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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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52.少し違う甘やかし方

 食事を終えてから、片付けくらいは自分がすると言うシャロにそれよりも先にシャワーを浴びてくるようにと説得をした。俺としては片付けよりもそっちの方が良いと思ったからだ。シャロ自身もシャワー浴びたいと思っていたようで、想定していたよりもすんなりと説得することが出来たので良かった。

 シャロがシャワーを浴びている間にさっさと片づけをして俺自身も外に出る準備を進めていく。準備とは言っても大したことはしないのだが。

 そうして自分の準備を終えた俺は数日前にストレンジで整備をしていた武器を取り出して、再度整備を始めた。

 ストレンジでは場所がなかったのでカウンターの上で整備をさせてもらったが、自分の家となれば流石に食事をするテーブルの上で整備はしたくない。なのでリビングのソファに座ってゆっくりと整備をすることにしたのだ。

 定期的なメンテナンスはどんな武器にだって必要になってくる。特に繊細な武器であれば尚のことだ。

 だからこそこうして整備をしているのだが、整備の度にもう少し改造しても良いような気がしてくるのでそのうち手を付けるかもしれないし、付けないかもしれない。

 何にしろ、改造に手を付けた場合は時間が必要になってくるので暫くは無理だ。シャロを放っておく、というわけにはいかないので長時間一つの作業に没頭することは出来ない。

 こうした整備くらいであればそう時間は必要ないので出来るのだが、改造はどうにも。というのが現時点での悩みになるわけだ。


 そんなこんなで整備を終えると同時にシャロがシャワールームから着替えて出てきた。

 音がしたので振り返ってみれば、身なりはちゃんと整えられているが髪は濡れたままのシャロがタオルで髪を拭きながら歩いてくるところだった。

 流石に水滴が床に落ちる。ということはないが、それでもしっかりと拭くことは出来ていないように見える。


「ちゃんと髪くらいは拭いてから出てくるべきじゃないか?」


「すいません……でも、あまり待たせるのも、と思ってしまいまして……」


「だからってなぁ……髪を拭くくらいちゃんと待つから、そのままにしておくなよ」


「はい、わかりました」


 シャロの返事を聞いてから俺は整備の終わった武器とその道具を片付ける。シャロは俺の座っているソファの端、丁度俺との間に人一人分のスペースを空けてから座った。

 座りにくいだろうに。と思うのと同時にどうしてわざわざそんなスペースを空けたのだろうか、と疑問が浮かんでくる。


「……どうしてわざわざ端に座るんだ?」


「え?い、いえ……特に理由はありませんよ……?」


 特に理由はないと言いながらも少し気まずそうに俺から視線を逸らしているので絶対に何かある。


「そんな様子で言われてもな……あー……そうだな、シャロが嫌じゃないなら理由を教えて欲しい、かな」


 とはいえ、流石に強引にその理由を聞き出すことは出来ないのでシャロが嫌でないのなら、という前置きをすることにした。

 こういう言い方をすればきっとシャロはその理由を話してくれるはず。という考えがあってのことなのでやはり俺はろくでなしだ、と思った。


「あ、えっと、その……さ、昨夜は少し甘えすぎたな、と思いまして……」


「……いや、あれくらい普通だと思うぞ。甘えすぎなんてことは全くないはずだ」


「そう、でしょうか……でも、隣に座ったりするとまた甘えてしまいそうで……ずっと甘えているわけにはいかないので、我慢をしようと……」


 随分と甘えていたというか、甘えさせていたのがシャロとしては気になったらしい。流石に甘えすぎたから我慢しなければ。とりあえず隣に座るとまた甘えるかもしれない。と思って少し離れた場所に座ったようだ。

 まぁ、実際にはシャロが甘えてくるのではなく、俺が甘やかそうとするだけなのだが、シャロとしては自分が甘えている。と思っているのだろう。

 そういう理由であるのならば、ひとまずは納得しておこう。本人がそうして我慢するというのであれば無理に近づいて甘やかすべきではないとも思うからだ。


「なるほど……まぁ、シャロがそう言うなら俺は何も言わない方が良いんだろうな」


「……その、一度甘えるともう一回、とつい思ってしまうものなのですね……特に、主様に頭を撫でられるのはとても気持ち良くて……撫でマスターである主様のなでなでは、とても危険です……!」


「なぁ、その撫でマスターで呼び方やめてくれないか?というか何だよ、撫でマスターって」


「撫でマスターは撫でマスターです。撫でるのがとても上手な、撫でられると幸せになってしまう魔法の手を持つ人のことですよ」


「……それは、シャロの脳内で存在する何か、で良いんだよな?」


「いえ、私のように動物さんと仲良くなりたい方の間でそういう存在がいるとまことしやかに囁かれていました。私は俄かには信じがたいと思っていたのですが、あのカルルカンさんを見て主様がそうなのだと確信したました!」


