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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第三章 希望に満ちて、絶望に翳る
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150.必要とされる話し合い

 今、俺が置かれている状況と言うのは非常に面倒なことになっている。

 大きな机を囲むようにして座る壮年、もしくは老年の男や女を前にして俺は座ることを許されず、立っている。

 これから貴方に重要な話があります。とでも言いたげな者はまだ良い。

 完全に見下したように俺を見てくる者がいて非常に不愉快で仕方がない。


「全く……第六憲兵団の団長ともあろう人間が、このような者の世迷言を信じているとは……嘆かわしいですねぇ」


「そう言ってやるな。グィード殿もあれに騙されているのだろうさ」


「であれば、グィード殿を騙したあれが狡猾で下劣である。と」


「なるほどなるほど。そんな人間が我々の前に良くもまぁ顔を出せたものだ」


 俺のことを見下している四人がそんなことを言って不愉快さに拍車をかけてくれる。

 だがそれを表に出すことはない。こういうのは、スラム街にいた時から慣れている。慣れてはいるが不愉快であることに変わりはない。


「申し訳ありませんが、お歴々には黙っていて頂きたい」


 俺の内心を悟った、というわけではないがグィードが苦言を呈した。

 本来すべき話をせずに、見下して余計なことしか言わないのであれば当然か。


「おぉ、グィード殿がお怒りのようですよ」


「いやはや、やはり庶民上がりというのはいただけない」


「我々に対しての口の利き方がどうにもわかってもいない。第一憲兵団の団長殿は躾がなっていませんなぁ」


「これが憲兵団の一団長とは……何とも言い難い」


 グィードは庶民上がりなのか。と思いもよらない情報に思考が取られる。

 いや、だからこそ違和感なく冒険者として潜伏していられるのかもしれない。

 何にしても憲兵団も団長となれば貴族がなることが多い中で、庶民でありながらその地位に就いたグィードは一体どれだけの努力や功績を重ねたのだろうか。


「へぇ……庶民上がり、か。やるじゃん」


「む?あ、あぁ……それなりに努力はしたからな」


「それなりどころの話じゃないだろ?」


「う、うむ……まぁ、何だ。今日はそういう話をするために呼んだわけではなくてだな……」


「わかってる。イリエスについてだろ?ならまずは部外者を退けてくれ」


「部外者、というわけでは、ないと言えばないのでどうにも……」


 遠征中は堂々としていたグィードだが、流石に貴族が四人いる場では立場が弱いらしい。

 まぁ、それは俺の知ったことではないのと、こいつらにイリエスの話を聞かせるだけ意味がないと思っているので本当に消えて欲しいと思っている。


「私たちを部外者扱いとは、随分と無知なようですねぇ」


 貴族の一人がそんなことを言ったが無視だ無視。相手をするのは面倒すぎる。


「それで、あの四人はどうでも良いとして……第六憲兵団団長のグィード、第一憲兵団団長のヘクター、王国騎士団団長のライゼル、冒険者ギルドのギルドマスターのクレス。随分と仰々しいな」


 無駄話しかしない貴族の四人を除いてその場にいるのは今、名前を上げた四人だ。

 グィードとライゼルに関しては当然として、ヘクターとクレスがいるのは予想外だった。


「いやー、悪いね!帝国のイリエスでしょ?流石におじさんとしても看過出来ないし、グィードくんの話だけで判断出来ないからさ。本人から聞き取りするのが一番だと思ったわけよ」


「ヘクター殿は相変わらずでございますね。私としましては必要とあらば冒険者を派遣することもございましょう。となればこうして話を聞くことは当然のことでございます」


「……何か、濃くないかこの二人」


 無精髭を生やしたぼさぼさの黒髪をガシガシと掻きながらヘクターがニカッと笑いながら言う。

 それに続くように淡い紺の髪をポニーテールにしているクレスが言ってから自身の手元にだけ置いてあるカップで、匂いからコーヒーと判断出来る物を飲んでいた。

 冒険者ギルドのギルドマスターということで厳つい壮年の男が出てくるかと思えば細身の女性だったことに多少なりと驚いたが、その程度の所作でも隙が無い。

 そんな二人を見てキャラが濃いのではないか、と口に出すと貴族たちは自分たちは関係ないとばかりに無反応で、グィードは苦笑いを浮かべ、ライゼルは笑っていた。


「はっはっは!いやはや、あの二人を見てまず口にするのがそれとは……うむ、やはり君は面白いな」


「あぁ、訂正する。濃いのは三人だな」


「……お三方に対してそう言い切れるアッシュくんも充分に濃いような気もするが……」


 苦笑混じりにそう言ったグィードにそんなことはないだろう、という否定の意味を込めて軽く睨んでおく。

 この時点で既に貴族の四人は完全に眼中にはなく、何かを話していても雑音として処理するようにしていた。

 そうでもなければやっていられない、ということもあるがこんな場所で長々と話をしていたくはない。

 さっさと終わらせて帰りたいのだ。


「はぁ……まぁ良いけどさ。それで?何を話せって?」


 というわけで、強引に話を進めることにした。


「うむ、イリエスについて、だ。私の部下たちがイリエスに出会った話はしたと思うが、どういった会話を交わしたのか、それを聞きたい。それでよろしいですね?」


 確認を取るようにヘクターに向けてグィードがそう問う。

 ヘクターは頷いてから俺を見た。


「おじさんとしてはさ、イリエスと戦って生きてるってのが驚きなわけだ。それもイリエスが見逃したってのがどうもねぇ。もしかしたら、イリエスと繋がってる可能性もあるわけで、ちょーっと確認をね?」


