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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第一章 始まりの出会い、変化の始まり
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17.宵隠しの狐

 カウンターの隅の席には、宵隠しの狐の主人が座る。

 だからこそ誰もそこに近づかない。というか、近づいて座ることは禁止されている。というわけではないのだが、暗黙の了解として主人のために席を空けておくようにいつの間にかなっていたらしい。

 ただその主人の気に入った相手だったり、特別な客である場合はそこに座っても問題はない。いや、宵隠しの狐に来ているのを見つけた場合はその席に招かれることが多い。

 俺は一応その気に入られた相手となっているので、そうして招かれることが多いので宵隠しの狐ではそれなりに顔を知られていたりする。


 そんなカウンターの隅に向かっている最中で従業員の一人に声をかける。俺の顔を確認すると席について待つように言ってから二階へと上がって行った。

 一階は酒場、二階は個室を希望した客が使ったり、主人が仕事をせずに酒を飲んでいたり、主人が気に入った相手を連れ込んでいたりと割と好き勝手するのに使われている。

 とはいえ、その主人には妻がいるので気に入った相手を連れ込んだところで大抵はそのまま説教に入るため行為に至ることはないらしい。

 この情報は従業員たちから聞いた話なので信憑性は高い、と思う。


 閑話休題。


 そんなくだらない情報を思い出しながらカウンターの隅にシャロと二人で並んで座る。

 一応シャロは壁際に座らせて、主人が俺の隣に座るしかないようにしておく。シャロに絡んだ結果、エルフだとばれても面倒だからだ。


「本当に座れましたね」


「座るくらいは簡単なんだ。とりあえずお前は食事に集中しとけば良いからな?」


「食事に、ですか?」


「ここの主人の言葉に耳を貸さなくて良いから、食事だけしてろ。良いな?」


「は、はぁ……」


 俺がどうしてそんなことを言っているのか理解出来ていないシャロは生返事を返すしか出来ない様子だったが、本当に食事にだけ集中していてほしい。

 絶対にここの主人の言葉に耳を貸さないでくれ。というのが俺の願いだ。

 とりあえずは適当に料理を注文することにした。シャロは何を頼むか悩んでいるようだったが、結局おすすめを注文することに決めたようだった。

 そうして料理を待つ間に何か話でもしようかと思ったが、シャロは慣れない酒場に緊張しているのか周りを眺めていたり、料理の匂いがするせいかそちらの様子を気にしたりと放っておいても問題はなさそうだった。

 それならば俺も何も言わずに、主人が来るまでの間に面倒なことにならないことを祈ろう。と思っていたらいつの間にか隣に見た限り十二歳程度の太陽を思わせる金色の髪に狐の耳と尻尾を生やした獣人が座っていた。

 可愛いらしさと、何処となく美しさがあるよう美少年。といったところだ。見た目だけなら、というのが頭言葉につくのだが。


「はぁ……」


「おいおい、人の顔見てため息なんて失礼だろ?」


 それを確認してからついついため息を零すと、楽し気にそんな言葉を返したきた。

 この人物こそ宵隠しの狐の主人である白亜という名の獣人で、ろくでなしの俺が太鼓判を押すクソ野郎だ。


「お前の顔を見ればそうもなるっての……」


「そんなこと言うなよ。アッシュがわざわざ来てくれて俺は嬉しいぜ!ってわけで、とりあえず上に行かねぇか?」


 言いながら俺の手を取り、情欲の燃える瞳でじっと見つめてくる。

 それを受けて俺は馬鹿なことを言い始めたな、と思いスッと片手を挙げる。その瞬間、空を裂く音が聞こえたかと思うと何かが白亜の後頭部に直撃した。


「痛ってぇ!?」


 直撃した何かは何故かそのまま元来た方向へと戻っていき、その先には実質的にこの宵隠しの狐を切り盛りしている桜色の髪をした獣人、桜花が立っていた。

 この桜花こそが白亜の妻であり、その手には直撃した何か、というかお盆が器用に受け止められていた。


「馬鹿な事を言う度にこれなんだからいい加減学習しろよ」


「だってお前!生アッシュだぞ!?生アッシュが目の前にいるのに口説かないわけにはいかねぇだろ!?」


 生アッシュ言うな。それと、お盆が直撃した時点でシャロが何事かと驚いてたし、更に生アッシュ発言のせいで困惑している。

 白亜はそんなことを桜花に向かって叫んでいるが、桜花は笑顔で追加のお盆を投げつけていた。

 また周囲の客に関しては言うなら、また白亜が馬鹿なことをしている。とでも言いたげに一瞬目を向けてからすぐに自分たちの食事や酒盛りに戻っていた。


「本っ当にあのお盆痛すぎる……!」


「馬鹿かよ……」


「馬鹿とか言うなよ……ちょっと興奮するだろ」


 言いながら頬を赤らめる様子は見た目も相まってその手の趣味の人間ならイチコロかもしれない。

 俺はその手の趣味はないし、中身が酷いことを知っている。となれば本当にため息しか出てこない。


「はぁ……お前は本当に……」


「何だよ。そんな態度でも俺は本気で興奮出来るんだぞ。しかも生アッシュからってだけで三回くらいイける自信がある!」


「生アッシュって呼び方やめろ。それと本人を目の前にしてそんなこと言うなよ」


「お?俺はイけるって言っただけなのに……アッシュってばナニ考えたんだろうなぁ?」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらそんなことを言うのだからやはりクソ野郎だ。

