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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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84.出立

 グィードが去り、少しするとどうやら全員の数と顔を確認し終えたらしくまた最初の場所へと戻っていた。そこでこれからの話をし始めたがどういうルートで向かうのか。という話で、俺としては集団に紛れて移動するだけなので耳を傾けるまでもないと判断した。

 いや、判断したというよりも、先ほどから俺のことをちらちらと見ているシルヴィアを警戒していたので耳を傾ける余裕があまりなかった。というのが正しいのかもしれない。それと、アルが真面目に話を聞いていたので後でどういうルートを通るのか確認すれば良いと思った。ということもあるのだが。

 まぁ、シルヴィアは周囲の仲間が他の冒険者を近づけないようにガードしているのと、シルヴィアが他の冒険者に近づかないようにあれこれと話しかけたりしているので俺の下に来ることはないだろう。ただ、仲間に俺のことを言わないというのはどうにもおかしな話だと思っている。

 周囲の冒険者、盗賊団の人間が紛れ込んでいる可能性、グィード、シルヴィアと警戒する対象が多いので少しばかり頭が痛くなってくるが、それ以上にクレイマンのことを思うと胃が痛い。まともにやりあっても勝てる可能性は低く、一番可能性が高いのは切り札を切るか俺の存在を知られる前に不意打ちで沈めるかのどちらかしかない。

 そんなことを考えていると説明も終わったらしく、ギルド職員が出立前の激励を行っていた。


「それでは皆様、これより盗賊団の討伐に出立をお願いします。当ギルドとしてましては依頼の完遂は勿論、皆様の無事を願っています。どうか、御武運を」


 言ってから深々と頭を下げる姿には慣れがあり、こうした複数の冒険者が集う依頼において説明役を担うことが多いであろうことが推測出来た。だから何だというのだが。


「では諸君!これより我々は王都を脅かす盗賊団の討伐へと向かう!!誰一人欠けることなく、悪逆の限りを尽くす盗賊団を必ずや壊滅させ、王都の平和を取り戻そうではないか!!」


 鼓舞するようにそう叫んだグィードに応えるように威勢良く返事を返す冒険者が約半数。返事を返さないまでもやる気に満ちているのが残りのまた半数ほど。俺たちのように、そうした物に返事を返さず、ただ現状を眺めているのが残り。と言ったところだ。それと、グィードのそうした様子にいきなりだったこともあって戸惑っている姿も見受けられる。

 ルークのパーティーは威勢良く返事を返していたのでこういったノリが合っているようだった。リーダーがあれなので当然と言えば当然のような気もする。

 シルヴィアたちは戸惑っている少数で、魔法使いは嫌そうに耳を塞いでいてこういったノリは一切合わず、またその表情から本来はこうした場にも居合わせたくはない。というように考えているのではないか、と邪推してしまった。

 そうしているとグィードは冒険者ギルドが用意した馬車を率いて俺たちを先導するように歩き始めた。あの馬車には冒険者ギルドが支給した野営に必要な道具などが積まれているはずで、盗賊団の討伐が完了した際には念話を行って報告し、捕まえた盗賊団の人間を連行するための馬車を寄こしてもらう手筈になっているとか。

 その辺りのことはあくまでも常識の範囲として知っているだけで、俺が話を聞いたわけではない。なので詳しくは知らない。知らなくても、問題はない。その時になればグィードが仕事をしてくれるだろう。


「アッシュさん、わたくしたちも行きましょう」


「そうだな……最後尾に近い位置取りにするか。背後に人が多いとどうしても落ち着かないからな」


「それがよろしいかと。ですが、グィードさんに疑われるようなことになりませんこと?」


「元から疑われるなり警戒されるなりしてるんだ。今更そんなこと気にしても仕方ないだろ?」


「それもそうですわね。でしたらそのようにいたしましょう」


 俺とアナスタシアでさっさと位置取りを決めている間、アルはしきりにシルヴィアのことを気にしていた。本来の役目というか、目的のことを考えれば当然なのだがそれを察してシルヴィアの近くに位置取るというのはするべきではない。

 俺自身のこともあるが、アルがシルヴィアたちに勘付かれる可能性もあるからだ。それと、アナスタシアであれば何かあると思ってもおかしくはない。そう思われたとしてもアナスタシアは自身の事情を優先するとは思うが、それでもその結果として予期せぬことが起こる。ということは避けたい。

 まぁ、一番の理由は俺自身のことなのだが。シルヴィアが既に何らかの行動に出ているのであれば俺としても対処を考えるというのに何もしてこない。それが不気味で仕方がなかった。


