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【投稿】異世界転生なんてろくでもない【停止中】  作者: 理緒
第二章 友と戦い、朋と笑う
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101.次の目的地

 盗賊団のアジトに向かう道中、当然のように俺とアナスタシアが周囲を警戒していたのだがその間にアルとシルヴィアはテッラと話をしていた。

 今はどういう状況なのか、どういった奇妙な点があるのか、何を警戒しなければならないのか。それを伝えてくれている。というのが正しいのかもしれない。

 とにかく、道中で話しておこうかと思っていたことを代わりにやってくれているので有難く思いながらその役目を二人に任せておこう。


「……アッシュさん、少しよろしくて?」


 そう思っていると三人には聞こえないように声を小さくしてアナスタシアが俺に話しかけて来た。


「テッラのことか?」


「ええ。本当に信用している、というわけではありませんわよね?」


「半信半疑、ってところだな。大丈夫だとは思うけど、疑うところもある」


「あぁ、やはりそうですわね。それでこそアッシュさんですわ。もし無条件で信用しているというのであれば見損なうところでしたわ」


 俺の答えを聞いて安心したのか、アナスタシアの機嫌が少し上向いたような気がした。


「それにああでも言っておかないとアルとシルヴィアが色々と余計な気を回しそうだったからな」


「……ええ、確かにあり得ますわね。それのせいで余計な時間を使う可能性もあったようにも思えますのでアッシュさんの判断は正しいのではなくて?」


「そいつはどうも。まぁ、それに見覚えのある相手だからな」


「見覚えが……?」


 そう、テッラのあの姿は見覚えがある。それもあって約束だと言った以上は大丈夫だと俺は判断したのだ。


「……完全に見知らぬ誰か、ではないからこその判断ということですわね?」


「そういうことだ。とはいえ警戒は怠らないから安心しろ」


「……背中を撃たれるようなことは御免ですわ」


「わかってる」


 アナスタシアはテッラのことを信用していない。そのことは別に構わない。いきなり信用しろと言ったところで無理なのはわかっているからだ。

 それに信用していないことを本人に言わないだけアナスタシアは空気を読んでいるというか、場の雰囲気を悪くしないようにと気を遣っていると思う。

 だから俺にこうして言ってくる程度のことは許容範囲内だ。これがテッラを排除しようとするのであれば止めなければならないのだが。


「何にしても、様子見をするしかないんだろ?」


「ええ、本当に。何かあればわたくしは容赦なくテッラさんを始末すると思いますけれど、よろしいですわね?」


「その場合は仕方ないな。でも……それをシルヴィアには言うなよ」


「……あの様子を見るに、言えば面倒なことになりそうですわ……」


 今のシルヴィアはテッラを守らなければならないとでも考えているようだった。やはり自身よりも小柄な少女という見た目がそうさせるのだろうか。

 こんな状況では仕方がないのかもしれないがそれについて少し思うことがある。


「ただ……テッラさんの方が強いのではなくて?」


「今のシルヴィアと比べるとテッラの方が遥かに強いだろうな」


 そう、アナスタシアが口にしたようにテッラの方がシルヴィアよりも強いのだ。

 だから守られるとしたらシルヴィアになる。テッラはそのことがわかっていながらも話が拗れないようにシルヴィアに合わせているように思えた。

 いや、拗れはしないだろうが妙な空気にはなりそうだった。


「黙っていても?」


「良いんじゃないか?面倒だしな」


「それもそうですわね」


 結局、面倒なので放置してしまおう。というどうしようもなくろくでもない考えに至った俺とアナスタシアはシルヴィアには何も言わないことにした。


 くだらない話をしながらも歩を進め続け、廃鉱に近づいて行く。

 そしてある程度近づいたところで足を止めて後ろを振り返った。


「そろそろ静かにしてもらっても良いか?」


「え?まだ廃鉱までは随分と距離があるような……」


「いえ、ある程度近づいたなら巡回ルートにかち合う可能性がありますから警戒するのは当然だと思いますよ」


「あぁ、そういうことか……でもここが巡回ルートになっているとは限らない、と思うけど……」


「念のために、ということですわ。それよりも……廃鉱が良く見えそうな場所があれば良いのですけれど……」


 静かにする理由は巡回を警戒して、ということだったのだがそれはテッラが代わりに説明してくれた。

 そしてあくまでも念のためだと口にして、アナスタシアが偵察のために良い場所はないかと言った。俺としてはこの辺りには詳しくないので何も言えない。

 それは当然のようにアルとシルヴィアもだ。だが一人だけ違う人間がいた。


「それでしたら……盗賊団がアジトに使っている廃鉱の正面に崖になっている場所がありますよ。ただ、本当に離れているので見えるとは思えませんけど……」


「テッラがそういうくらいには離れてる、と。アナスタシア、どう思う?」


「どう思うと言われましても……とりあえずは向かってみるべきではなくて?実際にどれくらい離れているのか、その崖に辿り着かなければわかりませんものね」


「なら向かうしかないか」


「わかりました。では案内しますので私について来てください」


 とりあえず向かってみなければ何もわからないということでテッラの言う廃鉱の正面に位置する崖に向かうこととなった。


「そうだ、先に廃鉱周辺の地形について話をしておくのも必要なことですよね?」


「テッラは知ってるの?」


「はい、以前この辺りには足を運んだことがありますから」


「なるほど……それなら、話してもらえるかな?」


 どういう地形になっているのか、確かにそれを聞けるなら有難い。

 移動しながらになるがテッラの話に全員が耳を傾けることとなった。アルとシルヴィアはテッラの話を聞くことに意識を向けているせいか周囲の警戒に関しては全くしていない。と言っても過言ではない状況になっている。

