少女と少年の恋愛
よろしくお願いします
皆さんはチョコいくつもらいました?
僕は一個でしたね…
季節は冬、一月を過ぎたころあるイベントの広告が目立ってくるようになった。
「バレンタイン……かー、やっぱりあげないといけないよねー……」
『バレンタインコーナー』と目立つように書かれているお店の一角に、めんどくさそうな表情をした女の子が一人で立っていた。
「うーん……、どんなのがいいんだろう? このチョコとかおいしそうだしこれでいいかな? あ、このチョコもおいしそう。悩むなぁ……」
自分で食べるわけではないのだが、どうせ渡すなら相手に少しでも喜んでもらいという気持ちがあるからか、真剣な表情で悩みながらチョコを選んでいた。
「うー……、あー、もう! なんか考えるの、めんどくさくなってきた! どうせ渡すのは二人だけなんだしこれでいいや。バレンタインなんてめんどくさい行事、考えたの誰なの? まったく……」
選んでいる最中にめんどくさくなった女の子は、最初においしそうだと思ったチョコをつかんでかごの中に入れて、レジに向かおうとしたとき目の前に友達の姿が見えた。
「あ! しーちゃん。しーちゃんもバレンタインの買い物?」
「あ、茜ちゃん。えへへー、うん! 茜ちゃんもお買い物?」
「そうなんだよー、もうそろそろだから。先に買っとかないとチョコレートなくなっちゃうかと思って。というかしーちゃん、カバンぐらいは置いてきたほうがよかったんじゃない?」
茜は片隅に置いてあった「夕凪栞」と名前の入ったカバンを見て、呆れた顔をしながら指さす。
「あ、あははー。早くチョコ買わないとなくなると思ったから。そういえば茜ちゃんは買い物終わったの?」
「ま、いいけどさ。私は終わったよ。どうせ二人だけだしこれでいいかなって思って」
「え!? 茜ちゃんは今年も手作りじゃないの?」
「そんなに驚かなくても。だって、渡すのって雄二と美晴だけだし」
「それはそうだけど、手作りのほうが二人とも喜ぶと思うよ?」
「えー……、手作り……? 私にできるとは思えないし、売ってるやつのほうがちゃんとおいしいし、安全じゃん」
「もう、茜ちゃんはすぐそういうことを言う。そんなんじゃ、雄二君に笑われるよ?」
「む、あいつに笑われるのはなんかむかつくな。うーん……、分かった、私も作る。けど、やったことないからしーちゃん教えて!」
茜は栞に言われて気が変わったのか、さっきまでかごに入ってたものを元々あった場所に戻して、栞に教えてもらいながら使う食材をかごに入れていく。
「えっと、これでいいの?」
「うん、作るものによるけど大丈夫なはずだよ。もし足りなかったとしても私があげるから大丈夫」
「ありがと、しーちゃん! あ、買い物袋貸して重いでしょ?」
「え? えへへ、ありがとう茜ちゃん」
自分の買い物袋の中身を不安そうに見つめる茜に、安心するよう笑みを浮かべた栞の言葉が嬉しかったのか茜は栞の重たそうな買い物袋を代わりに持つ。
「いえいえ、今日はこのまましーちゃんの家でいいの?」
「うん。道具もそろってるし、お母さん帰ってくるの遅いから」
「よし、じゃあ。今日はしーちゃんのお母さんが帰ってくるまで一緒にいてあげる! 家も近いし!」
「ホント!? ありがとう! 一人は嫌だったんだー」
「そのかわり、私がおいしいのを作れるように教えてね!」
「ふふふ、うん!」
茜の言葉に笑顔を見せた栞は、仲良く二人で家まで歩いて帰っていくのだった。そんなとき奥の曲がり道から一人の男が出てきた。
「あれ、茜と夕凪さん。こんなところで何してんだ?」
「げ、雄二……」
「げ、とはなんだ。げ、とは。それで? 二人して何してんだ?」
