12. バレちゃいました
というとますます顔を真っ赤にしながら否定する。ハンスくんも誘ってくれたので同行させてもらうことにした。どうもこのふたりのことが気になるのだ。変な意味じゃないよ。超越者であるイースちゃんと人族が仲良くしているんなら、他の超越者一族も同じことが出来るんじゃないかと思うんだ。知りたいのはハンスくんがイースちゃんの正体を知っていて交際しているのか、それともただの女の子と思っているのかだ。3人だけになれば聞き出すチャンスもあるかもしれない。繰り返すが変な意味じゃないからね、人の恋路を邪魔するものは豆腐の角になんとやらと言うじゃない。
ピクニックと言うことなので、私も屋台で美味しそうな食べ物やお菓子を買い込む。向こうで分け合えば良いよね。買ったものを収納魔法で亜空間に仕舞うとハンスくんが驚いた。
「すごい収納魔法って初めて見た! どのくらいの量が入るの?」
ほぼ無制限とは言えないので困っていると、イースちゃんが助けてくれた。
「駄目よそんなこと聞いちゃ。冒険者の能力は秘密にするのが常識なんだから。」
「そうなんだ、ごめんな。」
と素直に謝るハンスくん。イースちゃんだけでなくハンスくんも良い子の様だ。ちなみにハンスくんはこの町の商人の跡継ぎ息子らしい。彼が言うには商人にとって収納魔法を持つ従業員を手に入れることはとてつもない幸運とのこと。なにしろ商品の運搬時に荷馬車が不要となり運送経費の節約になるだけでなく盗賊にも狙われにくくなる。また時間停止までついていれば食料品を痛めることなく搬送ができる、と良い事ずくめなのだ。私が冒険者でなければ従業員としてスカウトしたいところだとか。
そんな話をしながら歩いていると目的の森に着いた。森の傍にはイースちゃんが言っていた花畑広がっていた。青、黄、紫、赤と色とりどりの花が咲き誇っている。なるほどこれは綺麗だ。私が「綺麗だね。」と言うとふたりして嬉しそうな顔をしている。彼らの町の自慢の場所らしい。私達以外にも何人かのグループが花畑の中にシートを広げてピクニックを楽しんでいる。家族連れもいるけれどカップルが多い。さっそく私達も良さそうな場所を探してシートを広げ、イースちゃんとハンスくんが持ってきたお弁当と私が買ってきた屋台の料理を広げる。お弁当はイースちゃんの手作りらしい。サンドイッチに何かの肉のから揚げ、卵焼き、ハンバーグみたいなものに、焼き餃子に良く似たもの、それに例の巨大芋虫の料理だ(このあたりの郷土料理らしい)。デザートにリンゴに似たくだものも添えてある。どれも完璧とは言えないもののイースちゃんの頑張りが見て取れる。私が褒めるとイースちゃんが恥ずかしがって身体をクネクネする。
私が屋台で買ってきた料理も加え皆でシェアしながら食べる。イースちゃんの料理は見かけは改善の余地があるが味は良い。「いい奥さんに成れるよ」と言ってあげたいが余計クネクネしそうなのでやめておいた。そんなこんなでふたりの馴れ初めなんかも聞きながら食事をした。ふたりは家が近所の幼馴染らしい。超越者一族はダンジョンの最下層に住んでいるのかと思い込んでいたが、家は普通に町の中にあるとのこと。両親も一緒に住んでいて、ハンスくんの家とは家族ぐるみの付き合いとの事だ。超越者一族と人族が共存出来ているのなら、神との共存も難しくないだろうか? でも超越者一族がダンジョンで亡くなった人達の魂の力を奪っているのであれば看過できない。本当はどうなんだろう? イースちゃんに聞いてみたいが、ハンスくんの前で聞いてはまずいだろう。なんて考えていたのだが、突然ハンスくんが改まった口調で私に話しかけた。
「トモミちゃん、イースのことを黙っていてくれてありがとう。」
「どういたしまして...って、ハンスくんはイースちゃんの力を知っていたの。」
「うん知ってる。イースは超越者とかいう別の世界からこの世界を征服に来た神の末裔なんだって。」
あれまあ、ハンスくんはすべて知ってるわけですか。
「あれ、トモミちゃんは驚かないんだ。ということは、もしかして超越者についても知ってた?」
しまった。ここは驚くところだった! もしくは超越者って何? ってとぼけなければならなかったんだ。もう遅いけど。どうやら私がハンスくんがどこまで知っているのか探っていた様に。ハンスくんも私を探っていた様だ。
「まあね、私は超越者のラース様と戦ったことになっているらしいからね。」
と言うと驚くのはイースちゃんの番だった。
「まさか! 本物? 本物の戦いの神トモミなの?」
「本物よ、でも私は戦いの神じゃないからね。ラース様とも戦ったわけじゃないわ。ラース様が滅んだのは私の所為だけど、私はラース様が潜ろうとしていた次元ゲートを壊しただけよ、ラース様が巻き込まれるなんて思ってなかったの。」
「えっ、でも言い伝えでは100年に渡る長い長い壮絶な闘いの末、ラース様はついに戦いの神トモミに屈したって...。そしてこの宇宙はラース様の怨嗟に満たされ...。」
「そんなの嘘よ。戦いじゃないけど、私が次元ゲートを破壊しようとしてからラース様が亡くなるまで30分も経ってなかったわよ。」
「そんな...。ラース様ってそんなに弱かったの?」
