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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第一章 始まりの出会い、変化の始まり
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2.仲介人はバーの主人

 スラム街から離れて王都の中を進みながら周囲を歩く人々の様子を眺める。

 歩く人の姿は周囲を警戒した様子もなく、先ほどまでいたスラム街であればこんなことはあり得ない。

 スラム街から少ししか離れていないのに人も街の様子も全く違うものだと再度認識する。


 俺がスラム街に捨てられたのが本来であれば物心がつく頃で、今が十八歳なので随分と長い間スラム街で生活していたことになる。

 あんな場所で物心ついたばかりの子供が生きていくなんて無理だ。少しの間はなんとか命を繋ぐことが出来たとしても、すぐに野垂れ死にしてしまうのが関の山だろう。

 俺の場合は幼少期から自身の意識があったこと、中身が大人であること、スラム街に捨てられた自身の状況を理解出来ていたこと。それらが幸いして何とか生き抜くことが出来た。

 死んでしまえと思っていなければスラム街に捨てるようなことはしないはすだ。だから両親の顔も、家族のことも、家のことも全て覚えているが戻ろうなんて気は一切ない。

 というか、すでに死んでいることになっているか、元々存在していなかったことにされているだろうから戻れるわけもない。

 そんな考えれば考えるだけ沸々と腹の奥底で怒りが湧いて来そうになる考えを所詮は意味のないもので、既に割り切ったのだからと頭から追い払って、目的地のとある店の中へと入った。


 その店は大通りから少し外れた通りにある酒場というか、少し洒落たバーだ。

 そこにあると知らなければ中に入ることはないような外装をしているのだが隠れた名店とも言えるバーなので人が少なく、人が多い場所はあまり好きではない俺はよく世話になっている。

 世話になっているというのは酒を飲むため、ということもあるがもう一つ。

 それはスラム街から出て何の仕事をしようかと考えていた頃にこのバーの主であるハロルドに声をかけられたのがきっかけで始めた、ハロルドがいろんな人物から請け負っている冒険者ギルドには頼めないような仕事をする、何でも屋のような仕事の斡旋だ。

 以前何故俺に声をかけたのか、そう聞いた時に、スラム街で色々とやってきたのを知っていたからこそ仕事を任せることが出来ると判断した、という話を聞いた。今でもその色々の一部は続けてやっているのだが。

 警戒しながらもそうした仲介がある方が仕事をし易いと判断して話に乗ったのを今でも覚えている。


「いらっしゃい。って、なんだアッシュじゃない」


「俺で悪かったな……今日はいつもと化粧の感じが違う?」


「あら、あらあら!アッシュってばわかる?そうなのよ、いつもよりちょーっとだけナチュラルメイクに変えてみたの!」


「やっぱりか。でもどうして変えたんだ?」


「乙女は気分によって化粧を変えるのよ!っていうのもあるけど、今日は特別なお客さんが来るのよ」


 そう言ってからウィンクをするとハロルド自慢の薄紫色の長い髪が揺れた。

 またハロルドは普段の化粧と違ってナチュラルメイクで仕上げている。

 普段が濃いメイクをしているというわけではないのだが、これはこれで似合っているのではないだろうか。

 ただ、ハロルドがわざわざメイクの仕方を変える客というのはどういうことなのか。単純に好み、というだけの可能性もあるのだが。


「仕事関連で?」


「そう、しかもそのお客さんが私好みのナイスミドルだから、好みに合わせてみたってわけ!」


「それこそ乙女心ってやつなのかね。そんなことより、仕事はあるか?」


 やはりハロルドの好みだから、ということか。それにしてもハロルドの好みのナイスミドルか。この間は確か筋肉の逞しい男性、とか言っていたような気がする。

 もしかするとその客というのがナイスミドルで筋肉の逞しい男性という可能性もある。

 そんな人物ならばハロルドに仕事を頼むよりも自身でその仕事を片付ければ良いような気もする。

 いや、今はそんなことはどうでも良い。俺に回せるような仕事があればそれを回してもらおう。


「残念だけど、今のところアッシュに回せる仕事はないわね……どうしても仕事が欲しいなら冒険者ギルドに向かってみたらどう?」


 そう思っていたのに、どうにもそういった仕事はないらしい。冒険者ギルドを勧められたがあまり冒険者ギルドは利用したくない。

 一応冒険者登録はしてあるが、冒険者ギルドの依頼は依頼人の提示した報酬の一部を仲介料として冒険者ギルドに持っていかれてしまう。そうするとどうしても報酬が減ってしまうのだ。

 なんとなく、それが気に入らない俺は冒険者ギルドの利用をほとんどしていない。住民票代わりに使えるので、ギルドカード自体は使っているのだが、それ以外では冒険者ギルドに登録している恩恵を受けてはいない。

