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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第一章 始まりの出会い、変化の始まり
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14.少しだけ昔の話を

 勘違いから面倒なことになるかもしれないと思いながら、とりあえずはシャロに宿から荷物を持ってくるように言わなければならない。


「とりあえず、ハロルドが言ったように荷物を取ってこい」


「わかりました。それでは主様、ハロルドさん。行ってきます」


「ええ、いってらっしゃい。気を付けるのよ」


 そう言ってからストレンジを出ていくシャロを見送ってから、二階にある居住スペースについて思い出す。

 ストレンジの二階、居住スペースはハロルドがいつも綺麗にしているので荷物さえ持ってくればすぐにでも寝泊まりが出来るようになっている。

 俺も過去に上で寝泊まりしていた時期があったが、思っていた以上に快適だったのを覚えている。

 ストレンジは酒を飲んで騒ぐ客がいないので夜は静かに過ごせる。また、日中は大通りから少し外れているということもあって喧噪も酷くない。

 ハロルドが好んでこの場所にバーを構えているのもそうした喧噪から外れているということが理由なのだと思う。本当にストレンジは悪くない場所にあるので俺も過ごしやすく思っている。

 そうしたことを考えてから、そろそろ良いかと本来ハロルドとするべき話をすることにした。


「ハロルド。朝の報酬だけど、あいつの必要な物に使ってくれ」


「わかったわ。それで……あの人の依頼は気になるかしら?」


「気にならないな。はっきり言えばあんまり関わりたくない」


「あらそう?でも……もしかしたらアッシュに回すかもしれないから、その時はよろしく頼むわね」


「その時が来ないことを祈ってるよ」


 ハロルドがわざわざ口にするということは、俺に回ってくる可能性が高いということだ。ライゼルの依頼が何かは知らないが、面倒事の匂いしかしない。


「そんなこと言わないの。大丈夫よ。詳しくは話せないけど、ただの人探しだから」


「人探しか……ダメだな。面倒どころか厄介事の匂いしかしないぞ」


「あら、どうしてかしら?」


「わかってて聞いてるよな。ただの人探しなら俺だってやるけど、そうじゃないだろ」


「依頼の内容を確認してないのに決めつけるのは良くないわね」


 呆れたように言ってくるハロルドだが、ライゼルほどの人間が探すとなれば貴族か王族か、大穴狙いで自身の血の繋がりのある誰かだ。どれも面倒、もしくは厄介な探し人になるに決まっている。

 もしかするとそんな面倒だの厄介だのとは無縁な探し人かもしれない。ただ俺はその可能性に賭けるようなことはしたくはない。


「あれが誰なのかわかってるなら決めつけるのも仕方ないと思うけどな」


「やっぱりわかっちゃうわよね……もう少し隠しても良いのに、堂々としてるんだもの」


「鎧じゃないだけマシだと思うぞ」


「流石にこういう場所には鎧を着て来ないわよ……来ないわよね?」


「さて。どういう性格なのかほとんど知らないから適当に言っただけなんだ。そんなことを聞かれても答えられないな」


 ライゼルは俺に対して堂々と名乗ろうとするくらいなので、もしかしたら自身の正体を隠すことにあまり頓着していないのかもしれない。

 それと、アルは上司のことは言えないと言ったのにすぐに団長と呼んでしまったことから、あの二人が一緒では正体を隠しようがないのではないだろうか。とも考えてしまう。

 ただ、流石に仕事の依頼をするだけなのに鎧を着てくるなんてことはしないと思いたい。

 今回はたまたま目立たないような恰好をしていただけ。ということではなく、普段からそうした一目で正体が気づかれるような恰好をしていないのだと信じたい。


「そうよね……とりあえず、その話は置いておきましょう。それよりもアッシュ。あの子だけど……」


「エルフの里から出てきたばかりで、イシュタリアの力で世話をする相手である俺を見つけることが出来たんだと」


「イシュタリア様の力、ね。それなら間違いなくアッシュがそのお世話をする相手になるんでしょうけど……どうしてアッシュにお世話役なんて付けるのかしらね……」


「イシュタリアの考えを俺たちみたいなただの人間が推し量るなんて出来るわけないだろ。女神様には女神様のお考えがあるんだろうさ」


 イシュタリアが何を考えているのか、はっきりとわかるわけもなく、ハロルドの疑問に対して俺はそんな投げやりでイシュタリアに対する文句を飲み込んだ、嫌味な言い方で答えた。

 勿論それはイシュタリアの信徒であるハロルドにとっては見過ごすことが出来ないので、諫められることもわかっている。


「ちょっとアッシュ!イシュタリア様に対して何て言い方してるのよ!きっとイシュタリア様は加護を与えたアッシュのことを心配してシャロを付けてくれたに違いないわ!」


「まだ十歳になって少ししか経ってないエルフの子供をか?」


「…………い、イシュタリア様のお考えは私たちにはわからないけど、きっとあれよ、シャロが成長してからのことを考えてるんじゃないかしら……?」


「何年後の話を想定してるんだか……」


 しどろもどろになりながらイシュタリアの考えはきっとこうなんじゃないか。と言っているのだが、もしハロルドの言っているように数年後を想定しているのだとしても、一体何を想定しているのかがわからない。