 それに対して少しばかりの呆れを含む視線を向けるアナスタシアだったが、この二人はそういうものだと考えたのか小さく頭を振ってテッラの話に意識を向けていた。


「まず廃鉱は崖の下にあります」


「崖の下?」


「はい。元々崖の下に石炭の一部が露出していたことで採掘が行われるようになり、それがなくなるまでの間に掘り進められたのが盗賊団がアジトとして使っている廃鉱になります」


「へぇ……そうなんだ……あれ、でも正面にも崖があるんだよね?」


「そうですよ。今私たちがいる場所が平地として考えるなら、廃鉱はそのずっと下に入り口があって、私の言っている崖はずっと上、というところですね」


 高所の崖上から低所の廃鉱を偵察する、ということになるのか。それも随分と離れているようなので見つかる可能性は低そうだ。

 ただ、そんな場所から本当に見えるのか、非常に怪しい。行くだけ行ってみる、という軽い気持ちでダメならダメで別の手段を探すことになりそうだ。


「その廃鉱の入り口は一つだけ、ということでよろしくて?」


「うーん……一つだけだったと思いますよ。すいません、全てを把握しているわけではないので……」


「……一つだけであれば潜入も脱出も面倒になりそうですわ。可能であればもう一つか二つくらい出入り口になる場所が欲しいところですわね」


「まぁ、本来は盗賊団を一網打尽、ってのが理想だから出入り口になる場所が一つってのは逃がさないためには良いと思うけどな」


「今回の目標は捕まっている冒険者を助け出し、無事に王都まで戻ることですわ。ですから逃げるための道が複数あると助かりますわね」


 アナスタシアの言うように、本来するべき依頼内容を達成するよりも他の冒険者たちを助け出すことに重点を置くべきだ。だからこその逃げるための道が、という話になる。

 それは理解しているのだが、きっと盗賊団のアジトに潜入した場合はそれだけでは済まなくなってしまうだろう。


「でもそれって遠くから見てわかるものなのかな?」


「どうでしょうか……見える場所に出入り口として作ってあるのならば見えるとは思います。ですが……もし森の中にあったり物陰にあった場合は見えない可能性がありますね……」


「まぁ、今それを気にしても仕方ないだろ。まずはテッラの言う崖から見えるかどうかだ」


「そうですわね……きっとわたくしであれば見えるとは思いますけれど」


「大した自信だな。いや、頼もしい話だけどさ」


「うん、見えると思う。何て言ってるけど自信満々だもんね」


「アナスタシアがそう言うなら期待してしまうね」


「はい、アナスタシアさんなら本当に見えてしまいそうですからね」


「……ず、随分と持ち上げてきますわね……もっとこう……鼻で笑いながらやれるものならやってみろ。とでも言われるかと……」


 俺たちの反応が非常に好感触、という風だったことがアナスタシアにとっては意外だったようで戸惑いながらそう口にした。

 いや、鼻で笑いながら、というのは俺の方を見ながら言っていたので俺がそうするのではないか、と思っていたらしい。


「俺を見ながら言うのはやめろ。どう考えても出来ないようならそうするけどアナスタシアはこんな状況で出来ないことを口にはしないだろ?」


「…………考え方が似通っている、というのは意思疎通が楽。という点では非常に喜ばしいことではありますが、こういう場合には何とも言い難いものですわね……」


「面映いか」


「ええ、本当に」


 次は困ったような、それでいて言葉の通りに照れているような。そんな表情を浮かべていた。


「……アナスタシアもそういう表情をするんだ……」


「そう長く一緒にいるわけではないけれど、何だか珍しいものを見た気がするね……」


「えっと……私は何も言えないですね……」


 シルヴィアたちはそれを見て三者三様の反応を見せた。

 驚いたようなシルヴィア、感心するようなアル、そんなアナスタシアに戸惑いながらも曖昧な言葉を口にするテッラ。

 アナスタシアは優美に、それでいて余裕を持った振る舞いをしているのだからそういう反応をしてしまうのも仕方がないと思う。


「ま、まぁ……そんなことはどうでも良いのではなくて?早く目的地に向かいませんこと?」


「はいはい。それじゃさっさと行こう。偵察が出来ればそこからどう動くか決められるからな」


 偵察して廃鉱の入り口付近の状況によっては潜入の難易度が変わり、複数の出入り口があるのであればそちらを使うかもしれない。

 何にしても情報が少なすぎるのでテッラのいう崖の上からアナスタシアが情報を集めてくれるのを期待して待つとしよう。

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