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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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130.証言の指名

 頭を上げたグィードは先ほどよりも真剣さを帯びた表情をしていて、これから漸く本題に入るようだ。

 それを察したテッラは自分は口を挟まない方が良いと判断したのか半歩下がり、アナスタシアはイリエスに関することだろうと逆に半歩前に出た。

 ほんの僅かな動作だが、何を考えての行動なのかわかりやすく、場合によっては話を振ることもあるので俺としては助かる。

 勿論、そうした動作にはグィードも気づいているようだった。


「では、本当の意味での本題に入るとしよう」


「本題、か。イリエスのことを口にしたってことは、何か関わってくるんだよな?」


「うむ。帝国の人間が、それもあちらでは英雄とまで呼ばれているイリエスが王都の近くにまでやって来ていた。というのがどれほどの問題、事件なのかと問えば、君にはわかるかね?」


「どうだろうな。ただ、王家やそれに仕える人間にとっては大事件だろうさ」


「わたくしたちのような人間にとっては、そう大した問題ではないと思いますわ。何かあれば、別の国へと逃げることも出来ますものね」


「王都を出るなら、治安と距離、それから安全面で言えば聖都を目指すのが妥当か?」


「そうなるかと思いますわ。ただ本当に大きな厄介事から離れたいのであれば極東を目指すのも良いのではありませんこと?」


「極東か……話には聞いてるけど、何があるのかわからないってのが問題だな」


 遥か東の地、極東と呼ばれる場所についての情報はあまり多くはない。

 まぁ、白亜や桜花に聞けばきっと答えてくれるとは思うのだが。それでも訪れるつもりもない場所なので俺は何も聞いていない。

 ただ極東所縁の料理とされる和食のような物を俺が作れることを不思議そうにしていた。あくまでも何となく作った料理、ということにしていたが、そのうちちゃんと話を聞いて正しいレシピと言うのを知っておいた方が良いかもしれない。

