29.パフェ攻略中
パフェの塔を攻略し始めてから数分、食べているから気づけたことだがなのだがソースのかけ方やアイス、シフォン生地や生クリームなどの配置というか入れ方が上から食べて行けば飽きないようにと気を遣って配置されているようだった。
シフォン生地や生クリームに飽きてきたところでシリアルのざくざくという触感と甘すぎない味は有難い。それに果物も甘いものだけではなく酸味のある果物が入っているのでそうした味の変化があるというだけで随分と食べやすい物だ。
なるほど。確かにこれならお勧めと言えるのも納得だ。最初は量に驚かされたが、食べる側が飽きないように配慮されているこのパフェは美味しい。
「うわぁー……アッシュさん順調に食べてますね……」
「はい、スプーンが止まりません」
「というか早くないですか?私はあのペースだと食べられませんよ」
「主様は男性だから、ということではないですか?」
そんな二人の会話が聞こえてくるが気にせず食べ続ける。途中でチョコレートソースがビターチョコレートに変わっていたので味の変化を楽しんでいる最中だったのだから仕方がない。
それと確かに食べるペースは少し早いかもしれない。あまりゆっくり食べているとパフェに使われているアイスが溶けてしまうからだ。
だからこそ少しばかりペースを早くして食べていたのだが、気づけばパフェの塔は半壊、といった段階まで来ていた。これならば座っても大丈夫だろう。
「もう半分ですか……アッシュさんって何気に大食いだったりします?」
「どうでしょう……昨日はそういう風には見えませんでしたけど……」
「でもフィフィさんも同じような感じでしたね……もしやあの二人には何か共通点が……!」
「人は見かけによらず、良く食べる。ということではないでしょうか?…………いえ、主様はもしかすると……」
もしかすると、と言って俺をじっと見てくるシャロだったがその様子にスプーンを止める。
どうにも俺の魔力の巡りを視ているようだったので何をしているのか、気づいたのだろう。
「お前の予想通りだと思うぞ。人間の魔法使いの間ではあまり知られてないけど、エルフにとっては当たり前のことだったりするのか?」
「やはりそうでしたか。はい、エルフは昔から魔法の扱いに長けた一族として知られていますから、そうしたことも魔法を習う段階で教わります。あぁ、いえ、エルフが魔法だけの一族というわけではないので、そこは勘違いしないでくださいね」
「別に勘違いはしてないんだけどな……いや、そうなると昨日お前が食べ過ぎたとか言ってたのはお前も同じようにしてたってことか」
「はい。あ、でも普段からそうしたことをしているというわけではありませんからね?」
「はいはい。どうだかな」
何て言いながら、お互いに納得したのでそれ以上は何も言わずにパフェの塔の攻略を再開しようとするとフィオナが口を開いた。
「いや、あのー……お二人で納得してるみたいですけど、私には何が何だかさっぱりわからないんですよね……説明とか、してもらえない感じですか?」
人間の魔法使いの間でもあまり知られていない魔力変換のことをただのギルド職員であるフィオナが知っているわけもなく、俺とシャロの会話の意味を理解することが出来ない状態で疑問符を浮かべているようだった。
「魔法を使う者としても知ってる方が珍しい、ちょっとした手法があってな」
「その手法を主様が使っているのであのパフェを問題なく食べられる。ということになります」
「お二人ともわかって言ってます?その手法っていうのがどういうものなのか全くわからないんですよ。あ、でもシャロさんの言い方からすると……」
「食べた物を魔力にすることが出来る手法です。魔法を使う人間の方にはあまり馴染みがないみたいですけど、私のようなエルフにとっては魔法を習う際にこの魔力変換という手法も学びますよ」
と、そこまで説明したところでシャロの様子が少しだけ変わる。得意げとまではいかないまでもしっかりと説明していたのに、急に少しだけ暗くなったのだ。
「ですが、その……魔力に変換してしまうと栄養として吸収出来なくなってしまうので、あまりこれをしすぎると……えっと、身長が、伸びなかったりして……」
この言い方だと、シャロは魔力変換のし過ぎで身長が伸びなかった。と言っているように聞こえる。
シャロは美味しい料理を食べるのが好きなようなので、もしかするともっと幼い頃から必要のない魔力変換をしながら食事を楽しんでいたのかもしれない。だからこそ身長が伸びていないと思ってこうして自分で言いながら落ち込んでいる、という可能性がある。
ただ子供というのは早い段階で身長が伸びる子や身長がなかなか伸びなかった子が急に伸びることもあれば、元々伸びない子もいる。だから栄養どうこうだけが原因ではないと思うのだがそれは黙っておこう。
それにシャロのように小さい女の子というのは俺は悪くないと思う。小動物的な可愛さで言えばカルルカンたちいも上なのだから。
「なるほど……つまり、その魔力変換さえ出来るようになれば美味しい料理やケーキなんかを食べ過ぎても太らないってことですよね……?」
「えっと……そうなりますね」
何となくフィオナの言いたいことは理解したのだが、この魔力変換というのは特殊な手法なので誰もが体得出来るようなものではない。
