表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
128/211

120.彼の正体は

 未だにアナスタシアとテッラの二人が言い争いをしているがそれを気にせずグィードが話を始めるのを待つ。

 本人としてはもう少し真面目な雰囲気で、とでも思っていたのだろうがこんな状況になってしまった以上は真面目な雰囲気というのは無理だ。諦めてさっさと話をして欲しい。

 そういう意味を込めて少しだけ非難するような眼差しをグィードに向けると、観念したのか一つ咳ばらいをしてから話を始めた。


「あー……私の正体について、だったね」


「あぁ、後ろは気にせずさっさと話してもらえると助かる」


「……後ろを気にしない、というのはなかなかに難しいと思うのだがね……まぁ、良いだろう」


 困ったような苦笑を漏らしてから気を取り直し、グィードは話を続ける。


「まず私はただの冒険者ではない。というのはわかりきっていることか」


「そうだな、ただの冒険者がシルヴィアから妙に信用されてるってのはあり得ない。接点がなさすぎる。なら王族、貴族とも関わりのある存在なんだろうな、ってことは検討がついてる」


「やはりと言うべきか、君は聡いな」


「聡いわけじゃない。自分が納得できる理由で一番可能性があるのがそれだっただけだ」


「謙遜する必要はないさ。そうした可能性にすら辿り着けないことも良くある」


 そこで一度言葉を切り、しげしげと俺の顔を見てから言葉を続けた。


「とりあえず、私の正体について口にするのを先延ばしにしても仕方のないことか」


「だな。どうせ話すんだったらさっさとして欲しいもんだ」


「やれやれ……では勿体ぶらずに教えるとしよう」


 そう口にして姿勢を正し、真っ直ぐと俺の目を見る。すると先ほどまでアナスタシアとテッラの言い合いにそわそわしていたグィードの仲間までもが姿勢を正した。

 それと同時に雰囲気が引き締まる。後ろで言い争いをしていたはずのアナスタシアとテッラも口を閉ざしたのがわかる。


「では改めて自己紹介といこうか。私は第六憲兵団団長、グィード・クーガーだ」


「第六憲兵団……?」


 憲兵団は確か第五までしかなかったはずだ。それなのにグィードは第六憲兵団の団長だと言った。


「あぁ、そうだ。君はどうにもシルヴィア様との縁があるようなので隠すことはやめて素直に教えよう」


「何かあるにしても、シルヴィアと縁があるからって教えても良いようなことなのか?」


「本来は教えるべきではないだろう。だがあのシルヴィア様が出会って共に過ごした時間の短い君を信頼しきっていた。であるならば大丈夫だろうさ。あの方の人を見る目は確かだからな」


 俺の知らないシルヴィアの何かを知っているようで、グィードはそう断言した。

 それならばあれやこれやと俺が言うよりも、大人しく話を聞いた方が良いのだろう。


「そうか。それで、第六憲兵団なんて聞いたことがないけど、どういうことだ?」


「それについて説明するが……まずは第一から第五までの憲兵団の役割は知っているかね」


「第二が王都の治安維持のための警邏。第三が犯罪が起こった場合の取り締まり。第四が貴族街を専属で警邏、貴族たちの安全を保障。第五が王都周辺の街や村へ派遣されて何かあった際にはそれを解決。ってところだったよな?それで第一憲兵団がそれを全部纏めてたはずだ」


 勿論それだけではなく第二憲兵団から第五憲兵団までそれぞれが色々なことをしているが大きく分けるとそうした役目を持っていることになる。

 そしてその全ての憲兵団を纏めているのが第一憲兵団となっている。このことは王都に住む人間であれば誰でも知っていることだが、第六憲兵団というのは聞いたことがない。


「うむ、その認識で正しいだろう。勿論その他にも色々とやっているが……」


「それはわかってる。それで、第六憲兵団ってのは何だ?」


 その他にやっていることについて説明しようとしたグィードを遮って第六憲兵団について問う。

 こういう場合は大人しく話を聞いた方が良い相手と、今回のように遮ってでも本題に持って行った方が良い相手、適当に合わせてから話の軌道修正をした方が良い相手など様々なパターンがある。今回は必要なことだけを聞いても問題ないと判断したのでそう口にした。


「む、すまない。話が逸れてしまうところだった。第一から第五までが表立って活躍しているが第六は言うなれば影の存在だ」


「影の存在……まさか、表立って出来ないようなことをやってるのか?」


 影の存在だと言われて真っ先に浮かんだのが凶悪犯たちを捕まえるのではなくその場で仕留めるような、俺が時折依頼される暗殺などを請け負っているのではないか、ということだった。

 公の機関である憲兵団がそのようなことをしていては問題になってしまうので、それを隠すために決して表には姿を現さず、暗躍している。と言われても納得することが出来るだろう。

 だが俺の予想とは違うらしくグィードは首を横に振った。


「いや、そういうことではない。我々第六憲兵団の役目とは市井へと潜伏し、第一から第五までの憲兵団が動けない案件や、動くにしてもそれが制限される際に別口から解決に乗り出すのが役目だ。勿論、何か問題が起こる前に情報を集めて未然に防ぐ、という役目もあるのだがね」


 俺が何を考えてそう口にしたのか、それを察したらしくグィードは少しだけ呆れたように否定の言葉を口にし、本来の役目を教えてくれた。

 なるほど、確かにそれならば憲兵団という公の存在が抱え込む影の存在だとしても納得が出来る。というか真っ先に暗殺を請け負うことを思い浮かべるのはあまり良くないことかもしれない。

