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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第三章 希望に満ちて、絶望に翳る
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179.噂の上手な使い方

 村長の家に到着すると未だに出入りをしている村人が怪訝そうに俺たちを見てきた。

 そうする理由は充分にわかるので、変に誤魔化すこともなく素直に今回の素性を口にした。


「王都から派遣されてきた調査隊の人間だ。村長に話が聞きたいんだけど、村長は中にいるのか?」


「調査隊の人間!?」


「あぁ……やっと来てくれたのか……!」


「でも……三人だけ……?」


「いや、五人だ。あくまでも調査班だからな。ただ……腕には覚えがある。この村にオークが近寄ってくるなら撃退するくらいは出来るさ」


「ほ、本当に……?」


 たったの五人ということを聞いて本当かどうか確かめてくる村人の表情には不安やオークに対する恐怖の色が見て取れた。


「あぁ、本当だ。それで村長と話がしたいんだけど通してもらえるか?」


「あ、あぁ……わかった……」


 俺の言葉を聞いて半信半疑になりながらも、とりあえずは村長と話をさせてもらえることとなった。

 案内されるままに家の中に入り、少し進めばリビングへと辿り着く。

 そこには村とその周囲の地図らしき物が置かれたテーブルを囲むように村人たちが集まっていた。

 その中に一人だけ椅子に座り、険しい表情を浮かべている老人がいた。


「村長!」


「む、何か……いや、誰を連れて来たんじゃろうか」


「王都からの、調査隊の人間とのことです」


「ふむ……それが事実ならば歓迎せねばなるまい。このような辺境の村までよう来てくれたわい」


 歓迎しなければならない、と言いながらもその言葉には棘があった。

 それは俺だけではなくシャロとアルも感じたようで背後で戸惑っているのが何となくわかった。


「あぁ、歓迎してくれ」


 棘のある言葉というのには慣れているので軽く受け流しながら案内してくれた村人よりも前に出て、机を挟む形で村長と向き合う。


「それで、オークは何処に出たんだ?」


「……東の森じゃ。あくまでも姿を見たというだけじゃったが……この村に来るじゃろう」


「そうか。数は?」


「十数体ほど、とのことじゃったが……三人でどうにかなる道理もあるまい……」


「へぇ……それが棘のある理由か」


「む……」


 調査隊の人間が来たところでどうしようもない。そう思っていたからこそ棘があったようで、俺がそれを指摘するとそう声を漏らして黙ってしまった。

 他の村人たちはサッと目を逸らしているので同じようなことを考えていたのだろう。

 まぁ、確かに十数体のオークを相手にするのにたったの三人ではどうにもならない。と考えてしまうのも理解出来る。


「まぁ、三人じゃなくて五人なんだけどな」


「五人……対して変わらんじゃろうが……」


 苦虫を噛み潰したようにそう吐き捨てた村長は心の底からそう思っているようだった。

 

「まぁ、そう思うのも無理はないな」


「当然じゃ……どうせお主らにはこの村がどうなったとしても関係なかろう。さっさと逃げるなら今のうちじゃぞ」


 言葉には相変わらず棘が含まれているが、それでも俺たちのことを多少は案じているようで逃げるなら今のうちだと言う。

 他の村人たちは出来ることならオークをどうにかして欲しいと思っているのか、縋るような目で俺たちを見てくる。

 よくよく見れば村長も口では逃げるように言いながらもほんの僅かに救いを求めているように見えた。

 まぁ、口では何と言おうとも自分たちではどうしようもなく、他人に縋らなければならない。ということだろうか。


 絶望に直面した人間は何も出来ない。適度に絶望に浸った人間は他人に縋り付く。絶望に打ちて立ち上がれなくなった人間は救いを前にしてもそれを拒絶する。救いに縋り付いても、それに意味がないと思ってしまうからだ。

