表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
60/211

56.実は美味しいコカトリス

 シャロは一口一口が小さいので、俺のようにかぶりついて食べたとしても食べ終わるまで、やはり時間がかかってしまう。

 まぁ、幸せそうに串焼きを頬張っている姿は見ていて非常に和むのでそれを眺めて待つというのは悪いことではないと思う。

 そうしてシャロを眺めて待っているだけではなく、店主との会話の中でセウフィティスの現在の状況などを教えてもらうことが出来た。

 現在は十三代目の王であるラウティレンス王が統治しているのだが最近ではあまり姿を見せることがないこと、十四代目の王となるはずのエルクエンリス王子が王宮を抜け出すことが多いこと、黒いローブの集団が王宮に入って行ったが出て来てはいないこと、雨があまり降らなくなってきていること、周囲の砂漠では魔物の活動が活発になっていること、などなど色々なことを聞けた。

 どうにも不穏な気配を感じるが、果たしてセウフィティスに行くようなことがあるのだろうか。むしろ不穏な気配がする場所にはあまり近寄りたくないので、現状では行かないと思う。

 シャロがコカトリスの串焼きを気に入ったようなので、機会があればセウフィティスに行って風渡りの止まり木に、と考えたのだが、これではどうなるかわからない。


 そうしてシャロが食べ終わるのを待っていたのだが、ようやくシャロが串焼きの最後の一つを食べ終わった。

 豪快に、とまではいかないがかぶりついていたために口の周りに油が付いていて、シャロはそれに気づいていない様子だった。というか、満足そうな表情を浮かべているのでそういうことにまで頭が回っていないのかもしれない。

 そんなシャロに少しばかり呆れながらも玩具箱(トイボックス)からハンカチを取り出してシャロの口の周りを拭く。


「んん~……」


 幸せオーラ全開だったせいか、この行動を深く考えることなく甘んじて受けているシャロの姿に、どちらが世話役なのか、と一瞬考えたがそんなことを口にする必要はない。綺麗に拭いてからハンカチを畳んで同じように玩具箱から取り出したハンカチで包んで片付ける。

 他人の口を拭いた物を触るのが嫌だ。とかではなく、そういうことをシャロが気にするかもしれないので、そうした面倒なことをしたのだ。

 まぁ、シャロはそれに気づいていない様子だったので意味はあまりなかったのかもしれない。


「ほら、綺麗になった」


「ありがとうございます。えっと……兄、さん……?」


「どういたしまして」


 先ほど兄妹と言われて、俺がそれを否定しなかったのでそういう風に振る舞った方が良いと判断したのか、シャロが俺を兄と呼んだ。

 平然としながら言葉を返したが、少し照れたような、恥ずかしがっているようなその様子を見て可愛いと思った。というか、シャロは普通に可愛いのだが。

 意味のないことを考えながらとりあえずそろそろ別の場所に行こうと考えて店主を見ると、微笑ましそうに俺とシャロを見ていた。どうしてなのか、考えるまでもないので特に反応はしない。


「コカトリスの串焼き、とっても美味しかったです!」


「だな。魔物の肉って聞くと少し抵抗があるけど、これだけ美味いとまた食いたくなる」


「はい!でも……他にも色々ありそうなので、今日は我慢ですね。お祭りの間こうしてお店をやっているのなら、また明日に来ることも出来ますから」


「まぁ、普通は祭りが終わるまでこうして構えてるだろうけど……なぁ、毎日やってるのか?コカトリスの肉何てこの辺りだと手に入らないから数量限定とか、そういうこともありそうなんだけど」


 安易に手に入る肉であれば毎日でも売ることは出来る。だがコカトリスの肉となると、王都の周辺では手に入らないので何か手段を講じていなければすぐに売り切れになってしまうだろう。

 そこはどうしているのかと思い、店主に確認を取る。すると店主は自身に満ち溢れた表情で言った。


「そこは大丈夫さ!ちゃんとコカトリスの肉は追加で持って来てもらうように依頼を出してるからね」


「なるほど。それはコカトリスを討伐して、それから持ってくるようになってるのか?それとも、討伐と運搬は別にしてあるのか?」


「別々の依頼だよ。運搬だけならランクが低くても出来るから、分けてあるんだ」


「道理だな。シャロ、明日も食えそうだぞ?」


「でしたら、明日もまた串焼きを頂きましょう!」


「とりあえず、予定として組み込んでおくか」


「おぉ、さっそくリピーターの確保が出来るなんて幸先が良いね!」


 明日も来るということがわかると店主は上機嫌でそう言ってから笑顔を浮かべていた。

 今回立ち寄って本当に正解だった。お互いに気分良く買い物が出来たというのは良いことだ。

 そんなことを思いながらも、これ以上この場所にとどまる必要はないので移動することにした。


「さて……シャロ、次は何処の料理を探すんだ?」


「次は何処、というのはありませんから、歩きながら探そうかなと思っています」


「なるほどな。それなら適当に歩くか」


「はい!」


 二人で今後の動きを話している間も笑顔で見てくる店主だったが、俺たちが離れるつもりだとわかって声をかけてきた。


「明日の御来店、お待ちしております!」


「別れ際にも来店するように言う辺り、流石宿と酒場を経営する商売人だな」


「はい、また明日、よろしくお願いしますね」


 別れの言葉を交わしてからその出店から離れる。少し離れてから振り返れば別の客が来たようでニコニコと人当たりの良い笑顔で接客をしていた。

 その姿はやはり商売人そのもので、あれならば祭りの期間中に人がたくさん訪れるだろう。出稼ぎに来ているというようなことを言っていたので、きっと満足のいく収入になるのではないか、と思いながらシャロと並んで次は何処に行こうかという話をすることにした。


