4話 『だから僕に友達はいない』
side:竜宮春樹
下校準備のホームルームの終わりを告げるチャイムがなる。先生の合図で一斉に席を立ちランドセルを背負い各々教室を出る生徒達。
小学4年生までは集団下校、5、6年生は授業のカリキュラムのため下校時間が遅くなるので帰路が同じ友達同士で帰る。
「竜宮!帰ろうぜ!」
「駄目だぞ!竜宮は今日も乙見と帰るからな。ププッ」
「あっ、そーか~、いっけね、悪かったな~竜宮」
「ヒューヒュー!熱いねお二人さん!」
5年生になった僕は今日もクラスの男子にいじられる。なぜこうなったかというと……
「ハル、一緒に帰ろう」
今日も同じクラスの来羽からのお誘いで一緒に帰宅することになる。
……つまり、こういうことなのだ。
「帰ったら一緒に宿題をしようか。今日はどっちの家でする?」
「どっちでもいいよ」
「じゃあ私の部屋で。言っとくけど私の部屋に入れる男子なんてハルだけなんだからね、父親だって入れないんだから。光栄に思いなさい」
「……うん」
いや父親は入れてあげようよ。時々オジサンに睨まれてるからね僕。
でもこんなことを来羽に言ってしまうと、きっと来羽に泣かされるだろう……オジサンが。
近くを通る同級生達がひそひそと囁く。
「あ、バカップルだ!」
「お似合いだぜ!お二人さん!」
「結婚式には呼んでくれよ!」
こんな風に毎日毎日同級生達からからかわれる。正直かなり恥ずかしい。恥ずかしいのだけど
「ねぇ聞いた?今世紀最大のお似合いベストカップルだって!」
ひとりご機嫌な来羽。でもそこまでは言ってなかったよ。ガヤッていた同級生達がかなりひいちゃった。
「ねぇ、たまには別々に帰らない?」
僕はおもいきって提案してみる。
「……ハルは私と一緒に帰るのが嫌なの?」
一瞬背筋に寒気がした。無表情で僕に質問する来羽の瞳の光が消えた。
「い、嫌じゃない……けど。でもたまには他のクラスメイトと帰るのもいいんじゃ……」
みんなが遠慮しているのか、それともからかっているのか、誰も僕達と帰ってくれない。
「そう、嫌じゃないなら何も問題ないね。じゃあこれからも二人一緒に帰ろうね」
にっこり笑って僕の手を繋ぐ来羽。
僕の提案は予想通り却下されました。
来羽がおかしくなったのは一年前の公園の事故から。
すべり台の柵から足を滑らせ落ちそうになったのを間一髪で僕が手を掴んだ。でも引き上げることが出来ずだんだんと手は離れて……来羽は落ちた。
地面に落ちた来羽の頭からはかなりの血が流れていた。急いですべり台から降りて、全く動かない来羽に駆け寄った僕。そして……
……その後からの記憶が全く無い。
気づいたら僕達の親と、元気に笑っている来羽がそばにいた。血を流し大怪我をしたと思っていた来羽は無傷だったのだ。結局僕の見間違いってことになったけど。
だけどあれから来羽は変わってしまった。
以前よりかなり仲良くなったけど、少し……いや凄くベッタリしてくる。昔はそこまでではなかったのに。
もし、あの事故のせいで来羽の性格が変わってしまったのなら、あの時助けられなかった僕に責任がある。
だから来羽の言うことはなるべく逆らわないようにしている。これが僕のつぐないだから。
たとえ僕に友達ができなくても。