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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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63.明日の予定は

 アルの依頼についての話が終わり、そろそろ良い時間になって来た。そう思ってシャロとハロルドに目を向けるが、未だに話が続いているようで非常に楽しそうだった。

 依頼の話をしている場合はハロルドがストレンジに敷かれた魔法陣を起動してくれるので、その対象となった会話のみ周囲に聞こえなくなる。だから俺とアルの会話は他人には聞こえていなくても、シャロとハロルドのように周囲の会話は聞こえてくるのだ。

 声をかけるのでも良いのだが、とりあえず俺とアルの話が終わったことをハロルドに伝えるためにハロルドの視界の端。カウンターを人差し指で軽くトントンと叩く。

 これは話が終わったので魔法陣を停止しても問題ないということを伝えるための仕草だ。ストレンジの常連である依頼人たちにとっては慣れ親しんだ仕草となっている。

 その仕草に気づいたハロルドが一瞬俺たちに視線を向けると、自身も軽くカウンターを人差し指で一度叩く。たったこれだけでストレンジの魔法陣が停止するのだから、見事としか言いようがない。

 また普段であればそうした仕草の一つを自然とやってみせるので気づけば魔法陣が起動している。ということは珍しくない。

 それにしても本来、魔法陣という物はこんな仕草だけでどうにかなるようなものではないはずだが、そんなものを用意できるというのはハロルドの人脈の成せる業ということだろう。


「シャロ、盛り上がってるところ悪いけど、こっちの話は終わったぞ」


「待たせてしまって、本当にすまない」


 そう声をかけるとシャロはようやく喋ることをやめて俺を見た。


「もう良いのですか?」


「あぁ、話すべきことは話したからな。そっちはどうだった?」


「ハロルドさんと沢山お話しましたよ。お祭りのこととか、その時の主様のこととか、とにかく色々です!」


「そいつは楽しそうで何よりだな」


 余程楽しかったのか、喜色満面とでも言うような表情を浮かべているシャロにそんな言葉を返してから次にハロルドへと言葉をかける。


「アルの依頼を受けることにした。必要な連絡はハロルドに頼めば良いよな?」


「そう、それは良かったわ。それと連絡についてはいつも通り私に任せて頂戴」


「ありがとうハロルド。それとアッシュも」


「これが私の仕事だもの。お礼はいらないわ。アッシュは……お礼の言葉が必要かしら?」


「依頼を受けてそれを達成するのが俺の仕事だ。礼はいらないな」


 ハロルドの言葉を真似てそう返せば、ハロルドは楽し気に笑みを浮かべ、シャロは俺がハロルドを真似たと理解してくすりと笑い、アルだけがまだ俺のノリというか性格を理解出来ていないようで困ったようにしていた。

 これが白亜や桜花であればハロルドのように笑んでいたのではないだろうか。という取り留めのないことを考えながら時間が時間なのでそろそろ帰ることにしよう。


「ハロルド、アル、良い時間になったから俺とシャロはそろそろ帰ろうかと思うんだけど」


「そういえば……随分と時間が経っていますね」


「それもそうね……アッシュは良いとして、シャロはそろそろ寝ないと、身長が伸びなくなっちゃものね?」


「し、身長は関係ないのではありませんか!?」


 シャロは身長のことを気にしているとハロルドも知っているので、俺がたまにするようにハロルドも身長のことでシャロをからかうことがある。

 ハロルドの性格上、そうしてからかうようなことをするというのはそれだけ打ち解けることが出来た。ということになるので、二人の関係が良好のようで俺としては安心だ。

 もし俺に何かあっても、ハロルドや白亜、桜花がシャロの面倒を見てくれるだろう。という意味で、だ。

 こんな仕事ばかりをしているのだから、いつ何があるかわからない。俺一人であればそういったことは気にする必要もなかったのだが、今となってはシャロがいるのでそうもいかない。

 危険な仕事を避けつつ、シャロが一人にならないように気を付けなければならないだろう。


「あんまりからかってやるなよ。俺が言えたことじゃないけどな」


「アッシュもシャロのことをからかうものねぇ……」


「主様もハロルドさんも、別に身長のことを気にしているわけではありませんが、身長のことばかり言い過ぎですよ!」


 いつものじゃれ合い。というように三人で話をしているのだが、やはり慣れていないアルを仲間外れにしてしまう。その証拠にアルは非常に居辛そうにしていた。

 これが関係のない人間であれば放っておくのだが、知り合いというか、一応の友人となればそのままにしておくわけにはいかない。

 とはいえアルは社交性が高いので俺たちに慣れて来れば問題なく会話に参加することが出来るだろう。つまり、現状では放っておけないと言いながら放置するしかないということだ。


「はいはい。あんまり言い過ぎないようにするよ。アル」


「あ、えっと……どうかしたかな?」


 いきなり名前を呼んだのでアルが少し驚いていたが、それに気づかないふりをして言葉を続ける。


「またな」


 続けると言ってもこの程度の言葉だ。またな、という再開の約束のような言葉は、俺が思っていたよりもアルにとっては喜ばしいものだったようで、最初は驚いたような表情を浮かべ、徐々に嬉しそうな笑顔へと変化していった。

 そして、同じように非常に嬉しそうに、言った。


「あ、あぁ!また会おう、アッシュ!」


 たったこれだけの言葉でここまで喜ぶということは本当に友人がいなかったのだろうか。

 それとも、それとは別でそれだけ喜ぶだけの理由があったのかもしれないが、今の俺にはまったくわからない。もしかするとこれから先、仲が良くなっていけばわかるのかもしれない。

