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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第一章 始まりの出会い、変化の始まり
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22.自分らしくない悩み

 俺が少しばかり考え込んでいる間にハロルドは朝食の準備を済ませたようでカウンター席に座っていた俺の前にそれを置いてくれた。

 顔を上げてハロルドを見れば温かい目で俺を見ていたので、俺が何を考えていたのかを察しているようだ。


「大丈夫よ、アッシュ。貴方は良い子だもの」


「……何が大丈夫なんだろうな」


「貴方が感じている罪悪感も、あの子を心配する気持ちも、貴方が良い子だからそうしてしまうの」


「いや、だから何が大丈夫なんだ?」


「色々考えることもあるでしょうけど、自分のことをろくでなしのクソ野郎。とか思わないようにしなさい」


「…………クソ野郎とまでは思ってないんだけど……」


「あら、そうなの?ならそこはごめんなさいね。でも、あんまり自分のことを卑下しないようにするのよ。貴方がどういう人間なのか。私や白亜、桜花だってわかってるんだから、あんまりそんなことばかりしてるとちょっとお説教が必要になっちゃかもしれないものね」


 ハロルドにそんなことを言われて、ため息が零れてしまう。

 確かに俺は自分のことをろくでなしだと思っているし、どうしようもない人間だと思っているしそう口にすることがある。それでもハロルドにここまで真摯に言われてしまえばそれも控えるようにしなければならないだろう。


「それにね……貴方はシャロを心配してないとか、心配するわけがない。なんて思ったんでしょうけどそうじゃないの」


「まだあるのか……」


「あるわよ。言いたいことはたくさんあるわ。今回は控えるけどね」


 そんなに俺に対して言いたいことがあるのか。と顔が引き攣ってしまうのはきっと仕方ないことだろう。ハロルドがこうして言うということは、本当にそれだけたくさんあるということだ。


「昨夜はシャロが短い時間でも外に出るのは良くないと思ったのよね?」


「あぁ、あれか。当然だろ」


「それで、今日は鍵をかけてなかったから怒った」


「普通は鍵くらいかけるはずだからな……」


「アッシュにとってはそれが当然のことだから、よね」


「まぁ……そういうことになるな。どっちも当然のことだろ?」


 そう、当然のことだ。子供が夜に一人で出歩くのはよろしくない。安全だろうとは思うが、それでも夜に休むのであれば鍵をかけるのが当然。それが出来ていないかったから俺はシャロに対して怒ったのだ。

 それはきっと誰でもそうするだろうし、心配しているからそうしたというには程遠い感情を持っていた。


「そうよね。でも、そのアッシュにとって当然のことって相手を心配していないとなかなか出来ないことなのよ」


「……嘘だろ?」


「嘘じゃないのよ。確かに子供が夜に出歩くのは良くないわ。でもそれを見て見ぬふりする人も多いわ。悲しいことだけどね」


「おいおい、マジかよ……」


「それに鍵をかけ忘れてたって言ってもアッシュほどは怒らないわよ。軽く注意するだけっていうのが普通じゃないかしら」


「…………いや、でも最低限鍵くらいかけておかないと危ないだろ。それが出来てないなら普通は怒るんじゃないのか?」


 そうだ。最低でも鍵はかけておかなければならないはずなのだ。だからそれが出来ていない相手がいるのであれば普通は怒るだろう。

 先ほどシャロに対して怒ったのでさえ相当に軽めにしか怒っていなかったのだからあれは普通のことで誰でもそうするはずだ。

 そう思っていたのに実はそうでもないとハロルドに言われて驚いてしまった。というか信じられなかった。


「アッシュのそうした考えの根幹にあるのはスラム街での経験なのよね。けどね、王都はこの世界でも上位に入るほど治安が良いわ。だからアッシュほどのことはしないのよ」


 言われて思い返してみれば確かに王都の治安は良い方だ。

 俺はいつもスラム街のことを基準にしてしまうのだが、確かにそのスラム街でのことを頭から外して考えると俺のようなことはしないのかもしれない。


「それにスラム街のことがあるから、っていうのもあるのかもしれないけど……そうだとしてもアッシュのそれは相手のことを何とも思っていないならまずしないことなの」


「つまり?」


「アッシュが優しくて、あの子のことを心配してるからこそ、そういうことをした。っていうことよ」


 優しい笑みを浮かべて言ったハロルドのその言葉に、俺は何も言い返せなかった。

 俺は別にシャロを心配なんてしてない、と俺は思っている。それでもハロルドに言われると、もしかしたらそうなのかもしれない。と思ってしまう。

 ハロルドやシャロの言うように、俺は何も思っていない相手であればあんなことはしない、はずだ。

 何故か自信を持って自分はこうだ、と言えないので曖昧な言葉を使うことになるが、確かに俺は必要のないことはしないタイプの人間なのだから怒る必要はなかった、と思う。

 それならば、もしかすると本当に俺はシャロのことを心配してあんなことをしたのだろうか。


「さて、悩むのも良いけどそろそろシャロが下りてくるんじゃないかしら?」


「……悩むのがわかってて言っただろ」


「どうかしら?そんなことよりも……シャロ!朝食の準備は出来てるからアッシュと食べちゃいなさい!」


 階段の上に向かってそう言ってからハロルドは俺に一つウィンクをしてカウンターの裏へと消えて行った。

 どうにもこの時間は俺とシャロの会話が途切れないように気を遣う。ということはしてくれないらしい。

 まぁ、前日にあれだけぐだぐだ悩んでいればハロルドとしてもどうにかしろと思ったのかもしれない。もしくはあれやこれやと口で言っところで、結局はちゃんとシャロと向き合うのが一番だ。という考えに至った可能性も充分にある。

