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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第三章 希望に満ちて、絶望に翳る
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182.ハイリスクハイリターン

「ふぅ……よし、次です!」


 息を整えてそう言ってシャロは続々と乱入してくるオークへと向かって神樹の刃(デウス・アイゾーオン)を構えていた。

 そんなシャロの隣に立って声をかける。


「シャロは大丈夫そうだな」


「あ、主様!ええ、オークよりもずっと強いお母様にも鍛えられましたからね!」


「お母様はオークよりも強いのか。いや、それよりも……」


 言いながらオークを見ると十体のオークが迫っていた。


「あれをどうにかしないといけないな」


「はい!一人が三体、ですよね?」


「あぁ、とはいえそれ以上倒してはいけない。何て決まりはないよな?」


 オーク一体に時間をかけている三人のことを考えれば俺がさっさと始末した方が良いだろう。

 一対一で少しずつ削っている状況で、敵の数が増えればどうなるのか、考えなくてもわかることだ。


「そうですね……だから主様がシルヴィさんたちの方にオークが行かないように戦うのも自由だと思います」


「そういうつもりじゃないんだけどなぁ……」


「わかってますよ。主様は何だかんだで他の方にも優しいですからね」


「はぁ……シャロは何を勘違いしてるんだか……」


 シャロに呆れたようにため息を零してから地面を蹴り、オークたちの中へと飛び込む。

 オークの脇をすり抜ける際に毒を仕込んだナイフを左手に持ち、一体のオークの脇腹へとナイフを突き立てる。

 そのナイフを手放してオークの群れの中心に辿り着くと同時に勢いを生かして跳び、正面に立つオークの頭を蹴りつける。

 オークの反応速度を遥かに上回る速度で繰り出されたその蹴りは綺麗にオークの頭を捉え、頭蓋を砕き、そのでかい図体を薙ぎ倒した。


 毒で一体、頭蓋を砕いて始末したのが一体。

 もう一体くらいは始末しておこうか、と考えたが流石にオークたちはそんな俺を見逃してはくれなかった。

 死んだオークの死体を踏み越えて俺を逃がさないように取り囲む。

 目の前のオークが棍棒を大きく振り上げるのを見て、背後に立っているオークの姿を確認してから半歩下がる。


「主様!?」


 まるで怯んだように半歩下がったせいかシャロが心配するような、信じられないような悲鳴染みた声を上げた。

 それを聞きながら眼前のオークを見ると、今まさに振り上げた棍棒を俺の頭蓋目掛けて振り下ろそうとして一歩踏み込んで来ていた。

 その踏み込みに合わせて倒れ込むようにして背後のオークへと背を預ける。

 そんな俺を追うように更に一歩踏み込んだオークが棍棒を振り下ろした。

 瞬間、肉を叩き、骨を砕く音が辺りに響いた。


「そんな……!!」


 シャロの声を聞きながら、オークの振り下ろした棍棒を俺の背後にいたオークが頭で受け止めてくれたことに感謝しながら膝から崩れ落ちるように脱力し、ナイフの刃を寝かせ、跳ねるように勢いをつけて眼前のオークの心臓目掛けて突きを放つ。

