第1話 今世紀最大の発明品
「進路調査かー。どうしよっか」
「確かに、そろそろ決め始めてもいい時期やな」
「でもいいよね、紺ちゃんは。紺ちゃんの成績なら大学どこでも行けそうだし」
「そうやなぁ。東大か京大どっちにするか迷いどころや。学力は足りてるし、後は好みやな。勿論、大学まであんたと一緒のとこ行ってもウチは構わへんで」
「あはは……贅沢な悩みだよね。私は成績的に大学はちょっと難しいかもなぁ。一応受けてはみるよ。それで、紺ちゃんは将来何になりたいの?」
「そうやなぁ、教授とかになれたら本望なんやけど、競争激しそうでいややわー」
「またまたー」
「まあ、ウチは研究できればなんでもええな。アニメにあるやろ? あの青狸のロボット。ウチはあれを作りたいねん」
「すごく紺ちゃんっぽいね。私も見てみたいかも」
「そうやろ? 完成したら真っ先に見せたるわ!」
「ありがと。約束だよ。私も紺ちゃんには……夢に向かって頑張って欲しいな」
「それって、どういう意味や……?」
「私に合わせて大学まで決めなくていいよってことだよ。ほら、京大とかいいんじゃない? 初めてノーベル物理学賞取った人もそこ出身だったよね?」
「まあ……そうやけど……あんたはそれでええんか?京大やとウチ引っ越しやで?」
「地元に帰るだけでしょ? それに、離れても手紙でやり取りできるし、そこまで心配することじゃないよ」
「そう……やな。ウチ頑張るわ。背中押してくれてありがとな」
「あはは……頑張ってね。私も応援するから」
あの時の彼女の憂いや安堵の入り混じった表情を今でも鮮明に覚えている。思えば私はその言葉に踊らされ……いや、自分を無理やり納得、妥協させ、人生で最も大切なものを失った。頭の弱い子でなかった自覚はあるが、優先順位を見定めきれていなかった。手に入れた莫大な資産も、今世紀最大の発明の名誉も、教科書に名前が載るほどの名声も、それらすべては胸が焦がれるような初恋の時間に劣るのだと今なら自信を持って言える。黄色く日焼けした手紙とそれを握る皺くちゃになった両手に、五十年という歳月の長さを実感した。
会って、話がしたい。もう二度と後悔しないように。手放さないように。私はそのために人生の熱すべてを注いできた。
「今行くで」
次は絶対間違えない。『話す!』と大きく書かれたホワイトボードを一瞥し、私は今世紀最大の発明品に乗り込んだ。