「つまるところ私共は貴方を疑っているということでございます。イリエスと繋がっているのであればそれ相当の手を打つのは必定でございましょう?」


「私はアッシュくんのことを疑ってはいないが、どういう話をしたのかは気になっていてね。話してくれるだろう?」


 俺を疑っているのがヘクターとクレス。疑っているわけではないが話を聞きたいというのがライゼル。

 疑われても仕方がないと思っているので俺としては気にせず、面倒にならない程度になら話しても良いだろうと判断した。


「あぁ、わかった。まずは……イリエスはシルヴィアに興味はないらしい」


 当然のことだが、シルヴィアの名前を出した途端に三人、だけではなく貴族の四人も含めてその場の全員の目つきが変わった。

 まぁ、貴族の四人は何を考えているにしてもろくでもないことだとは思うのだが。


「へぇ……イリエスはシルヴィア様に興味がないってのはどうにも胡散臭い話だとおじさんは思うんだけどなー」


「私も同じく胡散臭い話だと判断するのは仕方のないことでございましょう。帝国の英雄が勇者であるシルヴィア様をそのように軽く扱うなどと信じられるわけがございません」


「興味がない、と判断した理由を教えてもらいたいものだが……」


「イリエスがどういう人間かわかってるか?」


 胡散臭い、と言うのでまず前提条件を理解しているのか聞くことにした。


「帝国の英雄、って言われる猛者、だろ?」


「その帝国の英雄が王国領に侵入し、シルヴィア様に興味がない。と言われても信じることなど出来るわけがない、と言わざるを得ない、というのが率直な感想でございますよ」


「帝国を警戒する上で調べた情報によれば、帝国軍の実質的な頂点に立つ女性であり、自身の手柄に興味はなく、大佐と言う地位に留まり続け、前線に出ることを望んでいる。と、言うことは簡単に調べることが出来たのだが……それ以上となるとなかなかどうして難しい」


 なるほど。その程度の情報しかないのか。

 それならシルヴィアに興味がないという言葉を信じられなくても当然だと思う。


「そうか。なら仕方ないな」


 そう言ってからため息を一つ零し、言葉を続ける。


「今の段階のシルヴィアのことを放っておいても勝手に死ぬのだから相手にする必要はないって言いきってた。それにイリエスは戦闘狂(バーサーカー)戦争狂(ウォーモンガー)だ。自分の敵に成り得ないシルヴィアには興味を持つわけがない」


 言い切って、そんなイリエスに目を付けらえている事実に頭が痛くなってきた。

 本気で、というかイシュタリアの加護や切り札、奥の手を使えば勝てると思う。

 ただどうにもイリエスは底が知れない。再生の加護だと思うが、あれだけではないような、そんな予感がしている。


「……もうちょっと詳しく、おじさんたちに話してくれる?」


「詳しく。って言われてもな。イリエスはシルヴィアが聖剣に選ばれただけの小娘だってことを理解してるからこそ興味がないってだけだろ。聖剣の解放、出来るのか?」


 最後だけ、貴族の四人には聞こえないように声を小さくして言った。

 聖剣の解放。

 普段は聖剣とは名ばかりのただの切れ味の鋭いだけの剣だが、本来の力を解放することで魔族や魔物に対して絶大な威力を誇る極光を放つことが出来る。簡単に言えば、ビームが撃てるようになる。意味がわからない。

 更に言えば身体能力も跳ね上がるらしいので、聖剣の解放が可能になれば戦力は上昇するだろう。そうなればイリエスも敵として認める。かもしれない。


「少年、ちょっと悪いんだけど、その話は後にしてくれるかなー?」


「どうにも信憑性は高まったような気はしますけれども、別の問題が出てきた、というところでございましょうか」


「やれやれ……聡い、だけではないようだな……」


 聖剣に関しての情報はあまり知られていない。

 極光については伝承にあるのでわかるだろうが、解放については触れられていなかったはずだ。

 それなのに俺が聖剣の解放と口にしたことで三人の目つきが変わったように思える。


「話を聞きたいか?ならあの四人には退場願うべきだろうな」


「君が何を知っているのか、私にはわからないが……あの方たちも今回の一件に関しては関係しているのだ。話が終わるまでは退室していただく、と言うことは出来ないな」


「関係あるのか。ただ見下しに来たのかと思ってたんだけど」


「流石にそれはないさ。あの方たちもお忙しい方々だ」


 貴族の四人が退出してからの方が話をしやすいだろう。と思って提案したが、どうやら関係者らしい。

 俺は完全に見下したいが為に来ていると思ったが、違うとのことだ。

 ではどういった関係者なのか、考えていると一つだけ思い浮かぶことがあった。

 それを口にするにしても、まずはあの四人と言葉を交わさなければならないのか、とげんなりしてしまった。

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