「あんたには関係のないことよ、あっちいけ。しっしっ」
「あ、ああ。いやまぁ、そこまで言わなくてもいいだろうに」
「茜ちゃんが今から私の家に遊びに来るんです」
「そうなのか? うーん、どうせ家近くだし家まで送ろうか?」
「うーん、そこまで暗くないですし、今日のところは大丈夫ですよ」
「そうか? それならいいんだ。茜、ちゃんと家まで一緒に帰れよ?」
「言われなくても帰るわよ!」
「ならいいけど、ん? お前の持ってるそれってチョコか?」
雄二の言葉に苛立った声で返す茜に対して雄二は気にした様子もなく、安心した顔で帰ろうとしたときに茜の手の買い物袋に目が入った。
「え? あ……、そ、それがどうしたのよ?」
「ははーん、なるほど、なんでここで会ったのかと思ったら、お菓子買いに行ってたのか」
「へ?」
「え? あれ? 遊ぶ時に食べるお菓子を買いに行ってたんだと思ったんだが違うのか?」
「そ、そうよ? 安かったからね。チョコって私好きだし?」
「そうだったか? そういうのあんまり好きじゃないんじゃなかったか?」
「最近好きになったのよ。最近!」
「そうなのか、あんまり食べすぎると太るぞ?」
「う、うるさい! 食べ過ぎてもその分動くからいいのよ!」
「はいはい。それじゃ、俺あっちだからじゃあなー。またあした」
「あはは、はい、また明日学校で」
「帰ればーか!」
茜は雄二に顔を真っ赤にして罵声を浴びせていたが、雄二は特に気にした様子もなく手を挙げて帰っていった。怒っていたからか雄二が帰ったあと肩を大きく上下させていると、困り顔で栞が茜の顔を見る。
「もう、茜ちゃん? ダメだよ? あんまり悪口ばっかり言ったら」
「いいのよ、あいつだし」
「もう……、まぁ、あれだけ言いあってもお互い無視したりとかしないからいいけどね」
「む、それじゃ、私とあいつが仲いいみたいじゃない」
「十分仲いいでしょ?」
「仲良くなんてない! と、ついたよ、しーちゃん」
「そうかなぁ? あ、茜ちゃん上がって。ただいまー」
「おじゃましまーす」
栞は茜の必死に否定する様子に笑みを堪えた様子だったが、先に家の中に入ったためその顔は茜に見えていなかった。
玄関に入ってから茜を見て中に招き入れる。中に入った茜は久しぶりに入ったからか、きょろきょろと周りを見ながら奥に進んでいく。
カバンなどの必要のない荷物はリビングに置いて、二人はキッチンで手を洗う。
「さてと、じゃあ、まず準備を始めようか」
「えっと、何をすればいいの? というか私は何を作るの?」
「うーん。ケーキ作る?」
「け、ケーキ? 難しくないの?」
あまり料理を作らない茜はケーキと聞き、不安そうな顔で栞を見る。そんな茜に対して栞は頼もしい表情で力こぶ作って見せた。……力こぶは見えないが。
「そんなに手の込んだものじゃなければ簡単に作れるよ?」
「簡単に作れるなら大丈夫かな?」
「あ、それともあえて難しいのに挑戦する?」
「え? なんで?」
「送る二人がびっくりするようなもののほうがいいかな、って思って」
「うーん、なんか失敗しそうだしな」
「難しいのは飾りつけなんだけどね?」
「味に影響しないなら多少形が悪くてもいいかな?」
「もちろん綺麗なほうがいいけど。あ、でも、あの二人ならそこまで気にしないとは思うよ? 焦げてたとしても、からかいはするだろうけど最後まできちんと食べてくれるはず」
「まぁね、雄二は別にいいけど、しーちゃんの想い人の美晴はモテるから他の人から何されるかわからないし」
「あはは、それじゃあ、失敗したものは食べさせられないから頑張らないとね? ……? !? べ、別に想い人とかじゃないよ!?」
