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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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53.感謝と御礼を

 出かけるための支度が終わったシャロと共に家を出て、これから必要になると思うのでシャロにこの家の施錠と解錠について説明をしておくことにした。

 念入りに鍵をかけて(ロック・ロック)についても説明をしてから、一応は俺と一緒に行動するので今は必要ないのかもしれない、と思った。とはいえ、いつかはシャロとは別行動することもあると思うので一つしか持っていないこれを使うのとは違う手段を探さなければならないだろう。

 手持ちに何か使えそうな物がないか調べておかなければならない。が、今は冒険者ギルドでフィオナとシャーリーに礼を言うのが先だ。

 そう考えて家を出てから冒険者ギルドへと向かっているのだが既に出店では店員が販売する料理を作っていたり、特産品を並べていたりと着々と準備が進んでいた。

 それらを見て、シャロが瞳を輝かせていたが足を止めて何を売っているのか確認するのは全部後回しだ。

 とはいえ放っておくと立ち止まってしまうのがわかっているので、そうならないようにシャロの手を取る。

 すると少し驚いたように俺を見上げたシャロと目が合った。


「気になる物がある度に立ち止まるようだと進まないからな。悪いとは思うけど、冒険者ギルドまでは我慢してくれ」


「あ、いえ!そういうことでしたら、わかりました!」


「そうか。なら早く冒険者ギルドに向かうぞ」


「はい!」


 冒険者ギルドに着くまでは我慢してくれと頼むとシャロは了承の言葉を返してくれた。

 それからは二人で手を繋いで歩いて冒険者ギルドへと向かうことになった。

 道中、出店を出している人や早い時間から出店の商品を見て回っている人とすれ違うことがあったが、その誰もが微笑ましそうにシャロを見ていた。

 可愛らしい女の子が楽しそうにしているのだから、微笑ましく思うのは良くわかる。良くわかるのだが、本来であればエルフであることを隠しているシャロはあまり注目されるべきではない。

 まぁ、こうなるとは思わなかったが帽子を被せておいて良かったと思っておくことにしよう。そうしていなければ今頃、少しばかりの騒ぎになっていたかもしれない。


「主様、どうかなさいましたか?」


「いや……何でもない。それよりも、シャロはその帽子をちゃんと被ってないとダメだからな?」


「…………やはり、私がそうだと気づかれるのは良くないのですか?」


「珍しいってだけで人が寄ってくるからな。その中に悪人がいると面倒なことになるし、シャロも危険な目に会う可能性が高くなる。だから気づかれない方が良いな」


「なるほど……では、人前では帽子を取らないように気を付けます」


「あぁ、そうしてくれると助かる」


 そんな会話をしながら歩き続けるとついに目的地である冒険者ギルドが見えてきた。

 冒険者ギルドの前には立っている人影が見えるので、祭りの当日だというのに仲間と依頼でも受けに来た誰かがいるのだろうか。と思いながら近づいていくと、その人影がフィオナであることがわかった。

 どうにも冒険者ギルド前の掃除をしているようで、時折通りがかる人と挨拶をしていた。

 俺だけではなくシャロもフィオナがいることに気づいたようで、フィオナに対して手を振っていた。

 そしてフィオナも俺たちに気づいたが、俺とシャロの状態を見て驚いたような、困惑しているような。とにかく俺たちがこんな状態だとは思っていなかったようでその様子は見ていて少し楽しい。