 寝かせた刃は肋骨を避けてするりと心臓に到達した。それを手に伝わってくる感触で確信し、無理やりナイフを捻る。

 心臓を突き刺した時点で絶命しているとは思うが念の為に、というやつだ。

 オークに前蹴りを放ってナイフを引き抜き、周りのオークが振るう棍棒を全て避け、隙を見て後方へと跳ねる。


 勢いのせいで地面を少しだけ抉りながら滑り、シャロの隣で止まることとなった。

 先ほどよりも殺気立った残りのオークが六体。雄叫びを上げながら棍棒を握り締め、俺を睨みつけている。

 魔物の表情など普通はわからないが、今のオークたちが憤怒の形相だということくらいはわかる。


「シャロ、迎撃の準備は出来てるな」


「え!?で、出来てませ……いえ!出来てます!!」


 出来ていないと言おうとしたシャロだったが神樹の刃を構えてキッとオークを見据えて迎撃の準備は出来たと答えた。

 半分本気で、半分は強がりのそれを聞いて小さく笑みを零してから口を開く。


「俺が無事で安心したか?」


「当然です!!いきなりあんな風に飛び込むなんてどうかしてますよ!!」


 先ほどのあれを見て、シャロとしては気が気ではなかったかもしれない。

 だからこそ俺は平気だと伝える意味を込めて軽い調子で問えば、怒りと安堵が入り混じった声が帰ってきた。

 それに苦笑で答えてから更に言葉を続ける。


「数は減らしただろ?まぁ、ジャックポットには程遠いけどな」


「主様の言うそれはきっと全部倒すこと、とかその辺りかもしれませんけどあれはリスクが高すぎます!」


「ハイリスクハイリターン。それも悪くないと思わないか?」


「主様ならローリスクハイリターンくらい決められると思います!!」


「それもそうだな。なら二人でやればローリスクだ。見返りは?」


「とってもハイリターンだと良いですね!!」


「上等、やってやろうじゃないか」


 俺とシャロが駆け出すと同時にオークたちも俺たちへ向かって駆け出した。


「俺が前だ」


「わかりました!援護はお任せください!」


 言葉の通りに俺が前に出て先頭のオークの振るう棍棒をナイフで受け流し、懐に潜り込んで玩具箱(トイボックス)から取り出したナイフを心臓目掛けて突き立てようとする。

 だがそれを読んでいたのか、オークは一歩前に踏み込んで来た。いや、更に後ろのオークに押されただけか。

 それならば仕方がないと素早く後方宙返りの要領でオークの顎を蹴り上げ、後ろに下がると同時に顎が上がり無防備に晒されている喉へとナイフを投げつける。


「ウグェッ……!!」


 呻き声と空気が漏れるような音が聞こえた。上手く喉に突き刺さってくれたらしい。

 着地と同時に体勢を低くしオークたちを見据えると、喉にナイフが突き刺さったオークの姿が見えた。

 だがその後ろから他のオークの倍ほどの体躯をしたオークが現れ、棍棒で半死半生のオークを薙ぎ倒した。


「グゥオオォォオオォォォォオオッ!!!!」


 そして俺を見据えてから雄叫びを上げた。

 大気を揺るがし、怖気を呼び起こすその雄叫びを聞いたシャロやアルたちが動きを止めてしまった。

 だがオークたちはそんなことは関係ないとばかりに動いている。


「チィッ!!」


 忌々しく思いながら舌打ちをして地面を強く踏み付けるようにして踏み込み、大地を揺らす。

 この震脚によって俺の周りのオークは動きを止めて怯んだが、本当に止めるべきは周りではない。

 その隙に雄叫びを上げているオークの鳩尾に肘を撃ち込む。その瞬間、オークの雄叫びが止まり、衝撃から数歩後方へと押し戻すこととなった。

 それと同時にシャロたちが動けるようになったが、時間にして数秒とはいえ動きが止まってしまったアルたちはオークの一撃を避けることも受け流すことも出来ず、紙一重のところで剣を盾にして直撃を防ぐことしか出来なかった。

 剣で防いだとはいえ、剛力として知られるオークの一撃だ。三人は吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられることとなった。

 そしてそのまま地面を転がり、それが止まると叩きつけられた衝撃で咳き込んでいるようで身動きが取れなくなっていた。

 だが呻き声を上げながらも起き上がると剣を構えてオークを睨みつけていた。


「助けはいるか!!」


「必要ない!!」


「いらない!!」


「この程度で助けはいらないさ!!」


 強がっているだけ、というようにも見えるがこの程度では負けていられないという意地のような物を感じる。

 であるならば俺はその言葉を信じてあちらは任せてしまおう。


「グゥ……ガァアアァァァァァアアアッ!!!!」


 再度雄叫びを上げるオーク。


「馬鹿の一つ覚えだな!!」


 それと同時に先ほどよりも強く地面を踏み付け、震脚によってその雄叫びを無理やり中断させる。

 だがそれでこのオークに対して効果があるのは一瞬だけだ。

 早くこのオークを仕留めないとまたあの雄叫び、バインド・ハウリングで状況が悪くなってしまう。

 力のある魔物の雄叫びはバインド・ハウリングと呼ばれる他の生物を萎縮させて強制的に動きを止める力がある。これが使えるということはきっとこの群れのボスはこいつだ。

 早くこのオークを仕留めなければまたバインド・ハウリングで状況が悪くなってしまうかもしれない。

 まぁ、シャロの場合は突然の雄叫びとその音に動きを止めてしまっただけのようなので、次に同じことがあっても動きが止まることはないはずだ。

 状況が悪くなるのであればそれはアルたちだ。


「シャロ!」


「はい!」


 名前を呼んだだけ。それでもこの状況で名前を呼ぶことの意味を理解していたシャロは返事をすると更に言葉を続ける。


「ライトニング!」


 俺が言った通りにシャロはシングルのフリをしていた。

 その言葉と同時に雷光が奔り、周囲のオークへと襲い掛かった。

 俺が近くにいるから威力は控えめな一撃だったがそれでもただのオークにとっては脅威となる一撃だったようだ。

 雷撃を受けたオークの表皮は焦げてしまったようで所々黒くなり、黒い煙を上げている。


「次、フレイム!」


 その言葉と同時にオークのうちの一体が派手に燃え上がる。


「ギッ……ィ、ア……ガァァァァアアァァァ……!!」


 叫び声を上げながらそのオークは自身を燃やす炎を消すためか、ただ単純にその熱さに耐えきれずにのたうち回っているだけなのか。

 だが魔法による炎はその程度で消えるようなものではない。


 放っておいても焼死するだけだと思い、そのオークが俺に対して転がって来ないように警戒だけして残っている四体に意識を向ける。

 オークのリーダーはシャロの電撃を食らっても平然と、とまでは行かないが力強く大地を踏み締め、迫ってくる。右手に持った棍棒を振り上げて迫ってくるその姿を見ていつでも避けられるように、と考えたところでその姿に違和感を覚えた。

 このままでは不味いと警鐘を鳴らす自分の勘に従って後ろへと大きく跳んで下がる。

 すると棍棒ではなく、オークの左腕が俺が先ほどまでいた場所を握り潰さんばかりの勢いで振るわれた。

 どうやらあの振り上げていた棍棒に気を取られている間に俺を掴み、握り潰そうとでも思っていたのだろう。

 オークにしては妙に頭が回る物だと思いながら体勢を整え、オークたちを見る。


「主様、御無事ですか?」


「あぁ、問題ない。ただ……どうにも妙だな。何が、と聞かれると言葉に困るけど……オークの行動はあり得ないことじゃない。だけど……何かが引っかかる」


「何かが、ですか……」


 別にオークの行動は特別おかしいというわけではない。

 だが何かが引っかかってしまい、酷い違和感を覚えてしまう。


「今はとりあえず、この状況をどうにかしましょう。考えるのは後からでも出来ますよね?」


「まぁ、そうだな。わかった、まずはこいつらを片付けよう」


「はい!」


 シャロの言うように考えるのは後からでも出来る。

 とりあえずオークを片付けて少しの間とはいえ安全を確保し、村に戻って今後の活動をし易くしてからでも遅くはないだろう。

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