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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第三章 希望に満ちて、絶望に翳る
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186.秘密の話

 ホットミルクを一口、二口と飲んでからシルヴィアは一息ついて少しだけ落ち着いたように見えた。

 見えたのだが、それはあくまでも本当にそう見えただけ、のようだった。


「ふぅ……本当にどうして王城の人たちはあんなに好き勝手言って来るのかなぁ……」


「貴族ってのは大半が野心に満ちてるからな。利用出来ると思えば他の貴族だろうが王族だろうが勇者だろうが利用するもんだ」


「はぁ……そういうのやめて欲しいよ……僕は別に兄上たちみたいに国を背負って立つほどの覚悟はないんだからさ……」


「そういう覚悟こそ、物心つく頃から自分はそうするんだって決めてないと厳しそうだな」


「本当にね……」


 酷く不満そうに言葉を返すシルヴィアはホットミルクをちびちびと口にしていた。


「まぁ、これは本当にどうしようもないから諦めるしかないんだろうけどさ。それにあんまり王城での話をアッシュにするのも、ね」


「今更だと思うけどな?」


「あはは……まぁ、ほら。そこはアッシュがそうするように誘導したから、ってことで」


 誘導したというか、そうなるように強制したというか。

 何にしてもとりあえずそうして自制出来る程度には吐き出せたようなのでこの話は終わりにしても良いはずだ。

 まだ吐き出すべきことをシルヴィアは溜め込んでいるのだから。


「次はー……聖剣に関してだったかな?でも縋り付いてるって言い方はどうかと思うんだけどね!」


「事実だろ。そうなったのには何か理由があるんだろうけど」


「……んー……そう、なんだけど……これは人に言わない方が良いことだから……」


「今更だってわかってるのに、それでもそう考えるってことは本当に人には知られない方が良いことみたいだな……」


 非常に言い難そうにしているシルヴィアの様子を見る限りは、シルヴィアとしては他人には知られたくない事情。ということだろうか。

 溜め込んでいる物を、と考えていたが本当に知られたくない。話したくないと思っていることを無理やり聞き出すべきではない。

 ここはシルヴィアがどう判断するのか、ということに委ねよう。


「……うん、でもアッシュとシャロなら大、丈夫……?だよね!」


「その辺りの判断はシルヴィに任せるけど……まぁ、他言はしないさ」


「えっと……あまり口を挟むのは良くないと思っていましたけど……そう、ですね。私も他の人に言うようなことはないと思いますよ」


「よし!それなら大丈夫だね!!」


 俺とシャロが口外しない。ということを口にするとパッと表情を明るくしてシルヴィアはそう言った。

 それに返すべき反応はきっと呆れてしまう。ということで良いはずだ。

 というわけで俺はそれを隠すつもりもなくため息を零し、シャロは苦笑を漏らしていた。


「あ、本当にこれは口外しないでね?はっきり言ってこれを知ってるのって本当に一握りの人しか知らないことだからね」


「そんなことをわざわざ言わなくてもな……いや、聞くけどさ」


「うん、しっかり聞いてよ。まず……僕には兄さんがいるんだ」


「あぁ、キリシュアガとウルシャナビだろ?」


「あ、兄上のことは気にしないで。その二人のことじゃないからさ」


 シルヴィアの兄、ということで第一王子と第二王子の名前を上げるとシルヴィアは首を小さく振った。


「実はさ、僕には双子の兄さんがいるんだ。いや、違うね……いたんだよ」


「過去形ってことは……」


「……小さい頃に、亡くなったって父上たちからは聞いてる」


 亡くなった。と言われているのならば亡くなっているのだろう。

 それを口にしたシルヴィアは少し辛そうに見えた。気丈に振る舞う、というほどではなくともそうした様子を人には見せないように。というように昔からしてきたのかもしれない。


「けど……」


「何かあるのか?」


「……何となく、本当に何となくだけど……兄さんは生きているような気がするんだ」


 だがシルヴィアはすぐに辛そうな様子は消え、何処となく確信を持っているようにそんなことを口にした。

 亡くなったと言われた兄が生きている。と考えるのはどうしてだろうか。


「どう言葉にしたら良いのかわからないけど……うん、たぶん双子だから兄さんが生きているのがわかるんだと思うよ」


「双子だから、か……どう言葉を返せば良いんだろうな……」


「あはは……うん、そうなるよね。でも僕はそう思ったんだよ。だから僕は勇者になることを選んだ」


「……あの、それは一体どういう……?」


 あまり口を挟まない、ということを言っていたシャロだがどうしても気になったのかおずおずと疑問を口にした。

 だが俺には何となく理由が理解出来たのでシルヴィアよりも先に口を開く。


「王都の外に出ることが出来るから、ってことで良いのか?」


「正解。第三王女って立場だと王都どころか王城から出ることも厳しいからね。あ、政務に関することで外に出ることはあるよ?でも自由には動けないんだ」


「あ、なるほど……勇者として旅をする中で、そのお兄さんを探そうと思っている。ということですね」


 俺の言葉とシルヴィアの言葉。それを聞いたシャロが納得したように頷いた。

 そんなシャロを見てからシルヴィアは少しだけ悪戯っぽく言った。


「そういうこと。でも勘違いしないでね?僕は兄さんを見つけようと思っているけど、人のためになることをしたいっていうことも考えてるからね」


「それは言われるまでもなくもわかってる。シルヴィは基本的に真っ直ぐな性格をしたお人好しだからな」


 悪戯っぽく言葉を口にしたシルヴィアに倣って俺も冗談めかしてそう言えばシルヴィアは眉尻を下げた。


「んー……褒められてる?」


「褒めてる褒めてる」


「怪しいなぁ……」


 くすくすと小さく笑みを零すシルヴィアはそこで一度コホン、と咳ばらいをして話を本題へと戻す。


「まぁ、僕は兄さんを探すだめに、僕が人のためになる何かをする為に、僕は聖剣に選ばれる勇者になることを決めてずっと努力を続けてきた。そして、漸く聖剣に選ばれることが出来た」