 ナイフなどの消耗品が安く買えるようになる。なんてことがあるのであればもう少し利用するのに。

 そんな俺の考えを見抜いたのか、ハロルドは少しだけ困ったような表情を浮かべていた。


「アッシュの考えてることはわかるけど、たまには冒険者ギルドも利用しないとダメよ?一定の期間依頼を達成しないでいるとギルドカードが失効されるもの」


「わかってる。ただ、報酬の一部を持って行かれるってのが気に入らないんだよ」


「でも私だって一部はもらってるわよ?」


 報酬の一部を冒険者ギルドに持って行かれるのが不満だ。そう言うとハロルドは自分も一部仲介料としてもらっているのに、と不思議そうにしていた。


「ハロルドは一割か二割くらいだろ。冒険者ギルドは基本四割だからな?大量の依頼を捌いてるってのはわかる。それでも四割持って行くなよって話だよ」


「私がアッシュに回してる仕事は基本的に危険な仕事だもの。それなら依頼を実行する人が多くもらわないとね。でも、冒険者ギルドにある依頼なんて基本的に数をこなせて、本人にあった難しさの依頼しか選べないんだから安全ではあるわよ?勿論、私の依頼よりは、って前提だけど」


「安全を金で買ってると思えとでも?スラム街じゃ金で安全なんて買えないっての」


「その何でもスラム街の常識を当てはめる考え方、そろそろやめても良いんじゃないかしら。もうスラム街には戻るつもりはないんでしょ?」


「スラム街に戻るつもりなんてない。それでも仕事でスラム街に入るんだからそっちを基準に考えた方が安全、とまではいかないとしても用心しておくに越したことはないだろ」


「確かにそうだけど……」


 自身の安全のためには念には念を入れて。とするのが普通だ。ただ俺の場合は何をするにもスラム街を基準にしているせいか、ハロルドはそれが気になっているようだった。

 もはやスラム街で生活するつもりはなく、冒険者ギルドの依頼で金を稼ぐようにする、もしくはどこかに就職するなりしてしまえばスラム街を基準にする必要もないだろう。

 ただ、俺自身はスラム街に住まないまでも今後の仕事はハロルドから回されてくる仕事か、もしくは以前から続けているとある仕事を続けていくつもりなので、考え方の基準を変えるつもりはない。


「俺はこれで良いんだよ。それより、客が来るってんなら俺は冒険者ギルドで適当な依頼でもこなすとするかね。あぁ、その客からの仕事が俺向きだってことなら回してくれるとありがたいけどな」


「はぁ……仕方ないわねぇ……」


 考え方を変える気はない。ということを理解したのか、まるで困った子供を見るような目で俺を見ながらハロルドはそう言った。

 そうした目を向けられるのは釈然としないが、もし立場が逆ならどうなるかを考えるとそれも仕方のないことか、と納得もしてしまった。

 これが見た目通りの年齢であれば納得出来なかったのだろうが、前世ではそれなりに立派な大人だったのだから納得出来てしまったというわけだ。今の生き方は立派な人間とはとてもではないが言えない生き方になっているのだが。


 閑話休題。


 どう動くかを決めたのならさっさと動こう。妙な時間に依頼を受けたとしても当日中に終わらなければ翌日以降に片付けなければならなくなる。それは面倒なので、今日中に終わらせたい。いや、残っている依頼によっては受けずに今日一日は休んでも良いのかもしれない。

 だがその前に一つやっておかなければならないことがある。


「そうだ、これ、渡しておいてくれるか?」


 懐に入れていた財布を三つ取り出してカウンターに置く。ハロルドはそれを手にすると財布の外観と中身を確認すると一つ頷いた。


「依頼の品ね。確かに受け取ったわ。というか、相変わらず仕事が早くて助かるわ。きっとお客さんもアッシュに感謝するんじゃないかしら?」


「感謝されたくてやってるわけじゃないんだけどな。それにこれくらいなら時間もかからないっての」


「アッシュにとってはそうかもしれないけど、リピーターが増えるから私としては嬉しい限りだわ」


「はいはい、それは良かったな。また後で報酬を受け取りに来るか準備しておいてくれよ」


「ええ、わかったわ。それじゃ、気を付けてね」


「あぁ、また後でな」


 短く言葉を交わしてからバーの外へと出る。今から冒険者ギルドに向かうのだが、その前に昼食を取ってしまおうか。今の時間であればほとんどの店は人で込み入っていないはずだ。人が多い中での食事はあまり好きではないので今のタイミングでの食事が丁度良いのかもしれない。

 そうと決まればどこか適当な場所に行こう。どこか行きつけの店でもあればそこに向かうのだが、特にそういった場所はない。強いて挙げるならハロルドのバーだ。そういえば名前は何だったか。

 ふとそんなことを思ってバーの名前を見るとストレンジとあった。まぁ、主も利用客もそんな感じだから、お似合いの名前ではあるのか。

 そんなどうでも良いことを考えてから大きな店よりも小さな店の方が落ち着けると判断してそれならばどこか良い場所はないだろうかと思い、大通りへと向けて歩を進めた。

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