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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第一章 始まりの出会い、変化の始まり
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13.仮の住処

 個人的にさっさとどうにかしたい雰囲気だったのだが、どうにもアルが俺と話をしたいようで何と切り出そうか迷っているようだった。

 何もないならストレンジに逃げ込みたいのに、残念なことにストレンジの扉の前にはライゼルが立っている。そして、アルも立っている。

 先ほどから逃げ込もうと考えたりしたが、どう考えても逃げ込めない。だったら二人には何処かへ行ってもらおう。


「なぁ、結構長い間中で話をしてたみたいだけど、時間は良いのか?」


 忙しいはずの王国騎士団団長と、才能のある優秀らしい王国騎士がいつまでも王城から離れていて良いとは思えない。

 だからこそ時間のことを口にして言外にさっさと帰れと伝えるとライゼルが空を見上げて太陽の傾きを確認してから言った。


「む……少々長居しすぎたか……アル、友との語らいはまた後日だ」


「そうですね……わかりました。アッシュ、また今度話をするのを楽しみにしているよ」


「はいはい……また今度な」


 その今度というのが暫く来ないことを祈るばかりだ。


「そうだ、私の名前を教えていなかったな」


 そう思っているとライゼルが自己紹介をしようとしたので手で制止する。


「やめろ、名乗るな」


「……ふむ、何故か聞いても?」


 制止した理由が気になるらしいが、ライゼルの表情を見る限りは俺がそうした理由がわかっているような気がした。


「世の中知らない方が良いこともあるだろ」


「なるほど、少ない情報でたどり着いたということか。どうにも聡いな、君は」


「誰でもわかるっての。アルが団長なんて呼ばなければ確信は持てなかっただろうけどな」


「うむ、団長というのは該当者が少ない。それにアルのことだ、言葉の端々に君がそう考えることが出来る情報があったのだろう」


「その通りだ。何にせよ、俺はアルの保護者くらいに思っておくさ」


「そうか。では私はアルの保護者であるただの団長としておこう」


 そんな会話をして、ライゼルはただの団長と名乗った。

 冗談で言ったのに、俺と同じくらいの年齢のアルの保護者を堂々と真面目に自称する辺りはそれで良いのかと疑問に思うがライゼル自身が言い切ったのでたぶん良いのだろう。

 というかアルはライゼルが保護者で良いのだろうか。保護者が団長とか、恐れ多いというか何というか。

 そういうことは思わないのだろうかとアルを見れば特に反応を示していなかった。


「さて、何にしろ、また今度だ」


「うむ、ではまた会おう。アッシュくん、シャロくん」


「はい、また」


「アッシュ、次に会うのを楽しみにしているよ。シャロも、また話をしよう」


 そう言って去って行くアルとライゼルを見送ってからシャロが口を開く。


「主様はどうして団長さんの名前を聞かなかったのですか?団長さんも主様のことを聡いと言って名乗るのをやめていましたが……」


「知らない方が良いこともあるって言っただろ。あの人の名前は聞かない方が俺たちのためなんだよ」


「私たちの、ですか……?」


「理解できなくても良いけど、名前は聞くなよ」


「はぁ……わかりました……」


 理解も納得もしていないシャロに言ってからようやく入ることの出来るようになったストレンジの扉を開けて中へと入ると、ハロルドの立っているカウンターの前にグラスが二つ置いてあった。

 両方中身が減った様子がないので、ハロルドがライゼルに出したは良いが手を付けることはなかったということだろう。

 何やらうっとりとしているハロルドは俺たちに気づいていないようだったのでシャロを招き入れてから扉を軽くノックする。

 ノックの音に気づいたのか、はっとしたように入り口に立っている俺たちを見て先ほどまでの自身の様子を誤魔化すように笑顔を浮かべてから口を開いた。


「あら!アッシュじゃない!思ったよりも時間がかかってたわね!」


 そこまで言ってから俺の隣に立っているシャロに視線を動かすと笑顔が消えて思案顔に変わった。


「その子は……」


「イシュタリアの神託で俺の世話役になった、らしいぞ」


「主様のお世話役のシャロと申します」


「イシュタリア様の神託って……!?」


「はぁ……おい、とりあえずカウンターに座れ」


 イシュタリアの神託という話を聞いて驚愕しているハロルドの反応に、面倒なことになるかもしれない。と思いながらシャロに座るように促した。

 そしてシャロが座った席の横に腰かけてからカウンターのグラスを手に取る。


「おいおい、普通に高い酒出したな……昼間から良い大人が酒飲むわけないだろ」


「え、だってバーとしてはそういうので良いところを見せようって張り切っちゃって……じゃなくて!イシュタリア様の神託ってどういうことなのかしら?」


「そのまんまだろ。こいつが今よりも幼い頃にイシュタリアから神託を受けたんだとさ」


「はい。その神託で主様のお世話役をするように、と」


「嘘……イシュタリア様から神託を受けるなんてすごいわ……!」


 イシュタリアの信徒であるハロルドはシャロがイシュタリアから神託を受けたという話を聞いて感動していた。

 これは俺がイシュタリアから加護を受けた話をした時も同じような反応をしていた。また、説明した加護はカルルカンに懐かれ、言葉が互いに理解できるようになるというものだったのだが、その加護の説明でもとても感動していた。

 カルルカンがイシュタリアのお気に入りの神聖な生き物だから。ということなのだが、俺は単純にカルルカンが可愛いので悪くないくらいにしか思わなかったので、信徒かそうではないかで反応が違うものだとあの時は思った。


