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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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116.ひとまず別れの言葉を

 テッラの変わりように戸惑うシルヴィアとアルは放っておいて、先ほどから俺たちを睨むようにしているユーウェインたちへと向き直る。

 何か言いたいことがあるのなら言えば良いのに、どうして睨むだけに留めているのだろうか。そう考えていると、ヨハンだけどうにも睨んできている顔が引き攣っているように見えた。

 どうしてだろうか、と少し考えてふとヨハンと呼ばれていた緑の髪の魔法使いの視線の動きを見て納得した。


「何だ、この程度の怪我が珍しいのか?」


「……無様だと思っただけ」


「そうか、無様で悪かったな。俺はてっきり血が苦手なのかと思ったけど、そういうわけじゃなかったんだな」


 ヨハンの視線は俺が血を流すこととなった怪我を見るもので、貴族で魔法使いのヨハンにとっては血を見ることは少なく、それが原因かと思ったが違ったらしい。

 無様だ、と言われてしまえばその通りなので軽い調子で返してから原因は怪我のせいかと思ったと口にすると何処となく苦々し気な表情を浮かべて目を逸らした。


「なんだ、図星か。別に血が苦手だからって誤魔化す必要はないんだぞ。まぁ、旅の最中はそんなことだとどういう目に合うかわかったもんじゃないけどな」


「……うるさい」


「アッシュさん、あまり虐めるものではありませんわ。本人が違うと言っているのなら違うのだと納得して差し上げるべきですわ。そうしなければ本当に面倒ですものね、子供が相手となれば猶更のこと」


「子供じゃない。馬鹿にしないで欲しい」


 アナスタシアの言葉にムッとしたように言い返したヨハンだったが、子供が拗ねているようにしか見えない。やはりテッラとそう大差ない身長ということが原因だろうか。

 まぁ、それについてあれこれ言うのはやめておこう。アナスタシアが余計なことを言ったせいでヨハンはアナスタシアを睨んでいるし、アナスタシアはアナスタシアでそんなヨハンを子供扱いするように優美に笑んで返している。

 どうせ今からユーウェインかローレンに何か言われると思うので、ヨハンはアナスタシアに押し付けてしまおう。


「……おい」


「どうした、俺に何か用か?」


「あの女が戦えば死ぬことになるだろうと言っていた相手は、どういう相手だったんだ?」


戦闘狂(バーサーカー)戦争狂(ウォーモンガー)の関わり合いになりたくない女だったな」


「何だその女は……」


 俺が適当なことを言っていると思ったのか、そう言い捨てて更に険しい目つきで睨んで来るユーウェインに対して軽く肩を竦めて流しておく。

 信じるも信じないも勝手だが、ユーウェインがイリエスの名前を知っているとは思えないので言うだけ無駄なことだ。


「信じるも信じないもお前次第だけど、それ以外に言い様がないんだよ」


「……嘘をついているようには見えませんね」


「当然だ。事実しか口にしてないんだからな」


 まぁ、嘘をついていないように見えると言った明るい黄色の髪のローレンと呼ばれた神官も俺に対して疑わしげな目を向けているので信じられないものは信じられないのだろう。

 というか、この二人にとって俺の言うような戦闘狂かつ戦争狂といった女が存在する。ということを信じたくないのかもしれない。もしくは単純に俺の言葉を信じるつもりがないのだろうか。

 いや、俺にとっては本当にどうでも良いことか。


「さて、そんなことよりも……アル」


「え、あ、な、何かな?」


「悪いけど、帰りはシルヴィアと一緒に行動してくれ。俺たちは俺たちでふらっと動くだろうからな」


「……何か、あるのかい?」


「いや、特には。ただ……王国騎士が冒険者と行動を共にするよりも勇者と共に、って方が自然だろ?」


「それはそうかもしれないけど……もしかして、さっきヨハンの言っていたことを気にしているんじゃ……」


 単純に同じような考えや生き方、環境を知っている三人の方が気兼ねなく過ごすことが出来るから、ということで提案したのだが先ほどのヨハンとの会話のこともあってアルは俺が気にしていると思ったようだった。

 そんなことはないのでちゃんと否定して、それからそれらしいことの一つでも言っておこうか。


「俺がその程度のことを気にすると思うか?単純にさっきまで戦ってた相手との立ち回りのことで話がしたいんだよ」


「気にしていないなら良いけど……立ち回りの話?」


「そうだ。良いか、戦闘の後にはどう動けばより良かったのか、自分で考える必要がある。惰性で戦うよりも一戦一戦改善点を考えて、次に生かした方が成長するからな」


「な、なるほど……確かにそれもそうだね……」


 適当にそれらしいことを言っただけだが、事実として惰性で戦い続けるよりもどのタイミングでどんな行動を取るべきだったのか、立ち回りの仕方はどうするべきなのか、そうしたことの反省点を考えて、次に生かす。というのは必要なことだと思う。本当に強くなりたいのであれば、だが。

 ただある程度の強さを持った冒険者はそうしたことをせず、現状維持で満足してしまう者もいる。

 アルとシルヴィアはそういうタイプではないと思うので、こういう話をしておけば自分たちで反省会でもすることだろう。もしかすると俺に意見を求めてくるかもしれないが、それを避ける意味でも離れて行動したいと思っている。

 とりあえずアルは納得してくれたようなので次はシルヴィアだ。と、思っていたのだがテッラの変わりようと言うか本性にショックを受けているようで呆然としている。テッラはそんなシルヴィアを面倒くさそうな表情で見てから、退屈そうにしていた。


