表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第三章 希望に満ちて、絶望に翳る
180/211

167.仲が良さそうで良くない二人

 ライゼルたちとの話し合いというか尋問から二日後。

 太陽はまだ地平線の向こう側に隠れている。そんな時間に北のオークの調査に向けて出立する騎士団の人間が北門へと集まっていた。

 ざっと見た限りでは百名前後の騎士たちが集まっている。

 そして同じように冒険者たちもまた集まっていた。


 あの後知った話だが冒険者に向けて調査の人員募集が行われていたらしい。

 憲兵、騎士、冒険者とそれぞれから調査の為の人員を集めていたことになり、俺が想像していたよりも被害は広範囲に及んでいるようだった。

 そしてテッラとアナスタシアは冒険者ギルドの依頼を受けて冒険者の立場で参加している。

 どうにもギルドから内密に名指しで依頼が来ていたらしい。理由としてはBランク冒険者としての改竄したがその実力があるのか確認するため、とのことだ。

 名前こそ出てこなかったがきっとクレスの差し金だろう。当然、ヘクターたちと話し合ってのことだとは思うのだが。


「主様……何だか、ちょっと緊張しちゃいますね……」


「シャロはこういう場は初めてか?」


「はい……人が集まる、ということでしたら里でも何度もありましたけど……こうして騎士や冒険者の方が沢山集まっているのを見るとこれから何かある!って背筋が伸びてしまいます」


「へぇ……ってことはちゃんと目が覚めたってことか。いや、良かった良かった」


 実を言うと起きなければならない時間がいつもよりもずっと早く、シャロは寝ぼけ眼でここまでやって来ていた。

 朝の支度も俺が手伝ってここまで手を引いて連れてきた、という方が正しいのかもしれない。

 ついでに言うとテッラも同じように俺が朝の支度を手伝い、手を引いて、アナスタシアに預けてきた。

 その時のアナスタシアの何とも言えない微妙な表情を思い出すと笑いそうになってしまう。


「え、あ、それは……そのー……」


 あからさまに俺から目を逸らして視線をあちらこちらに泳がせるシャロに呆れながらその頭をくしゃくしゃと撫でてから口を開く。


「まぁ、王都の中でなら別に良いさ。ただし……調査の間は自分で起きて朝の支度も自分ですること。良いな?」


「は、はい!大丈夫です、主様にいつまでもお世話されるような、そんなのはお世話役とは言えませんからね!」


「そうかそうか。それならとりあえず朝は自分で起きられるようにならないとな」


「うっ……あ、朝は、その……とても眠たいと言いますか、主様の用意してくれたベッドの寝心地が良いと言いますか……」


「大丈夫だ。野営をするようならあのベッドはないからな」


「わかってます!でも……地面で眠ると朝に体が痛いので、好きじゃありませんね……」


「俺は子供の頃からだから慣れてるけど、シャロには厳しいだろうな」


 そう言ってから肩を竦めるとシャロは小さくため息を零した。


「そうですね……どうにか少しくらいはマシになるように考えないといけません……」


 北門の光景を見て緊張していたシャロだったが、良い具合に緊張が解れてきているようだ。

 この時点でがちがちに固くなっていても仕方がないのでどうにかしなければ、と思ったが上手くいったらしい。


「あ、それはそれとして、主様」


「どうした?」


「騎士団の方や、冒険者の方が集まって話を聞いていますけど……」


「自分たちは聞かなくても良いのか、ってことか?」


「はい。大切な話をしていると思うので、聞いた方が良いのかなぁ、と……」


「何だかんだ言って士気を高める為の叱咤激励くらいしかしてないと思うぞ。本当に必要なことは事前に伝えてあるはずだからな。俺たちだって昨日ストレンジで話を聞いただろ?」


「あ、はい。それはそうですけど……」


 昨夜ストレンジでライゼルの伝言をハロルドから聞いていた。

 主に今回の調査に関する事前情報だったが、それを聞いている以上は騎士の前で、冒険者の前で話をしているそれを聞く必要はないだろう。

 というか、聞かなければならないとしたら騎士側の話になるのだが、潜り込んで聞く。というのは面倒なのでやりたくない。

 どうせアルと合流することが決まっているのだからその時にでも情報を擦り合わせれば問題ないはずだ。


「それよりも移動が始まれば俺たちはアルの傍に行かないといけない。どうにも騎士と冒険者が組んで調査をするってのが数組いるらしいから別に怪しまれることはないはずだ」


「怪しまれるか怪しまれないか、それを最初に考える辺り主様は本当に慣れていますよね」


「怪しまれるような行動を取ると、警戒されて動きにくくなるからな」


 そう言いながら、話が終わり動き始めた人の群れに紛れ込む為に歩き始めた。

 こういう場所での俺の動き方に初見でシャロがついて来れるとは思っていないのでスッとシャロの手を取り、はぐれないようにしておく。

 手を取った瞬間にシャロが緊張したような雰囲気を感じたが気にしている場合ではないのでそのまま進む。

 そうして騎士団の最後尾へと配置されていたアルの近くまで進むと、そのまま人の流れに従って北門から出て目的地へと王都から出立することとなった。



 王都を出てから約八時間ほど。太陽は天高く登っている。

 出立してから暫くは騎士たちも冒険者たちも思い思いに話をしていたが、休むことなく歩き続けているせいか徐々に口数が少なくなり、現在では誰も口を開くことなく黙々と歩を進めている。

