3話 『私の計画』
side:乙見来羽
「え、呼び方を変えるの?」
「そうだね、いい加減『来羽ちゃん』呼びは卒業しようね。もうすぐ小学5年生だし」
学校から帰って、いつものように私の部屋で宿題を終わらせたあと、呼び方について提案した。
「うん、わかったよ、来羽ちゃ……じゃあなんて呼ぼうか?……乙見さん?」
「こらこら、いきなり心の距離感が遠くになってビックリだよ。呼び方はねぇ、『来羽』で!」
「え、呼び捨てだけど……いいの?」
「いいのいいの。だってこの方が男らしくてねぇ、それに……『来羽は俺のモノ』って感じがして……エヘヘへへ」
「……?うん、わかったよ、僕、今日から来羽ちゃんのこと呼び捨てにするよ」
「よろしい。それと自分のことも『僕』はやめて『俺』にしようか」
「え、お、俺?なんかちょっと言いにくいよ。それに……」
「うん、なに?」
「いきなり『僕』から『俺』に急に変えるなんて、なんか粋がっているみたいで恥ずかしい」
「粋がってって……そっか、恥ずかしいかぁ。まぁ『僕』も可愛いから今すぐ無理に変えなくていいか。それと私も今日から『春樹君』呼びはやめて『ハル』って呼ぶね」
「『ハル』?……別にいいけど……でもいきなり呼び方を変えてどうしたの?・・・来羽」
「ちょっと待って!」
「え、どうしたの?」
「もう一度呼んで……ハル」
「……来羽?」
「……ハル」
「……来羽」
「ハル!!!」
「え、ら、来羽」
「ウォーーーーーーー!!!」
クッションに顔を埋めたまま床をバンバン叩く私。ナニコレ!ただハルに呼び捨てされただけなのに凄くテンションが上がる!嬉し恥ずかし超楽しい!
「え、大丈夫?来羽」
やめて~~!心臓が馬鹿みたいに騒いでいるよ!もうキュン死(?)しそうだよ!
今、私達は何をしているかというと幼なじみから一歩先の関係になるための『再教育』を実行中。
私とハルは生まれたときからずっと一緒の仲良し幼なじみ(前世の関係はおいといて)。多分他の幼なじみ達と比べてもかなり珍しいくらいに仲が良いと言っていい。まぁ近い将来には私とハルはラブラブになるから当然なんだけど。
幼稚園の頃に交わした婚約は良い想い出として記憶に保存するとして、ようは幼なじみだけの関係から脱却するための準備である。
いつまでも『来羽ちゃん』、『春樹君』呼びでは幼なじみ感だけが印象的になってしまう。かといって今すぐ付き合うのもやっぱり違う。
私の計画としては付き合うなら高校生から。
さすがに小学生から恋人関係になるのはよろしくない。
オママゴトの延長と思われてしまうから。
同じ理由で中学生で付き合うのもありえない。
なぜなら若さゆえの好奇心と思われてしまうから。
なのでやっぱり付き合うのならしっかりとした高校生になってから。そして卒業後にプロポーズをしてもらいそのまま結婚へ。前世で私達が死んだのも年齢的にその頃だったからね。
高校生になるまであと5年ほど。それまでに私に惚れさせなければ。
でもその前に……
「ねぇハル、もう一度名前を呼んでみて」
「……来羽」
うにゃ~~~!悶絶死してしまいそう!!
あれ?
嬉しさのあまり悶え苦しむ私の姿を見るハルの目が、ジト目で無愛想だった頃のハルシオンの目にだんだん似てきていた。
その目は似なくていいんだよ。ハル。