5.冒険者ギルド
大通りを進むと周囲の建物よりも一際大きな建物が見えてきた。そこは冒険者たちがひっきりなしに出たり入ったりを繰り返しており、その建物が何なのか知らないまでも何となくの予想が出来るだろう。
その建物こそが俺たちが目指している冒険者ギルドであり、冒険者であれば何度も足を運ぶことになる場所だ。
他の冒険者たちに混ざって建物の中に入ると、やはりというべきか人が多い。いや、時間帯によってはもっと多いのだから少ない方なのかもしれない。
冒険者ギルドではシャロの冒険者登録をするために迷わずに受付へと進んでいく。後ろには少し呼吸の乱れたシャロが物珍しいのか周囲をキョロキョロと見渡していた。こういうところを見ると本当にただの子供だ。
「冒険者登録を頼む」
そんなシャロの代わりに手続きの準備を緑色の髪をポニーテールにしている受付嬢に頼んでおく。
「はい、冒険者登録ですね。ではまず登録料のお支払いをお願いします」
「確か十万オースだったか?」
「ええ、登録料は十万オースになりますが……今回登録されるのは貴方ですか?」
「いや、後ろで物珍しそうに辺りを見てるエルフの子供だ」
「なるほど……貴方は冒険者登録はもうお済ませに?」
「済ませてあるけど……何かあるのか?」
「はい、ではまず貴方のギルドカードの提出をお願いします」
「わかった。これで良いか?」
「はい。一度、お預かりしますので少々お待ちください」
すんなりと登録の手続きが始まるかと思ったが、どうにも様子がおかしい。
俺が冒険者登録を済ませてあると聞くとギルドカードを提出させ、十万オースを受け取ると少し待つように言ってカウンターの奥へと下がっていく。
シャロが周囲を見渡すのをやめて俺の隣に来る頃に受付嬢がカウンターの奥から紙束を持って戻ってきた。
そして、ギルドカードを俺に返すと口を開いた。
「お待たせいたしました。アッシュさんのギルドカードの照会が済みました。では手続きを始める前に説明をさせていただきます」
「説明、ですか?」
「貴方が今回冒険者登録をされる方ですね。お名前を教えていただけますか?」
「私の名前はシャロですけど……」
「アッシュさんとシャロさんですね。では今回はシャロさんについてですが、アッシュさんが子供と言っていましたが何歳ですか?」
「今年で十になりました」
「ということは……」
シャロの年齢を確認すると受付嬢は手に持った紙束を捲り、何やら内容を確認し始めた。
そして確認し終えたのか、姿勢を正すとスッと一枚の紙を差し出してから一礼をしてから一言。
「では改めまして。今回冒険者登録とアッシュさんとシャロさんの担当させていただきます、フィオナと申します」
フィオナと名乗った受付嬢は更に言葉を続ける。
「シャロさんはまだ十歳ということで当ギルドとしては正規の冒険者として登録することは出来ません。ですが、すでに冒険者登録を済ませている方を責任者とすることによって冒険者見習いとしてなら登録が可能になります。
冒険者見習いとは監督責任者となった冒険者の方と一緒であれば当ギルドに寄せられた依頼を受けることが可能で、一定の実績を得ること、もしくは既定の年齢になることで正規の冒険者として登録を変更することが出来ます。
まずはシャロさん。こちらの紙に必要事項の記入をお願いします」
そう言われてシャロは差し出された紙に羽根ペンを使って必要事項の記入していく。
記入している間にいくつか確認しなければならないことがあるので時間を有効に活用しよう。
「監督責任者と一緒なら?つまり、こいつが依頼を受ける場合は俺も一緒に行動しないといけないってことか?」
「そういうことになります。アッシュさんは本来CランクとBランクの依頼しか受けることが出来ませんが、シャロさんの監督責任者としてであればシャロさんと同じGランクとFランクの依頼を受けることが例外的に認められます」
「その逆は……ありえないか」
「はい。シャロさんは正規の冒険者となるまではGランクとFランクの依頼のみとなります。Gランクの依頼であれば三十回、Fランクの依頼の場合は二十回達成することで正規の冒険者となりますので地道にコツコツと依頼をこなしてください。勿論、見習いとはいえギルドカードの発行は行われますので王都で暮らすための住民票の代わりとして使用することは可能です」
「俺のギルドカードは一定期間内に依頼を達成しないと失効されるけど、こいつのギルドカードも同じだと思って良いんだな?」
「基本的にはその通りですが、冒険者見習いのギルドカードは本来の物よりも失効するまでの期間が短いのでその点には注意をしてくださいね」
「なるほどな……そういえば担当とか言ってたのはどういうことだ?」
「冒険者見習いの方が正規の冒険者となるまではアドバイスや相談の相手になるのが担当の役目となります。また監督責任者の方が依頼をこなしている間に冒険者としての心得や知識などを見習いの方に教えることも私たち担当となった者が行います」
「そういうことか。確かにずっと見習いの監督ばっかりだと稼げないからな」
「ええ、ですのでそうした場合に知識を蓄えるのも時間の有効な使い方となりますね。当然のことですが、必ずそうしなければならないということではありませんので必要最低限の知識を得た後は必要に応じて、ということでかまいません」
