20. ライルさんからの依頼
それから1年ほど経ち、ハルちゃんの魂のコントロールもかなり上達した。これなら近い内にアバターに魂を移せそうだと喜んでいた時だった。リリ様から突然呼び出され、リリ様の元に転移すると誰かがリリ様と一緒にいる。ライルさん?
<< 皇帝ガープによって元の次元に戻された銀河を代表して下級神のライルさんから正式に依頼がありました。ガープを倒したトモミさんに彼らの銀河の上級神として来てもらえないかとのことです。>>
ライルさん、諦めてなかったのか! 冷静に考えれば私なんかが上級神になっても何の役にも立たないと分かるだろうに。
<< あの~。私に上級神なんて務まりません。私なんかよりはるかにふさわしい方が中級神の皆様の中におられます。>>
<< まあ、ここだけの話トモミが上級神に向いていないのは同意するわ。いざと言うときに冷静に成れず感情で動くし、部下に対しても他の人に対しても冷酷に成れないし、交渉事が苦手ですぐに人を信用するし、頭の回転は遅いし、向上心に乏しくてお酒を飲んでぐうたらしてるのが好きだしね。それに上級神になんか何の魅力も感じていないでしょうね。>>
とリリ様が言う。言っていることは間違っていないが、それって完全に私をディスってるよね。
<< でもね、トモミは誰に対しても公平で、優しくて、無欲で、皆から好かれていて、沢山の神が助けてあげたいと思っているの。だから上級神になってもひょっとしたらうまく行くんじゃないかと思う。>>
ちょっと待ってくれ! 意味が分からんぞ! リリ様は何が言いたいんだろう?
<< 何よりライルさんは困っている様よ。話だけでも聞いてあげたら? >>
えっ、ライルさんが困っている?
<< ライルさん、どうされたんですか? まさか新たな超越者がやって来たんですか? >>
<< トモミ殿、そうではない。だが問題があるのも事実じゃ。恥ずかしい話だが、トモミ殿のお蔭でアバターを本体にして自由に動き回れる様になった下級神の中には自分が銀河のトップに立とうと考える者が何人かおる。その者達が仲間の下級神とともに互いに争いを始めそうなのじゃ。>>
なにそれ? 世界の秩序と平和を守るべき神として情けないじゃないか。
<< 争いを止めるには誰もが納得できる神に上級神になっていただくのが一番じゃ。>>
<< それが私なんですか?? >>
<< そうとも! 皇帝ガープを倒した功績、それに何よりその魔力! トモミ殿が上級神になっていただけるなら文句を言うものはおらぬよ。>>
<< トモミ、あなたを上級神に推すもうひとつの理由はその魔力よ。既に私をはるかに凌駕しているわ。その魔力で私の下に居ると私が無理やりあなたを抑え込んでいると思う神がでてくるの。>>
<< ええっ! まさかリリ様に対してそんな不敬なことを考えるなんてありえません。>>
<< まあ、私の妄想かもしれないけどね。でもあなたの魔力が私より上に成ったのは事実よ、だったら中級神のままにしておくわけにはいかないのよ。分かってちょうだい。>>
確かに私の魔力は皇帝ガープの魂の力を取り込んで飛躍的に上がった。もっともこれは一時的なドーピング状態なのだと思っている。ガープは魔法を使う度に魔力が下がっていった。私も魔法を使っていればいずれは元の状態に戻るのだろう。もっとも元の状態でもリリ様の魔力に匹敵するのは確かだが。いやいや、だまされるな! 中級神でもふさわしくないと思っているのに上級神なんてとんでもない。
<< ちょっと待って下さい。やっぱり私に上級神なんて無理です。それに私はまだ1万歳とちょっとです、神としては新米も良いところです。無理です、勘弁してください。>>
ライルさん、そんな残念そうな顔してもだめですからね。私だって自分が出来ることと出来ない事の区別くらい付くんだから。
<< ライルさん、申し訳ありませんがトモミは気が進まない様です。今回はあきらめてもらえませんか? >>
<< そんな...。トモミ殿お願いいたす。我らを見捨てないで下され。神々の間で争いが起きれば必ず沢山の惑星の罪もない人族に被害が及ぶ。トモミ殿だけが頼りなのじゃ。>>
ぐぐっ、痛いところをついて来る。正直神々が勝手に争うのはどうでも良いが、そのとばっちりが罪もない人達に及ぶのは見過ごせない。でも、でもだよ私が上級神に成る以外に戦いを避ける方法は無いの?
