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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第三章 希望に満ちて、絶望に翳る
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177.思いもよらない提案

 あれから数日後。俺たちはデウカオン村へと向かっていた。

 何処にあるのかはっきりとはわかっていなかったが、アルが聞いた話では王国領にある最北端の村とのことだった。

 王国領は穏やかな気候をしているとはいえアルルサグ山脈から時折吹き下ろしの風があり、その際には非常に寒く感じてしまう。


「もうすぐデウカオン村に到着するけど……」


「風が冷たい、よね……」


「防寒具など持って来ていないぞ……」


 アルルサグ山脈は山の中腹付近から雪が積もり、それ以降を白く染めていた。

 そんな場所からの吹き下ろしの風ともなれば肌寒いと感じるのも当然のことか。


「山からの風が吹けばどうしてもな。まぁ、風がなければ流石王国領。過ごしやすい気候ではあるか」


「そうですね。でもその風が冷たすぎて……」


「デウカオン村に着いたら何か防寒具が欲しいかな……たぶん、取り扱ってるお店みたいな場所はある、よね?」


「どうだろうね……大きな村ではないらしいから、そういったお店はないような気もするけど……」


「だったら村の人間に事情を話して防寒具を譲ってもらうか、借りるかするしかないだろうな」


「そうだね……事情を説明すれば貸してもらえるかな?」


 まぁ、過ごしやすい気候だが風が吹けば非常に寒い。という状態で防寒具なしで動くのはよろしくない。

 体調を崩してしまう可能性は大いにあるのと、身体が冷えると思うように動けなくなる。

 そして動けなくなった間にオークと遭遇し戦闘になれば余計な怪我を負ってしまうかもしれない。

 そんなことを考えている間にデウカオン村の入口へと到着した。


「何にしても村に到着してからの話だな。とはいえ、全員で固まって動く必要もないから役割分担を提案させてもらおうか」


「役割分担?」


「あぁ、防寒具を借りられるか聞きに行く担当、村長に話をしに行く担当、村人から情報収集をする担当。それくらいには分かれても良いんじゃないか?」


「なるほど……」


「それは良いが、お前は何をする気だ?」


「情報収集だ。この中で一番慣れてるからな」


 慣れている俺が情報収集をした方が手っ取り早い。という意味を込めて言えばシャロは確かにと一つ頷き、シルヴィアとアルは納得したような表情を浮かべ、ユーウェインだけが複雑そうな表情へと変わった。

 どうしてなのか、と疑問が浮かぶがその答えはすぐに本人が口にすることとなった。


「確かにお前が一番慣れている。というのはわかるが……それでも俺たちがやらなければ出来るようにならないんじゃないのか?」


「それはつまり、自分に情報収集をさせろ、ってことだよな?」


「あぁ、前回や今回ここまで来る間に出来ないことばかりだと痛感させられたからな……」


 そういったユーウェインは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていて、自分でも認めたくはないが認めざるを得ない。ということなのだろう。

 俺はそんなユーウェインを見て少しだけ感心した。ちゃんと自分には出来ないことを出来ないことと認識して、それをどうにかしようと考えている。

 貴族というのは出来ないことを指摘されたり、直面すると非常に嫌な顔をしたり怒鳴ったり排斥しようとする。というのが俺の認識だ。

 だがユーウェインは違うようで、出来ないことは出来ないこととして、出来るようになろうという心意気があった。


「へぇ……ならユーウェインには情報収集を担当してもらうか」


「あぁ、任せろ。どれだけ出来るのかはわからないが……成果なし、ということだけは避けなければならないな……」


 任せろ、と言ってはいるがやはり不安はあるらしく、そんなことを呟いた。


「主様、何かアドバイスとか、そういうのはありませんか?」


「あ、そうだね。アッシュは慣れてるからユーウェインに良いアドバイスが出来るんじゃないかな?」


「アッシュのアドバイスか……うん、僕たちも必要になるだろうから聞いておきたいね」


「アドバイスって言われてもな……」


 何かないかと問われても、特別なアドバイスなど出来ない。

 せいぜいがこれくらいはしておいた方が良いんじゃないのか?という程度だ。


「挨拶はちゃんとする。威圧的な口調や言葉は使わない。相手に警戒されないような素性を伝える、今回であれば普通に調査に来たってことを言えば大丈夫だろ。知らないって言われた情報をしつこく聞かない。何か不審な点があればそのことを指摘せずに一度引いて他の人に心配している体を装って話を聞く。それから……」


「待て!いきなりそんなに言われても俺には出来ないぞ!?」


「アッシュ、アドバイスは有難いけどもっと簡単なのにしない?ほら、僕たち情報収集とか素人だからさ……」


「うん、有難いね。でもさ、いきなり全部は出来ないからね……」


「んー……挨拶と、言葉と、ちゃんと調査に来たことを伝える。くらいで大丈夫でしょうか?」


 どうやら思いつくことから口にしていたが多かったらしい。

 俺としてはどれも必要なことだと思っているから伝えていたのだが、言われてみればいきなり全部出来るわけがなかった。

 

