15. 魔王との一騎打ち
「ほほぅ。望む所だ!」
ライネルさんに気力が蘇った。
「ただし、戦う場所は宇宙空間です。付いて来て下さい。」
私はイースちゃんに向かって一言「ごめんね」と呟いてから瞬間移動で宇宙空間に移動した。ライネルさんも後をついて来る。私は何回かに分けて瞬間移動を繰り返し銀河系から距離を取った。瞬間移動を何回かに分けたのはライネルさんが付いてこれるかどうか心配だったからだ。
<< ここは次元ゲートがあった場所、すなわちラース様が最後を迎えられた場所です。私達の戦いにふさわしい場所だと思いませんか? それでは始めましょうか?>>
と念話でライネルさんに呼びかける。
<< いつでも良いぞ >>
相手の了承を確認し、私は例によって手の平の間に魔力を溜め始める。その間にライネルさんが攻撃魔法を放ってくるが結界で防御する。私が溜めた魔力で破壊魔法を撃つとライネルさんは瞬間移動で回避した。攻撃するまでにこれだけ時間をかけていたら避けられて当たり前であるが、私の狙いは別にある。瞬間移動を連発させて相手の魔力を削ぐのだ。正直な話、私は対人戦闘の経験がほとんど無い。そんな私がいかに頑張ったところで戦闘訓練を積んだ人の技には勝てないだろう。だとしたら勝機は私の魔力量だ、これだけは自信がある。だから相手に魔力を使わせて自滅を狙う。せこいと言われるかもしれないが私が勝つためにはこれしかないだろう。その後は通常の破壊魔法を混ぜながらとにかく手数を放つ。ライネルさんも攻撃してくるがこちらは防御結界で防ぐだけだ。ライネルさんは毎回瞬間移動で避けている。私の破壊魔法が強力で防御結界では防げないと判断したのだろう。瞬間移動は結構魔力を使う、私も強力な破壊魔法を撃ち続けて魔力を消費しているから条件は同じ。となればもともとの魔力量が多い方が有利なはず。そんなことを考えていると、突然私の胸にぽっかりと穴が開いた。私の防御結界がライネルさんの破壊魔法に突き破られたのだ。やられた、魔力を強めるのではなく、目標を小さく絞り込むことにより貫通力を上げ結界を突き破ったのだろう。一瞬、ひゃっとしたがこの程度は問題ない。すぐに身体を再生して事無きを得る。もちろん穴の開いた服も修復した(そのままだと恥ずかしいからね)。さて、お返しに破壊魔法を特定の方向ではなく360度あらゆる方向に向けて放出する。案の定ライネルさんは瞬間移動で逃れようとするがそれは無理だ。面の攻撃は避けられない。その代りダメージも少ない。私の破壊魔法はライネルさんの防御結界を通過したもののライネルさんの皮膚の表面を少し焦がしただけに終わる。これで相子だろう。
さて、仕切り直しと思ってライネルさんを見る。あれ? なんだか苦しそうだ。ひょっとしてもう魔力切れを起こしたのか?
「ライネルさん、もう止めませんか?」
と問いかけてみるが返事はない。様子がおかしい、まるで心を何かに支配されたかの様に無表情で佇んでいる。驚いて神経を集中すると微かな念が伝わって来た。
<< ふふふっ、漸く捕まえたぞ。ラースの下僕よ....。>>
明らかにライネルさんの念ではない。何者かにライネルさんの精神が支配されている。
<< だれ? >>
私は思わず見えない相手に念を飛ばしていた。
<< 人に尋ねるまでにまずは自分が名乗るのが礼儀であろうが、まあ良い。私は超越者一族の皇帝ガースだ。これよりお前達の次元を支配しに参る。覚悟するが良い。>>
皇帝? ガース? まさか超越者の皇帝か? こっちに来るって? どうやって? とあたふたしているとライネルさんからとんでもない魔力が放出された。同時に何もない空間に穴が開いて行く。皇帝ガースが次元ホール作るのにライネルさんを通して魔力を送っている。無茶なことを!明らかにライネルさんの魔力許容量を超えている。このままではライネルさんの身体が保たない!
