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7. 聖女じゃありません

「病気の原因から直しておきましたので、再発の恐れもないですよ。」


 と私。その後家族が抱き合って涙ながらに喜んでいた。


「トモミさん、本当にありがとう。」


 感激したサマンサさんが抱きついて来たので、チャンスを逃さず小声で、


「心臓の方も直しておいたので安心してください。」


 と言っておいた。


「どうして分かったんですか!? まさか聖女様?」


「聖女?」


「ええ、神より特別な力を与えられ、あらゆる怪我や病気を治す事ができたと伝えられているお方です。」


「いえ、違いますよ。悪いところも魔法で分かるんです。」


「いいえ、お隠しになっても無駄ですわ。こんな事が出来るのは聖女様以外考えられません。聖女様が遣わされたと言うことは、もしや魔王が再び現れるのでしょうか?」


「大丈夫です。私は聖女じゃありませんから魔王も現れません。」


「そうですね、私達などに話せるわけがありませんよね。」


 ダメだこりゃ、人間信じたいことを信じると言うが真実の様だ。その時コトラルさんの爆弾発言が重なった。


「トモミさん、ありがとうございます。お礼に私ダンジョンでは命をかけて頑張りますから。」


「コトラル! どう言うこと?なぜあなたがダンジョンに潜るのよ?」


「だってトモミさんがチームになってくれるって言ったもの。」


「コトラルさん、あの話はトムさんからの誘いを断る為の言葉の綾です。それにコトラルさんにはダンジョンに潜る理由が無くなりましたよね。」


「「エッ、連れて行ってくれないんですか?」」


コトラルさんとアルトくんの声が重なった。


「ダメです。ダンジョンは危ないんです、理由もなしに行くべきではありません」


「でもダンジョンはひとりでは入れてくれないですよ。」


「それは...他の強そうな人を探すから大丈夫です。とにかくあなた達はダメです。」


それを聞いたサーシャさんが ハイ! という感じで手を上げる。


「聖女様、それなら私が行きます!私のチームとセットでお願いします。」


「姉さんずるい!!」


「だから聖女じゃ無いですから。」


「あの、聖女様。私ではいかがですか? これでも元はAクラスの冒険者だったんです。目さえ見えれば子供達には負けません!」


「「母さんまで!?」」


 やばい、家族全員が脳筋だ!とにかく逃げよう。


「あの~、急用を思い出したのでこれで失礼しますね。」


 と言った途端、サマンサさんが私の右手をガシッと握った。同時にコトラルさんとアルト君が左手を握る。そしてサーシャさんが後ろから私の両肩をガッシリと掴む。


「聖女様、まさか私達以外の人とダンジョンに潜るなんて言わないですよね...。」


 とサマンサさんが低い声で言う。私は恐怖に震えあがった。


「ひゃい!」


 思わず声が出た。この人達怖い!


「ありがとうございます。私達家族で聖女様をしっかりとサポートさせて頂きますね。」


 にっこり笑ったサマンサさんの言葉になぜか鳥肌が立つ。


「それでは、いつからダンジョンに潜りましょうか?」


「どうせ潜るなら、オルネイのダンジョンがいいよね。あそこが一番大きいし。」


「ねえ、ねえ、私達も行ってもいいよね。」


「あら、コトラルとアルトはダメよ。まだFクラスなんでしょう?」


「そんなのずるい! 母さんと姉さんと一緒なら大丈夫だよ。」


「じゃあ、ちゃんと言うことを聞くと約束するのよ。」


「「はい、分かりました。」」


 ちょっと待て~!!! なんで勝手に決めるの? 私の意志はどうなったの?


「皆さんお話があります。少しお時間を頂きますね。」


 それから私は皆を座らせこんこんと説教した。だって、なんで危険なダンジョンに理由も無しに入ろうとするのよ。それも子供達を連れて。何かあったらどうするんだ。親として問題はないのか。子供達も子供達だ。なんでそんなに自分の命を粗末にしようとする。聖女がどうかは知らないけど、少なくとも神はそんなこと望んでないぞ! と。なんといっても私は年齢1万歳越えなんだ、年長者として説教くらいしても許されると思う(年齢にふさわしいだけ心が成長していないと感じるのはきっと気のせいだ。)。

 しかし、サマンサさん達も強情だった。頑なに私と一緒にダンジョンに行くといって譲らない。人として受けた恩を返すのは当たり前で、その為には多少の危険を冒すは当然である。子供達にもそう教育しているとのこと。人としての矜持の問題らしく、それは私が聖女であってもなくても関係ないとのこと。結局、サマンサさんの押しに負け、私がダンジョンに入るのには協力してもらうが、下層に向かうのはコトラルさんとアルトくんの訓練をして、大丈夫と判断できたらと言う事になった。その後サマンサさん家族の家で夕食をご馳走になり、宿の自分の部屋にたどり着いた時にはなぜか精神的に疲れ切っていた。大変な家族と知り合いになってしまったのではないだろうか。


 翌日はアンジェラさんに教えてもらったダンジョンに入る為の装備を購入に回る。ローブは今身に着けているので大丈夫との事だったので、後は食糧と短剣、閃光弾と発光球かな。まずは短剣を買いにアンジェラさんから教えてもらった武器屋へ出向く。町はずれにある小さな店だ。ギルドの近くにもっと大きな店があったはず、アンジェラさんの知り合いの店なんだろうか。