「えー? しーちゃん。雄二と美晴と話す時だと雰囲気が違うよ?」
「え、え? ホントに?」
「うん。恋する乙女って感じがする。雄二も気にしてたし」
「そうなの?」
「俺って、夕凪さんに嫌われてるのかな? って言ってたよ?」
「え!? なんて茜ちゃんは答えたの?」
「さぁ? 多分嫌われてないんじゃない? って答えたけど」
「多分って、まぁ、大丈夫だよね。きっと」
「まぁまぁ、そんなことは置いといて早く作ろうよ」
相変わらず雄二に対して雑な茜に、栞は心配そうな顔をしていたが大丈夫だと言い聞かせケーキの話に戻った。
「うん。そうだね。結局何を作るの?」
「飾りつけが難しいほう」
「分かった。じゃあ、一緒に頑張ろう」
「おー!」
そうして始まったケーキ作り、初めて作るとはいっても壊滅的に下手なわけではない茜だったが、完璧な成功はいまだなしの状況だった。
「あはは、また失敗した」
「焼きすぎだよ茜ちゃん」
「つ、次は出来るはずだから!」
「私は完成してるし手伝おっか?」
「だ、大丈夫。一人で頑張る」
「分かった。じゃあ、頑張ってね? 私は洗いものしてるから」
「ふふふ、しーちゃんが驚くようなものを作ってあげるから待ってて!」
「うん、楽しみにしてる」
真剣な表情でいて挑戦的な笑みを浮かべる茜に、栞は笑みを浮かべ、自分の洗い物をしているととぼとぼと二つのケーキを持ってやってきた。
「しーちゃん……、どうしよう」
「え、ど、どうしたの。泣きそうな顔して」
「完成したんだけど、一つしか綺麗なの出来なかった」
「え? あ、ホントだ。というか、すごい綺麗だね!」
「えへへ、頑張ったからね! でも、どうしようここまで頑張ったのをあいつらに渡すのはなんか恥ずかしくなってきた」
「え? 何で? すごい出来だし。むしろ、すごいって褒めてくるレベルだと思うんだけど」
「だって、こんなに手の込んだもの渡したら本命だって思われるじゃん!」
顔を真っ赤にした茜は先ほど雄二に対して怒っていた時とは違って、指と指を突っつき合わせて恥ずかしそうにしていた。
「あー、うん。まぁ、それはそうかも」
「でしょ? うーん、そうだ、一応食べれるしちょっと焦げたほうをあいつらに渡してこれをしーちゃんに渡せば……」
「あはは、私は受け取らないからね? 全くもう、いい加減自分の気持ちにうそをつくのはやめたほうがいいと思うよ?」
「何の話?」
「茜ちゃんの好きな人の話」
「私に好きな人なんて……」
「さっき、私に雄二君と美晴君の時は雰囲気が違うって話、したけど。茜ちゃんも他の男の子と雄二君と話すときだと態度が違うよ?」
「それは、あいつがいらいらすることを言うから」
「それでも、喧嘩はしても無視したりはしないじゃない。すぐに、元通りになってまた口喧嘩しての繰り返しで、私たちからすればじゃれ合ってるようにしか見えなかったよ?」
「う、そ、そんなことない」
「もう、じゃあ、もし、雄二君と喧嘩してあっちが無視してくるようになったらどういう気持ちになる?」
茜はその光景を想像したのか途端に悲しそうな顔で俯く。
「え、それは、それは、……いやだ」
「うん、じゃあ、雄二君が誰かと付き合って一緒に入れる時間が減ったら?」
「それも、いやかも」
想像して小さな声で呟く。
「だったら、それは好きだってことだと思うよ?」
「しーちゃんもそういう風に思うことってあるの?」
「私だっていやだよ、だから嫌われたくなくて変なことは言わないように気を付けてるし、喧嘩しないように気を付けてる」
「そうなんだ……」
「うん、だから私は茜ちゃんが羨ましいもん。喧嘩したとしても最後には雄二君の横にいるから」