 それはシルヴィアにとって喜ぶべきことのはずなのにシルヴィアの表情は何処となく暗い。

 シャロもそのことが気になるようで首を傾げていた。


「……うん、それがある意味では僕にとって胸を張ることの出来る誇りだと思ってたんだよ。でも、僕がオークを倒している間にアッシュとシャロが残りのオークを倒しているのを見て、僕は頑張って来たのに、どうして二人の方が、って思ったんだ。思って、しまったんだ」


 ここに来てシルヴィアはそう思ってしまったことに対して言及を始めた。


「本当に情けないよ……僕は頑張って来たんだから僕が一番強い。何てわけないのにね」


 眉尻を下げて困ったように、というよりも自分自身に呆れてしまった。とでも言いたげな表情を浮かべているシルヴィアは更に言葉を続けた。


「アッシュは幼い頃の環境や生きていく為にはきっと僕が想像もつかないような大変なことばかりだったと思う。シャロは僕よりもずっと幼いけど……それでも重ねた努力は何も知らない僕が推し量れるような物じゃない」


 そう言ってからシルヴィアは目を伏せてしまう。

 相手がどれだけ努力をしてきたのか見ていたわけではないのだからわかるわけがない。

 そんな当たり前のことを考えることも出来ない程に冷静さを失っていたというか、俺とシャロがさっさとオークを始末したことが衝撃的だったのかもしれない。


「……思い上がってたんだろうね。僕は聖剣に選ばれた勇者なんだ。僕は聖剣に選ばれるだけの強さがあるんだ。僕は、聖剣を手にして戦うことが出来るんだ」


「それと同時に、縋り付いてもいた、と」


「…………うん。アッシュの言葉を必死に否定してたのは図星を指されたからなんだろうなぁ……」


「そこで断言はしないんだな……」


「いや、その……こう、はっきりとは認めたくないことってあるよね?」


「はぁ……思ったよりも落ち着いてるというか、冷静そうだな」


「アッシュの用意してくれたホットミルクのおかげだと思うよ」


 それだけではないと思う。

 何だかんだで先ほどぶちまけたこともあって多少なりとストレスが発散されたことも落ち着くことが出来た理由の一つのような気がする。


「まぁ、とにかく!アッシュに言われて否定はしたけど自覚はあるよ!……今の僕は、だけど」


「あー……何だ、今そういうのがわかって良かったな。旅に出て、聖剣に縋って無様を晒す羽目にならなくて」


「本当にね……あーあ……聖剣に縋るって、格好悪いなぁ……」


 聖剣に縋っていた自分自身の行動というか、そういった事実に拗ねるように唇を尖らせてしまったシルヴィア。

 俺としてはそのことにちゃんと向き合えるのであれば問題はないと思う。とはいえ一度そのことに気づけたのであれば今後は聖剣に縋り付くようなことはあってはならない。

 神造兵器ということもあって非常に強力な武器ではあるが、だからと言って縋り付くような物ではないからだ。


「なら次からは聖剣に縋り付くようなことがないようにしないとな」


「うん……あ、ところでアッシュ?」


「今度は何だ?」


「僕さ、スキルを使ってオークを華麗に倒して見せたんだよね」


「華麗に?」


「華麗に!」


 見てはいなかったがきっと泥臭い戦いの末にスキルを叩き込んだのだと思っていたが、シルヴィアは華麗に倒したのだと主張する。

 本人がそう言うのであればそれでも構わないのだが、どうしてそれを俺に言うのだろうか。


「だからさ、その……褒めてくれても良いんだよ?」


「……は?」


「だ!か!ら!頑張った僕を褒めても良いんだよ、って言ってるの!」


「いや、どうしてそれを俺に言ってるんだよ」


「……だって、僕の初めての友達なんだから、すごいね!って褒められるのがどんな感じなのか気になって……それに!シャロのことは褒めたんでしよ!?」


 シルヴィアが何を言いたいのかいまいちわからない。

 わからないが、とりあえず言っておくことは一つだ。


「当然だろ。シャロが頑張ったなら褒めるに決まってる」


「それと同じように僕のことも褒めてみてよ!一回!一回だけで良いから!!」


 何がシルヴィアをこうも意味のわからないことに駆り立てるのか。と非常に困惑してしまう。

 それは俺だけではなくシャロも同じようで、首を傾げる、のではなく少し引いているような気がした。

 ついでに言えば俺も地味に引いている。とはいえこれはどうするべきなのだろうか。褒めるか、放っておくか。

 いや、何をするべきか。というのはもうとっくにわかりきっているか。どうしても、疑問は残ってしまうにしても、だ。

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