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希望  作者: 於田縫紀
第4話 最後まで君が愛しい
4/11

1 何とか結婚したけれど

 私がまーくんと結婚したのは私が16歳と9ヶ月の時だった。


 17歳の誕生日を3ヶ月後に控え、結婚なんてとうに諦めていた。

 センター送りになるのが嫌だからと15歳間近の男に手当たり次第結婚を申し込む独女寸前組の話も聞く。でもそこまでして生きようとも思わない。

 生きながらえても、せいぜい6~7年寿命が伸びるだけ。その間応急措置の男と暮らさなければならないのなら解体された方がましだ。


 この街区では男は12歳、女は14歳で結婚可能となる。結婚可能となって3年間結婚できなければ独男・独女認定を受けセンター送り。


 センターに送られてどうなるかは公式には明らかにされていない。おそらく大多数は解体処分。貴重な遺伝子を持っていると判断されれば強制受精ってところだろう。


 資源は常に不足気味なのだ。余分な人間を生かす余裕はない。強制ペア決定、強制受精2回後18歳で全員解体となる08街区より自由が多い分、12街区(ここ)はまだましだ。


 冷凍生体保存の街区は遺伝子損傷多数により廃棄されたと聞いている。遺伝子のみ保存の00街区等は現状生きた人間はいない。


 街区外が生存可能になるのははるか先。そこまで人類の命脈を保つのが街区の使命。

 それが意味ある事なのかは私にはわからないけれども。


 そんな訳で私はその時に備えて必要最小限まで絞った私物の少ない個人ブロックの中で、のんびり歴史記録等を読んでいた。

 そうやって動かないから独女になるんだと責めないでくれ。独女近いと人目が気になってしまうのだ。


 と、インタホンが鳴った。誰だ。3ヶ月早いがセンターからのお迎えじゃないだろうな。


「はい」


 ボタンを押して応答する。


「マサキと申します。カナさんのブロックはこちらで宜しいでしょうか」


 画面に写っているのは10歳ちょい位のあどけなさが残る少年。

 おうおうお姉さん君のような少年は大好物なのだよ。縁は全く無いけどさ。


「はい、そうですけれど」


 この世界には古代のように押し売りとか強盗とかは存在しない。何せ申請すれば必要なものは貰えるからね。性犯罪者は極稀にいるらしいけれど。でもこんなかわいいショタに性犯罪されるなら、お姉さん被害者がんばっちゃうぞ。


 いやいかん、思考がつい妄想に走ってしまった。これだから独女寸前はいけない。


「お願いがあるのですけれど、お会い出来ませんでしょうか」


 この時の対応を私は後悔することになる。少なくとも髪バサバサ、楽なことだけが取り柄のスウェット姿のままで出るべきではなかった。結果には影響は無かったのだけれども。


「少々お待ちください」


 私は立ち上がり、4歩でドアに到着して扉を開ける。


「はい、どうぞ」


 少年は私の顔を見て、そして小さく頷き、拳を握りしめる。


「カナさん、お願いがあります。僕と結婚してください」


 音声が脳に展開され言葉という意味を伴うまで約2秒。おい、本気かい。

 どうしてこうなった。


 ◇◇◇

 

 とりあえずブロックに上げてテーブルに付いてもらう。幸い室内は常に片付いている。まあ何もないからなんだけどさ。


 これだけはとっておきの紅茶を入れて少年のテーブルへ。自分の分も置いてテーブルの反対側に座る。


「まずは理由を聞いていいかい」


 まだ私の脳みそがちゃんと理解と納得をしていないのだ。


「僕の事を憶えていませんか」


 と言ってもなあ、すぐには見覚えはないぞ、ん、んん……ひょっとして。


「ひょっとしてスクール4Bにいた、まーくん?」


 少年の顔がぱっと明るくなる。


「そうですそうです。憶えていてくれたんですね」


 実は見た目の年齢差から逆算して、私と少年が出会うような場所で該当年齢に合致する人間はそれしかいなかっただけだ。でもまあ、ここは誤解したままでいて貰おう。


 ちなみにスクールとは、5歳から10歳までの少年少女の集団居住&教育スペースだ。なので私が知っているまーくんはまだ小さい小さいお子様状態。

 当時からわりと上品なお子様だったが、まさかこんな私好みのいい感じに成長してくれるとは。お姉さん嬉しいぞ。


 でも一応彼の為に聞いておこう。がっついていると思われるのも何だしさ。


「結婚って言っても、私はまーくんよりかなり年上で独女寸前だよ。まーくんはもっと若い可愛い子を選べるでしょ」


「ずっと前から結婚するならカナお姉さんと思っていたんです。11歳になった時結婚相手予備検索をして、まだカナお姉さんが結婚していないと知って、12歳になる今日までずっと待っていたんです。お姉さんが先に結婚してしまうかな、と毎日毎日確認して、やっと今日になったんです」


 おいおい、そんな情熱的な事を言わないでくれ。濡れちゃうじゃないか。


「それともカナお姉さんは僕の事が嫌いですか。僕と結婚するのが嫌ですか」


 嫌なはず無いじゃないか。君のような私好みな幼さの残る美少年はへっへっへっ。なんて本音は勿論顔にも言葉にも出さない。


「本当に私でいいのかな。考え直すなら最後のチャンスだよ」


 この最後までがっついていませんよと余分な見栄を張るこの悪い癖。このせいで14歳当初の結婚チャンスを逃した。おかげで独女寸前の今がある訳だ。

 でも今言っている台詞は見栄以外に本音も半分混じっている。本当に私で、いいのかな……


「ならもう一度言います。カナお姉さん、僕と結婚してください」


 ちょっと間を置いて、私は返事する。


「ありがとう。よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げる。

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