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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第三章 希望に満ちて、絶望に翳る
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174.新たな魔法の習得は?

 三人のことは完全に放置してからシャロを愛で、ひとまず満足したところで撫でるのをやめた。

 まぁ、割としっかりと撫でていたのでシャロが少しばかり目を回してしまったがそれは仕方がないことだと大目に見てもらおう。

 とりあえず何事かと俺たちを見ている三人に何か言うべきだと思う。


「そういえば昼食は?そろそろ配られていてもおかしくはないと思うけど」


 この村での休憩では村から昼食が提供されることになっている。

 とはいえ、善意からではなく調査隊の予算の一部を渡すことで準備をしてもらう。ということになっていたらしい。

 俺たちがこの村に到着した時点では昼食はまだ出来ていなかったが、そろそろ出来ていてもおかしくはないはずだ。


「え、あ……た、確かにそろそろだね、うん」


「この状況で一番最初に口にするのがそれってどうかと思うよ」


「普通なら先ほどまでの自分の行動に関して何か言うべきだろうな。俺たちは何をやっているのかと少しばかり呆れてしまったからな」


「何をやってたのかって、俺の可愛いお世話役を愛でてただけだぞ?」


「さも当然のこと、みたいに言うようなことじゃないからね、それ」


 そんな風に軽い会話を試みていると可愛い、愛でていた。という言葉に反応してシャロが照れながらほにゃっと破顔していた。

 やはり俺のお世話役は可愛い。これは多少なりとイシュタリアに感謝しなければならないかもしれない。


「良いだろ、俺にとってはそうするのは当然のことって思うようになったからな」


 そう返すと三人とも呆れたような表情を浮かべていた。


「アッシュってば本当にシャロには大好きだよね。いや、何となくわかってたけどさ」


「そうだね……でも、そういうのも悪くはないと思うよ。いき過ぎなければ、だけどね」


「…………変な奴だな」


 シルヴィアとアルがそんなことを言いながら何処となく温かい目で俺を見ていた。

 ユーウェインは微妙に困ったような、もしくは想像していたものと大きく違う何かを見たような、とにかく形容しがたい表情を浮かべていた。

 ただそれには否定的な色は見えないので問題視するほどではないと思う。


「変な奴で悪かったな。それより、昼食の後は一息ついて出立のはずだからあんまりのんびりもしていられないと思うぞ」


「あ、それもそうだね……ユーウェイン、皆の分も取りに行こうよ!」


「え、あ、は、はい!わかりました!」


「ユーウェイン?」


「あ……わ、わか、った……?」


「よろしい!それじゃ、アッシュたちは待っててね!」


 そう言葉を残してからユーウェインを引き連れてシルヴィアは集団の中へと紛れて行った。

 それを見送ってからアルに声をかける。


「アルなら知ってるかもしれないから聞くけど、誰がどの辺りの調査をするってのは決まってるのか?」


「え?あぁ、それは決まっていないね。ある程度は全員で進んで、何処かでそれぞれが調査する場所に移動うことになるんじゃないかな。連絡をする為に念話を使えるように、ってことで僕やユーウェインは、っていうよりも騎士は全員使えるようにしているよ」


「へぇ……まぁ、冒険者の中にも使える人間もいるだろうし、場合によっては騎士と組ませれば問題はないのか」


「そういうことになるかな。アッシュは念話は使えないのかな?」


「あぁ、使えないな。とはいえマジックアイテムでどうとでもなるから別に大丈夫だと思ってる」


「それは……うん、アッシュならそうなのかもしれないけど……」


「主様、念話を覚えると便利になりますよ?」


 マジックアイテムがあればこともなし。と伝えるとアルは少しだけ眉尻を下げ、シャロはそんなことを言いながら念話を勧めてきた。

 まぁ、確かに便利だとは思う。一々マジックアイテムを取り出す必要はないのだから。ただ覚える手間が面倒に思えてならない。


「そうは言うけど、今から覚えるのも面倒だろ?」


「あー……それは、確かにそうかもしれないね……」


「はいっ!私が主様に魔法を教えますよ!魔法のことなら任せてください!」


 バッと手を上げて自分が念話を教えます、とアピールするシャロ。

 たぶん俺に何かを教える、自分が役に立っているという実感が湧くであろうそれをどうしてもしたいのだと思う。俺の想像でしかないのだが。

 とりあえず、目をキラキラと輝かせてそんなことを言ってくるのだから断ることは出来ない。

 それと、どうせ調査する場所に到達するまでに時間はあるのでその間に少し教えてもらうのも悪くはないのかもしれない。


「そうだな……わかった。それならこの旅の間、念話を教えてもらっても良いか?」


「旅の間と言わず、王都に戻ってからも任せてください!念話だけじゃなくて炎の魔法とか、氷の魔法とか、風の魔法とか、雷の魔法とか、光の魔法とか、闇の魔法とか、とにかく任せてくださいね!」


「いや、そこまで教えてもらうつもりはないからな?それに魔法とか使おうと思えば使える物の方がたぶん多いと思うし……」


「え?」


「え?」


 色んな魔法を教える、と意気込んでいたシャロには申し訳ないが、アルヴァロトの中には魔法を得意とした人間が数人いた。いや、魔法以外のことも当然のように上等な腕をしていたのだが。

