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第10話 ちょっぴり幸せな魔法使い


 暗いステージの上。金と紺色のスーツに蝶ネクタイをつけたペアが行儀よく立っている。スポットライトが私たちだけを照らしていた。

「恋鐘さん、恋鐘さん」

「なぁに、紺ちゃん」

「ウチな、最近思うことがあるんや」

「へー、老後の心配?」

「それは早すぎるわ! ウチらはまだ高校生やで。老後までまだまだ現役で頑張ろうじゃないですか」

「えー、じゃあ期末テスト?」

「いきなりリアルな話にするのやめーや。皆さんも期末テスト頑張ってや。先輩方も今年受験やから特に大変そうやなぁ」

「紺ちゃん誰に話しかけてるの?」

「神様や。それよりな、ウチ最近思うことがあるんよ」

「なになに?」

「ウチな、過去に戻りたいなぁ思てるんよ。タイムマシンってあるやろ? あれ発明したいねん。恋鐘さんもそうは思わへんか?」

「過去ね……私は戻りたいと思わないかなぁ」

「なんでや? 中学校もう一回やりたいーとか普通思ったりせえへん?」

「えー、だって期末テストやりなおさないといけないじゃん」

「あー、なるほど。そう言う考え方もあるんか。それはだるいな」

「次はばれちゃうかもしれないからさ、カンニング」

「なるほど…………って、恋鐘さんそれホンマかいな!?」

「ホントだよ?」

「それをこんなところで言ったらあかん! 先生もおるかもしれない! えー、皆さんこのことは秘密にな! よろしく頼むで」

「紺ちゃん誰に話しかけてるの?」

「神様や! そこはツッコミ入れないお約束やでほんま!」

「あっ!!」

「どうしたんや恋鐘さん。ついに過去に戻る良さを分かってくれたんか!」

「過去に戻れば問題が分かってるじゃん! カンニングしないでも問題解ける!」

「せこい! どこまでもせこいで恋鐘さん!」

「せこくないよ。誰も私の不正に気付かない! ふはは……これで赤点回避は余裕だね!」

「低い! 目標点が低すぎるで恋鐘さん! ここはもっと満点、とか言ってお小遣いアップとか夢のあること言ってーや」

「勉学優秀な紺ちゃんには分からないだろうね! 期末テストの赤点補講の恐ろしさを! あれは辛かった」

「恋鐘さんカンニングしたのに赤点取ってもうてるやん!」

「あっ!!」

「おおう。どうしたんや。また大声出して」

「赤点補講を無断欠席しても追加の宿題でないの忘れてた! 赤点取って補講に参加しない! これで完璧!」

「斬新な解決法! そんなこと言ったら今年からなんかしらのペナルティがつくやろうな。一年生が可哀想や」

「全く、正直者が馬鹿を見る世の中で辛いよ」

「正直者ならしっかり勉強して赤点回避するやろうけどな」

「むー。そう言う紺ちゃんは過去に戻ったら何がしたいの?」

「やっと聞いてくれたな。ウチは過去に戻って、ある人に想いを伝えたいねん」

「誰かに告白したいの?」

「なんでこんな時だけ察しがええんや恋鐘さんは」

「それでそれで! 誰に告白したいの? 小学校の頃転校しちゃったダイスケくん?」

「なんでそんなに察しがええんや! そうや……ダイスケくんや。彼の家、かなり貧乏だったらしくてな。両親が離婚して転校した後、父親が無理心中図ったらしいねん。それでな」

