表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃんこ転生  作者: アニマエリ
第1章 生活基盤を整えよう
3/6

3.冷静さって大切

にゃんこ、始動……!

 疲れてきたことでようやく衝動が落ち着き、最初にいた場所へと戻って横たわる。

 色んな動きを試したおかげで感じていた違和感も完全になくなり、身体に慣れることができた。


(あぁ、楽しかった……。こんなに運動能力が高いなんて!)


 満足感で上機嫌になっていると、自然にごろごろと喉が鳴り始めた。

 人間で例えるなら、鼻歌だろうか。


 心が落ち着いてきたことで、ふとあることに気づいた。何故今まで気にならなかったのだろう。

 自分に問いかけたい。

 これは非常に大きな問題だ。

 真っ先に気づきなさいよ、私。

 意識すればするほど、先程までの楽しかった気持ちが急速に萎えていく。


 その場に座り、自分の手をじっと見つめる。

 そして、爪を出す。仕舞う。出して、仕舞う。


(うん。やっぱり。これ……サイズおかしいよね?)


 何度見ても、爪だけで人の頭くらいのサイズがある。手全体を合わせれば、人の胸くらいまでありそうだ。

 そこから全体の大きさをイメージすれば――


 はい、どう見ても化け猫です。


(いやいやいやいや、確かに猫だけど!! サイズ! サイズおかしいよね?! 猫ってさ、下から見上げてくる仕草とか、そのまま小首を傾げてくるあざとさとかさ、こう……庇護欲をそそるものだよね? 真逆じゃない!!)


 見上げるどころか見下ろすことしかできないし威圧感しかない。おまけに、大人ですら頭からペロッといけちゃいそうである。これでもし可愛い見た目だったとしても、こんな巨猫では庇護欲など湧くわけがない。


(これじゃあ、たとえ近くに人里があっても降りられないし、人生イージーモードは無理かぁ。ご飯も水も、寝床も自分でなんとかしないと……。せっかく第二の人生が始まったのに即終了なんて嫌!)


 はしゃいでいる場合ではない。

 急速に頭の中が冷えていき、冷静になってくる。

 一先ず現状を分析しなければ。

 現在地は不明、地理も不明、食料や水の目処もなし。結構な時間ここに留まっているが私と植物以外に生き物はいないし、何も起こらないことを考えるとここは安全と見なしていいだろう。

 となると、安全な寝床の確保しか済んでいない。


 夜までに食料と水は見つけたいところだ。右も左も分からない状態で夜に行動するのは危険すぎる。ここに戻って来られなければ寝床すら失ってしまうので、それだけは避けたい。


 この世界の情報は何もないし、どんなところかもわからない。これからは慎重に行動しなければ。


 とりあえず明るいうちに探索してしまおう。

 戻ってこられるように、木の幹に爪で目印をつければ迷わないはずだ。


 よくよく周囲を見てみると、今いる場所はどうやら円形の開けた空間のようだ。

 入口は一つしかなく、そこ以外は巨木と巨木の間をあの歯の生えた草や蔦のような植物が侵入を防ぐかのようにびっしりと生えている。

 試しに近づいてみると、蔦がさらに上に伸び、歯の生えた植物が一斉にこっちを向いた。

 中には、威嚇なのか噛み付くつもりなのか、歯をガチガチ鳴らしている個体もいる。


 どうやら、入口以外からは出られないし外からの侵入もできないようだ。

 噛まれてまで通りたいとも思わないし、変な病気を貰っても困る。

 大人しく入口から出ようとそっちへ近づくと、リーンという澄んだ音が鳴った。


(なんの音? 頭に直接響くような……)


 辺りを見回すが、何も無い。

 そーっともう一歩踏み出してみると、何かをくぐり抜けた感覚があった。

 不思議な感覚に驚いていると目の前の空間がぐにゃぐにゃと歪み、渦を巻いていく。アニメや漫画の世界に出てくるワープゲートのようだ。

 しばらくして渦が落ち着くと、目の前には森が広がっていた。右を見ても左を見ても木しか見えない。視覚がだめなら嗅覚で、ということで匂いで近くに何かないかを探ってみるが、土と木の匂いしかしない。


(やっぱりそう都合よくはいかないか……)


 じっとしていても仕方ないので、先ずは探索だ。

 とはいえ、闇雲に動き回っても体力を消耗するだけで目的の物が見つかるかどうかはわからない。

 どうしたものかと悩んでいると、三つの光の玉がふよふよと漂い始めた。

 黄色や緑、赤と信号機のようである。


(なにこれ? 人魂……?)


 光の玉は私の周りをただ漂うだけで攻撃してくる気配はない。危険はなさそうなので無視しようとしたところで、


『ぬしさまでてきた!』

『わ〜、おっきい!』

『やっとあえたよー!』


 小さな子供のような声が光の玉から聞こえてきた。

 光の玉が喋ったのでびっくりした。しかも突然主様と呼ばれて何が何だかわからない。


(主様って、私……?)