「あー……そうだな、悪い。とりあえずはシャロが言った三点を守ってくれ。ついでに大丈夫そうなら無理に踏み込んだりしないようにしてくれ」


「あ、あぁ……わかった。その三点、いや……四点に気を付ければ良いんだな?」


「あ、僕もユーウェインについて行こうかな。僕も出来るようになりたいからね」


「そうか、頑張れよ」


「うん、頑張って来るね!行こう、ユーウェイン!」


「あ、あぁ……その、頑張ってくる」


 元気良くそう言ってからシルヴィアはユーウェインに声をかけてから走り出した。

 それを追おうとしたユーウェインだが一度足を止めてから振り返り、俺から微妙に視線を外しながら言ってシルヴィアを追って行った。

 俺にそんなことを言いたくはないが一応の礼儀もあるから、もしくは単純に気恥ずかしかったのか。

 何にしても少しだけユーウェインに対する評価というか印象が変わってくる。


「あの二人に任せておけば大丈夫、だよね?」


「さて、どうだろうな」


「主様、まずはお二人なら出来ると信じることが大切ですよ?」


「そうは言ってもな……まぁ、調査に来た人間を邪険に扱うようなことはしないはずだから大丈夫じゃないといけないのか」


「むぅ……そういうことではありませんよ!」


「わかってるって。ほんの冗談だ」


 シャロの言葉に冗談だと返してから三人で歩いて村へと入る。

 シルヴィアとユーウェインの姿は見えないが、きっと何処かで村人を見つけて話をしているのだろう。


「ここが王国領最北端の村、デウカオン村か」


「うん。ここを拠点にして調査を行いたい。って言った時に他の人には正気か?って聞かれたよ」


 アルはその時のことを思い出しているようで苦笑を浮かべていた。


「あの、どうして最北端の村を拠点にしたいと言っただけでそんな風に言われてしまうのですか?」


「単純に王都から一番遠い場所になるからだろうな」


「それと北方の四貴族の支援が受け難い場所だからね。何かあっても自分たちでどうにかしないといけない。その負担を考えるとここに来たいと思う人は少なかったみたいだよ」


「なるほど……でも、誰かがこの一帯も調査しなければならないのですよね?」


「あぁ、だから俺がここを拠点に、って話をアルにしてなかったら押し付け合いでもしたんじゃないか?」


 変に負担を増やして調査に支障が出る。となれば功績を立てられないどころか失態さえ犯してしまう。なんてことになれば冒険者は信用に、騎士は誇り傷がついてしまうだろう。

 それを考えればそれとなく北方の四貴族の支援が受けられる場所を調査した方が良い。まぁ、保身に走ることも時として必要になるのだ。


「あまり言いたくはないけど、その可能性は高いね……いや、今はそのことは考えないようにしようか」


「考えないようにするというか、あまり考えたくないですね……確かに支援が受けられないのは困ります。でも、誰かがしなければならないのを押し付け合うなんて……」


「この世界はろくでもないんだ。綺麗事ばかりでどうにかなるわけじゃないんだよ」


 ろくでもないこの世界で、綺麗事ばかりを口にしていても意味がない。

 偽善的に口にするならばそういう人間なのだろう。だが本気で綺麗事ばかりを口にして行動するのであればそれは本当に稀有な存在だと思う。

 だがそういった稀有な人間はろくでもないこの世界では長く生きてはいられないだろう。

 そう思って口にした言葉だったが、それを聞いたシャロとアルが複雑そうな表情を浮かべていた。


「まぁ、本当にそんなことはどうでもいいな。とりあえず村長のところにでもお邪魔して事情の説明とついでに防寒具を借りられるか聞いてみるか。俺は必要ないにしてもシャロたちに合った大きさの物が必要になるしな」


「その言い方だと、主様は防寒具を持っているのですか?」


「あぁ、一応な。使うかどうかは別にしても玩具箱(トイボックス)の中に入れておいて正解だな」


「これは私も玩具箱を使えるようにならないといけませんね……!」


「僕も使えるのなら使いたいけど……魔法の才能はあんまりないからなぁ……」


 シャロはこれから覚えようと思っているらしく気合を入れ、アルは少し羨ましそうにそう呟いた。


「シャロならすぐに使えるようになりそうだけど……そうだな、念話と治癒魔法の礼にそれくらいなら俺が教えようか」


「良いのですか!って、あ、いえ!私が念話と治癒魔法を主様に教えているのはお役に立ちたいと思っているからで、そんなお礼なんて……!」


「シャロ、これは俺がそうしたいって思ってることでもあるんだ。素直に受け止めてくれないか?」


「むぅ……主様はそうやって私が断れないような言葉選びばかりします……」


「当然だろ、断られたくないんだから」


「主様はやっぱり意地悪です!」


「はいはい。悪かったな。それで、どうするんだ?」


「……仕方ないので、主様に玩具箱を教えてもらいますからね!ちゃんと私が覚えるまで、しっかり教えてくれないとダメですよ!」


「あぁ、勿論だ」


 俺の返事を聞いてぷいっとそっぽを向いてしまったシャロに苦笑を漏らしながら頭を撫でてどうにか宥めようとする。

 だが俺のそんな考えはシャロにはお見通しのようで機嫌を直してはくれない。と、思ったが微妙に口元が緩んでいるのでたぶん機嫌は直っていそうだ。

 ただその程度ですぐに機嫌が直った、と思われなくないのか。もしくはそうしておけば俺が頭を撫で続けると思っているのか。どちらにしても俺はまだシャロの頭を撫でなければならないようだった。

 まぁ、俺としてはそれは苦ではないので全くもって問題ないのだが。

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