレビを消した。
一階から母が呼んでいる。
「恭子ちゃんから電話よ!」
「はーい、いま行くー」
「もしもし、里沙?」
「今、テレビ見てる?」
「ううん、見てないけど…どうしたの?」
「あゆが、浜本あゆが活動休止だって!」
「テレビつけてみなよ」
リビングにあったリモコンのスイッチをオンにした。
「あっ。」
画面の中に釘付けになった。
「なに?どうしたの?」
「さっきと同じ服だ…」
ブランドずくめの彼女を思い出した。
「里沙、さっき会ったって本物じゃないの?」
「なんだー、もー会いたかったのにー」
恭子は私以上にあゆのファンだ。
「また会うとか約束しなかったの?」
「うん、しなかった…」
「一方的にあっちが話して行っちゃったんだよね」
「それよりさーあの本の事なんだけど…」
早く本の事が相談したかった。
「里沙まだあれ持ってんの?」
「あんな汚いの捨てればいいのに…」
「だってあれ、あゆがくれたんだよ」
何で信じてくれないんだろう。
「えーっ!ホントだったの?」
まだ半信半疑だ。
「だから言ったじゃない」
「だって誰がそんな話し信じるのよ」
「で、この本の事で相談があるの」
「だから今そっち行ってもいい?」
半ば強引だった。
「あ、今日はダメみたい」
「良かったらそっち行くけど、どう?」
願ったり叶ったりだ。
「大丈夫。悪いねじゃぁ来てくれる」
こういうときに親友は頼りになる。
「20分くらいで行くから、何食べたい?」
「悪いから、いいよ。」
「折角だからさ、じゃぁコージのミルクレープとウーロンでいい?」
私の大好物だ。
「うん。よろしくね」
「待ってる!」
― ピーンポーーン ―
「はーーぃ。いいよお母さん!私出るから」
買い物まで済ませて、20分足らずで来た。
さすがはわが友人…
「ちょっと待っててー 今開けるね〜」
そう叫びながら階段を駆け降り
「いらっしゃーーい!」
勢いよく玄関のドアを開けると、
そこには恭子ではなく、あの"あゆ"が立っていた。