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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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88.次の予定は

 野営の準備が終わるまでの間、アナスタシアとアルがユーウェインたちを抑えてくれたおかげでシルヴィアとそれなりに話をすることが出来た。話をしていてわかったことはシルヴィアはアルのように善良な人間で、人当たりも良く、人懐っこいということだ。

 俺としては普通に話をしながらシルヴィアの俺に対しての警戒心を解しておこうと思ったのだが、最初からシルヴィアは俺に対する警戒心という物はほとんどなく、こう言っては何だが俺が観察したユーウェインたちと話をしていた時と違って年頃の少女のように花が綻ぶような笑顔さえ見せた。

 そうしたシルヴィアの様子を見ていると何とも言い難い感情が湧いてきたがそれを押し殺した。これはあまり良い感情ではない、と理解しているからだ。

 何にしても俺としては当初の予定だった野営の手伝いという名目での接触は上手くいったので、それ以上長居する必要も理由もないと判断して離れることにした。


「さて……野営の準備は終わりだ。これで休めるだろ」


「アッシュは手際が良いね。僕たちだけだとこうはいかなかったよ」


「こうはいかなかった、って言うよりも絶対に準備が終わらなかっただろ」


「うーん……否定出来ないなぁ……」


 苦笑を漏らしながら俺の言葉に答えたシルヴィア。それを聞いてから後ろの三人を少しだけ見るとそれぞれ度合いは違えど苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていたので、他の冒険者たちを追い返しながらも自分たちだけでは野営の準備が終わらないと理解していたのだろう。

 それによって俺のしたことが三人にとっては完全に恥をかかされた。と判断されてもおかしくはなかった。ということで、たぶんあれこれと絡まれてしまうのではないか、と思う。絡まれる程度はあしらっておくので問題ないのだが、貴族で地位だけは確かな人間というのは面倒なことが多い。

 まぁ、今回の件はあくまでもシルヴィアの安全のための布石なので何かあった際はアルに頼んでライゼルに対処してもらうのもありかもしれない。今回こうしてアルに手を貸しているのだから、ライゼルであれば断らないだろう。


「王城に戻ったら野営の仕方くらいは習っておいた方が良いと思うぞ」


「うん、僕もそう思うよ」


 こうした言葉にも反論する様子はなく、素直に人の忠告を聞けるタイプのようで自身で言ったように王城に戻ればちゃんと野営の仕方を習うのだろう。無事に王城に戻れるのか、現状ではわからないのだが。

 とりあえずはその辺りのことも後々話が出来ると良いのだが。そう思いながらシルヴィアに離れることを告げる。


「それじゃ、そろそろ俺たちは戻らせてもらうぞ」


「うん、そっか……ありがとう、アッシュ。助かったよ」


「どういたしまして。ほら、戻るぞ」


 俺がそう声をかけるとアナスタシアとアルは三人を抑えることをやめて身を引いた。そのまま離れて行くのだが、後はさっさと自分たちのテントに戻るだけ、となった時に背後から声がかかった。


「アッシュ!またね!」


 また、と言われてそれに少しだけ振り返ると手をぶんぶんと振っているシルヴィアの姿が見えた。何をやっているんだか。と思いながらも軽く手を挙げてそれに応えてからそのまま自分たちのテントへと戻った。

 戻ってから周囲の様子を探ってみると先ほどまでシルヴィアの傍にいたので他の冒険者たちが俺たちを見ていた。最初に喧嘩を売りに行ったかと思えばシルヴィアと普通に話をしていたのでどういうことなのかと気になったのだろう。

 とはいえシルヴィアの対応を見て、王族でありながらもその口ぶりなどは俺たちと変わらないように思えたので、きっと周りも同じようなことを思ったのではないだろうか。つまり、喧嘩を売りに行ったら思っていたよりも良い奴だったので絆された。とかその辺りだ。

 何にしても俺の行動が意味の分からないもの、というわけではなくシルヴィアが少し変わっているのではないか、と思い至ったのではないだろうか。まぁ、実際のところはわからないが、俺たちに何か聞きに来る。ということもないので放っておいても問題はないはずだ。


「思っていたよりも、会話が弾んでいたようで何よりですわ」


「不思議なことにな。随分と人懐っこいと言うか、フレンドリーと言うか……」


「シルヴィア様は人当たりが良いからね……あぁ、いや、そういう話を聞いたっていう程度だから断言するのはおかしいかもしれないけど……」


「まぁ、見ていればわかりましたわ。それで、ただ話をしただけではないと思いますけれど……」


「伝えておきたいことを少しだけ書いた紙を渡しておいた。ひとまず警戒されてる様子もなかったから、後でまた話が出来ると思うぞ」


 普通なら警戒するはずなのに何故か警戒心がほとんどない様子だった。とはいえ、ああして接触しておけばシルヴィアも多少なりと顔見知りになることが出来て、話もし易くなるだろう。

 そんなことを考えている間にも色々な事柄が進行している。具体的に言うならば最後のパーティーが野営の準備を終えたことを確認したグィードがまた声を挙げていた。


「私が確認した限りは、各自野営の準備を終えることが出来たようで何よりだ。後は時が来るまでそれぞれ充分に休息を取ってもらいたい」


 最後のパーティーというのは勿論シルヴィアたちのことであり、その手伝いをしたのだからグィードは俺たちのことを見ていたはずだ。その時に何を思ったのかわからないが、俺がシルヴィアに紙を渡したのは見ていないはず。


「とはいえ冒険者である諸君がただただこの場で休むだけ、とは私も思っていない。周囲の散策や近くの泉で水浴びなど各自が常識の範囲内で行動すると良いのではないか、とは思っているがね」