 それにそうしておけば俺が極東所縁の料理を作れる理由としては充分な物になるからだ。


「君たちのように逃げることが出来るのであればそう考えるのもおかしなことではないのだろうね。だが、私たちや、私たちが仕える王家や王国の民は違う」


 それはそうか。王家の人間が我先にと逃げ出すわけにはいかない。そして、そんな王家の人間を放っておいて逃げると言うこともグィードたちには出来ないだろう。

 また王国に住んでいる市民たちも俺たちのように身軽に、そして気楽に別の国へと逃げることは出来ない。


「だからこそ、二度とこのようなことがないように対策を考えなければならない」


「そうか、それについては俺があれこれ言う必要はないだろうから頑張れよ」


「うむ。だが、その対策について考えるのは誰が行うと思うかね?」


「国のお偉いさんだろ?俺には関係のないことだ」


 あれやこれやと考えるのは勝手にやってくれ、という意味を込めてそう言えばグィードは小さく苦笑を漏らしてからこう言った。


「それはそうなのだが……実は君にはその前にイリエスとどういう話をしたのか、それを対策を考える皆の前で話して欲しいと思っている。君としてはどうだろうか?」


「無理だな」


「まぁ、そう言うだろうとは思っていた。アナスタシアくんはどうだろうか?」


「同じく無理ですわ。と、言うよりもわたくしがイリエスと交わした言葉などアッシュさんに比べれば本当に僅かですものね。わたくしの話に、価値などありませんわ」


「そこでしれっと俺を売ろうとするのはどうなんだろうな」


「わたくしにそのような意図はありませんことよ?そう聞こえたのであれば、アッシュさんは少し穿った考え方をし過ぎではなくて?」


「穿った考え方もするさ。それが俺たちみたいな人間だろ?」


「そう言われてしまうと何も言い返せませんわね」


「ってことで、悪いが俺もアナスタシアもそれはお断りだ。勿論、テッラもな」


 グィードが何か口を挟む暇を与えずにアナスタシアと二人で言葉を投げ合い、最後に三人ともグィードの言うように対策を考える人間の前で話をすることを断る。

 とはいえイリエスの話、となればそう簡単には引いてはくれないだろう。


「君たちであれば断るだろうとは思っていたよ。だが、どうしても話をしてもらわなければならない」


「だろうな。それだけの出来事だってくらいはわかるさ。ただ、それはある程度の話を聞き取りして、その場でお前が話せば良いんじゃないのか?」


「……それも良いかもしれない、と思ったが……」


 何か言い難いことでもあるのか、非常に歯切れが悪い。

 いや、これは言い難いというよりも本当なのかどうかわからないことなので口にするのが難しい。と言う様子にも見える。


「…………実は、ここに来る前に念話を用いて憲兵団と冒険者ギルド、念の為に王国騎士団にイリエスのことを報告した」


「へぇ、それで?」


「その際に君の名前を出すと、一人だけ反応を示す方がいたのだよ」


「……はぁ、そうか。それで、そいつが俺に話をして欲しいって言った。とかそういうことか?」


「うむ……あの方は随分と君のことを買っているようだったが……」


 俺を買っている、というのはきっとライゼルだ。というか、ライゼル以外に冒険者ギルドや憲兵団でそういった話し合いに参加するような地位の人間と縁はない。

 いや、ライゼルと縁があるとはいえ、俺を買っている理由がいまいちわからない。もしかするとハロルドに何か聞いたのか、もしくはライゼルなりに調べたのか。

 とにかく、何も知らないはずのライゼルがわざわざ俺を指名するとは思えない。


「アッシュさんは、そうした地位の方と知り合いだった。ということでよろしくて?」


「そう大した話をしたわけでも、何かあったわけでもないけどな。多少の縁があったって程度だ」


「その多少の縁で君のことをあれほどにまで買っている、というのはどうにも奇妙だが……何にしても、誰が君を指名しているのか心当たりがあるようだな」


「一人だけな。本当なら断りたいけど……」


「流石に君でもあの方からの指名は無視出来ない、か?」


「別にそういう意味じゃない。ただ……アルと友人になってる以上は今後何らかの関わりを持つ可能性がないとは言い切れないだろ?だったら、少しくらいは貸しを作っておきたいだけだ」


 ライゼルに貸しを作る。と言ってはいるが、それで何かをしてもらおうと思っているのではなく、ライゼルが人探しをしているらしいのでそれについての情報を少しばかり吐いて貰おうと思っているだけだ。

 本来であればそういった話を聞くのは依頼を受けるかどうかを判断するタイミングなのだが、どうにも嫌な予感というか、面倒事、厄介事の予感がするのであらかじめどういった物なのかを知っておきたい。