「父親は心中成功。運悪くダイスケくんは死ねず。地元からちょっと離れた中学校を卒業後、今では市役所で働いてるんだっけ?」

「だから察しがええ!! というかウチが知らない情報まで知っとるやん! ダイスケくん市役所で働いてるん!? 恋鐘さんさてはダイスケくんと未だに友達やな!?」

「いやぁ友達ってほどじゃないよ。週一で文通したり、たまに街で見かけてちょっとお話しして、週末いっしょにお買い物行くぐらいの関係かな」

「十分すぎる接点! もうそれ友達以上恋人未満ってやつやん! 向こうは絶対恋鐘さんのこと好きやでそれ!」

「それで、紺ちゃんは誰に告白するんだっけ?」

「……ダイスケくんや! 煽っとるんか! ちょっとややこしくなってきたから一旦ダイスケくんは死んだことにするで」

「私もそうした方がいいと思う。毎週手紙送ってくるの普通に迷惑だと思ってたし」

「ぐぬぬ……辛辣やな……そんな彼に惚れてたウチって一体。話は戻すけどな、ウチは過去に戻って、ダイスケくんに告白したいねん。もしウチが告白しとったら、両親が離婚した後、父親に着いて行かなくなったかも知れへんやん? その方がダイスケくんも幸せに生きれたかと思うねん」

「そうかなぁ。別に父親に着いて行ったダイスケくんが不幸だとは言えないんじゃない?」

「突然まともなこと言うやないか。そうやなぁ……確かに一概には言えないかも知れへんけどな、死ぬよりマシやで。死んだら幸せも不幸せもないんやからな」

「それは違うよ。死ぬ方がマシだってことだって世の中にはあるよ!」

「グイグイくるやんか。例えばなんや?」

「それはクソ暑い夏の日のことでした……」

「なんやなんやなんや! 突然怪談か!? ウチ怪談苦手なんやからやめてーや」

「誰もいない教室に私一人が席に座っていました。怖いなー怖いなーって思っていると、廊下から足音が近付いてくるんです。カツン……カツン…………」

「ああああ!! 聞こえへん! 聞こえへんでー!」

「そして教室の扉が勢いよく開かれた!」

「ギャー!! 何が出るん!?」

「…………補講、上野しか来てないのか……?」

「だからそれ赤点補講やないかい!! しかも、恋鐘さんしか来とらんし!」

「あの時は本当に怖かったよ。まさか先生と一対一でテストの解説を聞くことになるとは思わなかったよ。あれは死んだ方がマシだったね」

「それは先生に失礼すぎる!」

「とにかく紺ちゃん。幸せかどうかなんて、人が勝手に決められないんだよ。私はそれを言いたい」

「……確かにそうかも知れへんな。過去に戻ればダイスケくんを助けられるかと思ってたウチが浅はかだったわ」

「でも、この世には幸せになるために大切なものがあるよ。しかも誰でも同じもの」

「本当にそんなものあるんかいな?」

「あるよ。ヒントを出してくから当ててね。それはモノではありません」

「うーん、わからんな。もっとヒント欲しいわ」

「それはたまに熱かったりします」

「……モノじゃないんやろ? 魔法とかどうや? 魔法使えるなら火ぐらい出せるときもあるやろ」

「違います。魔法が使えてもろくなことないよ。それは……クラスの中の何人かはしたことあるかな?」

「なんで疑問形なんや。キャンプファイヤーとかかいな?」

「違います。炎から離れようよ。それのイメージカラーは赤かなぁ」

「赤……赤……なんや、わからん! そろそろネタの時間も限界なんや! さっさと答え教えてーや!」

「しょうがないなぁ。えっとね、紺ちゃん。誰もが幸せになれるものそれは……」

「……それは?」

「それは愛だよ! 愛が私たちを幸せにするんだ!」

「だからそれ赤点補講やないかい! …………ってちゃんとボケろや! 打ち合わせと違うやん!」

「大好きだよ、紺ちゃん」

「やめろや……そんなん………………私もや!」


 紺ちゃんは私の胸に飛び込むと、マイクに音が入らないようにひっそりと泣いた。彼女のそんな姿を愛おしく感じ、彼女の頭を撫でる。紺ちゃんは恥ずかしいのか少し顔を赤らめながら、幸せそうに最高の笑顔を見せてくれた。

 私は上野恋鐘。高校二年生。趣味と特技ははまだ模索中。そして、ちょっぴり人より幸せな…………魔法使いの女の子だ。

 ステージに降り注ぐ割れんばかりの拍手に向けて、私は自己紹介をするのだった。


 おしまい。


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