 店に入ると小さな店内に大剣からナイフまで所狭しと色々な武器が並べられている。でもどうせ私には詳しいことは分からない、冒険者としての外見を整えるためだけだから安物で良いかな。


<< こんにちは~ >>


 と声を掛けると店の奥から背が低いけどがっちりした体格のおじさんが出てくる。惑星ルーテシアのドワーフ族に似ているな。もっともこちらの方が筋肉隆々で強そうだけど。


<< すみません、短剣を見せて頂けますか。>>


 と私が言うと、黙って店の一画にある短剣が並べられているコーナーを指さした。勝手に探せということらしい。それならばと、私は安そうなものを探す。樽の中に一杯短剣が差し込まれているがこれらが一番安そうだ。適当に1本引き抜いてみると1,000ギニーと値札が付いている。棚の上に置かれている10,000ギニーの短剣と見比べてみるが握りの部分の装飾が違うくらいで特に違いが分からない。もうこれで良いか、どうせ使わないしね。

 

<< すみません、この短剣を頂きます。>>


 店主さんは私が持ってきた短剣をひと目見て、


「何に使う?」


 と聞いてきた。


<< ダンジョンに潜るのに持って行きます。>>


「バッカモノ~~!!!」


 すごい声で怒鳴られた。不覚にもヒッと声が出た。思わず逃げ腰になる。


「そんな安物を持ってダンジョンに行ったらすぐ死んじまうわい!」


 すごい剣幕、怖い!


<< ご、ごめんなさい~~。>>


 と言って思わず店から逃げ出した。われに返って手をみると安物と言われた短剣を握ったままだ。しまった、お金を払わずに持ってきてしまったよ。この町の兵士に通報される前に店に返さないと。引き返して恐々(こわごわ)と武器屋の扉から中を覗きこむ。


「おい、とっとと入ってこい」


<< ひゃい。>>


「さっきは怒鳴ってすまなかったな。」


 あれ、怒られるかと思ったのに違う様だ。


「あの、これお返しします。」


 と言って安物の短剣を差し出す。店主の男性は剣を受け取ると、「それで、予算はいくらくらいだ。」と聞いてくる。


「予算は特に決めてないです、ダンジョンに入るとしたらどの程度のものが良いですか?」


「お前、剣を使ったことは?」


「無いです。」


「おいおい。悪いことは言わねえ、止めとけ。」


「いえ、私は魔法使いですから。」


「そうは言ってもな、魔法じゃ急にモンスターに襲われたら対応できないだろう。」


「魔法は得意ですから大丈夫です。」


「ほう、自身があるなら試してみるか?」


 と言うなり手に持っていた安物の短剣を私に向かって振りぬいた。短剣は私の身体に当たる寸前、咄嗟に張った防御結界に触れ キン! という音と共に根元からポキッと折れた。


「ホゥ! なかなかやるじゃないか。」


 いやいや、このおじさんおかしいから。普通の人はお客さんにいきなり切りつけたりしないからね。おじさんの手元を良く見ると剣の刃の方ではなく腹の部分を当てに来た様だから私を殺す気は無かったとは思うが、それでも剣が折れるほどの打撃となると良くて打撲で青あざ、悪くすれば骨折するレベルだったんじゃないだろうか。大丈夫かこの店?。


「アンジェラにダンジョンに行くやつがいたら止めてくれと言われてたが、これじゃやめろとは言えねえな。」


 アンジェラさん、あなたの差し金ですか!?


<< 認めて頂けますか。>>


「おう、おめえなら大丈夫そうだ。だが安物は止めとけ、こんな風にすぐ折れる。」


 いや、折ったのはあなたなんですけど。まさか折れた剣の料金も払えとは言わないですよね...。


「そうだなこれなんかどうだ、驚かした詫びにまけとくぜ。」


 そう言いながら、先ほどの10,000ギニーの短剣を持ってきた。


「鞘と剣を吊るすためのベルト込で8,000ギニーでどうだ。」 


 払えない額ではないが、先ほど驚かされたからか今一納得できない。どうせ使わないのだから他の店で安物を買っても良い気もする。


「おい! まさか他の店で買おうなんて考えてねえよな!」


「ひゃい!」


 どすの利いた声で言われ、思わず答えてしまった。


「よし、7,500ギニーに負けてやる。これ以上は負けねえからな。」


「わ、分かりました。」


 買ってしまった...。私こんなに気が弱かったかな、ハルちゃんが乗り移ったのかも。悔しいような、嬉しいような気持ちで短剣を受け取り店を後にした。


 その後、保存食や閃光玉、着替え等を買い込んだ。発光球は光魔法で代用できるので買わなかった。その後はギルドの食堂で急いで食事しながらコトラルさんとアルトくんが日課の薬草採取から帰ってくるのを待って一緒にコトラルさん達のお宅に向かう。ダンジョンに向かう打ち合わせをする予定なのだ。


 コトラルさんとアルトくんのふたりと話しながら角を曲がった途端、私の手から杖が叩き落とされた。驚いて前を見るとトムさんが私に剣を突きつけていた。彼が私の杖を剣で叩き落としたようだ。杖までは結界で覆っていなかったから剣を弾けなかった。トムさん以外にも3人の仲間がいる。トムさんのチームだろうか。


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