「コカトリスの串焼きは美味かったな」


「そうですね。魔物のお肉ということで少しどうかな?とも思いましたが……とっても美味しかったです!」


「だな。で、次はどうする?思ってたよりも腹に溜まる感じだったからすぐに別の物を、ってよりは小物とか特産品とか、そういうのでも見て回るか?」


「それも良いかもしれませんね。でも……」


「でも?」


「勇者様の御披露目パレードは見てみたいなぁ、と思いまして……」


 勇者となった第三王女の御披露目パレード。王都の大通りを王城へと向けて真っ直ぐに進むだけのそれは、普段は特別な行事などがない限り姿を見せることのない第三王女が、というか王族の一人が姿を見せるということで王都の人間や、外からやって来た人間はそれを見たいと思うのだろう。

 俺としてはさして興味がないのだが、シャロが見たいというのならそれに合わせて動く必要がある。

 本来であれば祭り期間中の中頃にでも行えば良いそれは、勇者としての責務だの何だのがあるのか知らないが初日に行われるので、早い段階で何処から見るか決めておいた方が良いだろう。


「そうか。それならパレード開始の時間より前に何処か見通しの良い場所にでも行くか」


「すいません、私の我儘で……」


「いや、特に予定もなかったから気にしなくて良いぞ。それに見通しの良い場所なんて上に行けば良いだけだからな」


「上に……?」


 パレードを見たいということでそれに合わせて動かなければならないことを理解しているシャロが申し訳なさそうにしていた。

 だが俺の言うように元々ただの食べ歩きで予定と言える予定もなかったこと、そして見通しの良い場所というのは上に登れば良いだけ、ということで本当に気にしなくても良いと思った。

 まぁ、急に上と言われてもシャロにはどういうことなのか理解出来なかったようだが。


「パレードを見ようとするのは皆同じだろうけど、それに混ざっても見えにくいだろ?だから上に登るんだよ」


「上に、登る……」


「建物の屋根に登るんだ。下の奴らからは見えないように工夫さえすれば問題ないからな」


「そこで屋根に登る、という選択肢が出てきてそれを選ぶ辺りが主様らしい、ような気がします……」


 何故か少し呆れたような物言いをされてしまった。人混みの中からパレードを眺めるより、屋根の上に登った方が楽だと思うからこそ選んだというのにどうしてだろう。と一瞬だけ考えたが、普通は見通しの良い場所を確保する。という選択肢を選ぶものだと思い至った。

 スラムで生きてきたから、というか出来るから選んだそれはこの世界では一般的ではないと思い知った。それと同時に、それでも前世では高いところから見下ろす形でパレードや催し物を見ることはあったので、こういうことも世界が違えば異なるものなのだろうか、と疑問も抱いたのだが。

 とりあえずそれを表には出さず、そうした物言いをしたシャロの頭を強くわしゃわしゃと撫でるようにして気にせずに歩く。


「それはどうも。まぁ、実際に屋根の上からなら良く見えるんだよ。それともシャロは人混みの中からパレードを見たいのか?」


「わっ……もう!主様は行動が自由過ぎるような気がしますよ!まぁ、その……人混みの中からは見たくないですけど……」


「自由なくらいで良いんだ。人混みの中からだと、小さいシャロはまともに見えないかもしれないからなぁ」


「ち、小さいとか、そういうことではなくてですね!?その、人混みの中というのにあまり慣れていないからであって、そこに私の身長が関わっているとか、そういうことは……!」


「はいはい。それよりもパレードが見たいならさっさと近場を見て回って場所選びするぞ」


 気にしなくても良い身長のことを気にしているシャロにそう言ってから頭を撫でていた手を放し、ほんの少しだけ歩く速さを上げる。


「それにですね……って、待ってください!主様ぁ!」


 すると言い訳というか、弁明を口にしていたシャロが少しずつ離れて行く俺に気づいて慌てて小走りで追いかけて来る。そういうだろうと予想しての行動だったが、そうやって追いかけて来るシャロの様子は親鳥を追いかける雛鳥のように見えて非常に、非常に可愛らしかった。

 どうにもシャロを見る目が兄だとか保護者だとかペットの飼い主だとか、そういう感じになっているような気もするのだが、シャロが可愛いからそれも仕方ない。ということにしておこう。

 そして俺に追いついたシャロが先ほどと同じように隣を歩けるようにと元の速さに落とす。


「主様はもう少し私の話をちゃんと聞いてくれても良いと思います!」


「はいはい。ちゃんと聞いてるから心配するなって。だいたいシャロはまだ成長期が残ってるんだからこれから背も伸びるだろ?別に気にしなくても大丈夫だろ」


「成長期……そ、そうですよね!まだ私には成長期というものがありますから、背も伸びますよね!あ、いえ!別に背が低いことを気にしているだとか、もしかしたらこれ以上伸びないのではないかと不安に思っていただとか、そういうことはありませんからね!」


「わかってるって」


 先ほどとは打って変わって上機嫌になり、そんなことを言い始めたシャロに苦笑を漏らしつつ、先ほどから徐々に増え始めた大通りの人混みを見る。

 この世界に転生なんてろくでもないことをして、スラム街で生きてきて、まさかこうして過去に妬んだことのある人たちと同じよに穏やかに、楽しく大通りを歩くようなことがあるなんて、あの頃は思いもしなかった。

 まぁ、結局それは俺が異世界でもやっていけているからそうなった。ということではなく、周りのおかげ。という情けない理由なのだが。

 それでもこうしてシャロと一緒にくだらないことを言いながら日常を過ごせるというのは、意外と悪くない。いや、むしろ幸福だと言っても良いのかもしれない。

 そんなことを思いながらもふと空を見上げると、そこにはいないはずのろくでなしの女神様が笑っているような、そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