 シャロも最初は意気揚々と、とまではいかないが自分で元気に歩いていたが今は辛そうにしながらどうにか歩いている。という状態だ。

 ついでに言えばアルの近くまで、と思って進んでいたがアルはユーウェインの下へと進んでしまったので合流する機会を失ってしまった。

 それならばそれで仕方ないとして、アルとユーウェインの関係はユーウェインが一方的にアルのことを敵視しているのだと思っていた。

 それなのにどうしてアルはユーウェインの下へと進んだのだろうか。余計な諍いが起きる可能性があるのに。

 そんなことを考えながらも辛そうなシャロに声をかける。


「シャロ、大丈夫か?」


「は、はい……だ、だいじょう、ぶ、です……」


 どう見ても大丈夫ではない。

 まぁ、普通に歩くだけならまだしも、鍛えられた騎士や日頃から冒険者ギルドの依頼を受けてはあちらこちらに飛び回っている冒険者に合わせてハイペースで歩き続けているのだから当然だ。


「そうか……」


 とはいえ、自分で頑張ろうとしているシャロに対して安易に手助けするのはあまりよろしくない気がする。

 子供が自分でやろうと頑張っていることを大人が横から代わりに片付ける。というのは子供のためにならないし、嫌な気持ちにさせてしまうものだ。

 ならばシャロがどうしても歩けない。となるまではなるべく見守るスタンスでいこうと思う。


「とりあえずもうすぐ昼食を取る為に一度休憩を挟むはずだから、それまで頑張れるか?」


「わ、かりました……頑張ります……っ!」


 黙々と進む中で前方からそんな話が聞こえてきたのでシャロにそう言うと、残り少ない気力を振り絞るようにしてそう返事を返した。

 そして皆から遅れないようにどうにか歩き続け、小さな村に辿り着いた。

 どうやらこの村で休憩を挟む予定だったようで、村人たちが忙しなく動きながら色々と準備をしていた。

 とりあえず集団の流れに従って村の中心付近まで進むと騎士の一人が全員の前に立ち、これから暫し休憩を取る。ということを話し始めた。


「お疲れ、シャロ。暫くは休憩みたいだからしっかり休めよ?」


「は、はい……」


 集団から離れた場所にシャロを座らせて休ませている間、当然のことではあるが好奇の視線が向けられてくる。

 村人の中にも子供がいるとはいえ、王都からここまでずっと歩いて来た集団の中にいた女の子。ということで注目を集めてしまっている。

 いちいち気にしても仕方がない。とはいえ何か手を出してくるようなら対処しよう。と一人で心に決めていると集団の中から二人ほど俺たちに近寄ってくる人影があった。

 人影、と言ったが見覚えのある姿が二つ。アルとユーウェイだった」


「……いつの間にか、仲良しさんになった。とかそういうことか?」


 並んで歩いて来る二人にそんな言葉をかけると、アルは困ったように眉尻を下げ、ユーウェインを苦々しい表情を浮かべた。


「そういうわけではないんだけど……えっと、その……団長から話は聞いている、かな?」


 どうしてか非常に歯切れが悪いアルにそう聞かれて内心で疑問符を浮かべながらも答える。


「あぁ、今回の調査ではアルと組むようにって話だ。一応騎士をもう一人付けるって話だったけど……」


 一度言葉を切り、ユーウェインを見る。


「……あぁ、そうだ。団長からお前と協力するように言われている」


「そうか……依頼を受けた以上は調査の方は任せてくれ。それと騎士様には大人しくしておいてもらえると助かるな」


「…………お前に言わなければならないことがある」


 俺の皮肉を受けて激昂するかと思ったがそういうことはなく、意を決したように、それでいて苦虫を噛み潰したような表情で言葉を続けた。


「盗賊団討伐の際はシルヴィア様の力になったこと、それには感謝している」


「……アル、こいつ頭でも打ったのか?」


「アッシュ、気持ちはわかるけどそういうのは言わない方が良いと思うよ?」


「主様……」


 俺に対して感謝の言葉を口にするユーウェインのせいでついついそんなことを口走ってしまった。

 それを聞いてアルは俺を諫め、シャロもまだ疲労から俺に対して注意の言葉を口に出来ないまでも非難の目を向けてくる。

 そしてユーウェインは先ほどよりも更に苦々しい表情へと変貌していた。


「俺だって感謝するべき時は感謝する。例えお前のような……冒険者が相手だとしてもだ」


 俺のことを冒険者、と呼ぶ際の妙な間は何だったのだろうか。


「それがシルヴィア様に関することならば尚のことだ。ただ……気に入らない、とだけは言っておく」


「まぁまぁ、落ち着きなよ、ユーウェイン」


「お前のことも気に入らないからな!」


 俺に対しては感情的にならないように気を付けているようだった。

 だがアルがユーウェインの内心を図って落ち着くように言うと、アルのことも気に入らないとはっきりと怒りを込めて口にした。


「……仲悪いな」


「当然だ!俺はアルトリウスと仲良くする気など一切ない!!」


「僕としては少しくらいは仲良くしても良いと思うけど……」


「お断りだ!!」


 仲悪いな、と言ったがむしろ仲が良いような気がしてきた。

 何と言えば良いのか。ユーウェインは俺が思っていたよりも取っ付きやすい、もしくは打てば響くような返事を返してくるからかい甲斐のある人間なのかもしれない。

 と、関係のないことを考えながら目の前でぎゃんぎゃん吠えるユーウェインとどうしたら良いのかとオロオロしているアルを見ながらシャロが落ち着くのを待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