「主様のお世話役としてこれから頑張りますので、よろしくお願いします」


「あら、ご丁寧にどうも。私の名前はハロルド。ここ、ストレンジの主よ」


 自己紹介をし、それが終わるタイミングでグラスを置いてから軽くカウンターを指で叩く。


「自己紹介はもう良いか?」


「あら、ごめんなさい。こんな可愛い子がイシュタリア様の神託を受けてるなんて聞いて感動しちゃったわ」


「可愛いだなんて……ハロルドさんも、お綺麗ですよ」


「今の聞いたかしら!シャロったらお世辞でも嬉しいわ!これはサービスしないといけないわね!」


「はいはい。それよりも、さっき外で会ったんだけどすごいのが客にいるんだな」


「あぁ、やっぱり会っちゃったのね。ナイスミドルで良い具合に筋肉がついてたでしょ?」


「そっちじゃないだろ」


 ハロルドの好みだったことについて言っているわけではなく、王国騎士団の団長が来ていたことについて言っている。それを理解していながらふざけて言っているのだから困ったものだ。


「いや、その話は後回しにでもしておくか」


「後回しで良いのかしら?」


「良いんだよ。それよりも少し頼みがあるんだ」


 頼みがあると言ってからシャロを見ると、シャロは俺の言いたいことがわかっていないようで首を傾げ、ハロルドは何となく予想がついたのか合点がいったようだった。

 流石というべきか、客の欲している物を言われる前に察してくれるので非常に助かる。


「こいつの住む場所、治安や防衛力、安全性、周囲含む立地条件、その他諸々で良い場所はないか?」


「そこで防衛力って言っちゃうのがアッシュよね……」


 治安や安全性を挙げるのは当然として、何かあった際の防衛力を求めたのだがハロルドのお気には召さなかったらしい。悪くないと思うのだが、ダメなのだろうか。

 いや、よく考えれば普通は防衛力を求めることはない。俺は昔よく襲撃されたからつい防衛力を求めてしまったがそれをシャロの住む場所に求める必要はないはずだ。


「そうねぇ……一番良い場所はアッシュが住んでるのよ。二番目となると、やっぱりこの上じゃないかしら?」


「あぁ、ここの二階が居住スペースになってるんだったか」


「そう。何処か見つかるまではこの上に住んでもらって、見つかったら移ってもらうのが一番良いんじゃないかしら?」


「ならそうするか。上に入るのはここの裏口から階段を上がれば良いんだよな?」


「ええ、それで良いわ。もしくはこのカウンターから入ってくれれば階段に繋がってるわ」


 ハロルドと二人でどうするかを話し合っている間、シャロは居心地が悪そうにしていた。

 それも仕方のないことだ。シャロからしてみれば大人の二人が自分の住む場所を勝手に決めているのだから、俺ならばそんなのはやっていられない。

 きっとシャロも同じようなものなのだろう。そう内心で思いながら更にハロルドと話を続ける。


「でも本当に一番良いのは……」


「何が言いたいのかわかるけど、それはない」


「はぁ……本当に仕方がないわねぇ……」


 ハロルドは俺の住んでいる家に住むのが一番だと言いたいのだろう。だがそれはないと断言する。

 世話役どうこうということであれば確かに同じ家に住むのが一番なのだろうが、俺はシャロを信用していないので現状では一緒に住むなんてことはあり得ない。

 もし、シャロを信用するようになればその選択肢も選ぶことがあるかもしれないのだが。


「まったく……シャロ、貴方は宿を取ってるのよね?」


「は、はい」


「なら荷物を持ってきなさい。今日から暫くここの上を使わせてあげるから」


「良いのですか……?」


「ええ、大丈夫よ。家賃は当然、アッシュが払ってくれるんだものね?」


「当然だ。面倒を見るくらいはするからな」


 元々そのつもりだったのでハロルドにはちゃんと家賃を払う。とはいえ、きっと仕事の報酬から差し引いてもらう形になるので、直接家賃を払うという形にはならないだろう。

 ただ、俺の家とシャロの家賃となると仕事の報酬がだいぶ減ってしまいそうなので、数を増やす必要があるかもしれない。


「え、えっと……主様にはお昼ご飯の代金や冒険者登録の登録料を払ってもらっているのに家賃まで払っていただくなんて、そんなのは!」


「あれは間違えて注文しただけだ。登録料も家賃も面倒を見るって言った以上、あの程度のことはする。だからお前が気にすることはないんだよ」


「でも!」


「でも、じゃない。そんなに気になるなら……とりあえず、王都で暮らす上での地盤固めが済んだら俺の世話役としてしっかり働け。それで充分だ」


「主様……はい、わかりました!」


 面倒になってその辺りの気にしていることを後回しにしたのだが、何故かシャロは感動したようにしながら元気よく返事をした。

 何だろう。たぶん俺がシャロのことを気遣ってこの提案をしたとか、そういう風に思われてしまったのかもしれない。

 もしくは世話役だの言われても適当に流していた。それを今になってしっかりやれと言ったので、必要にされているとか、期待や頼りにされているとでも思ったのか。

 まったく違うんだけど。と思っていると何やら視線を感じてそちらを見れば、ハロルドが生暖かい目で俺を見ていた。

 もしかすると、俺は言葉選びを間違えたのだろうか。そんなことを頭の隅で考えながら、やはり今日は色々と厄日なのではないか。と思ってしまった。

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