エルフのような魔法の扱いに長けた種族であればそうでもないのかもしれないが、俺たち人間は元々少ない魔力しかなく、魔力の扱いにはあまり長けていない。そのせいか、魔力変換を体得できるかどうかは才能というかその人物のセンスが物をいう。
「ただ、私たちエルフにとっては普通に出来ることでも人間の方には難しいと思います」
「え……でもアッシュさんはやってるんですよね?」
「そう、ですね……主様って、何者なのでしょうか……?」
そんな会話をしてから俺のことを不思議な物を見るような目で見てくる二人だったがそんなことをわざわざ説明するつもりもない。というか説明しても面倒なことになるのだからしたくない。
そう考えてからふとフィフィがこのパフェを食べ切れたのはもしかすると俺とシャロのように魔力変換を子なっていたのかもしれない。と思ってしまった。いや、でもそれは可能性としては低いのか。
魔力変換なんて魔法使いの間でもあまり知られていないし、ましてや使える人間は更に少ない。その少ない人間の中にたまたまフィフィが入っているとは考えにくい。
しかし、あのパフェを持ってくる際に平然としていた理由がもし強化系の魔法を使っていたのであれば魔法の資質があり、魔力変換について知識を有していた可能性はないとは言い切れない。
可能性が零ではないなら、あり得ないと切り捨てるのは早計だ。極々低確率の事態が起こるということはスラム街では何度か遭遇しているので余計にそう考えてしまう。
とはいえ、別にフィフィが俺の敵になるかもしれない。という状況でもないので完全に無駄なことを考えているとは理解していた。それでもつい考え込んでしまうのは、どうにもフィフィが不可解だったからだ。
「魔力変換ってすごいですね……あのパフェがついに四分の一に……」
暫く無為な考えを巡らせながら黙々とパフェを食べていたのだが、気づけばフィオナの言うように残りが四分の一となっていた。ただしここで問題が発生して、俺の魔力は既に完全に回復してしまった。
このままだとまだ残っているパフェを食べ切ることが難しい。
「さて、と……どうしたもんかな……」
残すのは良くない。だからと言って今日は一切魔力を消耗していないシャロに魔力変換は不可能なので協力を頼むことは出来ない。当然、フィオナにも頼むべきではないし頼む気もない。
ならもう一度玩具箱を使ってしまおうか。それとも本当に魔力放出でもしてしまおうか。そんなことを考えているといつの間にやらフィフィがテーブルの近くに立っていた。
「お見事ですねぇ。このパフェ、食べ切れた人は私以外にはいないんですよぉ」
「あ、フィフィさん。やっぱりこのパフェは食べ切れる人なんていませんよね」
「というかぁ……注文されたこともありませんからねぇ……」
「えっ」
「このパフェ、実は私が作ってましてぇ……自信作なのに店長がメニュー表に載せてくれないんですよねぇ……」
「当店のお勧めじゃなかったのですか!?」
「当店の店員である私のお勧めなので間違いではありませんよぉ。それにこの方もここまで食べてくださいましたしぃ……あともう少しですので、そろそろケーキの用意をさせていただきますねぇ」
それだけを言うと困惑するフィオナと、驚いているシャロを置いてフィフィはふらりと立ち去って行った。
そろそろケーキを持ってくると言う話をしたかったのだろうが、お勧めと言われたパフェがまさかの本当はピースフルのお勧めではなく、フィフィ本人のお勧めであり特製の物だということを言っていた。
まさかの作成者本人のお勧めというなかなかに衝撃的というか、マジかよ。と思うことだったが、それでもこれだけの物を作れるとなると腕は悪くないのがわかる。というか、腕は相当に良さそうだった。
「フィフィ、なかなかやるな……」
「そこで感心するって、アッシュさんってずれてませんか?」
「主様は天然さんだったのですね……」
俺が素直に料理の腕というか、パフェ作りの腕に感心しているとずれているだとか天然だとか言われてしまった。俺としてはそんな気はないので、否定しておかなければならない。
「俺はずれてもいないし天然でもないぞ。ただ、普通にパフェが美味いから良い腕をしてるなって思っただけだ」
「あれを聞いて最初に口にするのがそれって時点でずれてますよ」
「普通はたぶん、お店のお勧めじゃなかったこととか、フィフィさんのお手製だったこととか、その辺りを言うと思います」
「いや、美味い物は美味いんだから、普通だろ」
「んー……ずれてますねぇ……」
「天然さんですよね……」
どうにも二人にとってはずれている天然。ということになってしまったらしい。
なかなかに納得のいかない状況になってしまっていたが、これ以上何を言っても意味がないと悟り、パフェの残りを完食することにした。
こんなやり取りをしている間にテーブルの下で玩具箱を使っていたので魔力を少しだけ消耗出来ている。
元々魔力変換は効率が非常に悪いので切羽詰まった状態にでもならなければ使われることがない手法だ。だからこそ、ほんの少しでも魔力を消耗していれば結構な量を食べることが出来るのだ。
なのでパフェの残りと追加で来るケーキを食べるには、玩具箱数回分の魔力で事足りる。ということでさっさと食べてしまおう。