「あはは、そっか。……うん。それじゃあ、ごめん。これはあいつに渡すね?」
「うん! 私は美晴君だけに渡すから」
「でも、私から渡してあいつ喜ぶかなー」
「大丈夫だよ、きっと」
「そうだったら嬉しいなー」
はにかみながら笑う茜を見て、クスッと笑った栞は安心させるように大丈夫だよと言ってくれた。そんな栞にありがとうと笑いながら明日のためにラッピングの準備を始めた。
そして、次の日の朝。
「あの、美晴君これ受け取ってください」
「わー、ありがとう、栞さん。……あれ、僕だけなの?」
「はい、あの、今日は美晴君だけです」
「え? 俺の分はないの?」
「あはは、すみません」
「なんかごめん。雄二」
「いや、まぁいいけどな。くそう、俺もほしかったぜ!」
「えっと、来年は渡しますから」
「本当か!? よっしゃー!」
雄二は大げさな表現をしながら落ち込んだが、それを見かねた栞の言葉にさっきまでの表情はなくすぐにその場から立ち上がり喜んでいた。
「(もしかして、雄二はしーちゃんのことが好きなんじゃ)」
茜はそんな雄二の姿を見て、自分が渡しても喜んでもらえないんじゃないかと不安になった。いつもなら考えない小さなこと、だが、自分の気持ちに気が付いてからはそんな小さなことが気になる。
「あれ? 夕凪さんがくれないということはもしかして、茜もくれないのか?」
「え? えっと、おいしそうだったから食べちゃった」
「マジかよ。食欲もうちょっと抑えろよ……」
呆れた声を出しながら雄二が茜を見ると、茜はそんな雄二から目をそらす。
「うん、マジマジ。いやー、あんたに渡すのは惜しい気がして。っと、ごめん。今日用事があるんだった、先帰るねー」
茜は雄二の言葉に笑った表情を見せると、唐突に手をたたいて、何も持たず教室から出て行った。
「え? お、おう。じゃあな」
「雄二君! 急いで茜ちゃんを追いかけて!」
「お、おう!?」
雄二はそんな茜の突然な行動に驚きはしたが、なにも不思議には思わず手を振って見送った。それを見ていた栞だけは茜の昨日の言葉を聞いているからか、慌てた様子で雄二に茜が出て行ったほうを指さして大声を出す。そんな、いつもとは違う雰囲気の栞に気圧された雄二は茜の後を走って追いかけていく。
「ど、どうしたんだろう、夕凪さん。いきなりあんな声出して、あー……、美晴と二人きりになりたかったのか? それならそうと言ってくれれば……」
雄二は頭をかきながらさっきの栞のことを思い出して、愚痴るために美晴のことを探し始める。
「あ、いたいた。おーい……?」
早速愚痴ろうと見つけた茜のいる階段の隅まで走っていく雄二だったが、途中で茜の雰囲気がいつもと違うことに気が付いて声が小さくなる。
「あれ? どうしたの?」
「いや、おまえのほうこそどうしたんだ?」
「わたし? 私は別に何もないよ?」
「嘘つくなよ、なんかいつものお前らしくないぞ?」
「そんなことないよ? あはは……」
「そんなことあるだろ? ったく、どうしたんだ?」
雄二は茜がいつもと違うことが分かったからか、階段の隅で小さくなって俯いている茜の頭をポンッと叩いて隣に座った。
「な、なにさ、急に。べ、別にあんたに関係ないし」
「なんだ、やっぱりなんかあったのか」
「あ、いや、何もないよ?」
「嘘つくなっての、ため込むなよ。吐き出せ、吐き出せ。まったく、夕凪さんに言われてきてみたけど、正解だったな」
「しーちゃんに言われたからきたの?」
「あ? まあ、そうだな。それが今回のと関係あるのか?」
「そっか、しーちゃんに言われたからきたのか」
「なんだよ急に、そんなに気になることか?」