 そう思ってのことだったので、今回話をしてくれと言われたことに関しては、得る物の方が大きいと判断して参加しても良いか、と考えた。

 断る姿勢を見せたところで意味がないのはわかっていたので、多少なりと話を優位に進めたかったからあんなことを言っただけに過ぎない。


「あの方を相手に貸しを作っておきたい、と言えるとはなかなかに大物だな、君は」


「そうでもないさ。それで、俺一人が話をしに行けば良いんだよな」


「うむ。いつになるか、決まり次第知らせたいのだが……」


「冒険者ギルドの職員、フィオナかシャーリーを通して伝えてくれ。最近はだいたい毎日冒険者ギルドに顔を出していて、良く話をするのはその二人だからな」


 俺に対してどういう連絡手段があるのか考えているようなグィードに俺はフィオナかシャーリーを通して欲しいと伝えた。

 シャロのこともあるので最近はほぼ毎日冒険者ギルドには顔を出して、あれやこれやと話をしているあの二人ならば俺への連絡を忘れることなくしてくれるはずだ。


「今名前が挙がった二人ならば、君に連絡が出来る、と」


「そういうことだ。まぁ、面倒な話に巻き込むってなると申し訳ないと思ってるけどな」


「ふむ……確かに、あまり知られたくない、巻き込みたくはない話ではあるか……その辺りはこちらで考慮しておこう」


「あぁ、そうしてくれると助かる」


 厄介事に発展する可能性もあるのであの二人を巻き込むようなことはしたくない。

 それに対しての配慮など俺には出来ないのでグィードに、というよりもお偉いさん方にどうにかしてもらおう。


「話はまとまりまして?」


「俺としてはもう終わりだと思ってる。そっちは?」


「話は終わりだ、としても問題ないだろう。君にとってはあまり気の進まないであろう話を受けてくれて、本当にありがとう」


 高い地位の人間が集まるような場所に、一介の冒険者でしかない俺を呼ぶことに対してグィードとしては申し訳ないと思っているようだった。

 まぁ、普通に考えれば高い地位の人間と何らかの縁を持てるというのは冒険者にとっては喜ぶべきことなのだろう。

 だが、今回の依頼で俺の態度を見ていたグィードにとってはそうしたことは迷惑でしかないとわかっているからこその謝罪だった。


「別に俺にも得るものがあるから気にするな。あぁ、いや、気にするっていうならあれこれと便宜を図ってもらうのも悪くないな」


「む……それは、その……どういったことなのか、ということにもよるが……」


「別に難しい話じゃないさ。アナスタシア、テッラ」


「何かありまして?」


「どうかしたか?」


「冒険者のランクはBくらいにしておいてもらうか?」


 俺の言葉を聞いて三人ともぽかんと口を開けて間抜け面を晒したが、アナスタシアとテッラはすぐにどういう意味なのかを理解してくれた。

 アナスタシアは小さく笑みを浮かべ、テッラはニヤリと笑ってからそれぞれ口を開いた。


「そうですわね、Aランクでは厄介な依頼を押し付けられてしまいそうですもの。それくらいが妥当だと思いますわ」


「アッシュがBランクなんだよな?それじゃ、あたしもそれで良いと思うぞ」


「そういうわけだから、この二人の冒険者ランクをBランクにしといてくれ」


 そう締めた俺の言葉を聞いて、何を要求されているのか漸く気づいたグィードが間の抜けた声を漏らした。


「は……あ、いや……ま、待ってくれ!その二人はBランクの冒険者ではないということか!?」


「それじゃ、そういうことだからよろしく頼んだぞ。それと時間も時間だからそろそろ寝ないとな」


「だな!ってことでほら、おっさんはさっさと出てけよな」


「夜更かしは感心しませんものね。と、いうことですので、グィードさん、おやすみなさいませ」


 少し考えればわかると思う。顔を見せにないようにして潜り込んだり、いつの間にかさも元々いたような顔で参加しているのだからBランクの冒険者ではない可能性は充分にあると思う。


「ま、待ちたまえ!!まだ話は……」


「それじゃ、また今度だな」


「だから話は終わっていないと!」


 そんなことを言うグィードの背を押してさっさと部屋の外に追いやる。

 そしてすぐに扉を閉めたが、扉の向こう側では未だに何か言っているようだった。


「よし、それじゃ……休むとするか」


 鍵、というほどではないが閂が備え付けられていたのでそれで扉が開かないようにしてそう口にする。


「だな。勿論、見張りは交代制だよな?」


「当然ですわね。近くに誰かがいるというのは抵抗がありますけれど、お二人を信用することにしますわ」


「そうか、俺も信用しておくさ」


「あたしはアッシュが信用するっていうならそうするぞ」


「アッシュさん基準ですわねぇ……」


 そんな会話をしながら、呆れた様子のアナスタシアと何処か自慢げなテッラに苦笑を漏らして一日を終えることとなった。

 まぁ、面倒事はまだ残っているが何にしてもイリエスの調査が一度終わったのであれば明日には王都に戻れるだろう。

 ほんの数日しか離れていないが、それでもシャロに早く会いたいと思ってしまう。それと、白亜や桜花、ついでにハロルドにも。

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