「その……アッシュ」


 そうして考えているとおずおずとアルが何かを言いたそうにしていた。

 アルが言いたいのはきっと出来るならばシルヴィアの近くに位置取りたい。ということだとは思うが、出発の時点では近くに位置取りをする必要はない。

 あれこれと考えていたがいずれはシルヴィアの近くに行くつもりだ。ただ、それは今ではない。


「悪いな。今はまだアルの考えてることをするわけにはいかないんだ。もう少し待ってくれ」


「……わかったよ。アッシュには考えがあるんだね。それなら僕はそれに従うよ」


 少し考えてから俺に従うと言ったアルは、自身の感情よりも自身の役目を全うすることを選んだようだった。こういった状況では当然のことだが、それでもアルのように慣れていないのであればそういった判断をするのは難しいのかもしれない。

 だから今回の判断は素直に良く出来たものだと感心してしまった。それと、ちゃんと必要なことだと俺の考えに従ってくれたことが有難かった。


「アルさんが納得したのでしたらわたくしたちも行きましょう。遅れるようなことがあればアッシュさんに依頼した意味がなくなってしまいますわ」


「あ、あぁ……そうだね。アッシュ、行こう」


「はいはい。それじゃ、ちゃんとついて来てくれよ」


 言ってから二人の前を歩き始める。既に先を行き始めていた冒険者たちの後を追う形になった。ただ、最後まで自分たちの持ち物を確認していたり、どういう風に動くのかを相談している冒険者が残っているので俺が思っていたような位置取りになった。

 アナスタシアとそうすると話をしたのだから丁度良いと思いながら念のためにシルヴィアの姿を探すと、先頭集団の中で仲間たちに囲まれたままグィードと何か話をしているようだった。一応、今回の依頼を受けた冒険者のリーダーであるグィードと話をするにしても仲間たちがその周囲を固めて、ある程度距離を取った状況になっているのには呆れてしまった。

 まぁ、シルヴィアがそうしているというよりも周りの仲間が他の人間をシルヴィアに近づけないように余計なことをしている。というように見えるのだが。


「あれはどうにも良くありませんわね。同じ依頼に参加した以上はもう少し友好的にすべきだと思いますわ。あぁ、アッシュさんは例外としておきますわね。グィードさんもあれはあれで納得しているようでしたから」


「確かに、出来ることならある程度は友好的にした方が良いと思うね。僕としてはある程度、ではなくちゃんと仲良くした方が良いとは思うんだけど……二人にそれを強要するのも、そうした方が良いって言うのも良くないから言えないけどね」


「お気遣い痛み入るもんだな。何にしても、勇者様のお仲間は随分と面倒な連中みたいだな」


 シルヴィアの安全のために他の人間を近づけないようにしているのか、それ以外の理由があるのか。それはわからないが面倒な連中だという評価は間違っていないはずだ。

 そんな面倒な連中が周りを固めているシルヴィアのフォローに入る必要があるかもしれない、ということに今更になってげんなりしそうになるが、こういう場合は考えないようにしておこう。どうせフォローに入るような状況ではあの連中もそれどころではない状況になっていると思う。

 であれば、問題なのはその後ということになるのか。そうなればアルに押し付けて俺は周囲の警戒だとか適当な理由を付けて離れてしまっても良いかもしれない。


「アッシュさんの言うように相手をするには面倒な相手だと思いますわ。ただ……安全のために警戒をしているというよりも……」


「別に何か理由があると思うのかい?」


「……まぁ、わたくしが言うようなことではありませんわね。間違っている可能性もありますし、心のうちにでも留めておきますわ」


「どんな理由だとしても、俺たちには関係ないだろ?」


「それもそうですわね。面倒な相手には近寄らない。これに限りますわ」


「……僕としては、気になるんだけどね……」


 アルは自身の役目にも関わる可能性があるので知りたいのかもしれないが、あまり関わりたくない俺と、事情を知らないアナスタシアにしてみれば関係がないからと切り捨ててしまえることだ。

 理由がわかれば対処が出来るかもしれないので知りたいような気もするが、とりあえずはどうでもいいとしておこう。


「いや、二人がそう言うなら気にしても仕方ないのかもしれないね」


「そういうわけではないと思いましてよ?ただ……関わることのない相手のことをいちいち気にしても仕方ありませんもの」


「関わることのない相手か……うん、まぁ……普通はそうだね……」


 本当は関わりのある相手なのだが、アナスタシアはそれを知らない。知られるわけにはいかない。ということで曖昧な表情で言ったアルだったが、そんな様子ではすぐにばれてしまうと思う。


「…………ええ、普通はそうですわ」


 というか、既にアナスタシアに何かあると勘付かれている。人を疑い、警戒し、観察する。それがスラム街では必要だったので、当然と言えば当然だと思う。

 とりあえずは誤魔化すか、別に悪いことではないということだけでも理解してもらって、スルーしてもらえるようにしなければならない。実に面倒なことだ。

 ただこうした場合にアルのフォローをするのも仕事のうちだとして何とかしておこう。まぁ、もしかすると追加料金を要求するかもしれないが、それについては俺の苦労の度合いで考えよう。


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