1話 『乙見来羽の覚醒』
side:クライハート → 乙見来羽
目の前には天使がいた。
正確には天使のような可愛い男の子が私の頭を抱えて声をあげて泣いていた。
私は泣きじゃくる天使……のような男の子の頭を撫でながらある違和感に気づいた。
(私の手、なんか小さくない?それにこの男の子……見覚えが……面影がある。彼に……ハルシオンに)
私の頭に添えられた男の子の手は白く光っていた。その光はよく見知っている魔法の光。男の子は私に治癒魔法をかけてくれていたことに気づいた。
こんな幼い子供が治癒魔法を使えるのは珍しい事だ。才能もかなりのものだろう。
だけど男の子にとって今の状態はすごく危ない。たとえ才能があろうともこんな子供の魔力量はたかが知れている。すぐに魔力が枯渇してしまう魔力消失状態により疲労感と倦怠感から……
男の子の手から魔法の光は消え、私の胸に倒れこんだ。気絶したのだ。それでも私の頭から手は離さない。
上半身を起こして自分の頭を触ってみると血がベットリと付着した。だけど痛みや傷らしいものはどこにもない。
とりあえず辺りを見渡してあることに気づく。
(ここは何処だろう?)
見覚えのない風景……なのになぜか知っている物がある。
(あれはすべり台……に、ジャングルジムだっけ?)
初めて見るものなのになぜか憶えているこの気持ちの悪さ。
ふと、今は私の膝の上に頭を乗せたまま意識を失っている男の子の口が開き、
「らい……は……ちゃん」
囁かれた瞬間!私の頭の中に電流のようなものが流れた。
様々な記憶が交互に甦る。
「……私は、乙見来羽……そして、クライハート!」
アフランシア大陸で生まれ育った魔法戦士の1人。
そして、
男の子の顔に触れる。微弱な魔力を感じとるために。
この魔力の波動を私は知っている。よく知っている。だから確信する。間違いない。間違えるはずがない!
「この子は、竜宮春樹君。私の幼なじみ……そして……」
私は声を震わせ涙を流した。
「ハルシオン!私の大好きな人!」
全てを思い出した。
全ての記憶が頭の中で構築されていった。
ここは日本のとある行楽地の一角にある小さな公園。
休日に私の家族と竜宮春樹君の家族と一緒に出掛けていた。
竜宮春樹君と二人で公園で遊んでいた私はすべり台から謝って転落した。
そこまでは憶えている。
ここからは私の推測だが、ケガをした私に竜宮春樹君が治癒魔法で治療したのだろう。そしてそのショックで、私は前世(?)のクライハートの記憶が甦ってしまった。
問題はハルシオンこと竜宮春樹君だ。
私の、乙見来羽の記憶では竜宮春樹君は今までは魔法など使えない普通の子供だった。無論、私も。
だけど今は……
私は右手に意識を集中する。すると手のひらに魔力が集まっていく。
どうやら私も今は魔法が使えるみたいだ。まぁ竜宮春樹君も使えたし。
……記憶はどうだろう?
彼はハルシオンの、前世(?)の記憶を思い出しただろうか。
「……うん、らいは……ちゃん?」
目を覚ました竜宮春樹君は私の顔を見て驚き、そして泣きながら抱きついた。
「ごめんね!僕が手を離したから……ごめんねらいはちゃん!」
号泣しながら一生懸命に謝る竜宮春樹君が健気でなんか無性に可愛い。おもわず胸がキュンキュンする。これは母性の目覚めかそれとも……
ただ竜宮春樹君はハルシオンの記憶を憶えていないみたいだけど。
私の頭に一つの考えが浮かぶ。これはひょっとして……
しばらくして、すべり台の下で泣きながら抱き合っている私達の親が驚いたように駆け寄ってきて……この後無茶苦茶怒られました。