 そんなアルヴァロトにいれば魔法くらい教わる機会は幾らでもあった。だからこそ色々と教わることになったのだ。

 俺のそうした過去など知らないシャロとアルは何を言っているのかわからない。というように気の抜けた声を漏らしていた。


「俺は基本的に戦闘で使うような魔法は使わない。使えないんじゃなくて、使わないんだ。ほら、呪文の詠唱とかって舌を噛むだろ?」


「噛まないよ!?というかどうことなのかなそれは!」


「え……あ、主様は色々な魔法が使えるのですか……?」


「使えるのは使える。でもな……基本的に使わなくても充分にやっていけるし、マジックアイテムが便利だからなぁ……」


 基本的に相手に接近して懐に潜り込み、相手の妨害をしながら戦う方がやりやすいと考えている俺にとって戦闘中に呪文を詠唱して魔法を使う。という考えはない。

 そんなことをする暇があればナイフを振るか迷子の双子(ヘンゼル・グレーテル)を抜いた方が早い。もしくは殴るか蹴るか。


「た、例えばどんな魔法が使えるのですか!?」


「爆裂魔法とか?」


「爆裂!?」


「爆裂魔法!?え、何ですかそれ私初めて聞きましたよ!?」


「単純に言えば炎の魔法を使って爆発を起こすことだけを考えた破壊力重視の魔法だな。俺の昔の仲間がこう言って良く使ってたんだ。爆発は芸術だ。ってな」


 爆発は芸術だ。前世でも聞いたことのあるこの言葉を口にしながら魔物を吹き飛ばしていた姿を思い出すが、非常に楽しそうだったのを覚えている。

 かと思えば非常に地俺のように不意打ちや闇討ちをするのに適した闇の魔法を使い、何事もスマートに済ませないよね。とかほざいていたのも思い出した。

 まぁ、魔法に関しては自分は相当な腕前だという自負があったからこその自身に満ちた言葉だったように思える。


「そ、れはいまいち理解が出来ませんけど……わ、私が主様に魔法を教えようと思っていたのに……」


「何て言えば良いのかな……アッシュって、本当に何でも出来るんだね……」


「何でも出来るわけじゃないさ。魔法ってのはある程度の才能があれば後は努力で何とでもなるからな」


「ということは、アッシュはその努力をしてきたってことか……」


「生きる為だ、努力は惜しまなかったってだけの話だ。とはいえ……念話は覚えなかったな……」


 念話を使う機会がなかったので覚えることはなかった。

 元々仕事は一人で行っていたし、アルヴァロトで集まりがある場合はエアが全員を集めていた。

 だからこそ必要ないと判断していたのだが、まさか今になって覚えることになるとは。

 そんなことを一人で考えているとあからさまに落ち込んだ様子を見せるシャロが非常に残念そうに呟いた。


「折角お役に立てると思ったのに……目に見える形で、主様のお役に……」


 どうやらシャロははっきりと俺の役に立っている。という実感を得たいらしい。

 俺としてはシャロなりに頑張ってくれているのはわかっているし、傍にいてくれるだけで感謝している。

 だがシャロはもっとはっきりと俺の役に立てたと目に見える何かが必要なのかもしれない。


「……そういえば治癒魔法はあんまり覚えてなかったな」


 これも俺にとっては必要のない魔法なので覚えていない。いや、元々は必要かとも思ったが玩具箱(トイボックス)を使うようになりポーションがいつでも持ち運べるようになった。

 だから覚える必要はない。と判断してしまったはず。


「シャロは治癒魔法も使えるのか?」


「え……?あ、はいっ!治癒魔法もちゃんと使えますよ!!」


「そうか。それなら念話を覚えた後は治癒魔法を教えてもらっても良いか?覚えておいても損はないはずだと思うからな」


「はい!念話の後は治癒魔法ですね!お任せくださいっ!」


 さっきまでの落ち込みようが嘘のようにまた瞳を輝かせ、気合を入れるように胸の前で両手をぐっと握っていた。

 そうした仕草も可愛いくて撫でたくなるが気合を入れている邪魔をするわけにはいかないのでそっとしておく。


「アッシュ、少し良いかな?」


「何だよ、アル」


 シャロのことをそっと見守っているとアルがこそこそと耳打ちをしてきたのでそれに小声で返す。


「本当に治癒魔法の類は覚えていないのかい?僕の勝手な想像だけど、アッシュなら使えてもおかしくはないような気がするんだけど……」


「あぁ、本当に使えないぞ。玩具箱が優秀なのと、重傷を負った場合は治癒魔法よりも効果の高いハイポーションにでも頼った方が手っ取り早いだろ?」


「そういうことか。うん、それなら確かに納得だね」


「ただ……今更覚えるようなことでもないとは思ってる」


「あはは……ということは、シャロの為に?」


「そういうことだ。まぁ……シャロが笑ってくれるなら、俺はそれで良いからな」


 そう言うとアルは少しだけ驚いたような表情を浮かべていたが、何かを納得するように一つ頷いた。

 アルがどうしてそんな様子になっているのかわからないが、気にせずにシャロを見る。

 シャロはどうやって教えようか考えているようで、さっきまでとは違い考え込むように顎に手を当ててうんうんと唸っていた。


「まぁ、今は笑うってよりも悩んでるけどさ」


 そんなシャロの様子を見てからそう言って軽く肩を竦めるとアルは小さく笑った。


「そうだね。でも……悩んではいてもそれはきっとシャロにとっては心躍るような悩みなんじゃないかな」


 優しい声色でそう言ったアルに一つ頷いて返し、シルヴィアたちが戻って来るまでの間、静かにシャロを見守ることにした。

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