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5. Fクラス冒険者の双子

「こんちゃ、おめえちゃもやくさうさがいてるか?」


 と女性が声を掛けてきた。若いというより幼い声だ。10代半ばかなと思う。うん、何と言っているのか分からない。仕方が無い念話で話をしよう。


<< こんにちは、冒険者の仮登録の課題で薬草採取に来ました。>>


「あら、念話なの? すごいけどどうして?」


<< この国の言葉が分からないもので。>>


「そうなのね。私達はFクラス冒険者で、私はコトラル、こっちは弟のアルトよ。よろしくね。私達も薬草採取よ。」


「アルトだ。弟といっても双子だから同じ年だからな。」


<< トモミです。よろしくお願いします。>>


「仮登録の課題ということは、冒険者登録したばかりなの? それじゃ薬草の探し方は分かる? よかったら教えましょうか?」


<< ありがとうございます。でも大丈夫です、故郷でも薬草採取はしてましたから。>>


「そうなの、小さいのにすごいわね。」


 コトラルさんは結構お節介焼きなのかも。 それと私は身長が低いから13歳という身体年齢より幼く思われているのかもしれない。それからふたりとは別れて私はワプス草の群生地に向かった。しばらく進むとさっそく1本目を見つける。それを摘み取り更に10メートル歩くと2本目、更に少し進むと10本がまとめて生えていた。簡単簡単、探査魔法を使うのは他の冒険者に対してズルい気がするが許してほしい。こちらは本職の冒険者になるつもりはないのだから。30分くらいで目標の50本を採取を完了する。

 さて帰ろうかと思った時、 グォォォォ~  と獣の咆哮、それにコトラルさんとアルトくんの叫び声が聞こえた。声のした方を見ると100メートルほど向こうでトラの様な獣とコトラルさんアルトくんが対峙していた。コトラルさんが弓矢、アルトくんが剣を手にしている。彼女達も薬草採取に来たと言っていたから偶然出会ってしまったのだろうか。冒険者だから戦いの心得はあると思うが、対峙しているトラは体長2メートルはある。このふたりで大丈夫かな?。

 助けるかどうか迷いながらも、いつでも飛び出せるように身構える。しばらく睨み合っていた両者だが、突然トラが一気に駆け出し距離を詰める。5メートルくらいまで接近したところでコトラルさんが矢を放つが、トラはそれを見越していた様に跳躍して矢を避けると同時にアルトくんに襲いかかった。アルトくんは剣を振り下ろすがさっと身を躱される。コトラルさんが矢を射ろうとするが、アルトくんに当たりそうで射ることができない。アルトくんはトラに向かって「来るな! 来るな!」と言いながらめちゃくちゃに剣を振り回しているが完全に腰が引けている。これはダメだ! と私の直感が告げる。

 私は瞬間移動でアルトくんの傍に転移し防御結界を張る。いきなり現れた新手にトラは一瞬戸惑った後アルトくんに向かって跳躍した。空中で防御結界に触れて弾き飛ばされたが、飛ばされた方向にはコトラルさんがいる。着地したトラは狙いをコトラルさんに変え一気に飛びかかった。突然のことでコトラルさんは対応が取れない。これは捨て置けない! 私は咄嗟に破壊魔法を使かう、途端にトラの頭部が吹き飛んだ。


「なっ!」


 アルトくんが驚いて声を上げる。


「おまえすげーな。」


<< 御免なさい、勝手に手を出してしまいましたが良かったでしょうか? >>


「いやいや、助かったって。それにしても瞬間移動に防御結界に攻撃魔法を立て続けにってなんだよ。それで冒険者に仮登録中って規格外もいいとこだろ。」


「トモミちゃん、ありがとう助かったわ。私ここで死ぬかと思った。」


<< お役に立てて良かったです。それでは私はこれで失礼しますね。>>


「ちょっ、ちょっと待ってよ。このトラを倒したのはトモミなんだからトモミが懸賞金を貰わないと。」


<< 懸賞金ですか? >>


「そう、トラを退治するとギルドから懸賞金が出るのさ、1頭あたり5,000ギルだったかな。」


<< でも私仮登録中で正式な冒険者じゃないですよ。>>


「それは大丈夫、冒険者でなくてもトラを退治すれば懸賞金が出るからな。皮や肉も売れるんだ。この大きさだと持って帰るのは大変だけど、3人なら何とかなるか。」


 いやいや、体長2メートルのトラだよ。おまけに頭部が吹き飛んで血まみれだよ。こんなのに触りたくないよ(やったのは私だけど)。でも断るとまずいかな。このふたりに譲るといってもふたりでは運べないだろうし。仕方が無い。


<< 大丈夫です。収納魔法で運べますから。>>


「おいおい、いったいいくつ魔法を使えるんだよ。」


<< そうですか、私の国ワプスでは普通ですよ。>>


「ワプス王国か、優秀な魔法使いが沢山いるって本当だったんだ。」


 よかった簡単に騙されてくれた。武器屋のおばさんからはワプス王国には念話が使える魔法使いが沢山残っていると聞いただけなので後でぼろが出ないことを祈る。 その後3人でギルドに戻りながら色々と話を聞いた。ふたりは3人姉弟でお姉さんが居るらしい。姉も両親も冒険者だが、父親は既に亡くなっており、母親も目を悪くして冒険者を引退して家に居るらしい。