 見ていて楽しい状態になっているフィオナに近づいてから、何事もないように挨拶をする。


「おはよう、フィオナ」


「おはようございます、フィオナさん」


「え、え?あ、はい。おはようございます、アッシュさん、シャロさん」


「フィオナさん、どうかしたのですか?」


「どうかしたのかって……え、お二人ってそんな距離感でしたっけ?」


「昨日からな」


「はい、昨日からですね」


 事実として昨日から距離感が変わっているのでそれを素直に言うと、シャロも同じようにそう返した。

 すると余計にどういうことなのかわからないというように困惑するフィオナを見て、つい小さく笑ってしまった。


「な、何を笑っているんですか?」


「いや……まぁ、何だ。フィオナのおかげ、って感じだな」


「え?」


 それだけ言われても理解出来ないのはわかっているので、とりあえずは落ち着いて話をするために昨日と同じように個室を借りることが出来るのならそこで話をするべきだろう。


「フィオナ。落ち着いて話がしたいから、個室を借りることは出来るか?」


「え、えぇ……まぁ、この時間は使う方もいませんから大丈夫ですけど……」


「そうか、それなら頼む」


「わ、わかりました……?」


 昨日の俺とは全く違った落ち着いた様子だったのでそれも困惑する要因になっているような気がする。

 まぁ、他にもシャロの様子がフィオナの知るそれよりも柔らかい物になっていたり、先ほどまで俺がシャロと手を繋いでいたり、そういったことも更にフィオナを困惑させてしまったのだろう。

 何にしろ、まずは話し合いだ。困惑しながらもフィオナは冒険者ギルドの中へと入っていき、入れ違いで別の職員が出てきた。どうやらフィオナと掃除を交代したようだった。

 そんな職員に一礼をしてからフィオナの後を追って冒険者ギルドに入ると既にフィオナの姿はなく、きっと奥で個室を借りるために話をしてくれているのだと思う。

 とりあえずは俺たちに出来ることは何もないので隅の方で邪魔にならないように待とうかとシャロと二人で話しているとフィオナではなくシャーリーがこちらに歩いてくるのが視界の端に映った。

 シャーリーにも礼を言わなければならないと思っていたので丁度良いかと思い、可能であれば同席してもらえるように話をすることにした。


「シャーリー、おはよう」


「おはようございます、シャーリーさん」


「アッシュさん、シャロさん、おはようございます」


 挨拶をしてからの一礼。流れるような洗練された動作にシャーリーのイメージ通りだと思っているとシャーリーが言葉を続けた。


「昨日は急な用事があるようでしたので見送りましたが……どうやら無事、その用事も終わったようで何よりです」


「……シャーリーは何処までわかってた?」


「何処まで、と言われましても。アッシュさんが何やら問題を抱えていること、それに気づかないようにしていること、急に出来た用事というのがそれに関係すること、先ほどからのお二人の様子を見る限り無事にそれらが終わったこと、と言った程度でしょうか」


「ほとんど全部かよ……」


「これでも人を見る目、観察する目は確かだと自負していますので」


 シャーリーには全てお見通しで、だからこそあの時俺が立ち去るのを容認していたらしい。

 確かにギルドの職員というのは人を見る目が必要になってくる。フィオナも俺が抱えている物を何となくではあるが見抜いていたのでそうした目は確かなのだろう。ただ、シャーリーはそれ以上だったようだ。


「はぁ……そうか。でも、ありがとう。おかげで少しはマシになったと思う」


「少し、ですか?私には随分と変わったように思えますが……」


「そうか?」


「はい。シャロさんも、アッシュさんが変わったと思いますよね?」


「そう、ですね……主様は優しくて、温かくて、ちょっとだけ甘えさせてくれて、私が言うのもどうかと思いますがとても変わったと思います」


「……ちょっとだけ?」


「…………ちょっとだけ、です!」


 どう考えてもちょっとだけ、ということはないと思うのだが、シャロは少し赤くなりながらもそう言った。

 子供ながらに甘えすぎたと言うのが恥ずかしいのだろうと思い、それ以上は追及しないことにしたのだが、俺とシャロを見たシャーリーは一人で頷いていたのできっと察してくれたと思う。

