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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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58.霞に煙る我が姿

 暫くふらふらとシャロと出店を見て回り、気づけば勇者のパレードが行われる時間が近づいて来ていた。そのせいか俺たちと同じように出店を見て回っていた人々が大通りと大通りを見ることが出来る少し外れた通りに集まっていた。

 この状態で他の人たちと同じようにパレードを見ようとしたところで、確実に良くは見えない。というか、勇者となった第三王女の姿が見えれば周囲は盛り上がって歓声でも挙げるのではないだろうか。そんな中に居たいとは思えない。

 それにシャロの身長ではこうした人混みの中からパレードを見たとしても、第三王女の姿を見ることは叶わないだろう。

 ということで、当初から予定していた屋根の上からパレードを見る。という行動に出ることにした。


「シャロ、屋根の上に登るぞ」


「登るぞ、と言われても……主様、そういうのって誰にでも出来ることではないと思いますよ?」


「いや、それくらいはわかってるからな?」


「でも今の言い方だと、相手も登れて当然。とも受け取れますよ?」


「…………確かに、そうだな……」


 シャロに指摘されてから、確かにあの言い方では二人とも屋根の上に登ることが出来るような言い方だった。


「悪い……えっと、俺が手を貸すから、一緒に登ろう」


「そういうことでしたら、よろしくお願いします」


 俺がシャロに手を貸せば簡単に屋根の上に登ることが出来るので、そのことを伝えるとシャロもそれを了承してくれた。ということでシャロを連れて大通りから少し離れ、人目がない場所へと向かう。


「流石に人が見てる状態で、ってのは無理だからな。普通に憲兵が来て捕まるか注意されて終わりだ」


「まぁ……そうなりますよね……あ、でも屋根の上からパレードを見るとしても、他の方に見つかったらそうなるのではありませんか?」


「そうなると思うぞ。だから人から認識され難くなるマジックアイテムを使おうかと思ってるんだ」


「マジックアイテムって、そんなに一人の方が沢山持っているような物でしたっけ……?」


 俺がマジックアイテムを使おうと思っていることを口にするとシャロがそんな疑問を浮かべていた。

 確かに俺が使っているというか、持っているマジックアイテムという物は一人の人間がいくつも持っているような代物ではない。持っているとすればコレクターくらいのものではないだろうか。

 それなのにどうして俺がいくつもマジックアイテムを持っているのか。その答えは簡単だ。

 過去に行っていた真っ黒な仕事の戦利品であったり、現金ではなくマジックアイテムを報酬としていたり、使えると思ったから商人から買い取ったり、何となくコレクションとして集めたり、そうした様々な理由があるからだ。

 ただ、真っ黒な仕事をしていたとは流石に言いづらいので嘘ではない、コレクションをしているから。ということをシャロに教えることにした。


「まぁ、軽くコレクションしてるからな」


「主様はマジックアイテムのコレクターだったのですか?」


「それに近いかもな。いざとなれば使える物があるってのは、心に余裕を持たせてくれるぞ?」


 もっともらしいことを言いながら人目がない場所に辿り着くと足を止めて、玩具箱(トイボックス)から目当てのマジックアイテムを取り出す。

 取り出したそれは腕輪の形状をしていて、それを嵌めていると周りから認識され難くなるので俺が仕事で良く使うマジックアイテムでもあった。

 確かこれは『霞に煙る我が姿(ミスト・トゥ・ブルー)』と呼ばれていたような気がする。


「それを使うのですか?」


「そうなるな。霞に煙る我が姿、とかいう名前だった気がするんだけど……まぁ、今はそこは重要じゃないからどうでも良いか」


「名前も重要だと思いますけど……」


「良いんだよ。で、これを嵌めてっと」


 霞に煙る我が姿を腕に嵌めた瞬間、シャロが驚いたような表情を浮かべて周囲をキョロキョロと見渡し始めた。


「あ、あれ……?あ、主様……?」


 どうやら霞に煙る我が姿の効果は発揮されているらしく、シャロには俺の姿を認識することが出来ていないようだ。

 そうして効果を確認している間もシャロはずっと俺の姿を探していた。このまま放っておくのは流石に可哀そうなので、軽い悪戯をしながらシャロに俺の姿を認識してもらうことにした。