「確信するな」


「それに、主様に撫でられるとふわふわ幸せな気持ちになって……撫でられると幸せになってしまう魔法の手というのは、本当だったのだと感動しましたね!」


「感動するな」


「だから、甘えたらまた撫でてもらえると思うと、甘えたくなるのですが……我慢しないと……!」


 何だろうか。まるで俺が撫でることが危ない薬を服用することと同じように聞こえてくる。

 それに俺は撫でマスターなどという意味の分からない存在なわけがない。シャロの考えることはわからないことがあるな。と思いながらも我慢しなければ、と気を引き締めているシャロを見る。

 シャロは完全に手が止まっていて、濡れた髪をそのまま放置している状態になっていた。流石にそれを放っておくのもどうかと思い、ソファから立ち上がってシャロの後ろに回る。


「自分らしく、好きな物は好きと言うように、甘えたいときに甘えるのも必要だと思います。でも、我慢も大事なことですから、ここはしっかり我慢して……」


「タオル借りるぞ」


「それで、甘えるタイミングというのも見極める必要が……あ、はい。どうぞ」


 まだ何か言っているシャロからタオルを受け取って、それを使ってシャロの髪を拭くことにした。自分の髪であれば特に気にすることなくガシガシと拭くのだが、他人の、それもシャロの髪となればそうもいかない。

 先ほど見た限りでは普通に拭いていたので俺がするのはその先だろう。そう思って玩具箱(トイボックス)から手頃な櫛を一つ取り出してから水分を拭き取りやすいように丁寧に梳かしていく。

 それが終わったらタオルで髪を挟むようにしてから髪についた水分を拭き取るというか、タオルに吸わせていく。前世であればここからドライヤーを使って乾かすことも出来るのだが、残念ながらこの世界にはないので諦めるしかない。

 ついでに言えば、俺がそうしてシャロの髪を拭いている間もずっとシャロはあれやこれやと言葉を続けていた。


「でも、どういうタイミングでなら甘えても良いのかわからないのが難点ですよね……白亜さんみたいに、甘えたくなったら甘える。というのは主様の迷惑になりそうですから、するべきではありませんし……」


「白亜は確かに甘えたくなったら甘えるって信条があるとか何とか。まぁ、外では流石にあれだと困るけど、家の中なら俺は気にしないぞ?」


「……だ、ダメです!それならちょっとくらい、と思いましたが、やっぱりダメです!何事も、用法容量を守って適切に、ですからね!」


「どうしてそこで薬みたいな扱いになるんだろうな……」


 という具合に話を続けているのだが、シャロは俺が髪を拭いていることに関して一切の反応がなかった。

 どうにもシャロとしては甘えるか、我慢するか、どうするべきか真剣に考えているようで気づいていないのかもしれない。

 とりあえず最後の仕上げとして炎の魔法で空気を温め、風の魔法でそれを送る。ドライヤーの代わりとして充分に使えるそれでしっかりと乾かす。

 魔法とはやはり便利で、前世では科学の力で暮らしを便利にしていたが、この世界、この王都では魔法の力を使うことで暮らしを便利にすることが出来るだろう。とはいえ、前世に比べればそうして魔法を利用して暮らしを便利に、豊かに。というのは少ない。

 前世のことが記憶にある俺は個人で魔法を利用してあれこれとやっているので実は快適に過ごすことが出来ていたりするのだが。


「……よし、ちゃんと乾いたな」


 昨夜も思ったがシャロの髪は非常に手触りの良い髪質をしていて、更に言えばシャワーを浴びたばかりということもあってかサラサラとしていていつまでも触っていたいという欲求に駆られる。

 ただ、濡れたままにしておけないからと勝手に髪を拭き始めたのであって、髪を触りたいからやったことではない。なのでシャロの髪の手触りを楽しむのはまた今度、シャロの頭を撫でるときにでも取っておこう。


「あ、ありがとうございます、主様」


「どういたしまして。ちゃんと髪は乾かすようにしないと、風邪をひくから気を付けろよ?」


「はい!」


 元気の良い返事をしたシャロの頭を二度三度ぽんぽんと撫でてから俺はタオルを洗濯籠に放り投げるために部屋を出る。


「あぁ、そうだ。今日は冒険者ギルドに向かってから祭りに参加する予定だからな」


「冒険者ギルドですか?」


「まぁ……フィオナとシャーリーには昨日少し世話になったからな」


「世話に……」


「……まぁ、俺が気づかないようにしてた、ろくでもないことに気づかせてくれた礼を言いにな」


「それは、もしかして……昨日の主様と話をしたこと、とか……?」


「…………そういうことだ。だから、ちゃんと礼をしないと……」


「それなら、私もお礼を言いに行かないといけませんね」


 フィオナの言葉がなければシャロと向き合って話をすることもなかった。それを思うとフィオナにはちゃんと礼を言わなければならない。

 それに昨日は話を途中で切り上げてしまったので、フィオナとしても話の続きをしなければならないと思っているはずだ。だからこそ、今日は最初に冒険者ギルドに向かう。

 そしてシャロはシャロで昨日のことにフィオナが関わっていると知って自分も礼を言いに行くと言った。

 どのみち一緒に行動する予定で、シャロはフィオナに対して礼を言わなければ気が済まないだろう。ならば俺とシャロ、二人揃ってフィオナにちゃんと礼を言いに行こう。

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