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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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91.気遣いによる弊害

 周囲の冒険者たちは、冒険者の間でよくある衝突。と判断したようですぐに興味を失ったように自分たちの仲間と会話をしたり、武器の手入れをしたりと各々が自由に過ごし始めた。

 俺の目の前ではエレンがまだルークにあれこれと言い訳を並べながらルークのために今回のことを起こしたのではないと言っていた。


「ルークが騙されたりすると私やベオ、ティアに負担が来るからそうならないようにしただけで、別にルークが心配だとか、ルークが騙されて傷付かないようにだとか、そういうのはこれっぽっちもないんだからね!?」


「お、おう……エレンが言うならそうなんだろうけど……ちょっとくらいは心配してくれても良いんじゃないか……?」


「え、あ、いや……心配は、少しくらいはしてるわよ?その……ほら!リーダーなんだから何かあってからじゃ色々遅いものね!」


 これはツンデレ炸裂、とでも言えば良いのだろうか。しかしテンプレ通りのツンデレを披露するエレンだが、どうにもルークは言葉通りに受け取っているらしく少しばかり凹んでいた。言葉の裏、というか込められた意味を的確に理解することが出来ない相手にとってツンデレは全く意味がないと証明する場面、と言えるだろう。


「そ、そうだよな……うん、まぁ、リーダーだからだよな……はぁ……」


 いや、少しどころではないようだった。思いっきり凹んでいてため息を零していた。


「いやさ、幼馴染だし、少しくらい心配してくれるかなぁ、って思ってたから……」


「え、あ、いや、その……」


 そんなルークの様子を見て、どうしたら良いのかわからない。といったようにエレンがオロオロとしていたがそこはそれ、自業自得なので放っておくことにしよう。

 それにエレンは水浴びに参加していたのかわからないが、時間としてはそろそろアナスタシアとシルヴィアが戻って来てもおかしくはない。だからルークとエレンは放置で二人を探しに行こうと思う。


「さて、取込み中みたいだから俺たちは俺たちで仲間でも探しに行くか」


「え?あ、アッシュ……?あの二人を放っておいて良いのかい……?」


「良いも何も、エレンがやったんだからその責任くらいは自分が持つだろ」


「そういうものなのかなぁ……」


「そういうものだと思うぞ」


 俺とアルがそんな会話をしていると、それを聞いたエレンが助けを求めるような目で俺たちを見てきた。

 勿論、アナスタシアとシルヴィアを探さなければならないので特に助けることはなく離れることにした。


「そういうわけで、俺たちはもう行くから頑張れよ」


「はぁ!?普通はこういう時に手助けくらいしてくれるんじゃないの!?」


「自業自得だ。それに少しばかり素直になれば解決すると思うぞ?」


「う、ぐぅ……!それが出来れば苦労なんてしないわよ……!」


 俺の言葉を聞いて悔しそうというか苦々しげにしているエレンに苦笑を零してからルークに声をかける。


「ルーク、悪いけど俺たちは仲間を探しに離れさせてもらうからな」


「あ、あぁ……それじゃ、またな、師匠、アル」


「う、うん……」


 別れの言葉を告げてからルークとエレンの二人から離れるのだが、アルは本当に放っておいても良いのか悩んでいるようだったが結局俺について来た。

 残されたルークとエレンはなかなかに愉快なことになりそうだったが、そんなことよりやるべきことがある。まぁ、見つけたとしてもまだシルヴィアと話はしないつもりだ。

 とりあえず俺たちの用意したテントに戻るとしよう。シルヴィアはともかくとしてアナスタシアが戻ってきているのであればそこにいるはずだ。と、思っていたのだがテントにはアナスタシアとシルヴィアの姿があった。

 アナスタシアは近くの人間にだけ顔が見える程度にローブを着込んでいるが、シルヴィアが楽しそうに話をしているので普通に談笑でもしているのだろう。それにしても随分と懐かれたものだな、と少しだけ呆れてしまった。


「シルヴィア様が楽しそうで良かった。というのは、少しずれているかな?」


「良いんじゃないか?そういう立場なら、だけどな」


「んー……そういう立場ではないけど、幼い頃から知ってるからね。そういう風に思ってしまうのも仕方のないこと、ということにしておこうかな」


「アルがそれで良いなら俺は何も言わないけど……そうか、幼い頃から知ってるのか」


「うん……」


 肯定の言葉を返しながらアルは何か考えている、もしくは思い出しているようだった。これは言及するべきではない雰囲気だ、と思ったので俺は何も言わないことにした。まぁ、無用な詮索は藪をつついて蛇を出す、ということになるのでなるべくならすべきではない。

 それに今この場でそんなことをするよりも、俺とアルに気づいたアナスタシアに軽く手を挙げて応えてから歩み寄る方が優先すべきことだ。シルヴィアがいる、というのは完全に予想外なのだが。