「逆よ、ラース様は強かった。それこそ宇宙最強だったの。他の神々が束になっても勝てないって言われていた。だから私がラース様を倒したなんて嘘よ。私はラース様がこちらの次元に来れない様に必死にゲートを壊しただけ。あれは事故みたいなもの、ラース様は運が悪かっただけよ。」
「そうだったんですね....。」
とイースちゃんは考え込むように首を下げたが、次の瞬間には驚愕の目を見開いて私を見た。
「まさか! トモミちゃんがここに来たのは私達を滅ぼすため...。」
「違うわよ! 私がここに来たのは超越者一族に他人の魂の力を奪うのを止めてもらい、超越者一族と神や人族が共存できる様にするためよ。」
と言って私は惑星トルスに平和裏に住んでいるもうひとつの超越者一族の話をした。自分達以外にも超越者一族がいたと知ってイースちゃんは驚いた様だ。
「そういう訳で、わたしは超越者一族に魂の力を奪うのをやめて欲しいだけなの。あなた達の長と話ができないかな?」
「私達一族の長は私の父よ。父は長年の研究の末、一時途絶えていた魂の力を得る技を復活させ、その後魂を収集する場としてダンジョンを作ったの。何千年も前のことらしいわ。父はラース様の名誉回復に人生を掛けているから説得は難しいかも。それと父はしばらく前からダンジョンに籠ったきりなの。昨日トモミさんに会った時も父に食事を届けて帰る途中だったのよ。今考えると、惑星トルスにいるもうひとつの一族に協力を断られて神々に企てが漏れるのではないかと心配していたのかも。」
なんとイースちゃんは長の娘だった。でも弱ったな、やはりダンジョンの最下層まで行く必要があるのか、超越者一族も地上に住んでいると聞いて喜んでいたのだが...。それにしても昨日はお父さんに食事を届けに行った帰りだったのか。良い娘だね。
「私もこの星の人達と仲良く暮らせたらそれが一番と思ってるの。でも下手に父を説得しようとすると、ダンジョンに入った神を倒すためにスタンピードを起こすかも。そうなったらダンジョンからあふれ出るモンスターでこの町は全滅よ。いくら神といえあれだけの数のモンスターを抑え込むことはできないと思う。」
とハンスくんを不安そうに見る。あっちゃ~、聖女伝説のとおりの展開になって来た。まずいな、これでは迂闊にダンジョンに入ることも出来ない。困った、困った、と考えて気付いた。頭の悪い私が下手に考えるよりまずはリリ様に相談だ。イースちゃんとハンスくんに断ってリリ様に念話を飛ばす。すぐにリリ様のアバターがやって来た。
<< まったくトモミには驚かされてばかりなんだから。>>
と言うのがリリ様の第一声である。その言葉をそっくりお返ししたいが今はぐっと我慢する。
「イースちゃん、ハンスくん、こちらはこの宇宙の最高神リリ様です。」
<< リリよ、超越者一族のイースちゃんとその恋人のハンスくんね。よろしく。>>
「そんな、恋人だなんて....。」
とイースちゃんがクネクネする。いや、今問題はそこじゃないだろうと言いたい。くそ、私だって昔はハルちゃんと...。
<< トモミ、思考が漏れてるわよ。>>
しまった、リリ様は念話で話しているから思考が読めるんだ。あわてて平常心、平常心と唱える。
「最高神って、一番偉い神様ってことですか!?」
おや、ハンスくんは別の意味で固まっているな。まあ、これがリリ様に会った人族の普通の反応かもしれないが。
その後リリ様はそのまま私達と一緒にシートに座り、イースちゃんが剥いてくれたデザートのリンゴに似た果物をつまみながらこれからの行動について話始める。
<< それにしても綺麗なお花畑ね。神が居ない惑星でもこんなにきれいな花が咲くんだから、神の関与なんて最低レベルで良いのかもしれないわね。>>
「リリ様、論点がずれてますよ。」
<< あら、ごめんなさい。そうね、これからどうするかだけど、トモミのドジの所為でダンジョンは閉鎖されているのよね。だったらこれを利用させてもらいましょうか。今のうちに行動を起こせば、例えスタンピードが起ってもダンジョン内での被害は無いわ。後は町の人達に避難してもらっておけば最悪でも人的被害は免れる。もちろん町の建物も出来る限り守るけどね。>>
「でも、イースちゃんのお父さんと交渉するにはダンジョンに入らないといけないですよね。ダンジョンの中に居る時にスタンピードを起こされたら町を守れないですよ。ダンジョンの中では瞬間移動がほぼ使えないんです。」
<< 大丈夫、私がイースちゃんのお父さんとの交渉にいくからトモミが町を守ってちょうだい。トモミはラース様の敵ということになっているから、私が行った方が相手が感情的になりにくいと思うのよ。それとこれでも私は最高神だからね条件交渉になっても即断即決ができるわ。>>
「それなら私も一緒に行きます。ダンジョンには超越者の一族しか知らない近道があるんです。それを使えば父の元まで早く行けますから。」
<< それじゃあお願いするわね、よろしくねイースちゃん。>>
「ぼ、僕もイースと一緒に行きます。行かせて下さい。」
とハンスくん。おー、男の子だねえ。ハンスくんがお父さんに「イースちゃんを下さい」と言う展開になったりして...と想像して思わず胸がキュンとなる。まあリリ様と一緒なら心配ないだろう。
<< 分かったわ、一緒に行きましょう。>>
「それで私は何をすれば...。」
<< もちろん、トモミには聖女になってもらいます。>>
「聖女ですか....?」