 容赦はしないと手を挙げる。瞬間、再度お盆が白亜の頭部に直撃したが手は挙げたままにしておく。すると二度、三度とお盆が白亜を襲う。

 見た目は美少年なのに中身はただのセクハラ親父というのが白亜の正体であり、気乗りしなかった理由は顔を合わせれば毎回セクハラ発言をされるからだ。

 セクハラ発言だけならまだしも、酷い時は本気で二階に連れて行かれそうになったり、珍しく酒を飲んで酔いが回った際には気付けば二階のベッドの上で白亜に押し倒されていた、ということもあった。

 その全てにおいて笑顔で白亜の頭部をお盆で撃ち抜いてくれた桜花は俺にとって恩人とも言える。原因は全て桜花の旦那である白亜にあるので、それも当然のことだとも思えるのだが。


「くっそ……桜花の奴、腕を上げやがったな……」


「何度もやれば腕も上がるっての」


「ん?何度もヤれば……あ、悪い、やめて、手を挙げんな!お盆飛んで来るから!」


「ならもう黙れよ」


 白亜の発言に軽い頭痛を覚えていると何やら腕を掴まれるような感覚がして、何事かと目を向ければシャロが俺の手を腕にしがみつき身を隠すようにしていた。

 これはきっと白亜の意味のわからない発言を聞いて、警戒した方が良いと判断して隠れようとしているのか、はたまた未知の存在に対して恐怖を覚えてしまったのか。

 何にせよやはり白亜の存在は許されるべきではないということだろう。


「そんなゴミを見るような目を向けるなよ。正直堪んねぇ……!」


「子供に悪影響が出るから消えてくれよ……」


「子供?」


 俺の言葉を聞いてから白亜は身体を後ろに反らすようにして隠れているシャロを見つけた。

 見つけた瞬間、驚いたような表情をしたかと思うとすぐに納得した。とでも言いたげに頷いてから口を開いた。


「なるほどな……そっちの趣味か……」


「違う。ちょっとした事情で一緒にいるだけだ」


「いやいや、俺はそういうのにも理解はあるから大丈夫だぞ。何だったら今から俺が妖術で幼女になって来るからそうしたら二階に行くってのはどうだ?」


「行かないっての。いや、待て、変わるの早すぎだろお前!」


 元日本人としては妖術と言われて何となくどういった物かわかるのだが、白亜はそれを使うことによって自身の性別を自由に変えられる。

 そのことは知っていたのだがまさか話している間に何のアクションもなく性別を変えるなんて思いもしなかった。

 隠れているシャロもそれを目にして驚いていた。さっきまで美少年、一瞬で美幼女となれば驚くのも当然だ。俺も初めて見たときは本気で驚いたのを覚えている。


「良いじゃん!さっさと抱けよ!」


「抱かないって言ってるだろ!!」


 抱く抱かないの話をしている最中、シャロは疑問符を浮かべているし桜花は仕方ないなぁ、という風に頬に手を添えているし白亜は俺の腕に抱きついて薄い胸を押し付けてくるし料理を運んで来た従業員はその様子を気に留めることなく料理を置いていくし、非常に混沌とした状況となっていた。

 ただ元々美味しい食事を目当てに来ていたシャロは料理が置かれた瞬間に興味がそちらに向かったので、そのまま食事を始めるように言っておく。


「先に食ってろ。それで、この馬鹿の話には耳を貸さなくて良いからな?」


「わ、わかりました……!」


 関わらない方が良いと判断したのか、神妙な様子で返事をしてから食事を始めたシャロだったが、一口料理を食べた瞬間に頬を緩ませたのでちゃんとシャロの味覚でも美味しいと思えるようだった。

 そして一口一口ゆっくりと丁寧に咀嚼して飲み込む様子はやはり小動物的な可愛らしさがあり、見ていて非常に和んでしまいそうになる。

 ただここで下手に和んで隙を曝そうものなら白亜に何をされるかわかったものではないので和むことも出来ない。


「可愛いな……ちょっと手を出したくなる、んだけど……」


「ダメだろ。桜花にぶっ飛ばされるぞ」


「流石に子供相手は許されないからなぁ……でも……」


 シャロの様子を見ていたのは俺だけではなく、白亜も同じようにシャロを見て可愛いと口にした。

 そして手を出したくなると言ったが桜花を見れば拳を握り締めながら笑顔で白亜を見つめていた。但し、目が全く笑っていないので本当に手を出そうとすればあの拳が白亜の顔面に突き刺さるのだろう。

 ただ、でも、と言って俺を見てくるのはどういうことなのだろうか。


「アッシュに抱かれるのならセーフだって話し合ったんだよなぁ……」


「桜花ぁ!ちょっと来い!!」


 きゃっ、なんて言いながら両頬に両手を添えて照れた様子を見せる白亜だが言っている言葉の内容を看過することが出来なかった。

 本来であれば白亜を止めるはずの桜花が何故か俺に抱かれるのはセーフという意味の分からない許可を出しているなんて信じたくないというか信じてたまるか。

 とりあえず真偽を確かめなければならないと桜花を呼ぶと、何か問題でもあったのか。と言いたげな表情で歩いてこちらに向かって来ていた。

 場合によっては白亜だけではなく桜花までも俺にとって相手をするのが気乗りしない相手になりそうだ。

 尚、そんなことを考えている横でシャロは俺の声に一瞬だけビクッと反応していたが、すぐに食事に戻っていた。それは俺の食事にだけ集中しろという言葉を実行しているからなのか、シャロ本人が食事を優先したいからなのかはわからなかった。

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