 どうやら完全に自由時間になるらしい。とはいえ人が入れ替わる可能性もあるので各自で警戒は怠るべきではない。何にしても好きに動いて良いのなら周囲の散策をしておくべきだろう。


「こういう場合は……えっと、人の入れ替わりを警戒するのと、周囲に何があるのか散策する。で良いのかな?」


「ええ、それでよろしいかと。ただ……」


 アルが何をするべきなのか考えて口にしたそれに同意してからアナスタシアは言葉を切り、周囲を見渡して再度口を開いた。


「どうにもこの場にいる女性たちは水浴びに行くようですわね……」


「あぁ、汗をかいてるからな……」


 言いながらシルヴィアに目を向ければそわそわしているので、水浴びに行きたいのかもしれない。ただ、そうなると仲間たちはシルヴィアから離れることになる。あの三人が果たしてそれを良しとするだろうか。

 いや、良しとしなかったとしても第三王女であり勇者でもあるシルヴィアの行動を制限するだけの力はあの三人にはないだろう。現に見ていると何やら話をし始めたが、三人ともしどろもどろになっているようだった。

 こういう場合は読唇術を使って何を言っているのか知ることが出来るので良く見てみよう。


「僕も水浴びに行きたいんだけど、良いよね?」


「シルヴィア様が水浴びをしたいという気持ちはわかります。ですが、その……シルヴィア様をお一人にするわけには……」


「それはわかるよ。でも……えっと、汗をかいちゃったから……」


「ヨハン、こういう場合に使える魔法はありませんでしたか?」


「浄化の魔法。調節が難しいけど、上手く使えば綺麗に出来る。僕は出来る」


「シルヴィア様、ヨハンがこう言っていますから浄化の魔法で済ませることは出来ませんか?」


「そうは言われても……それに他の冒険者の人と交流が持てるかもしれないよ?」


「シルヴィア様!冒険者などと交流を持つ必要などありません!先ほどの薄汚い冒険者のように馴れ馴れしく接するなど、何たる不敬!本来であればあのような者とは住む世界が違うのです。どうかご自重ください」


「ユーウェイン。僕も君も周りの人も、住んでいる世界は同じだよ。それに勇者として王国領を回るのは勇者という存在を知らしめるためでもあり、多くの人と交流を重ねて人として成長するためでもあるって父上が話をしていたのを聞いていなかったの?」


「ぐっ……た、確かに国王陛下はそのように仰っていましたが……!」


 と、何やら面倒な状況になっていた。まぁ、どう考えてもシルヴィアが優勢でどうにか思いとどまらせようとユーウェインと神官が色々言葉を挟んでいる。ヨハンという魔法使いは何とかシルヴィアを止めようとは思っているようだが二人が色々と言っているので口を挟む暇がないようだった。

 とりあえず見ている限りではシルヴィアは水浴びをしに行くのだろう。となれば適任が一人いる。


「アナスタシア」


「本来であれば関わり合いになどなりたくありませんが……仕方ありませんわね。ええ、勇者様が水浴びをする間の護衛はお任せくださいな」


「悪いな」


「構いませんわ。ただ……そうなれば顔を見せることになりますわね……」


「…………なるべく、他の冒険者には見られないようにしないといけない、か」


「そうなりますわね……やれるだけのことはやりますわ。では、散策と警戒はお任せしてもよろしくて?」


「あぁ、それくらいは任せてくれ。アルもそれで良いよな?」


 アナスタシアと二人でさっさと役割分担を済ませてから事後承諾の形でアルに確認を取ると、アルはその言葉に頷いてくれた。


「わかったよ。アナスタシア、油断はしないようにね」


「勿論ですわ。アルさんも、アッシュさんに振り回されませんように、頑張ってくださいまし」


「ふふ……大丈夫だよ。僕とは考え方や知識に差があるけど、ちゃんと僕のことも考えてくれているからね」


「はいはい。無駄話はそれくらいにして、シルヴィアが動いたから本当に頼むぞ」


 ちょっとだけ照れ臭くなって話をぶった切り、シルヴィアが動き始めたことを伝える。

 ユーウェインたちは微妙な顔をしているのでシルヴィアに説き伏せられたのか、単純にあの三人が説得に失敗したのか。それはわからなかったが、何にしてもシルヴィアが水浴びをするというのであればアナスタシアに任せよう。


「ええ、お任せくださいな。では、また後ほど」


 そう言ってからシルヴィアの後を追うように歩いて行った。

 残るは俺とアルだけで、予定通りに周囲の散策に向かうとしよう。また、他の冒険者も同じように散策に出ようとしているので妙な接触をして絡まれるのは避けた方が良いだろう。


「アル、俺たちも行くぞ」


「うん、わかったよ。ユーウェインたちは……散策には出ないみたいだね……」


「シルヴィアが戻ってくるのを待っておくつもりじゃないか?まぁ、冒険者なら散策をするだろうけどあの三人はしないだろうさ」


「そう、だね……遠征を経験していれば散策をしたかもしれないけど……」


 遠征をしたかどうか。それによって色々と変わってくるようだと思いながらも、野営地に残るというのであればそれはそれでどうでも良いのでさっさと散策に向かうことにした。

 とりあえず厄介な物がないか、使えそうな物がないか、盗賊団の人間が隠れていないか、などを確認しなければならない。

 もしかすると夜まで散策を続けることになるかもしれないが、暗い森の中を歩くというのは自殺行為なので出来る限りは早めに戻れるようにしたい。

暗い森の中を歩くのは自殺行為なので、


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