そこまで言い切ってから、ですが、と言葉を続けて小さく苦笑を浮かべながらフィオナが言いにくそうにしながらも言葉を続けた。
「アッシュさんの場合は普段から依頼は最低限のみ受ける形にしているようですので、もしかするとあまり必要ないかもしれませんね。時間がある場合はアッシュさんからシャロさんに色々と教えてあげてください」
「あー……失効しない程度にしか受けてないってのはギルドカードを確認したならわかるか……」
「そういう方も珍しくないので悪いとは言いませんが、当ギルドで用意してある依頼は市民の方々から寄せられた依頼も多くありますので協力していただけると幸いです」
「低ランクの依頼は基本的には市民から、だったな」
「そうですよ。高ランクになるにつれて商会だったり当ギルドからだったり、一番上の依頼になると国からの依頼になります。アッシュさんであれば商会の依頼も受けられますから、そうした依頼を達成し続けると商会の方々に名前を憶えていただけて直接依頼が舞い込むこともあります」
「直接か……」
商会から直接依頼を持ちかけられるようになるということは、冒険者ギルドに持って行かれる報酬を全て受け取ることが出来ることになるということだ。
しかし、そうした場合は依頼を達成できなかった場合に発生する責任なども全て自身で持たなければならなくなる。
依頼を直接持ちかけられることには利点があり、欠点があり、そのバランスを考える必要があるのだ。
「ただ……」
「依頼の安全性というか、内容に問題があるかもしれない。とかその辺りか」
「はい。場合によっては依頼の内容が異なる、危険度が非常に高い、ということもありますので……冒険者の方にとって報酬が多いというのは良いことなのかもしれませんが、そのことを考えると難しいですね……」
「冒険者ギルドはその依頼の正当性も調べてる。だったよな?」
「ええ、依頼の内容、報酬、危険性、その依頼を達成した場合の影響などを調査しています」
「だからこそ報酬の一部は調査の費用として使われている」
「そうなんですよ。ただ、それを理解していただけない方からは不満の声も数多くありますね……」
フィオナは今にもため息をつきそうな表情でそう零した。
その不満の声をあげている一人は俺だ。勿論、冒険者ギルドに言った覚えはないのでカウントはされていないのだが。
ただスラム街出身の人間としては依頼などに危険は付き物なのであまり気にならないのでどうしても報酬のことを考えてしまう。少ない報酬を何度ももらうよりも、多くの報酬を一度にもらった方が結果的には安全である場合も今までに何度もあった。
それに過去には少ない報酬で危険度の高い仕事を請け負うことになったこともあるので、そのことが頭を過ぎり報酬が高い物を選んでしまう。それなら危険度が高くても納得出来るからだ。
「冒険者としては報酬は気にするもんだからな……」
「それはわかってますけど……いえ、これをアッシュさんに言っても仕方のないことですね。それにアッシュさんは何となくその辺りのことを理解してくれているようですから」
「まぁ、一応は」
「そうした方が居てくれるのは私たちとしては助かりますよ。あぁ、ちゃんと理解してくれてるんだな。って思いますから」
「……冒険者ギルドの職員ってのは大変だな」
「それはもう!でも、自分で選んだ仕事ですので文句はあまり言えませんけどね」
困ったように笑いながらフィオナはそう言うと同時に、シャロが必要事項を記入し終わったらしく羽根ペンを置いてからフィオナへと紙を返しながら言った。
「あの、記入が終わりました」
「あ、はい!では確認しますので少々お待ちください」
紙を受け取るとフィオナは記入されている内容を確認し始めた。
そう時間はかからないと思うので時間を潰すためにシャロに話しかける。ということはしなくても良さそうだ。シャロは俺の方を見ているので何か言いたいことでもあるのかもしれないのだが。
このまま放っておいても問題はない、とも思うがどうせ後で話しかけられるのはわかりきっているので視線だけをシャロに向けてどうしたのか、聞く。
「えっと……ご迷惑、ですよね……」
「何がだ」
「私が依頼を受ける場合は、主様に同行していただかなければならなくなりますから……」
「あぁ……いや、仕方ないことなんだ。気にするな」
「でも……」
「気にするな。どうしても申し訳ないって思うならさっさと数をこなして正規の冒険者になってくれ」
「は、はい!わかりました……!」
申し訳なさそうにしているシャロに、それならば早く正規の冒険者になれ。ということを言うと神妙な顔で返事をした。本人としても俺に迷惑をかけるということだけではなく、見習いのままではいられないとでも思ったのかもしれない。
それにしてもシャロを見ているとどうにも精神的に不安定になっているように思える。話を聞かずに押し切ったかと思えば、どこまでも普通の子供のように見え、人の顔色を窺う様子は子供が怒られないようにしているという程度の物には思えなかった。
シャロに関して言えばどうにも謎が多いというか、不審な点が目についてしまう。ある程度の面倒は見るとは話してあるが、どうにも警戒が必要な相手なのかもしれない。