 徐々に不安そうに変化するシャロの表情を見ながら、その頬を軽く摘まむ。するとシャロは非常に驚いた様子で俺を見た。


「あるひひゃま……?」


「認識妨害。って言えば良いのかな。目の前にいるのに見えなくなるのが霞に煙る我が姿の効果だ。まぁ、こうやって触れればすぐに見えるようになるけどな」


 どういう効果なのか、説明してシャロの頬から手を放す。


「あ、あれ……また消えて……あ、でも……」


 同じように姿が認識出来なくなったことに戸惑ったようだが、すぐに気づいて手を伸ばしてきた。

 そして伸ばされたシャロの手を俺が取ると、再度シャロに俺の姿が認識出来るようになる。


「なるほど……弱点は触れられてしまえば姿が見られてしまう、ということですね」


「そうだ。それともう一つの効果があるから使おうと思ったんだけど、霞に煙る我が姿を嵌めてる人間に触れる、もしくは触れられているとそいつも同じように周囲から認識され難くなるんだ」


「つまり、屋根の上に登っている間はその、霞に煙る我が姿の効果を受けられるように主様の傍に居れば良いのですね」


「そういうことだ。ってことで、登るか」


 シャロは察しが良くて助かる。これを嵌めていればパレードを見に来ている人々からは俺たちの姿が認識されないはずなので、安心して見下ろすことが出来るだろう。


「登るのはわかりました。でも、どうやって登れば良いのでしょう……?」


「一番手っ取り早いから、これだな。少し我慢してくれよ」


「え……?我慢って…………えぇ!?」


 何を我慢してくれと言われているのかわからないシャロが疑問符を浮かべていたが、もうすぐパレードが始まってしまうので早く屋根の上に登る必要があった。

 なのでそれだけ言ってからシャロを横抱きにして一気に屋根の上まで登る。跳び上がるのではなく、建物壁を数回蹴って登るという、身体能力と慣れがあれば出来ること。だと思う。ただ、シャロを横抱きにしているのであまり揺れないように気を付けたので、その点は慣れないことをしたので少し難しかった。

 急にそんなことをしたのでシャロに驚かれてしまったが、というか横抱きにした時点で驚かれてしまったが何の問題もなく屋根の上に登ることが出来たので良しとしよう、と思う。


「あ、主様!?」


「どうした。ちゃんと登れただろ?」


「そうではなくて、いきなりこんなことをされると普通に驚いてしまいますよ!?」


「まぁ、慣れないとこの登り方は驚くか」


 俺としては子供の頃から逃げるためにパルクールのようなこともしていたので、成長してから少し無茶な動きも出来るようになったのでもはや慣れたものだ。だがシャロは驚いてしまったと抗議の声を挙げた。

 驚かせてしまったのはわかっていたので、ここは素直に謝っておこう。


「悪かった。次は……心の準備をするくらいの時間は取るようにするか」


「いえ、そちらではなくて……その……い、いきなり、お姫様抱っことか、そういうことをされると、非常に驚いてしまうというか、恥ずかしいというか……ちょっと、嬉しいというか……」


 最後の辺りはごにょごにょと小さな声で言っていたが、距離が近いこともあって俺にはしっかりと聞こえた。それと、そうして言っている間に徐々に顔が赤くなり始めたので本当に恥ずかしかったのだと思う。

 また、屋根の上に登ってきたばかりなので当然のようにシャロを横抱きにしたままだった。本人はちょっと嬉しいというようなことを言っていたが、このままではどんどん赤くなっていきそうだったので降ろすことにした。


「はいはい。それじゃ、降ろすけど……俺の手を放すなよ。人に見られるのと、下手をすると屋根から落ちるからな」


「……わかりました。そういうことでしたら、主様の手は放しませんからね」


 何処か不満そうに返事をしたシャロだったが、俺の言葉をちゃんと聞いてくれて手を放さないようにすると言ってくれた。また、先ほどまで赤かった顔も少し落ち着いてきている。

