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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第三章 希望に満ちて、絶望に翳る
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188.らしくない理由

「主様」


「どうした、シャロ」


「お話があります!と言っていたのは覚えていますよね?」


「…………あ」


 そういえばそんなことを言っていたような気がする。


「今の反応から主様が忘れていたことがわかりました。お話の時間が長くなりそうですね」


「いや、待て。もう夜も遅いからな。そのお話ってのも今日はやめておくべきじゃないか?」


「むー……それはそうですけど……」


「明日ならちゃんと話を聞くさ……別に、その場しのぎの言葉じゃないからな?」


 何処となく不服そうなシャロに明日なら、と口にしておく。


「それをわざわざ口にするとその場しのぎの言葉にしか聞こえませんよ?」


「そんなつもりはないのに酷いな」


「そう聞こえるように言う主様が悪いと思います!」


 確かに普段の言葉の選び方のせいもあってそうした意味合いに聞こえてしまうかもしれない。

 ということはシャロの言うように俺が悪いということになるのか。


「そうか。それは悪かったな。まぁ、明日になればちゃんとシャロのお話とやらを聞くさ」


「約束ですからね?忘れたら、めっ!ですからね!」


「シャロに怒られるのは避けたいな。わかった、肝に銘じておくよ」


 怒っているシャロ、というのはそれはそれで可愛いとは思うがわざわざ気分を害するようなことはするべきではない。

 そう考えてから言葉を返し、そういえばと焚き火の処理をする。

 それからユーウェインが落ち着いていることを期待しつつ合流しようかと思っていると袖を引かれる感覚がした。


「シャロ?」


 俺の傍にいるのはシャロだけなので袖を引いたのはシャロ。ということになる。

 シャロの名前を口にして、どうかしたのか。と言外に告げるとシャロは少しだけ躊躇するように間を開けてから口を開く。


「えっと……少し気になっていることがありまして……」


「気になっていること?」


「はい。何と言えば良いんでしょうか……主様らしくなかったような気がして……」


 自分の思い違いかもしれない。と考えているのか微妙に迷いがあるシャロだった。

 どうしてそう思ったのか。少し気になるので聞いてみよう。


「根拠は?」


「根拠……えっと……主様はあまり仲の良くない人には冷たい態度を取ることもありますけど、シルヴィさんとは私の目から見ても随分と仲が良さそうに見えました」


「そうか?」


 俺としてはそこまで仲が良い。とは思っていない。

 まぁ、シルヴィアは俺に随分と懐いていると思う。そんなシルヴィアを俺は適当に、雑に扱うことがある。

 それがどうにもシャロには仲が良いように見えるらしい。


「はい。私には本当に仲が良いように見えましたよ。何と言えば良いのか……主様が壁を作ってもシルヴィさんが平然と距離を詰めたり、主様もふとした瞬間に随分とシルヴィさんに対して優しかったり……」


「……良く見てるな……」


「はい、主様のことは良く見ておかないと何をするかわからない。とハロルドさんにも言われましたからね」


「またハロルドか……」


 ハロルドは一体どれだけの入れ知恵をシャロにしているのだろうか。

 それを少し考えるだけで頭が痛くなってしまいそうだ。


「でも今はそれは置いておくとして……そんな主様が唐突にシルヴィさんに辛辣な言葉を投げかけたのがどうにも不思議で……主様らしくなかったな、と」


 それを聞いてなるほど、と思ってしまう。

 シャロの言うように俺のことを見ていた。というのであればその違和感に気づいたとしてもおかしくはない。

 これは適当に言葉を連ねて誤魔化すよりも本当のことを大人しく話すとしようか。


「仕方ないとは思うけど、シルヴィは情緒不安定みたいなんだ」


「情緒不安定、ですか?」


「あれだけ不平不満泣き言弱音その他諸々を溜め込んでたんだ。どれだけのストレスになってたのか、何てのは考えたくもないな」


 シルヴィアの口にしていたこととは無縁の俺だが、もし自分がそういった立場になったら、と考えると胃が痛くなってしまう。

 いや、実際にはその程度で済むはずがない。普通に考えて鬱にでもなる可能性は充分にあるのでシルヴィアは良く耐えた。とも言えるだろう。

 まぁ、あのままでは溜め込み過ぎて潰れるのが目に見えていたのだが。


「何にしても、それを放っておくと良くないからどうにか発散させてやろうと思った。まぁ、やり方はあんまりお勧め出来ないようなろくでもないやり方しか出来なかったけどな」


 本当にろくでもないやり方だと思う。

 相手を挑発して怒らせる。他人に触れられたくないと思っていることに触れ、激昂させ、その後で鼻っ柱を叩き折って黙らせる。これで少しは話を聞いてくれるはず、と思ってやっていたが落ち着いて考えてみれば本当に酷い。

 普通は成功するはずもないのだが、不思議なことにシルヴィアを相手には成功したので良しとしておこう。というかあまり考えないようにしておこう。


「あぁ、ついでに言えばシルヴィは俺とシャロの方が強いってことで嫉妬してたみたいだからな……いっそのこと力の差がどれだけあるのか理解してもらえればそうした嫉妬の無意味さを理解してくれるかとも思ったんだ」