「……シルヴィア」


「え、あ、はい!」


「これがテッラの本性だ。小柄で守ってあげたくなるような可愛らしい女の子ってタイプじゃないぞ」


「う、うん……そう、みたいだね……えっと、でもどうしてあんな風にしてたのかな……?」


「テッラ」


「あー?猫被ってた方が取り入りやすいからに決まってるだろ。まぁ、アッシュがいることには驚いたけど、少し考えればむしろアッシュがいた方が動きやすいってわかったからラッキーだったな」


「はいはい。とりあえずそういうことだ。こういう割と思ったことをそのまま口にして相手に不快な思いをさせることがある性格が本性だから変な幻想を抱くのはやめとけよ」


「うっ……だ、だって、可愛かったから……」


「勇者に可愛いとか言われてもな。それよりもこいつらとかデカ女とか放っておいてさっさと離れようぜ。んでもって約束通り構えよな!」


「はぁ……デカ女って呼び方はやめろって言っただろ」


「はーい。それよりも離れようぜ!さっきから睨んで来る雑魚のせいで気分悪いしな?」


 飄々とした態度で言いながらスッとユーウェインとローレンへと視線を向けたテッラ。その視線には明確な殺意が込められていて、二人の動きが止まり、表情が引き攣る。

 見た目は可愛らしい少女だとしても潜ってきた修羅場の数は俺やアナスタシアと同じように多く、そんなテッラが殺意を込めた視線を向けたとなればそうなってしまうのも仕方ないことだろう。

 とはいえそのまま放っておくわけにはいかない。というか、殺意を込めた視線を向けるのは敵だけにしておけと言いたい。


「テッラ、そういう視線を向けるのはやめておけ。今はまだ敵じゃないだろ」


 言いながら軽くテッラの頭に手刀を叩き込む。本当に軽くだったので痛いわけがない。


「痛っ……暴力はんたーい!」


「ったく……悪いな、テッラがうるさいから離れさせてもらうぞ。それと……ユーウェインとローレンだったな」


「な、何だ?」


「……何か、私たちに用でも?」


「いや、今回は仕方ないとしてもこの先はちゃんとシルヴィアを守ってやれよ」


「……そんなことは、言われなくてもわかっている」


「ええ、貴方に言われるまでもありません。シルヴィア様は私たちが守ります」


「口だけになってくれるなよ」


 今回はイリエスがいたせいだとしても、今後のことを考えてちゃんと守ってやれと言えば、当然だという意味の言葉が返ってきた。それにもう一言だけ返してからシルヴィアとアルを見る。


「そういうことだから、またなアル」


「う、うん……アッシュ、ありがとう」


「別に良いさ。時間が出来ればまたあの場所に来てくれ。基本的に俺は夜になればあそこにいるからな」


「わかったよ。今回のことについて話したいことや報酬についてのこともあるから必ず行くよ」


「あぁ、信用して待ってるさ」


 報酬を踏み倒す、ということも場合によっては警戒しなければならないのだがアルに限って言えばその心配はないだろう。このお人好しがそんなことを出来るとは思えない。


「シルヴィア、これからの旅には今回よりも状況が悪いこともあるだろうけど、挫けずに頑張れよ」


「え、あ、うん……あの……アッシュ」


「どうした?」


「何だかその言い方はこれから先、会うことがない。って言っているように聞こえるんだけど……」


「あぁ、そのつもりで言ってるぞ。勇者と冒険者、たまたま一緒に行動しただけで本来はそう縁があるわけじゃないだろ」


 正直に言ってしまえばアルとは友人という関係になっていて今後も顔を合わせる機会はあると思っている。ただシルヴィアは依頼によって共に行動しただけで、今後はそういったことはないはずだ。

 だからこそ別れの言葉として応援したのだがシルヴィアにはそれが不満らしい。


「僕は、またアッシュと会って話がしたいと思っているんだ。だから、そんなことは言わないで欲しいな……」


 そう言って、シルヴィアは悲しそうな表情を浮かべる。

 するとユーウェインとローレン、それからアナスタシアに押し付けたはずのヨハンまでもが俺に対して非難の眼差しを向けてくる。というか、睨んで来る。

 アナスタシアはヨハンから距離を取るようにして俺の後ろに回りながら、何処となく呆れたような様子を見せていた。

 アルは少し困ったように、それでいて何かを期待するように俺を見てくる。何を考えているのか、何となく理解が出来てしまう自分が恨めしい。


「…………あー……そうだな。厄介事抜きなら話し相手くらいにはなるかもしれないな」


「ほ、本当に!?」


「ただ、勇者様が会いに来るってのは目立って良くない。せめて変装と偽名くらいは用意しておいて欲しいもんだな」


「変装と偽名だね!わかったよ!あ、でも何処に行けば会えるのかな?」


「それは……まぁ、アルに聞いてくれ」


「アルに聞けばわかるんだね?」


「あぁ、時間帯には気を付けてくれよ」


「うん、わかったよ!それじゃ、またね、アッシュ!それにテッラも!」


 仕方がないので変装して偽名を名乗ることを条件に会いに来ても良いと言えば嬉しそうにそう言って笑顔を浮かべていた。またアルも同じように嬉しそうにしていた。

 反対にテッラとユーウェイン、ローレンにヨハンは機嫌が悪くなっているのが見てわかる。テッラは俺がシルヴィアと会うことを肯定したせいで、ユーウェインたちも同じだろうか。まぁ、身分云々のことを言いたいのだと思う。

 それらに構っていると本当に面倒なのでシルヴィアとアルに手を軽く振ってから離れることにした。

 シルヴィアとアルは手を振り返し、ユーウェインたちは俺を睨んだまま見送る形になった。

 俺の後ろにはアナスタシアとテッラが続くがテッラの機嫌は悪いままで、この後何を言われるのかと思うと少しだけ気が重かった。だがまだまだ子供なテッラなのである程度構ってやればきっと機嫌が直るのではないだろうか。

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