 とはいえそれを口にするとシャロが拗ねてしまう可能性があるので気づかないふりをしながら話を変える。


「そうだ、シャーリー」


「何でしょうか」


「この後、フィオナと少し話をするんだけど、シャーリーも同席するか?」


「話、ですか」


「まぁ、礼を言いたいってくらいなんだけどな」


 はっきり言ってしまうが、今回の話というのは昨日の続きをするのが目的ではなく、それが解決したことと俺にその問題を気づかせてくれたことに対する礼を言うのが目的だ。

 とはいえ流石に立ち話で礼を言って、はい、おしまい。というのはどうかと思うので落ち着いて話がしたいと言っているのだ。


「あ、私もお礼をさせて欲しいのですが……」


「……わかりました。この場で私が断ったとして、アッシュさんは気にしないかもしれませんが、シャロさんが気にしてしまいそうですからね」


「シャロは俺よりも真面目だからな。それは気にするだろ。ちゃんとお礼がしたかったのに、ってな」


「そうですね。シャロさんはとても真面目で真っ直ぐな方ですから」


 やはりシャーリーにもシャロは真面目で真っ直ぐだとわかっているようで、俺に同意するようにそう口にした。するとシャロは少し恥ずかしそうにしていたが、そうした姿にあざとさは一切なく、純粋に可愛らしい子供の姿を見せてくれる。

 こうした姿を見せてくれるのはやはりあの問題が解決したからだと思うと、フィオナとシャーリーにはやはりちゃんとした礼をしなければならないと思う。


「先ほどフィオナが個室の利用を申請していましたのですぐに戻ってくるとは思いますが……それまでもう少し話をしましょうか」


「何か話さないといけないことがあるのか?」


「はい。シャロさんは参加出来ませんが、アッシュさんであれば参加可能な依頼が近々出てくると思います」


「私は参加出来なくて、主様だけが参加出来る、ですか……ランクの問題、ですよね?」


「そういうことです。Bランクの依頼になりますがこれは複数名の冒険者の方を募ることとなりますので、参加の意思があるのであればよろしくお願いします」


「参加するってなると……シャロを一人にすることになるのか……」


 個人的には昨日のこともあるのでシャロを一人にするというのは避ける必要があると思う。それにシャロはエルフであり、初日に見られているはずなので警戒しておかなければならない。

 となると、やはりシャロを一人にして俺が依頼で離れるというのはよろしくない。ただ、もし何かあれば力になると白亜が言っていたので頼るのも良いかもしれない。

 まぁ、頼るのは白亜ではなく桜花になるとは思うのだが。


「……シャロ、料理を覚える気はあるか?」


「料理、ですか?」


「あぁ、もし俺がシャーリーの言う依頼を受けるなら桜花に頼んで料理でも教えてもらうのはどうかと思ってな」


「桜花さんに……は、はい!もしそうなったら、桜花さんに料理を教わりたいです!」


「そうか。ならそういうことで一応話をしておかないといけないな」


 白亜と桜花が傍にいるならシャロは安全のはずだ。だからこその提案であり、シャロが料理は得意ではないようなので誰かに教わるのも良いと思ったからだ。

 それにシャロもその提案を聞いて乗り気になっているので悪い話ではないとシャロ自身も思っているのだろう。ただ、安全を考えて、ということまでは頭が回っていないような気がする。


「どうにも話が纏まったようですね」


「一応な。まぁ、その時が来てからじゃないとどうするか決められないわけだ」


「ええ、それはわかっています。ですが、アッシュさんに当ギルドからの依頼を受けていただけるなら幸いです」


「……私も頑張ってランクを上げて、可能なら主様と一緒の依頼を受けられるように、これから頑張らないといけませんね……」


「無理はするなよ?それと、焦っても良いことはないから自分のペースでやったら良いからな?」


「はい、わかりました」


 シャーリーの言うように、とりあえずは話が纏まった。

 そしてこれからフィオナにちゃんと礼をするための話し合いをしなければならない。

 きっとフィオナは礼を言うだけなら素直に受け取ってくれるだろう。だが何か礼をしたいと言えば辞退すると思う。

 だからこそどうにかちゃんと礼が出来るように話を進めなければならないのだ。それを思うと少しばかり大変になるような気もするが、場合によってはシャロとシャーリーも俺の援護をしてくれると思うので何とかなるのではないだろうか、とも思っている。


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