 これでシャロの姿が誰かに見られて騒ぎになることも、屋根から落ちて怪我をしてしまうこともないだろう。そう思いながらシャロを降ろしてから手を繋いでいると、何かを思いついたようにシャロが握っている手の形を変えようとしていた。


「……どうした、手の繋ぎ方に不満でもあるのか?」


「いえ、不満というか……こう……」


「繋ぎ方を変えるのは良いけど、手を放して俺を見失うとか、屋根から落ちるとかはするなよ?」


「それは大丈夫です。えっと……確か、こうして……出来ました!」


 シャロによって手の繋ぎ方を変えられたのだが、俗に言う恋人繋ぎの形になっていた。

 白亜のように、これで恋人同士だ。などとは言わないと思うのだが、どういう考えでこの繋ぎ方にしたのか真意を知りたい。


「これで、主様と白亜さんと同じように、私と主様も仲良しです!」


 言ってから俺を見上げて嬉しそうに笑顔を浮かべるシャロ。

 昨夜、白亜がこうした手の繋ぎ方をして、いつものノリでぽんぽんと会話を交わしていた時に二人は仲良しですね、というようなことを言われたことを思い出す。

 もしかすると、お互いの距離が縮まったと思ったところにそれ以上に距離感の近い白亜の姿を見て少しばかり羨ましいというか、嫉妬の感情を抱いてしまったのかもしれない。

 だからこそ、こうして恋人繋ぎをして、自分も白亜と同じように俺と仲が良くなった。と言いたいのではないだろうか。

 可愛すぎるだろ。と思いながら、そんなシャロの頭を撫でる。シャロの傍にいたいと思うだとか、絆されただとか、並べていたがこれだけ可愛い可愛いと思うということは単純に好意的に見ているということのような気がする。


「そうだな……まぁ、随分と仲良くなったとは思うぞ」


「む……主様としてはまだ仲良くなり足りないようですね……でしたら、もっと仲良くなれるように頑張ります!」


「……そこまで頑張らなくても、勝手に絆されて、仲良くなる気がするんだけどな……」


 シャロには聞こえたかわからない程度の声量で呟いてから、そういえば、とある考えが浮かんだ。

 よくよく考えてみれば、世話になっているハロルドや世話になってきたジゼル、変態のクソ野郎なのにセクハラをされても許してしまう白亜にお前はそれで良いのかと言いたくなることが多々ある桜花。そういった面々のことも随分と好意的に見ているような気がする。

 いや、気がする。ではなく好意的に見ているのか。それも、俺が思っていた以上に。

 そんな考えに至ると、少し顔が熱くなるような感覚を覚え、それをシャロに悟られないように頭を撫でる手に少しだけ力を込めて顔を見られないようにした。

 まぁ、他にも随分と好意的に見ている相手がいるのだが、そうした感情を抱くようになった相手の中ではきっとシャロが最短記録を樹立したのではないだろうか。そんなくだらないことを考えながら、ついに始まったパレードへと目を向けた。


「ほら、もうパレードが始まったから第三王女を見逃さないようにしろよ?」


「あ、もう始まったのですね。私としては第三王女の勇者様をどうしても見たいというのではなくて、絵本にも出てくる勇者を選定する聖剣がどういうものなのか見てみたいのですが……」


「あぁ、そっちか。確かに聖剣なんて見る機会はないからな。でも、それなら本当に見逃さないようにしないとダメだな」


「そうですね……見逃さないように、しっかり見ないといけませんね」


 まだ始まったばかりで第三王女の姿はここからでは見えないが、どうせすぐに見えるようになる。

 個人的には、第三王女のことは少しばかり気になっていた。遠目から見るだけではどういう存在なのか、はっきりとはわからないとは思うが、せっかくの機会だ。その姿だけでも確認させてもらおう。

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