「べっつにー、全然気になってないけど? 私のことなんかよりしーちゃんのところに行かなくていいの? 美晴と二人きりにしたら付き合っちゃうかもよ?」
「は? なんだ急に。あいつらは相思相愛なんだから早く付き合ってもらわないと困るっての。じゃなくて、いまはお前の話をだな……? なんだ、こっち見て」
「え、いや、その。あんたってしーちゃんのことが好きなんじゃないの?」
「なんだよ急に、誰かがそんなこと言ってたのか?」
「いや、言ってないけど。え? じゃあ、好きじゃないの?」
「そりゃ、友達としては好きだぞ? 恋愛感情はないけどな?」
「そ、そうなんだ……」
「なんだよ、急に安心したような表情見せて」
「別に? 何でもない」
「そうか? ならいいけどさ。そんで、悩み事は?」
「もう解決したから別にいいの。それよりさ」
「解決したって、まぁいいけど。それでなんだよ?」
「私からのチョコほしい?」
「え、くれるのか!?」
「うん、あげる。……って、カバンの中に入れたままだったんだ。ほら教室行くよ」
「え、おい。待ってくれよ」
「待ちません。ほら早く早く」
「分かったっての。って手を引っ張るな!」
茜にせかされるまま、手を握られ教室まで引っ張られる雄二だったが、教室の前で急に茜の動きが止まった。
「どうしたんだ茜?」
「えっと、なんか入りづらくて」
「入りづらいって……。あー……」
茜の言葉に不思議そうな声を出した雄二の目に映ったものは、嬉しそうにチョコを食べながら話している美晴と、その隣でニコニコ笑いながらいつもよりも近い距離で話をしている栞の姿だった。
「あの感じだとさすがに成功したってことなんだよな?」
「た、多分……、あんた聞いてきなさいよ」
「おまえな……、ここはひとつ二人で一緒に入って一緒に聞くってのはどうだ?」
「いくじなし、まぁ、でもそうね。気になるし聞いてみましょうか」
意を決して教室に入ると二人以外は帰ってるのが分かる。栞は二人が入ってきたのを確認すると恥ずかしそうに下を向くが、美晴は気にしていないのか二人を見て嬉しそうに笑う。
「おかえり二人とも。遅かったね、どこまでいってたの?」
「あはは、わりぃわりぃ。すぐ近くの階段だよ」
「その、おかえりなさい。茜ちゃん、雄二さん」
「えっと、ただいま。しーちゃん」
なんだか落ち着かない様子の茜と栞だったが、茜が雄二のほうを見て頷いたかと思うと、茜が栞の耳元に近づいてこそこそと耳打ちをする。
「(それで、結果はどうだったの? うまくいったの?)」
「(え!? あ、えっと。えへへ、つ、付き合うことになりました)」
栞は恥ずかしいのか耳まで真っ赤にさせながら小声でつぶやくように話す。そんな栞の様子を見た茜は嬉しそうに抱きしめた後、雄二のほうを向いて親指を立てる。
雄二はその光景を見て一瞬で悟ったのか、美晴のほうを向いて肩に腕を乗せながら頬をぺちぺちと叩く。
「おめでとう、美晴」
「え、なに急に!? ってなにニヤニヤしてるのさ。気持ち悪いよ?」
「気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは」
「いや、だって急に……、あ」
美晴はニヤニヤした顔の雄二に笑顔で悪口を言いながら、ふと気になり栞たちのほうを見ると、茜が無言で親指を立てて笑顔でこっちを見ているのが分かった。栞は恥ずかしそうにうつむきながらも、たまに美晴のことを見てくる。それで、謎が解けた。
「栞が言ったのかな?」
「えっと、ごめんね? 美晴君」
「別に謝らなくても……、隠してたわけじゃないんだし」