 今回のような話になった際に真っ先にそれを挙げるようなら危険人物として見られる可能性もある。まぁ、滅多にこうした話になることはないと思うのだが。


「今回の盗賊団についてなら第五憲兵団辺りが動けそうだけど、ダメだったのか?」


「普段であれば可能だ。だが……今回に限っては……」


「……シルヴィアか」


「そうだ。シルヴィア様が自らの見聞を広めるため、経験を積むため、人のため、どうにか盗賊団の討伐に加わり、力になりたいとそう仰った」


 アルからシルヴィアが参加するのは聖剣に選ばれて勇者になった自分が人々のために協力するべきだと、人々のためになることをしたいと言っていた。と聞いている。

 こうしてグィードも知っていると言うことはシルヴィアの周囲では皆が知っていることなのかもしれない。


「それについては賛否両論と言ったところだったがシルヴィア様を止めることは誰にも出来ず、だからと言って憲兵団や騎士団の人員を動員して警護に当たる。ということも出来なかった」


「まぁ、流石に目立ちすぎるし、そんなことをするならシルヴィアは必要ないだろうな」


「言い方は悪いが、今のシルヴィア様が一人いるよりも、そうして憲兵団や騎士団の誰かがいた方が戦力にはなるだろうな。勿論、腕に覚えのあるものだけ、となるが」


 苦い顔をしながらそう言ったグィードはシルヴィアがどれだけ戦えるのか正確に把握しているようだった。


「何にしてもそうして動員出来ないのであれば我々第六憲兵団の出番、となるわけだ」


「Aランクの冒険者として活躍してる人間が、憲兵団の人間なんて思わないし、その仲間が、ってのも同じか」


「そうだ。まぁ……君には別の方向で疑われてしまったがね」


「悪かったな、憲兵よりは盗賊団の人間って方が考え易かったんだ」


「私としては予想外だったさ。だが……そういう考え方の方が自然なのかもしれないな」


 苦笑を漏らしながらグィードがそう口にする頃には先ほどまでの引き締まった空気は霧散していた。

 とりあえず、真面目な話は終わり。ということで良いのだろうか。もしくは第六憲兵団という存在についての話が終わり。という程度なのかもしれない。

 話が終わりならばそれでも良いのだが少し確認しておきたいことがあった。


「なぁ、一つ良いか?」


「何かね?」


「俺たちのこと、疑ってたよな?」


「うむ、それは当然だ。スラム街から出てきた青年と、顔を隠した二人。ともなれば怪しむのは当然だろう?」


 疑っていたことを認め、そして俺がスラム街の出身だと言うことをしれっと口にしたグィードに向かってテッラが殺気を向ける。憲兵がスラム街の住人に対してどういう態度を取っているのか。それがわかっているのだから当たり前と言えば当たり前か。

 憲兵はスラム街の住人は悪人ばかりだと、スラム街から出てきた場合は何か問題を起こすと、スラム街の住人は存在自体が害悪だと、そう考える人間が多い。

 もしグィードとその部下がそういう考えだった場合は殺し合いでも始まりそうだ。いや、まずテッラは殺す気で戦うだろう。テッラに被害が出ないようにしていたとはいえ、過去に憲兵から受けた扱いを思い返せばそれも仕方ない。まぁ、そうならないようにするつもりなのだが。


「確かに俺はスラム街の出身だから怪しまれても仕方ないか」


「おや、随分と割り切っているようだが……それに、スラム街の出身だと言われても大した反応はなし、か」


「あぁ、俺はある程度説明が必要だと判断すればスラム街の出身だってことくらいは教えるからな」


「なるほど。アルトリウス殿が知っていたのはそういうことか」


 アルには俺がスラム街の出身だと教えているが、それをわざわざグィードに教えたとは思えない。きっとグィードがカマをかけてきたときについ口にしてしまった。ということだろうか。


「別に隠す必要もないからな。シルヴィアには教えるタイミングを逃してるけど、教えれば友人って呼ぶのをやめてもらえそうか?」


「まるでやめてもらいたい、と思っているような言い回しをするのだな。だがそれは無理だろう」


「……そうか、無理か」


「あぁ、アルトリウス殿が君がスラム街の出身だと認めた際に傍にいたが、それでも気にした様子はなかった。いや、それどころかスラム街の出身でありながら人を思いやり、自身を助けてくれたということに感動すらしていたようだったな」


「それはそれは……本当に、お人好しで善良で、厄介な人間だな」


 俺は人を思いやっているわけじゃなくて、必要だからそうしているだけに過ぎない。それだというのに、それに対して感動するだなんて本当にお人好しで善良だと思う。

 そして、余計に好感度を稼ぐ形となってしまったようで厄介だと思ってしまった。まぁ、教えようが教えまいがシルヴィアには随分と懐かれてしまっていたのでそう大して変わらないか。

 そんなことを考えながら、シルヴィアの話になった際に背後からテッラの舌打ちが聞こえてきた気がするが気のせいだと思っておこう。

 それよりもグィードが言ったように第六憲兵団という物が存在し、更にグィードがその団長であるならばイリエスのことを話しても良いだろう。というよりも、帝国の軍人がいたということは伝えなければならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