どうする? どうする? どうしょう? とあわあわとする私。だが、ライネルさんの苦しそうな顔を見た途端心が決まった。ライネルさんに体当たりし、そのまま上位次元(すなわち私が生まれた次元)に瞬間移動したのだ。勿論ライネルさんも一緒だ。上位次元では皇帝ガースと思われる男性が驚いた顔でこちらを見つめている。ライネルさんがこちらに来てしまっては次元ホールを開けるのは無理だ。ざまあみろ!次の瞬間私はライネルさん込みで思いっきり遠くへ瞬間移動した。私の精一杯の魔力で出来る限り遠くへだ。皇帝ガースが追ってくる可能性は高いが、次元ホールを開けるのに大量の魔力を消費した直後だ、これだけ長距離の瞬間移動は出来ないかもと考えたのだ。
周りを見渡す。皇帝ガースは追って来ない。私は賭けに勝った様だ。瞬間移動した相手を追うには直ちに後を追う必要がある、もう大丈夫だろう。ホッとしてライネルさんを見る。ライネルさんは惚けた様に私を見ていたが、その内に我に返った様に声を発した。
「トモミ殿、何が起こった? ここはどこだ?」
どうやら皇帝ガースの思念に囚われてからの記憶がない様だ。私は経緯を話す。
「なんと! 皇帝が生きていただと!」
「その様ですね、この次元に逃げ延びたのでしょう。しかも再び他人の魂の力を吸収して力をつけている様です。あれを見てください。」
私は宇宙の一角を指差す。そこにはひとつの銀河が暗黒の宇宙を背景に浮かんでいた。どうやったのかは分からないが銀河ひとつこの次元に戻されている! あの銀河の人々や神々から魂の力を手に入れたのだろう。銀河の中がどうなっているか心配だが今はライネルさんのことだ。
「ライネルさんはこれからどうしますか? 皇帝の元に行くなら止めませんよ。」
「とんでもない!皇帝はラース様の名誉を貶めた張本人だ。敵対することはあっても相入れる事はない。」
「分かりました。それでこれからどうしますか、元の次元に戻るならお連れしますよ。そこで戦いの続きをしても良いですし。」
「私もそれ程恥知らずではない。助けられた時点で私の負けだ。私をどうするかはトモミ殿が決めてくれ。」
意外に素直だ。名誉を重んじるということは本来こういうことなのかもしれない。
「それでは、今後は他人の魂を利用しないと約束してください。勿論他の超越者の方も同様です。」
「それだけで良いのか? 俺達は罪人ではないのか?」
「それ以上は私だけでは決められませんが、リリ様もこれ以上のことは求めないと思います。」
「....分かった言うとおりにしよう。」
「ありがとうございます。安心しました。ただ少し付き合ってもらってよろしいですか? あの銀河がどの様な状況になっているか調べたいのです。」
「この期に及んで他の銀河の心配か? まあ良い俺は負けたんだなんでも従うよ。」
「いやなら良いですよ。先に元の次元にお送りします。」
「いや冗談だ。喜んで付き合おう。」
「ありがとうございます。それではあの銀河に瞬間移動します。」
私達は共に瞬間移動した。どうやって下位次元からこの次元に戻したのだろう。私達の銀河に同じ手を使われないためにも知る必要がある。その為にはこの銀河の上級神や中級神に接触するのが一番近道だろうがどこにいるか分からないし、超越者の監視が付いている可能性がある。下級神に接触するのも同様だがまだリスクは少ないかもしれない。なにせ下級神は数が多いのだ。全ての下級神に監視を付けるのは不可能だろう。
手近な惑星に瞬間移動し上空からこの惑星の様子を観察する。特に以上は見当たらない。山があり、森があり、村や町もある。住んでいる人達は動物の耳や尻尾を持った獣人が多い様だが人間族もいる様で私やライネルさんが降り立っても目立ちはしないと思える。文化の程度は分からないが、少数ながら自動車の様なものも走っているので低くはない様だ。この星の神に接触する為に神殿を探す。惑星全体を対象に念話で話しかける事も出来るが超越者のに発見される恐れがある。神殿でなら魔力を抑えた念話でもこの星の神に届くかもしれない。ついに大きな街で神殿の様な建物を見つけた。屋根に降り立ちこの星の下級神に出力を抑えた念話で話しかける。
<< この星の管理神様、応答をお願いします。こちらは上級神リリ様の銀河の神トモミです。>>
何度か呼びかけると嬉しいことに返事があった。
<< この星の下級神ライルだ。なんと他の銀河の神だと! >>
<< ライルさんですね。初めましてトモミです。この銀河の状況について教えて頂きたいのですがお時間を取っていただけませんか?>>
<< 分かった。何が聞きたい? >>