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希望  作者: 於田縫紀
第3話  春の全国ゴールくじ
3/11

抽選の日

 本日は春の全国ゴールくじの抽選日。この抽選状況は役所の特設会場をはじめ防災無線、国営放送等様々な方法で抽選発表会が実況中継される。


 別に中継を見なくても結果は個人端末を確認すればわかる。しかしゴールくじはこの国最大の行事だ。だからほとんどの人が何らかの方法で実況中継をリアルタイムで視聴する。


 俺も居住ブロックの個人用ブースでスクリーンに国営放送を表示させた。今年度の国営放送でおなじみのアナウンサー2名が抽選会会場をバックに映し出される。ちょうどはじまる時間だったようだ。


「さて、お待たせしました。本日は3月31日、今年度最終日にあたります。ですので来年度に向けて、今年度春の全国ゴールくじの抽選会を開催させていただきます。司会はお馴染み国営放送局のC1BAF080と」


「同じくA22481F5がお送りいたします」


 特別番組が始まった。さて俺はどうなるんだ。早く結果を教えてくれ。

 

「さてC1BAF080さん、今年度のゴールくじはどのような状況でしょうか」


「今回は災害もほとんど無く、また諸外国との状況も良好でだったようです。また不規則事案に遭われた肩は満90歳でゴールを迎えた方の総数も例年より少なめでした。ですから今年度の当選者の数は昨年と比べて3割多い21万飛んで846名となっております」


「これはかなり多いですね。希望が持てる数値です」


「ええ。ここ十年の間でも最大の当選者数だそうですよ。私もそろそろ当選したいところです。年度末が来るたびに今年こそ当選しないかと期待しているのですけれど」


「でもC1BAF080さんもまだ当選確率が上昇する年齢には達していませんよね」


「ええ。ですので今年に期待している訳です」


 だらだらと司会者とアシスタントの掛け合いがつづく。

 こんなのはいい、早く当選番号を出してくれ。俺はゴールしたいんだ。


 だいたいC1BAF080(こいつ)、今年度のアナウンサーなんて役割(しょくぎょう)を持っていただけ俺より恵まれているのだ。そんな恵まれている奴より恵まれない奴こそ当選するべきだろう。たとえば俺のように。


「そろそろ会場の準備が出来たようです。それでは第一抽選会場の815320AFさん」


「はい、第一抽選会場の815320AFです。それではこの中継をご覧になっている皆様、御自分の今年度の識別番号(なまえ)を御確認下さい。

 今年は下1桁のみで当選する番号があります。まずはこの番号から抽選です。ルーレット、スタート!」


 0から9、そしてAからFの16個の文字が描かれた円盤が回り始める。画面に映っていない部分からそれぞれ自分の番号を叫ぶ声。俺も自分の識別番号(なまえ)の下1桁、Cになれと必死に念じる。


 女の子がダーツの矢を投げた。1発で円盤に突き刺さる。円盤の回転が遅くなる。CかDかきわどいところだ。Cになれ! そう思いつつ注視する。


「今回、下1桁のみのラッキーナンバーはDです!」


 ああ、線1本分だけ、僅かに針がDの方に刺さっていた。だがこれで諦めるののは早い。まだ次がある筈だ。


「ご覧の皆さん、今回の下1桁当選はD、デルタのDです」

「当選された方、おめでとうございます!」


 早く次の番号を発表しろ!

 そう思いながら俺はスクリーンを見続ける……


 ◇◇◇


「それではこれで春の全国ゴールくじの発表を終わります」

「当選された方、おめでとうご……」


 アシスタントの台詞途中で俺はスクリーンを消す。


 今年も当選できなかった。ゴールできなかった。だから俺はこれからまた1年、無為に過ごさなければならない。

 運が良ければ4月1日から貰える新しい識別番号(なまえ)に何か役割(しょくぎょう)がついてくるかもしれない。でもそれはゴールくじで当選するより更に確率が低い。


 およそ必要な生産・流通・管理その他の産業は全て国が自動機械を使って行っている。ほとんどの国民に課せられた義務は1つだけ。国民として生存することだ。


 かといって自力でゴールを迎える事も出来ない。そのような真似をしても大抵はそこらにいる自動機械に制止されてしまう。


 そうなったら待っているのは地獄だ。自由を奪われた環境で生を強要される。満90歳を迎えてゴールを迎えるまで。ただでさえ暇すぎて死にたいのにそんな恐ろしい状態になりたくはない。


 この世界から正規に抜け出して(ゴール)を迎える方法は2つだけ。満90歳まで生きてゴールするか、先程の全国ゴールくじで当選してゴールするかだ。


 俺はまだ18歳。満年齢でゴールするまではあと4回今までの長さを過ごさなければならない。もうやりたい事は何もない。自分が少しでも興味を持てる娯楽(コンテンツ)はほぼ全て試し終えた。飽きてもう見たくもなくなるまで。


 俺はこれから訪れる来年度の無意味で絶望的な1年を思う。

 ただただ涙が溢れてきた。

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