『そうだよー! ぬしさまいがいにぬしさまいないよ?』

『わたしたち、まってたの〜』

『たの〜』


 まさか、頭で思ったことに返事が返ってくるとは思わなくてびっくりした。これは迂闊に思考しないようにしなければ、と警戒していると、光の玉たちは嬉しそうに私の周りをくるくると回り始めた。無邪気な声と動きでなんだか癒される。


 害が全然なさそうなのでだんだんと警戒心が解れてくる。ちょっと可愛く見えてきた。ただ、初対面で光の玉たちから主様と呼ばれる心当たりがないので、人(猫?)違いなのではないのだろうか。

 

(待ってたって言われてもよくわからないし、私、主になった覚えないんだけど……)


『ぬしさま、ぼくたちきらいなの?』

『そうなの……?』

『きらいなの……?』


 光の玉はそれぞれ悲しそうな声でそう言うと、しょんぼりしたようにどんどん下降していく。

 なんだか、物凄い罪悪感。

 出会って数分で好きも嫌いもないけれど、子供の声かつ見てわかるくらいに悲しそうにされると堪えるものがある。


(き、嫌いじゃないよ! だからそんなに落ち込まないで、ね?)


 慌てて弁明すると、顔がないはずの光の玉たちが物凄く笑顔になった気がした。ふよふよと上昇してくると、


『ほんと? ぬしさま、すきー』

『わたしもー!』

『わーい』


 光の玉たちは嬉しそうにまた私の周りをくるくると回り始めた。

 なんだか、憎めない子たちである。

 敵意がないどころか物凄く好意的なので、これはチャンスかもしれない。この子たちから情報を得れば、森をあちこち彷徨わずともスムーズに事が進むかもしれない。


(ねぇ、食べ物と、水が欲しいんだけど、場所わかる?)


『わかるよ! あっち』

『ちがうよ、こっち!』

『こっちだよー』


 一瞬考えるように止まったかと思うと、光の玉は三つとも別々の方向へふよふよと漂っていく。

 左に赤、真ん中に緑、右に黄色だ。ある程度進んだところで私が一歩も動いていないことに気づいたのかその場に止まる。顔がないからわからないが、こっちを振り返ったような気がした。


『こないの?』

『きてくれないの?』

『こっちにあるんだよー?』


 それぞれ妙に悲しそうな声で話しかけてくるが、どうしろというのだろうか。身体は一つしかないのでさすがに三方向には向かえない。


(さすがに全部には行けないから、一ヶ所に絞れないかな?)


 そう問いかけると、真ん中の道に浮いていた緑の玉に他の二つが集まった。


『ならこっち』

『しかたないなぁ』

『いいよ〜』


 あっさりと意見がまとまったようだ。

 それなら最初から一ヶ所にしてほしい。悪気はないようなので尚のこと困る。

 ちなみに、最初に必ず喋るのは緑、次が赤、最後が黄色の玉だ。順番でも決まっているのだろうか。


 光の玉に連れられて、森の中を進んでいく。来た道がわかるように、きちんと木に目印もつけていく。


 数十分ほど歩き続けると、微かに空気が変わったのを感じた。空気が湿り気を帯びており、僅かに湿度が高い。水辺が近いようだ。

 五感が鋭くなった影響か、水の匂いを仄かに感じてまた感動する。


 やがて森を抜けると、そこには巨大な湖が広がっていた。


(うわぁ、すごく綺麗……!!)


 湖面は陽の光を反射してキラキラしており、色も湖の底が見えそうなくらい澄んでいる。

 こんなに綺麗な湖を見たのは初めてだ。


『おみずだよ!』

『とっておき!』

『おいしいよー』


 川が見つかればラッキーくらいに思っていたのが、光の玉達のおかげでまさかの湖に辿り着くことができた。

 生前でも見られなかった美しい光景にしばし目を奪われていると、隣から『のまないの?』と聞こえてきた。


(ありがとう、すごく助かった!)


 お礼を言って、湖に近付いて体勢を低くする。

 顔を湖面に近づけると、自分の顔が映った。輪郭がぼやけているのは仕方ないが、ようやく自分の顔を拝むことが出来た。


(――猫……? うん……猫、だね。猫は猫だけど、なんか違う……!! )


 猫というよりは、正しくはネコ科。

 凛々しい顔つきは可愛いというよりはかっこいい寄りで、トラと狼を混ぜて割りましたみたいな感じだ。立派な牙もある。

 まじまじと顔を見つめていると、光の玉たちがもう一度『のまないのー?』と聞いてくる。


 いけない、いけない。

 さて。どう飲んだものか。

 といっても直飲み一択なのだけれど。

 いくら綺麗とはいえ、生水はやっぱり怖いものがあるので、恐る恐るひと舐めする。舌先から冷たい感触が伝わり、掬いとった水が舌を伝って喉を潤していく。冷たくて美味しい。

 目覚めてから何も口にしていない上にはしゃぎ回ったこともあり、一度水分を体内に取り込むと急速に喉の渇きを感じてきた。色々とそれどころじゃなかったため自覚していなかったようだ。

 一度飲み始めるともう止まらない。

 気づけば私は一心不乱に水を飲み続けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