「おかえり、アナスタシア。随分と懐かれたな」


「ええ、戻りましたわ。本当に、随分と懐かれたようですわね……私が、ではありませんけれど」


「……は?」


「ただいま、アッシュ!」


 アナスタシアの言ったことを理解することが出来なかったため、間の抜けた声が漏れてしまった。そこに間髪入れずにシルヴィアが何故か俺に対してただいまと言ってきた。


「あ、あぁ……おかえり……?」


 だからシルヴィアの勢いに押されてしまい、おかえり、と返してしまった。いや、本当にこれはどういうことなのだろうか。シルヴィアが人懐っこいとしても、何故追加で言葉を交わしていないのに先ほどよりも俺に対してこんな態度を取っているのか理解が出来ない。

 いや、待て。先ほどはアナスタシアとシルヴィアが何やら楽しそうに談笑していたはずだ。その状況でアナスタシアは懐かれたのは自分ではないと言い、更にこのシルヴィアの様子を見て一つ思い至ることがあった。もしかするとシルヴィアに懐かれた、というのは俺のことなのではないだろうか。ということだ。


「よし、それじゃ僕はアッシュにただいまって言えたからそろそろ戻るよ」


「わかりましたわ。それではシルヴィア様、機会があればまたいずれ」


「うん!アッシュ、アナスタシア、またね!そっちの君も!」


 そう言って駆けていくシルヴィアを見送ってからアナスタシアを見る。俺が言いたいことを理解した上で相も変わらず優美に笑んでいるのだから性質が悪い。いや、優美にというよりも幾分か楽しそうに笑んでいるようにも見える。


「で、申し開きは?」


「何のことだか、わかりかねますわね」


「わかってるだろ。それで、シルヴィアと何を話したのか教えてくれるよな」


「ええ、構いませんわ。とはいえ、わたくしは必要だと判断したからこそ話をしただけですので勘違いなさらないでいただけますわね?」


「何を勘違いするなって言うんだか……」


 先に釘を刺しに来たアナスタシアに呆れたように返してから目だけで続きを促す。


「アッシュさんは勇者様と今夜にでも話し合いをするつもり、でよろしくて?」


「あぁ、時間帯としては少し遅くなるけどな。というか、夜以外では話をする時間が取れないだろ」


「その際に警戒されていない方が話し合いがスムーズに進むとは思いませんこと?」


「あぁ、それは確かにそうだね。とはいえシルヴィア様はアッシュのことを特に警戒している様子はなかったけれど……」


 アルの言うように、シルヴィアは何故か俺のことを警戒していなかった。パレードでの俺の行動を見たのであれば普通はもっと警戒してくるはずなのに、本当にどうしてなのか意味がわからない。いや、今はそのことは置いておこう。アナスタシアがどういう話をしたのか、それを確かめなければ。

 ただ必要だと判断した、ということだったのでそこまでおかしいことは話していないと思う。アナスタシアは仕事がやりにくくなるようなことはしない人間だと、俺は判断しているからだ。


「ええ、ですが念には念を入れて、ということで……アッシュさんがとても勇者様のことを心配していたと伝えておきましたわ」


「それ、シルヴィアを俺に押し付けただろ」


「滅相もありませんわ!あくまでも、警戒心など抱かないようにと言う心配りでしてよ」


「なるほど……確かにシルヴィア様と話し合いをするなら必要なことかもしれないね。ただ、その……どうしてかシルヴィア様はアッシュに対して非常に好意的だからわざわざそうしなくても良かったかもしれないけど……あ、でもシルヴィア様が楽しそうというか、それで嬉しいと思うなら良いんじゃないかな?」


「ええ、まさしくその通りだと思いますわ。勇者様といえまだまだ年頃の少女ですものね。楽しい、嬉しいと思えることがあるのは素敵なことではなくて?」


 どうやらアルはアナスタシアの味方らしい。いや、アナスタシアの、というよりもシルヴィアの味方とでも言うべきだろうか。とにかくこの場に俺の味方はいない。


「はいはい、素敵素敵。でもな、あれを見れば俺にとっては素敵だとか言えないってわかるだろ」


 言ってからシルヴィアが駆けて行った先、ユーウェインたちがいる方を見ればユーウェインたち三人が物凄い形相で俺を睨みつけていた。シルヴィアの近くに寄るだけで面倒な相手なのに、あれだけ楽しそうに声をかけられている俺を見ればそうもなるか、と思ってしまった。

 だからと言ってそれを受け入れるかどうかとなれば話は別だ。あんなユーウェインたちとは本当に関わりたくない。まぁ、シルヴィアに懐かれてしまったのであればそう思ったところで意味がないのだろう。


「あれは……ご愁傷様、としか言いようがありませんわね……」


「……ユーウェインたちの気持ちはわからないでもないけど……うん、何かあったら僕が守るから安心して欲しいな」


「はぁ……何かあったら、その時は頼むよ。何にしても……アナスタシアが余計な心配りでシルヴィアの好感度稼ぎをしてくれたなら話し合いは問題なさそうだな……」


 流石にユーウェインたちの様子を見て同情した様子のアナスタシアと、何かあった際には俺のことを守ると宣言したアル。本当にそういったことにならないように祈りながら、夜に予定しているシルヴィアとの話し合いのことを考える。

 伝えておくべきことを伝えて、それからどう動くのか、保険として話をしなければならない。先ほどの随分と俺に懐いた、と表現されたシルヴィアのことを考えると面倒だと思ってしまった。いや、正しくはシルヴィアではなくユーウェインたちか。


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