 あれやこれやと考えても答えが出てこないのであれば、イシュタリア本人に聞いてみるのも良いかもしれない。そのイシュタリアがいつ俺の前に現れるのかは、イシュタリア次第になってしまうのだが。


「そうだ、あいつのことで少し気になることがあるんだ」


「あら、何かしら?」


「ゴブリンは倒せるらしい」


「……本当に?」


「本人が言うにはな。十歳の子供が、ってのは俺たちとしては信じられない。ただ、エルフだってなると俺たちの常識が通用しないからな……」


「確かにそうね……あ、でもアッシュはそれくらいの頃にはゴブリンとか倒せたんじゃないの?」


「俺の場合は……魔物よりも人間が敵だったからどうだろう……」


 俺が十歳頃となればスラム街で生きていた頃だ。冒険者のように外に出て魔物を倒すよりも褒められるようなことではないが、非合法の仕事で人間を敵にしていた。

 もしかするとゴブリンくらいは倒せるだけの実力はあったのかもしれないが、それを明言することは出来ない。人間と魔物では勝手が違うからだ。


「ただ、スラム街の住人なら三番地区までなら仕留めれたはずだ。流石に四番地区と零番地区は近寄らなかったからな」


「それならゴブリンを倒すくらい簡単だったでしょうね。というか、もしかすると下手な冒険者よりも強かったんじゃないの?」


「人間と魔物だと戦い方が違うからそうとは言えないだろ。それに俺のことはどうでも良いんだ」


「そうだったわね。で、本当にシャロがゴブリンを倒せるとして、戦わせる気なのかしら?」


「本当に倒せるとしても俺は戦えとは言わない。当然だろ」


「でしょうね。アッシュってば子供には優しいんだもの」


 別に子供に優しいからシャロに戦えと言わないわけではなく、単純にその必要性を見出すことが出来ないから俺はそう言っただけだ。

 それなのにハロルドは、わかってる。とでも言いたげに頷いていた。全然何もわかっていないのに。


「そうじゃない。そういうのは本人が決めることだろ。それに……」


「……それに?」


「魔物だろうと、人間だろうと、殺すことに変わりはないんだ。他人にあれを殺せ、それを殺せ。なんて言えるわけないだろ」


「…………アッシュってばやっぱり優しいわよねぇ……」


「違う。殺すってことは殺されるってことだ。そういうのを言えるのは、それ相応の覚悟がある奴だけだ。国と国民を背負う国王、騎士団の団長、必要とあればそうした依頼を出して冒険者を招集する冒険者ギルドのギルドマスター。わかりやすく言えるのはこの辺りじゃないか?

 こいつらは更に言えば、その結果として他人の命を背負う覚悟もしてる」


 たかがゴブリンと言っても、殺されるときはあっさり殺される。人間が相手でも同じだ。ただ、人間が相手ならばゴブリンに殴り殺されるよりも惨い目に合うかもしれない。

 だからこそ軽々しくあれを殺せ、それを殺せ、なんて俺に言うことは出来ない。他人の命を奪うことはあっても、他人の命を背負う覚悟なんて、俺にはない。


「奪う覚悟なんてものは、ガキの頃にとっくに出来てる。ただ、俺には他人の命を背負う覚悟なんてものはないんだよ」


「……貴方と話していると時々私よりも年上を相手にしているような気分になるわ……」


「ただのガキがそれっぽいこと言ってるだけだ。まだ十八だぞ、俺は」


 なんとも言えない微妙な表情でハロルドに年上を相手にしているような気になると言われ、内心それもそうだろうな、と思った。

 前世込みなら確かにハロルドよりは上なので、ハロルドの言っていることは間違ってはいない。それでも前世のことなど誰にも話していないし、話すつもりもないのでそう言って誤魔化しておく。


「それはわかってるわよ。それでもそんな気がするって話」


 そう言ってからハロルドはそういえば、と言葉を続けた。


「アッシュは物心がつく頃にはスラム街にいたのよね?どうして自分の年齢を断言できるのかしら?」


「多少はスラム街に捨てられる前のことを覚えてるからだ」


「……それはどれくらい覚えてるのか、聞いても大丈夫?」


「名前と年齢、誕生日くらいだな」


 ほぼ全て覚えているが、覚えていてもそれほどおかしくはないものだけ伝える。


「本当の名前も覚えてるなんて……でも、どうしてその名前を名乗らないのかしらね」


「それを名乗って何になるんだ?捨てられた人間のくだらない名前よりは、灰被り(アッシュ)の方が俺らしいだろ」


「確かにらしいと言えばらしいけど……」


 本来の名前何て俺だけが覚えていればそれで良い。俺は灰被りという呼ばれ方を気に入っているし、本来の名前はあまり好きではない。

 だから何やら納得していないハロルドの様子を見ないふりしてシャロが戻ってくるのを待つ。本当にゴブリンを倒せるのかどうか、本人に確認しなければならないからだ。

 もし本当に倒せて、そしてゴブリンの討伐依頼を受けると言うのなら俺はそれを止めはしないと思う。それでも、一言二言くらいは口を挟むかもしれない。

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