美晴が怒ってると思ったのか、しゅんとした表情で栞がうつむく。そんな栞を見て笑う。
「やっぱり付き合ってるんだねー、二人は」
「うん、付き合うことになりました」
「えっと、はい、付き合わせていただくことに」
「やっと付き合ったのか、もっと早くから付き合ってもよかったと思うんだけどな」
「えっと、ごめん、雄二」
「謝らなくてもいいよ、別に」
「あ、そうだ茜ちゃん! 私と美晴君はこれからちょっと用事があるから先に帰るね!」
「え、え?」
「あの、美晴も驚いてるんだが……」
「美晴君、あっちに行きましょうね?」
「あ、うん、えっと、雄二また明日。茜もまた明日ね」
「え、あ、うん? ばいばい」
「おう、じゃあな」
「茜ちゃん、頑張ってね」
栞は胸の前で手を握り締めながら茜のほうを向く。そんな栞のしぐさで何の話か分かった茜は顔を真っ赤にさせながらも頷くと、それを見た栞が満足そうにうなずき、美晴を引っ張って教室から出て行った。
「茜? 頑張るって何の話だ?」
「別にあんたに関係ない! ……こともないけど!」
「なんだそれ、気になるんだけど」
雄二は茜の言葉に笑いながら前を見ると、顔を真っ赤にさせながらもじもじとしている茜の姿が目に入る。
「(えっと、茜がこんな顔してるの初めて見るんだけど)」
「えっと、雄二? さっきチョコほしいって言ったわよね?」
「え? お、おう。言ったけど」
「こ、これ、あげる」
「あ、ありがとう。……これって手作りか?」
綺麗にラッピングされた透明な袋の中にケーキを渡された雄二は、手のひらに乗っけられたケーキを見て固まった。
「そ、そうよ? その、いらないなら別に」
「いや、いるよ。ほしい、その、ありがとう」
「あ、うん。そこまでほしいっていうならあげる。いま、食べてもいいんだよ」
「お、そうだな、茜も一緒に食べるか? チョコ好きって昨日言ってたろ?」
「あー、いや、今はいい。あんただけで全部食べて。その、チョコは一つしか持ってきてないし……」
「そうか? なら食べるけど。え、一つだけ? あと二人の分は?」
「作ってない。あんたの分しか用意してなかったし、だから味わって食べてね」
「えっと、茜。それってどういう……」
茜の言葉を聞いた雄二が疑問に思って茜のほうを見る。茜はそんな雄二に顔を見られないように必死に顔を背けていたが、赤く染まった耳までは隠さなかった。雄二はそんな茜を見て渡されたケーキの意味を悟ると覚悟を決めたような顔で茜の顔を見つめる。
「茜、こっちを向いてくれ」
「う、うん……」
茜は雄二の言葉に首をぎこちなく動かせながら前を向いた。前を向いた先には顔を赤く染めながらも真剣な顔をした雄二の顔がある。二人して見つめ合い顔を赤く染めながら固まっていたが、しばらくしてようやく雄二が口を開く。
「結婚してくれ!」
目をぐるぐるさせながら放った雄二の一言に、目が点になる茜。
「間違えた! いや、間違いじゃないんだが……、段階!」
「何意味わからないことを呟いてるのよ……。まったくもう。雄二、私と付き合ってください。もちろんいいわよね?」
「あ、くそ。そういうのは男の方から……」
「いいわよね?」
「あー、もう! もちろんいいに決まってるだろ。俺もお前のことが好きだ!」
「分かってるわよ。結婚を申し込むくらいだし」
「うがーーー!」
雄二が恥ずかしさで奇声を上げながらも、最後は二人して嬉しそうに笑いあっていた。茜は最初の恥ずかしがっていた様子はなく、ただただ嬉しそうに泣き笑いを浮かべるのだった。
まぁ、もちろん親からですが(血涙)
最後まで読んでいただきありがとうございます
感想などをいただけると嬉しいです
それではまた次のお話で