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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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64.手合わせ開始

 ひだまりの草原にはいつものようにカルルカンの姿が散見される。そして、いつものように冒険者の姿はない。

 そんな状態のひだまりの草原でカルルカンたちには近寄らないように言ってからシャロと少し距離を取って向かい合うようにして立っている。

 シャロがどれくらい戦えるのかを確認するために今日はここまで足を運んだ。その確認の方法というのは適当な魔物と戦わせるというものではなく、俺と軽く手合わせをしてざっとどれくらいの技量があるのか見る。というものだ。

 これでも対人戦、魔物戦とそれなりに経験があるのでそういった方法が確実だと俺は思っている。まぁ、現状ではシャロが何を武器にするのかもわからないのだが。


「とりあえず、今日はシャロがどれくらい戦えるのか確認しようと思う。ってのは昨日話したよな」


「はい。ですからそのためにここまで来たのですよね?」


「あぁ、で、その確認方法なんだけど……一番手っ取り早くて確実なのが俺と手合わせする。って結論に、俺の中でなった」


「……え?」


 言いながら俺は玩具箱(トイボックス)から大きな片刃のナイフを取り出して、それを右手で弄びながら更に言う。


「とはいえ、軽い手合わせだとそれなりに出来ても実戦になると怪我や死ぬかもしれない恐怖で戦えないってこともあるから、あくまでもどれくらいの技量があるのかを見ようってだけなんだけどな」


「え、あの……」


「実戦で怖がって動けなくなる。ってことがなくなるにはそれなりの経験が必要だから、それは追々だな」


「主様、ちょっと待ってください!」


「どうした?」


 こういうのは事前にどういうことをするのか、どういう意味があるのかを説明しておくべきだと思ったのでざっと説明していたのだが、シャロからストップがかかったので一旦説明をやめてシャロにどうしたのか聞くことにした。

 俺の説明に何か不備があったのであれば、それについてもう一度わかりやすく説明しなければならないからだ。


「手合わせをすると言いましたけど、つまりは主様と戦うと言うことですよね……?」


 不安そうにシャロが言った言葉から、俺と戦うのが嫌なのだということがわかった。わかったのだが、あくまでも手合わせということで本気で戦うわけではない。

 なのでそれを伝えて安心してもらおうと思ったのだが、どうにも違うらしい。


「そうなるけど、手加減はするから大丈夫だぞ?」


「えっと……手加減はありがたいのですが、他の方法ではいけませんか?その……私が怪我をする可能性の方が高いと思いますけど、もしかすると主様が怪我をしてしまうかもしれませんので、別の方法があればな、と……」


「俺が怪我をする、ねぇ……もしかしてシャロの戦い方は魔法複合型か?」


 魔法複合型。

 戦士や剣士のような近接戦闘を主体とした基本的に手に持った武器で戦うものと、魔法使いや神官のように遠距離から魔法などで戦うもの、その両方を使い分けて戦う場合にこのように言われる。

 ただ俺の戦い方が相手との距離を詰めるのが基本なので魔法複合型だとしても魔法が使えるような状況になるとは思えない。

 であるならば、俺が怪我をする可能性の高い魔法を使うことは出来ないはずだ。


「はい。ですから、魔法を使った場合に主様が怪我をしてしまうのではないかと……」


「俺の戦い方は距離を詰めるのが基本だから魔法は使えないと思うけどな」


「あ、いえ。私は槍を武器に使うのですが、その間合いのままでも魔法が使えるので……」


「……まさか、戦闘でまともに使えるレベルの攻撃魔法を無詠唱で使うとか言わないよな?」


 俺が使う玩具箱のような詠唱を必要としない魔法は戦闘中に使ったとしてもまともに相手へ攻撃は出来ないというのがこの世界での共通認識だ。勿論、俺が使う場合は毒だのナイフだのを取り出すので充分に戦闘面で脅威となるが、それは例外としておこう。