<< すみません。少し考えさせてください。>>
きゃぁ~~~、言っちゃった! でもこの場から逃げるにはこれしかなかったんだ。
<< トモミ殿、良い返事をお待ちしておるぞ! >>
いえ待たなくても良いです、とは言えずすごすごとリリ様の元を辞する私。
<< ねえ、ハルちゃん。どうしょう、どうしたら良い? >>
<< 落ち着いて。トモミのやりたいようにすれば良いんだよ。>>
<< そんなこと言ったって分からないよ。私が上級神に成ったってうまく行くはずがないし、でもこのままだと争いが起きると言うし、本当は私なんかよりずっとすごい神が上級神になってくれれば良いのよ。そうだお義母様なんてどうかしら。>>
<< 残念ながら母は惑星を離れられないよ。この銀河の下級神は皆そうだよ。銀河を跨いで引越となったら中級神でも気軽には無理だからね。>>
しまった。こんなことならこっちの銀河の神々にもアバターに魂を入れる方法を伝えておくんだった...。と今更ながら後悔する。
<< そうだリリ様にふたつの銀河の上級神になって頂ければよいのよ。この銀河を元の次元に戻してふたつの銀河を合わせてリリ様が統括するの。すごい! 我ながら名案だわ! リリ様ならきっとアバターに魂を移すなんてお茶の子さいさいよ。 >>
<< トモミ、いくらリリ様でもいきなりは無理だと思うよ。それにトモミの方が魔力が大きいからというのもあるんだよ。>>
<< それは大丈夫。私がリリ様に魔力を譲渡すれば良いのよ。ガープから魂の力と一緒に流れ込んできた知識の中にその方法があったの。ガープはラースさんから度々魔力の譲渡を受けていた様よ。>>
勢い込んでリリ様に直訴するが、<< 彼らが上級神として望んでいるのは私ではなくトモミなのよ。>> と冷たく拒否された。リリ様のいじわる...。
<< でもね。トモミの話を聞いてひとつアイディアが浮かんだの。トモミがライルさんの銀河の上級神になるのは変わらないとして、その後でこちらの次元に引っ越して来ない。銀河の瞬間移動はさすがにトモミひとりでは無理だけど私とふたりなら出来ると思うの。私がアバターに魂を入れてそちらに手助けに行くわ。こちらの次元に来たら銀河の管理に関してのアドバイスも出来るしね。それに正直な所、元の次元にいるのは危険だと思うのよ。トモミの話によると、超越者は滅んだとしても高位の次元には皇帝ガープが逃げざるを得なかった何者かがいるわけでしょう。その何者かが超越者の様に私達の次元にやって来ないとも限らない。ひとつ下の次元に移動しておくことは完全ではないけれど上位次元から来るものに対抗する手段になると思うの。>>
そう言われればそうだった。皇帝ガープは戦いに敗れて私達の元の次元に逃げて来たんだ。あの皇帝ガープが逃げざるを得ない相手なんて想像がつかない。高位次元恐るべしである。
<< そうですね。確かにこっちの次元に来た方が安心ですよね。>>
<< 決まりね。じゃあ私が向こうに行くまでに神々の同意を取り付けといてね。こういうことは手を抜くと後で不満が出るからね。トモミの上級神としての初仕事ね。>>
<< はい、分かりました....って、ええっ、私、上級神になることで決定ですか? >>
<< あら、たった今同意したじゃない。ライルさんトモミが上級神になることに合意してくれましたよ。>>
<< おお、トモミ殿感謝いたす。これで我らの銀河も救われる。>>
ライルさんが待ち構えていた様なタイミングで現れた。さては図ったな! それからライルさんとリリ様に口々にお礼を言われ断るタイミングを完全に閉ざされた。策士リリ! 恐るべき相手だ。上級神にはこのくらいの腹芸が必要不可欠なのか...。
そんなわけで、私の上級神への昇進はなし崩しに決まってしまった。つくづく自分はNoと言えない日本人なんだと自覚する。もちろんライルさん達を見捨てたくないという気持ちもある。私は関係者や友人に急いで挨拶をすると、ライルさんの先導で私達の銀河が元あった上位次元に再び旅立った。惑星ルーテシアにはリリ様にお許しを貰って新たに神に成ったばかりの新人に赴任してもらい、女神代行官のアレッサさんとの顔見世も済ませた。いきなり私が居なくなるとアレッサさんが困るだろうからね。新人の神は惑星カーニンで彼女が筆頭魔法使いだった頃に知り合いに成ったトリエンさんだ。生まれ変わって無人の惑星で神に成ったばかりだったから喜んで来てくれた。