 仲良くなるほどに顔を合わせるかはわからないので断言は出来ないのだが。


「ハロルドも、また」


「ハロルドさん、アルさん、おやすみなさい」


「ええ、おやすみなさい。アッシュは他の依頼のこともあるから、明日にでも来てくれるかしら?」


「あぁ、おやすみ、二人とも」


「わかった。それじゃ、おやすみ」


 二人にそう言葉を残してからシャロと共にストレンジを出る。扉を開けてから外に出て、扉を閉める前に一度だけ振り返るとハロルドとアルが最後まで俺たちを見送っているようだった。

 それを確認して、軽く手を振ってから扉を閉める。ハロルドはそうすることも予想出来ていたが、アルも同じように見送っているとは少しだけ予想外だった。

 無事に依頼を受けてもらえるということで安堵でもしているかと思ったが、それよりも他人を気遣える。ということだろうか。

 そんなことを考えながら少し歩き、大通りに目を向けてみれば出店などはまだ並んでいるが、祭りも終わりということもあって既に店仕舞いがされていた。そうした出店がいくつも並んでいる光景と、出歩く人々の楽しげな、それでいて祭りの終わりから来る寂しげな雰囲気は、お祭りごと特有のものではないだろうか。


「……お祭りは楽しかったですけど、終わってしまうと、何だか寂しいですね……」


「祭りの後なんてのはこんなもんだろ。楽しければ楽しいだけ、終わりが来ればそれだけ寂しくなる。たぶんだけど、満足するまで楽しんだつもりでも本当はもっともっと楽しみたかった。とか、そういうことなんだろうな」


「そう、かもしれませんね……」


 思い当たることがあるのか、シャロは俺の言葉に同意した。まぁ、どうせ生きていくなら楽しいことを沢山経験したいと思うのが普通だろう。

 スラム街の住人のようにその日一日を生きるので必死。ということでもなければ、生きていく中で楽しいこと、嬉しいことが多くある方が良いと思うのが当然のことなのだから。


「ただ、そういう風になるからこそ、次の祭りが楽しみになるのかもな。いつやるのか何てわからないけど」


「確かに、今回のお祭りは楽しかったから、次はもっと楽しくなれば良いな。と次が待ち遠しくなりますね!」


「だよな。ただ……王都でここまで大々的に祭りをやるのはそうあることじゃないから次ってのがどれだけ先になるのか……」


「そうなのですか?」


「あぁ、王族の生誕祭なんてのはあるけど、今回ほど出店が沢山ある。ってことはないな。基本的には王族の誰かが生まれてきたことを粛々と祝う。とか、そんな感じだな」


 基本的には、という言葉を使ったことからわかるように、例外も存在している。


「ただ第三王女、シルヴィアの生誕祭においては話が変わる。まぁ、昔からいずれは聖剣に選ばれて勇者になる。とか言われてたからな」


「えっと……勇者様の誕生日となれば話が変わる。ということでしょうか?」


「そういうことだ。勇者の誕生日なんだから派手に祝って周囲に勇者のことを知らしめないとな」


 本当のところはどうしてかわからない。ただ実際に勇者のことを広く知らしめることが出来ればそれだけ王国に攻め入ろうと考える人間が少なるなくはずだ。

 聖剣に選ばれた、ということは選ばれるだけの理由があり、歴代の勇者たちの戦闘能力を考えればたった一人で一個師団を平然と壊滅させるくらいは出来るはずだ。いや、歴代の勇者たちは一個師団どころか国一つ滅ぼせるくらい強かったとイシュタリアが言っていたので、勇者という存在は相当ヤバいと思う。

 イシュタリアが嘘を言っていた可能性もあるので、鵜呑みには出来ないのだが。


「何にしろ、生誕祭はまだまだ先だからな。俺たちが気にするべきことじゃないだろ」


「そうですね、私としてはお祭りよりも仔カルルカンさんの方が気になりますからね!」


「カルルカンの巣は……まぁ、アルの依頼が終わってからだな」


「……それってどれくらいかかりそうですか?」


「さぁ?それはわからないけど……シャロのことで色々と確認しておきたいこともあるから、どのみち先に回す予定だったんだ」


「確認、ですか?」


 生誕祭はまだ先なので放っておくとして、以前から話には聞いていたシャロがゴブリン程度なら倒すことが出来るという話が本当かどうか確認しなければならない。

 冒険者となった以上はいつか魔物と戦うこともあるだろう。だからこそ、シャロが現在どれだけ戦うことが出来るのか、それを知っておく必要がある。


「シャロがどれだけ戦えるのか、それが知りたくてな」


「ゴブリンが相手なら勝てますけど……」


「それは聞いた。ただ、こういうのは実際に自分の目で見て確認しないとな。それにもしかするとゴブリン以上の相手でも戦えるのかもしれないだろ」


「そういうものですか?」


「そういうものだ。何にしろ明日確認してみようと思うから、そのつもりでいてくれ」


「わかりました。あ、でも……」


「でも?」


 何やら得意げというか、自信ありげなシャロの様子に続きを促すように言う。


「もしかすると、主様が思っているよりも戦えて、びっくりするかもしれませんよ?」


「へぇ……随分と自信があるみたいだな」


「これでも同年代のエルフよりは鍛えてますから!」


「そうかそうか。それなら明日は楽しみにさせてもらおうか」


「はい!絶対にびっくりさせてみせますから!」


 もしかするとゴブリンくらいなら。というのは謙遜していたのかもしれない。

 だからここまで自信があるのではないだろうか。と思ってしまったので、純粋にシャロがどれだけ戦えるのか、楽しみにしておこう。そんなことを考えながらシャロと家へ帰るために歩を進めた。

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