 だが村長や村人の様子を見る限り、適度に絶望に浸ってしまった人間のようだった。

 ならばやることは決まった。というか今が一番効果的なタイミングだと思う。


「逃げる必要なんてないさ。こっちには王国騎士団の次期団長だって噂される騎士がいるんだからな」


 この言葉に集まっていた村人たちが目を見開き、信じられない物を見るようにアルを見た。

 俺がアルに視線を向けるとアルは一歩前に出て俺の隣へと立った。


「軽々しくそういうことを言うものじゃないと思うよ。確かに、そういう噂は流れているけどね」


 少しだけ困ったように眉尻を下げながらアルがそう言えば相変わらず信じられないといった表情を浮かべている村人たちの瞳に僅かに光が灯る。


「仕方ないだろ。逃げるなら今のうち、とか言われるとな」


「まったく……まぁ、良いよ。それよりもオークをどうにかしないといけないかな」


「だな。それじゃ、さっさと行って、さっさと終わらせてくるか」


 お互いに軽い調子で言いながら地図を見る。

 シャロも俺の隣、アルと二人で俺を挟むようにして地図を見ていた。

 少しだけ視線を村人たちを見れば何も言わず、だが何かを期待するように俺たちを、というよりもアルを見つめている。


「俺たちがいるのがここか」


 地図の中心に書かれたデウカオンという名が書かれた村を指差す。


「東の森、ということですので……この辺りでオークの姿が確認された、ということですね」


 シャロは俺が指差した村を指差してからそのまま真っ直ぐと東へと進める。

 そしてドリュアデスという名前の森を指差して止まった。


「この村から森までは平原が続いてるだけか……となると……」


「今から向かえばオークとすれ違うこともなく鉢合わせになるだろうな。まぁ、オークが村を目指しているなら、だけど」


「そうだね……オークを見たのは誰かな?」


 アルが地図から目を離し、村人たちへと目を向ける。

 すると一人の村人が慌てたように手を上げて口を開いた。


「お、俺だ!確かに東の森でオークを見たんだ!!」


「見た、ということを疑っているわけじゃないさ。さっき村長はこの村に向かってくるだろう、と話していたけど貴方はどう思ったのかな?」


「たぶん、村長の言うようにこの村に向かってくるはずだ!あいつらはでかい棍棒みたいな木の枝を持って集まってたんだからな!!」


 オークが棍棒を持っていた。ということは誰かを、何かを襲う気なのだろう。

 まぁ、武器を持ってうろついていただけ。という可能性も零ではないが十数体で集まっていたのならそういうこともないはずだ。


「なるほど……アッシュ、シャロ。これは急いで向かうべき、だよね?」


「そうだな。出来ることなら村から離れた地点で迎撃して終わらせるのが良いだろ」


「はい、何があるかわからない以上はそうした方が良いと思います」


 村人たちは俺たちが言葉を交わす度に絶望的な状況で希望を見出したかのように表情が少しずつ明るくなっていく。

 この状況で、オークを撃退することが出来ればこの村の人間は俺たちに友好的に接してくれるし、協力も惜しまなくなるだろう。


「そうと決まれば行こうか。シルヴィとユーウェインは……」


「外に行けば何処の辺りにいるのか、誰か知ってる奴がいるだろ。それで見つけて合流だな」


「わかりました。頑張ってオークを撃退しましょうね!」


「頑張るほどじゃないさ。軽く蹴散らしてやれば良いだけだからな」


 大したことはないというように軽い調子でそう口にする。

 たったの五人、というのは間違っていない。だがその五人でオークの相手をするには充分なのだとこの場にいる全員の印象を操作しておかなければならない。


「ほ、本当に、オークと戦う気なのか?」


「当然だな。まぁ……何だ。オークを蹴散らして帰って来るから楽しみに待ってろよ」


「うん、僕たちで今この村に向かって来ているはずのオークを撃退してくるよ。だから安心して」


 ここでぐだぐだと時間を使っても意味がないので、そう言ったアルを促して外に出ようとした。


「……もし」


 だがそこで村長が口を開く。


「もし、本当にオークを撃退し、この村を救ってくださるのであれば、この村をあげて調査の協力を約束しましょう。その他にも、我々に出来ることなら何でもします」


 村長は背筋を伸ばし、懇願するように言葉を続ける。


「ですから、どうか……どうか、我々をお救いください、騎士様……!!」


 そして頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします!!」


「どうか!どうか!!」


「お願いします!!俺たちを、助けてください!!」


 村長の言葉を皮切りに村人たちも思い思いに口を開き、そのどれもが救ってくれという懇願だった。

 それぞれが口々に言った後に頭を下げる。俺がそういう風にしたとはいえ、全員がアルに対して、だ。

 そんな村人たちを見ていて、少しばかり気になるものを見つけたがそれは後回しにしておこう。


「あぁ、安心して欲しい。必ずオークを撃退し、この村を助けてみせるから」


 アルはそれにはっきりとそう言って返した。

 そして優しく微笑む姿はその容貌と相まって、こんな状況に置かれた村人たちにとっては本当に救いの主にでも見えたかもしれない。

 そんな様子を見てから随分と上手く事が進んでいるな、と一人内心で納得してから村長の家を出る。

 それに続いてシャロと、少しだけ時間を空けてアルが出てきた。


 出てきたアルは少し疲れたような表情を浮かべていたが、小さく頭を振ってからそれを引っ込める。

 そして一度俺に視線を向けてから歩き始めた。

 俺とシャロもそれに続くように歩く。少しだけ歩を進める速度を上げてアルの隣を歩く。


「お疲れ、アル」


「あはは……うん、少しね……」


「でも、その甲斐あって上手く事が運びそうだぞ」


「そっか。それなら良いんだけど……やっぱり、ああいうのは苦手だよ……」


「何と言えば良いのでしょうか……少し、異様な雰囲気でしたね……」


 先ほどの村人たちの様子と、それによってあの場の雰囲気が変わっていたことを理解してるシャロがそんなことを呟いた。

 確かにあれは異様な雰囲気だと言いたく気持ちもわかる。まぁ、どうしようもない状況の中で縋ることの出来るものが現れたのだから仕方のないことだ。


「状況が状況だからな。それよりも早くシルヴィとユーウェインを見つけてオークと戦いに行くぞ」


「そうだね。弱音を吐いている暇があるならオークをどうにかしないと……」


 気を引き締めるようにそう言ったアルの様子は多少なりと気負ったり緊張しているように見えるが問題はなさそうだ。というよりもこれくらい気を張っていた方が良いだろう。

 ただ、シャロがここに来て少し不安そうにしているのでオークと遭遇するまでに少し話をしておかなければならないようだった。

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