「そういうことでしたか……」


「とはいえあれでどうして成功したのか意味がわからない。って感じだけど……まぁ、結果オーライってことで」


「それはどうかと思いますけど……でも、何だか安心しました」


「安心?」


 俺の言葉を聞いて、シャロは安心したと言った。

 それも何処となく嬉しそうに、だ。


「はい。シルヴィさんに対して辛辣だったのでどうしたのかと思っていました。でもそうした理由があってのことで、やっぱり主様は優しい方でした」


 ふわりと微笑みを浮かべたシャロは心の底から嬉しいと感じていることがわかる。

 その理由が端的に言って俺が優しいと再認識したから。となるがそれはそこまで嬉しいことなのだろうか。というか、俺は特に優しいわけではないと思う。


「とはいえ、優しい方。と私が言ったところで主様は否定するのが目に見えていますからね。先手を打って言わせないようにいておきます!」


「何だそれ。まぁ、言おうかと思ったけど……そんなに優しいように見えるか?」


「はい!私にとって主様はとても優しい方ですよ。そこには負い目があるのかもしれませんけど……それを抜きにしても、主様は本来とても優しい方だと思います」


 シャロはそこで一度言葉を切り、俺の顔を見て小さく楽しそうに笑みを浮かべてから更に続ける。


「白亜さんや桜花さん、ハロルドさんにテッラさん。そうした方たちから色んな話を聞いていると主様がどういう方なのか少しは見えてきますからね!」


「白亜たちから聞けばそうもなるだろ……まぁ、否定しても仕方なさそうだから否定はしないでおくけどな」


「ええ、主様が自分は優しくないと否定しても私は主様は優しいと言いますね」


「だろうな。まったく……シャロは俺が思っていたよりも色んな意味で強い子だよ」


 本当に、思っていたよりもずっと強い子だ。

 まだ幼い子供だから。という勝手な思い込みでシャロのことを正しく見ることが出来ていない。というのは何となく自覚があったがそれをどうにか正さなければならないようだ。


「……俺はもう少し、シャロのことをちゃんと見ないといけないな」


「そうですね……ちゃんと私のこと、見ていてくださいね?」


 どういう想いを込めての言葉なのかシャロはわかっていないと思うが、茶目っ気たっぷりにそう言ったシャロは非常に可愛らしかった。

 どうしようか。色々と真面目に考えようとしても毎回シャロが可愛い。としか結論を出していないような気がする。俺は馬鹿か。いや、でも。


「……主様?」


「やっぱり可愛いよなぁ……可愛い放題だよなぁ……」


「あ、主様……?」


「あ、いや……何でもない。それよりもそろそろユーウェインも落ち着く頃だよな」


 思っていたことをつい口にしてしまったが、取り繕うようにしてユーウェインへと目を向ける。

 一瞬だけ不思議そうにしているシャロが見えたが気にしないことにしよう。


 ユーウェインを見ればシルヴィアと話をしていて少しは落ち着いている。


「アッシュ!!!貴様ぁ!!!」


 ように見えたがどうにも気のせいだったらしい。

 シルヴィアから何を聞いたのかわからないが、酷く激昂した様子でユーウェインが俺の名を叫んだ。

 そしてそのまま俺の下へと走ってくる。ユーウェインの後ろの方ではシルヴィアが酷く困惑した様子で首を傾げ、アルは苦笑を漏らしていた。


 たぶんシルヴィアは何があったのか説明したのだと思う。その時にユーウェインの怒りに対して火に油を注ぐようなことを言ってしまったのだろう。

 シルヴィアが少しでもユーウェインを落ち着かせた時点で俺が適当にはぐらかすべきだった。ということかもしれない。

 そんなことを考えているとユーウェインが俺の前の前までやって来た。


「シルヴィア様に何ということをしたのだ貴様はぁ!!」


「落ち着けよ。俺が何をしたって?」


「シルヴィア様を傷つけるようなことをしておいて、何をしたか、だと!?」


「はぁ……軽く手合わせをしただけだろ。そこまで怒るようなことか?」


「軽く手合わせをしただけだと!?貴様という男は…………手合わせ?」


 手合わせで軽く叩き潰したがそれについて怒っている。と思っていたのだがユーウェインの様子が何やらおかしい。


「待て、手合わせ?貴様は手合わせと言ったか?」


「あぁ、言ったけどそれがどうかしたか?」


「……ほ、本当にただ手合わせをしただけ?」


「だからそう言ってるだろうが。で、それがどうしたんだ?」


「…………ちょっと待ってろ!」


 何やら困惑しているユーウェインは俺に待つように言ってからシルヴィアの下へと駆けて行った。


「何だったんだ?」


「さぁ……?何かあったのでしょうか……?」


 シャロと二人で顔を見合わせて首を傾げているとシルヴィアと話しているユーウェインが必死に何かを弁明しているように見える。

 何をそんなに必死になっているのかと気になる。


「よし、行くか」


「待つように言われていましたけど、良いのですか?」


「良いんだよ。どうせ村に戻るんだからな」


「わかりました。では行きましょうか」


 待てと言われたがわざわざ待ってやる必要はない。

 それに何やら面白そうなことになっている。という予感がする。

 ユーウェインには悪い。とは欠片も思わないので遠慮なく合流しよう。

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