 だがそうだとしても、そうした方が良いからとすんなり向き合うことが出来るとは思えないので、効果はあまりないだろう。

 そんなことをつらつらと考えているとシャロが階段を下りてきた音がした。


「おはようございます、ハロルドさん」


「おはよう、シャロ。軽くで悪いんだけど、カウンターにおいてあるわよ」


「はい、わかりました」


 カウンター裏からそんな会話が聞こえてくるのですぐにシャロはこちらに来るだろう。

 とりあえずは先ほどのこともあって微妙に顔を合わせづらいような気がしないでもないが、平静を装って昨日と同じように接するようにしよう。

 そう決めてから一応シャロと同時に食べ始める方が普通のことだ。と判断して手をつけていない料理を前に少し待てばカウンターにシャロが姿を現した。


「えっと……改めて、おはようございます、主様」


「あぁ、おはよう。さっさと席につけ。ハロルドがせっかく用意してくれた料理が冷め切る前にな」


「あ、はい!」


 先ほどのことがあってからシャロの様子は少しばかりぎこちないが、俺がなるべく昨日と同じように、と考えてそう言ったのが功を奏したのか、元気に返事をしてからいそいそと俺の隣へと座った。

 ハロルドの作った朝食は確かに俺やハロルドにとっては軽い物だが、シャロにとっては軽いというよりも丁度いい量になっているのではないだろうか。

 そんなことを考えながら手を合わせる。そういえばこの世界では食事の前に手を合わせるというのは種族、もしくは地域によっては行うものらしい。

 俺はこの世界では手を合わせて食事をする。ということは子供の頃はしていなかったが、宵隠しの狐で食事をした時に和食を見てつい手を合わせてから食事を始めた。それがこの世界で初めて手を合わせてからの食事だった。

 それを見た白亜と桜花は不思議そうに首を傾げてから、王都でそうして手を合わせる人を見たのは初めてかもしれないと言った。その後に食事の前に手を合わせる人と合わせない人がいる、という話をしてくれた。

 どうして今こんなことを考えるのかというと、その時から俺は手を合わせるのが当たり前に戻っていたのだが、シャロも同じように手を合わせていたからだ。

 どうせハロルドがいなければ会話が続かないのだから、この疑問は話題として活用させてもらおう。


 そう考えてから暫く二人とも無言で食事をした。元々互いに喋りながら食事をするほどに仲が良いわけではないので必然的にそうなってしまった。何とも居心地の悪い沈黙だが、とりあえずは食事に集中することでその辺りをあまり考えないようにするしかなかった。

 先に食べ終わった俺は手を合わせてからシャロが食べ終わるのをただ待つだけとなったが、やはりシャロは子供ということもあって口が小さいので一度に口に入れられる量が少ない。すると必然的に食べるのに時間がかかる。

 俺が待っているからと焦らせるつもりはないので先ほどと同じように予定表を取り出す。すでに確認は終わっているが、こうして何かをしていればシャロとしても俺のことを気にしないで済むだろう。


「……それは何ですか?」


「王都で行われる行事の予定表だ。昨日話した祭りがいつ行われるかも書いてあるぞ」


「異国の料理が食べられるお祭りですよね?」


「いや、まぁ……間違ってはいないか……?」


「それはいつから何ですか?」


「三日後だ。予定としては一週間ほど続くみたいだな」


「一週間ですか……ギルドのお仕事でちゃんと貯めておかないと……!」


 シャロは美味い料理や食べたことのない料理に興味があるようなので、祭りの間は食べ歩きでもしたいのだろう。そのためには開催までの三日間である程度の資金を集めなければならないのだおる。

 祭りの出店ともなれば何故か割高になっているのが定番なので、そのことは一応シャロに言うだけ言っておこう。

 エルフの里を出てきたばかりのシャロであれば、もしかするとそういったことを知らない可能性があるからだ。


「王都の祭りでの出店は基本的に普段よりも値段が上がってるからな……お前が思ってるよりも稼がないと食い歩きもまともに出来ないかもしれないぞ」


「そ、そうなのですか!?えっと……昨日の調子だとどれくらい……いえ、それよりも先に主様に出して頂いた冒険者の登録料を……」


 俺の言葉を聞いてからどうした物かと考えながらあれこれと言っているシャロを見て、まだこいつはこんなことを言っているのか、と思ってしまった。


「登録料は気にしなくて良いって言っただろ。それに十万オースなんて見習いに用意出来るもんじゃないぞ」


「そ、それでもお返ししないと!だって、十万オースなんて、大金ですよ!?」


「はぁ……だからそれは世話役として働いてくれればそれで良いって言っただろう」


「でも……」


「俺が良いって言ったんだから良いんだよ。それより喋ってないで食え。この後はまた冒険者ギルドで依頼を受けて、今日は丘に薬草を採取しに行くんだろ」


「……わかりました。主様、本当にありがとうございます」


「はいはい」


 シャロの感謝の言葉を聞き流してから再度予定表に目を通す。俺がそうすると、シャロも食事を再開したので俺の行動は間違いではなかった。ような気がする。とりあえずは予定表に目を通しながらこれからのことを少しばかり考えよう。

 どうせシャロが食事を終えるまでもう少し時間がかかるのだから。そう思いながらも結局シャロにとって食事の前に手を合わせるのは当然のことなのか、またどうしてそうした行動をするのか。それを聞きそびれてしまった。

 そこまで本気で疑問を解決したいとは思っていないので、本当に話すことがない場合にでも聞くことにしよう。

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