 そういうこともあって戦闘中に使われる攻撃魔法は離れた場所からの詠唱付きの魔法というのが一般的だ。


「はい使えますよ。私の戦い方は槍で間合いを図りながら魔法を使って相手を追い込む方法が主体となります。あ、ですが槍の腕前だってそれなりにはありますよ?」


 それなのにさらっと無詠唱で攻撃魔法を使えることを認めたシャロに驚きを禁じ得ない。

 確かにシャロはエルフなので魔法に対する適正が高いのはわかっていた。もしかすると適性が高いだけではなく才能にも溢れているのかもしれない。

 だからといって無詠唱での攻撃魔法というのはたったそれだけで使えるようになるものではない。


「……本当に無詠唱での攻撃魔法が使えるなら確かに俺が怪我をする可能性はあるな。ただシャロが怪我をしないように気を付けるからそこは安心してくれ」


 シャロがどれだけ戦えるか確認して、怪我をさせないように戦うというのはシャロの話を聞いた限り少し難しいかもしれない。それでも出来ないわけではないので頑張ろう。


「え……?ほ、本当に戦うのですか?だって、攻撃魔法が当たれば主様だって怪我をしますし、下手をすると大怪我になりますよ?」


「そうだとしてもシャロが実際にどれだけ戦えるのか確認しないといけないだろ」


「それは、そうかもしれませんけど……」


「まぁ、無詠唱で攻撃魔法が使えるならその時点で俺が思ってる以上に強いだろうけど、槍の腕前は戦わないとわからないからな」


「……あの、主様が怪我をしないように気を付けますね」


「シャロには全力で戦ってもらわないと困るんだけどな……」


 どうにもシャロとしては俺が怪我をしないように、と考えているようだが、俺としてはシャロが全力で戦った場合にどれだけやれるのか知りたいので全力を出してもらいたい。

 まぁ、こういうのは戦っているうちに手加減出来なくなる、ということもあるだろう。

 それに言葉でシャロを説得するのは無理そうなので、さっさと戦ってその実力を測らせてもらうとしよう。


「いや、こういうのはあれこれ言っても仕方ないよな。さっさと戦って、実力を確認させてもらおうか」


 言ってから手に持ったナイフをくるりと回してから逆手に構えるとシャロも少しばかり嫌そうにしながらも戦う構えを取り始めた。


「わかりました……来てください、神樹の刃(デウス・アイゾーオン)!」


 シャロの言葉に応えるように、淡い光と共にシャロの手にはいつの間にか一本の槍が握られていた。

 これは自身の武器などを手元に呼び寄せる魔法を使ったということだろう。呼び寄せるとは言うが、家などに保管しているということではなく、魔法によって異次元に保管されている。というのが正しい。

 この魔法を使うことによって、玩具箱では取り出すことの出来ない大きさの武器を持ち運ばなくて済むようになるので、ある程度の魔法が使えるのであればこれを使うというのは悪い選択ではない。

 悪い選択ではないのだが、普通はそうした魔法を使うことなく一瞬で構えることが出来るように普段から持ち歩くのが一般的なのではないだろうか。


「神樹の刃、か。大層な名前だな」


 シャロの持っている槍は刃が少しばかり大きく、単純に槍としてだけではなく薙刀のようにも使えるように見える。しかし、その刃は金属製ではなくどうにも樹木によって作られているようだった。

 その槍を手にしたシャロは具合を確かめるように二、三度振ってから構えた。


「いつでも戦えます」


「わかった。それじゃ……最初は軽くやろうか」


 言ってから駆けるわけでも一足で距離を詰めるでもなく、歩いてシャロに近寄る。


「……えっと……?」


 軽くとは言ったがこんな距離の詰め方をしていれば困惑するのも当然だろう。ただ、これも一つの確認のためなので気にせずに歩み寄る。

 そしてとある距離まで近寄った瞬間にシャロが槍を持つ手に力を込めて少しだけ構えを取ったのが分かった。本人に意図した様子はないので無意識に。ということだろう。ただ、こうして距離を詰めていくうちに無意識にそうするということはここがシャロの間合いのぎりぎり外。ということになる。


「……遠いな」


「遠い……?」


「槍の間合い。石突の辺りを持ったとしても届かないのにシャロはこの距離で構えただろ」


 どう考えてもシャロの持っている槍の間合いではないのだが、シャロは無詠唱で攻撃魔法を使えるのでそれを含めた間合い。ということなのかもしれない。


「何にしろ、これがシャロの間合いのぎりぎり外ってことになる。間違いないか?」


「は、はい……そう、なりますけど……」


「なるほど……まぁ、これだけの距離があってちゃんとそれを維持したまま戦えるなら充分にやっていけるんじゃないか?」


「……そう言いながら、ナイフを納めない理由を聞いても良いですか?」


「手合わせをするために決まってるだろ」


「ですよねー……もう、怪我をしても知りませんからね!」


「はいはい。軽い怪我くらいなら白亜か桜花に頼めば治してもらえるから気にしなくて良いぞ。大怪我だったら……まぁ、何とかなるだろ」


「普通は何とかなりませんからね!?」


 今から手合わせをするというのにお互いに軽いノリで言葉を交わす。最近シャロが俺やハロルド、白亜や桜花のノリに慣れてきたようでこうした会話が出来るようになったのは純粋に嬉しく思う。

 やはり妙に距離を取ったり、遠慮するよりも今のような会話が出来る方がやりやすい。


「それじゃ……行くぞ」


 一足でシャロへと肉薄し、ナイフの峰をシャロの首元へと添える。これでシャロの首元が斬れるということはないが、首元にナイフが添えられているというだけで薄ら寒いものがあるのではないだろうか。

 驚いたような表情を浮かべているシャロを見ながらナイフの峰を押し当てる。

 どうやらまだ気を抜いていたようだ。これでは手合わせも何もない。


「少し気を抜いてたみたいだけど、これが実戦ならシャロは死んでる。良いか、手合わせだから、相手に怪我を負わせてしまうかもしれないから、とかそういうのはいらない。本気でやれよ」


「は、はい……わ、かりました……」


 シャロの返事を聞いてからナイフを退けてシャロの間合いの外へと出る。

 もう一度やり直すにしてもこの距離で再開というのは流石にシャロが不利すぎる。ちゃんとフェアな状況を作ってからやり直さなければならない。


「それじゃ、次が本番ってことで……」


 俺の言葉を聞いてから深呼吸を一つして、神妙な表情でシャロが槍を構えた。これで先ほどのような強襲を仕掛けても意味がないだろう。

 シャロもやっとやる気になってくれたようなので、ここからが手合わせの本番ということになる。話を聞く限りはシャロは相当に強そうだが、さて、一体どれだけ戦えるのか楽しみだ。

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