「あの、トモミちゃんもダンジョンに行くのかな。」


 とコトラルさんが話しかけてくる。


<< ええ、そのつもりです。>>


「それなら私達とチームを組んでもらえない? 実力では釣り合わないかもしれないけれど....。」


<< でもギルドの人がダンジョンはとても危険だって言ってました。失礼だけどコトラルさんとアルトくんの実力では危なくないですか。>>


「それは分かってるさ、でも母さんの目を治すにはダンジョンでモンスターがまれにドロップするという万能薬が必要なんだ。」


 とアルトくんが言う。なるほどお母さんのために危険を覚悟でダンジョンに入るつもりだということね。


<< それだったら私がお母さんの目を治します。>>


「治してくれるって? まさか回復魔法まで使えるのか!?」


<< ええ使えます。回復魔法は一番の得意魔法です。>>


「すごい! 是非お願いするぜ!」


「でも私達あまりお金がないの。母さんの目を治してくれたお礼は少しずつ払うのでも良い?」


<< お礼は要りませんよ。今日知り合ったのも何かの縁ですからね。>>


「そんな訳にはいかないわ。恩を受けたら必ず返せというのが我家の家訓なの。いつか絶対に恩返しするから。」


 とコトラルさんが勢い込んで言う。そうだ、それならあの件をお願いしてみよう。


<< ええっと、それでは、もしよければなのだけれどコトラルさんの頭の中にあるこの国の言葉の情報をコピーさせてもらえませんか。>>


「言葉の情報???」


<< ええ、そんな魔法があるんです。このとおり私はこの国の言葉を話せないでしょう。だからコトラルさんの頭の中から言葉に関する知識を自分の頭にコピーするの。もちろんプライバシーに関わることはコピーの対象外よ。アルトさんでも良いのだけど男と女では少し言葉が違うから、できればコトラルさんの方がありがたいです。>>


「分かったわ、私でよければ。」


 コトラルさんは少し迷った様だが了承してくれた。ありがたい!私はお礼を言ってからコトラルさんの頭に手を置く、隣ではアルトくんが心配そうに見つめている。ほんの10秒でコピーは終了した。


「はい、終わりましたよ。」


「えっ、もう? ....って喋ってるし。」


「ありがとうございました。これで念話で話して訝しがられずに済みます。」


「凄い、まるでこの国に生まれた様に流暢に話している!」


「便利な魔法なんです。でも師匠から門外不出の魔法と言われていますので口外なしでお願いしますね。」


 2人の了承を得て私達はギルドに向かった。昇格試験まで間がないので、まずは課題達成の報告だ。コトラルさん達は私の試験終了を待ってくれるらしい。その後コトラルさん達のお母さんの治療に向かう約束だ。


 ギルドの扉をくぐるとアンジェラさんが待っていた。慌てて課題のトプス草を取り出す。短時間に課題をこなしたことを確認してアンジェラさんが少し驚く。


「驚きました、課題は達成です。もうすぐ試験が始まりますのでこのまま試験場に向かってください。」


<< 遅くなってすみません。>>


 いきなりこの国の言葉を話すと怪しまれるのでここは念話で通す。


「いえ、大丈夫です。ギリギリ間に合いました。それと仮登録の課題をこなされたので正式な冒険者と成ったわけですが、時間の関係で冒険者証は試験後にお渡ししますね。試験の結果次第ではクラスが変更になる可能性がありますしね。」


 了承するとすぐに魔法の練習場へ案内された。中では試験官らしき男性が待っていた。杖を持っているからこの人も魔法使いなんだろう。


「受験生のトモミさんですね。試験官のトスパです。」


<< はい、トモミです。よろしくお願いします。>>


「ええっと、Fクラスでそれも今日登録したばかりですか。登録後すぐに試験とはよほど自信がおありのようですね。」


 と丁寧な口調で言われる。まあ皮肉なんだろうな。


<< はい、魔法なら少し自信があります。>>


 と返すと、眼光が鋭くなる。生意気なやつと思われただろうか。


「それでは早速始めましょう。やり方は簡単です。向こうにある的に全力の攻撃魔法を打ち込んでください。魔法の威力と狙いの精度で判定します。」


 と言って100メートルほど離れたところにある的ん差し示し示す。ふむ困った、全力なんか出したらこの星が無事では済まない。手加減するにしてもどの程度の威力なら常識内なのか分からない。


<< 先生、見本を見せてもらってよろしいですか。>>


 と言いながらトスパさんを上目使いで見つめる。昔マリコに教えてもらった色仕掛けという奴だ。


「不要です。全力でやれば良いだけですから。時間が遅くなっていますから急ぎましょう。」


 マリコの嘘つき全然効かないじゃない。いや、もともと私じゃ無理だったか。


 仕方が無い適当にやるしかないな。的は岩に塗料で3重に丸を書いた簡単なものだ。一番大きな丸で直径1メートルくらいか。岩には沢山の傷があるから繰り返し使われているのだろう。とすると的を破壊したらまずいだろうな。かといって威力がなかったら合格しないだろうし手加減が難しい。的のど真ん中を狙って、岩を30センチメートルくらい削るつもりで...。


「早くしてください!」

 

<< ひゃい! >>


 トスパさんが急かすから勢いで破壊魔法を発射してしまった。


 ドガーーーン!!!


 もちろん的として使われていた岩は綺麗に破壊され影も形もなくなった。いや、被害が的だけで済んでホッとしたよ。 恐る恐るトスパさんに目を向ける。トスパさんは口をあんぐり開けて硬直していた。まずいなあ...。


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